SHK制度とは何か?対象・期間やGHGプロトコルとの違いを解説

SHK制度は、温対法に基づいて定められたGHG(温室効果ガス)の算定・報告・公表制度です。一定量以上の排出を行う事業者は、自社の排出量を把握し国へ報告する義務があります。
単なる法的義務にとどまらず、透明性ある情報開示を通じて企業の信頼性向上や環境戦略の基盤強化にもつながる点が特徴です。
本記事では、制度の対象や報告期間、さらに国際的な枠組みであるGHGプロトコルとの違いを整理し、実務に直結するポイントをわかりやすく解説します。
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SHK制度の概要
SHK制度は、日本における温室効果ガス排出抑制の中核を担う仕組みです。温室効果ガスを⼀定量以上排出する事業者は自社の排出量を算定し、国へ報告することを義務付けられています。
提出されたデータは政府により集計・公表され、社会全体で現状を把握できるように設計されています。
単なる規制の枠を超え、持続可能な社会への移行を後押しする基盤制度といえるでしょう。企業にとっても、単なる「義務」ではなく、競争力を高める契機となる制度です。
SHK制度開始に至るまでの歴史・制定経緯
この制度の背景には、国際的な枠組みへの対応があります。1997年の京都議定書がその代表例です。日本は先進国として、削減努力を具体的な制度に落とし込む責務を負っていました。
検討は2000年代初頭から始まり、産業界との調整を重ねながら整備が進められました。気候変動リスクの深刻化が次第に強調されるようになり、企業活動と排出削減を結びつける必要性が高まったのです。
その結果、SHK制度は2006年にスタートし、国内政策の柱の一つとなりました。現在も、気候対策の実効性を担保する枠組みとして位置付けられています。
制度の目的と背景
制度の第一の目的は、排出実態の「見える化」です。事業者が自社の排出量を客観的に把握することで、削減の出発点を明確にできます。さらに、削減努力を進めるうえでの行動指針を得られる点も重要です。
背景には、温室効果ガス排出が企業経営リスクと直結する時代になったという現実があります。大量排出を続ける企業は社会的な批判を浴びるだけでなく、投資家からの評価低下にも直面します。
資金調達はもちろん、企業価値の維持にまで影響が及ぶため、一定以上の温室効果ガスを排出する企業にとってSHK制度への対応は必要不可欠です。
SHK制度のメリット・意義
制度がもたらすメリットは多面的です。第一に、事業者は環境対応力を強化できます。排出削減に取り組む過程で、省エネや効率化が進み、コスト削減にもつながります。第二に、社会的信頼の獲得です。排出量の透明化は、消費者や取引先からの評価を高め、ブランド価値を強化する要因となります。また、ESG投資が広がる中、開示された排出情報は投資家にとって企業を評価する重要な指標となります。国家にとっても、信頼性の高い排出データを得ることで、政策立案や国際報告に活用できる点が大きな意義です。
制度の法的根拠
SHK制度は「地球温暖化対策推進法(温対法)」を法的基盤としています。この法律は、日本が国際的な温暖化対策に整合するために制定されました。法律の下で、省令や告示が実務的な詳細を定め、事業者に対し明確な行動指針を示しています。
これにより、制度は単なる行政指導ではなく、法的拘束力を伴う仕組みとして機能します。遵守しない場合には罰則や改善命令の対象となるため、事業者にとっては軽視できない存在です。
制度の根拠が法律にあることは、透明性と公平性を担保するうえでも重要です。
SHK制度の算定・報告方法
排出量の算定は、燃料使用量や電力消費量を基準とし、政府が示す排出係数を用いて換算します。事業者間で算定方法にばらつきが生じないよう設計されています。報告は年度ごとに所定の様式で国へ提出されます。提出されたデータは集計され、産業別や地域別に整理されます。これにより、温室効果ガスの排出実態を全国的に把握できるのです。さらに、公開された情報は企業間の比較にも利用され、削減努力を促すインセンティブとして働きます。こうした一連のプロセスは、政府の政策立案に欠かせない基礎資料となるだけでなく、社会全体の環境意識を高める役割も担っています。
SHK制度の対象事業者と範囲
SHK制度の特徴は、制度の対象となる事業者が明確に定義されている点です。排出削減効果を効率的に高めるためには、環境への影響が大きい業種や一定規模以上の事業者を重点的に対象とする必要があります。
そのため、対象範囲は幅広いものの、無制限ではありません。事業者の業種や規模に応じて、制度の適用可否が決められています。以下では、その具体的な内容を解説していきます。
対象業種の分類
対象業種は、エネルギー消費が多い分野に集中しています。製造業が代表例であり、鉄鋼業や化学工業、セメント産業など、大量のエネルギーを用いる業種は含まれます。これらの業種は生産活動に伴って高い排出量を生じるため、削減ポテンシャルが大きいのです。
さらに、建設業や運輸業も重要な対象です。建設現場では重機や発電設備の稼働が多く、エネルギー消費量が大きくなります。運輸業においては、トラック輸送や船舶輸送などが排出量の大きな要因となっており、物流全体の効率化を通じた削減が期待されています。
加えて、流通業や小売業の一部も制度の対象です。大型店舗や倉庫は電力消費量が多く、冷暖房や照明などで高い排出量を伴うためです。従来は製造業中心と考えられていた排出削減が、サービス業にまで広がっている点は注目すべき変化といえます。
つまり、幅広い業種が制度の影響を受けることで、社会全体での削減を促す仕組みになっています。
対象事業者の規模条件
SHK制度では、すべての企業が一律に対象になるわけではありません。一定規模以上のエネルギー使用を行う事業者に限り、算定と報告の義務が生じます。基準値は年間のエネルギー使用量で定められており、その閾値を超えた場合に制度の対象となります。
ここで重要なのは、規模の大小だけで判断されないという点です。中小企業であっても、大規模な工場を保有していたり、電力を大量に消費する業態を営んでいたりする場合は、対象に含まれます。
逆に、売上や従業員数が大きくてもエネルギー消費が比較的小さい業種の場合、適用を免れるケースもあります。つまり、規模条件は単純な企業の大きさではなく、排出量の実態に基づいて判断されるのです。
この仕組みは、公平性を担保する意味でも有効です。排出量が少ない企業に過度な負担を与えず、一方で排出量が多い事業者には相応の責任を求めることができます。その結果、制度全体として効率的かつ効果的な削減を実現することを狙っています。
制度適用外の事業者とその理由
一方で、制度適用外となる事業者も存在します。典型的なのは、小規模な事業者です。小規模企業はエネルギー消費量が少ないため、排出削減効果を期待しても限界があります。
むしろ、報告や算定のための事務負担が過大となり、コストと効果のバランスが崩れてしまいます。
政策設計の観点から見れば、限られた行政資源を効率的に使わなければなりません。削減効果が小さい事業者にまで義務を広げると、全体の効率が落ちてしまうのです。そのため、制度は「重点化」の発想に基づき、影響が大きい範囲に焦点を当てています。
ただし、小規模事業者が完全に無関心でいられるわけではありません。社会的な環境意識の高まりや、取引先からの要求により、自主的に排出量を算定・公表する企業も増えています。
制度の直接対象外であっても、間接的な圧力や市場の期待を受けて動くことが求められる時代になっているのです。
SHK制度の主要要件と事業者の義務
SHK制度においては、単に排出量を算定し提出するだけではなく、組織的で持続的な管理体制を構築することが求められています。
事業者は経営戦略の一部として取り組みを位置づけなければなりません。以下では主要な要件を整理します。
制度の枠組み
SHK制度は「算定・報告・公表」を柱とし、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者に継続的な管理を求めます。対象ガス、事業者区分、報告様式は公的ガイドラインに準拠します。出発点は事業範囲と拠点の棚卸です。
算定の基本
組織境界と算定範囲(直接排出・購入電力由来)を明確化します。基準年と報告単位(年度・施設・企業)を定め、活動量×排出係数で計上します。データ源の信頼性、欠測補完、係数更新の方針は手順書で文書化します。
報告の実務
年次の総排出量と内訳を所定フォーマットで提出します。事業再編や拠点の増減がある場合は、整合の取れた遡及や按分を行います。提出前に内部点検を行い、根拠資料を整理します。
公表と整合性
公表は所管当局の手続に従います。公表値と自社のサステナビリティ情報の整合を図ります。数値の差異は注記で前提を説明します。
事業者の主な義務
①算定体制の整備、②期限を守った年次報告、③帳票・原データの保存が柱です。役割分担と承認フローを定義し、関係部門の教育を実施します。外部検証は任意でも品質確保に有効です。
不備時の対応
不備や未提出が続くと指導や是正要請の対象になり得ます。再発防止策を定着させます。制度改定や係数更新への追随も継続的な義務です。
最新改正のポイント
SHK制度は導入以来、時代の要請に合わせて見直しが行われてきました。2025年3月からの改正では、制度の実効性を高めるための重要な変更点が加えられています。
以下では、その主な内容を整理します。
直接排出と間接排出を区別した報告
改正後は、燃料の使用に伴う直接排出と、購入した電気・熱の使用に伴う間接排出を合算せず、区別して報告することが必要です。排出源ごとの内訳が明確になり、部門や設備単位の改善点を見つけやすくなります。社内のKPIや投資判断にも反映しやすくなるため、削減策の優先順位づけがしやすくなります。
基準排出量の算定方法の見直し
基準排出量の算定に、非化石証書などの調整要素を反映できるようになりました。電力や熱の属性を適切に扱うことで、低炭素な調達努力が数値に表れやすくなります。再計算が必要な場合の手順や記録の整え方も示され、年度比較の妥当性を保ちやすくなります。
カーボンリサイクル燃料の取り扱いの明確化
CO₂回収・利用(CCU)由来の合成燃料について、利用時の排出と報告の考え方が整理されます。CO₂の由来、合成プロセス、割当の方法を記録し、評価の重複や見落としを減らすことが可能です。
これにより、技術の導入効果を実務で説明しやすくなり、社内の導入判断も進めやすくなります。
海外認証排出削減量の名称整理
国際的な枠組みに合わせ、海外で認証された排出削減量の呼称が見直されました。制度内の用語と報告欄が揃うことで、国内取組との区別や社外説明がしやすくなります。名称の整理に合わせて、証憑の保存や相殺の扱いも確認しておくと運用が安定します。
令和5年改正の特徴は、排出量の算定と報告に関するルールが一層詳細化された点にあります。特に電力由来の排出量については、再生可能エネルギーの利用割合を反映する新たな指標が導入されました。
企業がどの程度脱炭素化に積極的であるかが、数値として明確に表れる仕組みです。
加えて、データの信頼性確保に向けて第三者検証が強調されています。従来の自己申告型から、外部の監査を通じた透明性の高い運用へと進化しました。これにより国内外の投資家や消費者に対して、より信頼される情報を提供できる基盤が整えられています。
改正スケジュールと今後の見通し
今後の改正スケジュールでは、制度の対象が段階的に広がる方針が示されています。これまで大規模事業者に限られていた義務が、中小規模事業者にまで拡大される予定です。特にエネルギー消費の多い業種は早めの対応を迫られるでしょう。
さらに、国際的な動きとの整合性も意識されています。パリ協定に基づく目標達成のため、国内制度と欧州やアジア諸国の制度が連携することが想定されています。日本独自の仕組みにとどまらず、国際基準に適合する進化を遂げていくと予想されます。
対象範囲の拡大
改正の大きな柱の一つが、対象範囲の拡大です。従来は大規模工場や発電事業者など一部の業種に集中していましたが、今後は流通業やIT関連施設といったサービス分野にも広がります。データセンターのように電力消費が大きい施設は、特に重点的な管理が求められます。
この変化は、脱炭素の責任を社会全体で分担する方向性を示しています。業種を限定せず、広く企業活動に省エネ努力を求めることで、より包括的な温室効果ガス削減を実現しようとしています。
報告義務の強化
報告義務についても大幅な強化が行われています。単なる排出量の数字に加え、算定に用いたデータの出所や削減施策の進捗状況を添えることが必須になりました。これにより、提出されたデータの検証可能性が高まります。
さらに、報告内容の公開範囲も広がる見込みです。企業ごとの取り組みが社会に可視化されることで、投資家や取引先からの評価がダイレクトに反映されるでしょう。透明性は企業価値に直結する時代に移行しつつあります。
デジタル化・オンライン申請の義務化
申請のデジタル化も大きな改革点です。これまで紙ベースや限定的な電子申請に頼っていた部分が、完全にオンライン化される方向へ移行しています。これにより、行政側はデータの収集や分析を迅速に行えるようになります。
事業者にとってもメリットがあります。入力作業の自動化やクラウド上でのデータ管理により、報告の効率性が向上します。
さらに、オンラインシステムは蓄積データをAIで解析し、将来的には削減効果のシミュレーションやベンチマーク比較に活用される可能性があります。
罰則規定の強化
改正では、違反に対する罰則も強化されました。虚偽報告や報告遅延に対しては、従来以上に厳しい処分が科される可能性があります。行政処分に加え、社会的信用を大きく損なうリスクが高まっています。
特に上場企業にとっては、投資家への説明責任が重くのしかかります。罰則は単なるペナルティにとどまらず、企業経営に直接的な影響を及ぼす要素となりました。今後はコンプライアンス体制の強化と情報管理の徹底が不可欠です。
実務で押さえるべき遵守ポイント
SHK制度を適切に運用するためには、単に規定を理解するだけでは足りません。実務の現場でどのように対応するかが、違反リスクを減らし、制度を効果的に機能させる鍵となります。以下では押さえておくべき主な遵守ポイントを整理します。
外部委託と責任範囲の明確化
排出量の算定や報告を外部の専門機関に委託する企業は少なくありません。専門性を活用できる点はメリットですが、注意が必要です。
最終的な責任はあくまで事業者にあります。委託契約を結ぶ際には、算定方法や確認フロー、提出データの精度に関する取り決めを文書化することが不可欠です。
さらに、外部委託を行っても社内での確認体制を整えることが求められます。担当部署が結果を検証し、経営層が承認するプロセスを組み込むことで、制度違反のリスクを軽減できます。
形式的に委託を済ませるだけではなく、最終的なチェックを内部に残すことが重要です。
法改正対応フロー
SHK制度は国際的な動向を背景に頻繁に改正されます。そのため、法改正に迅速に対応できる社内フローを整備しておくことが欠かせません。一般的には「情報収集」「影響分析」「対応策立案」「社内周知」という4段階を標準化すると効果的です。
例えば、省庁の公表資料や業界団体からの通知を定期的にモニタリングする体制を整えると、改正情報を早期に把握できます。影響分析を担当部署が行い、必要に応じて外部専門家の意見を取り入れると精度が高まります。
その上で対応策を経営層が承認し、社内研修やマニュアル更新を通じて周知する流れを確立しておくことが望ましいです。準備不足は違反や混乱を招く大きな原因となるため、平時から仕組みを固めておくことが肝要です。
記録の保全と整理
排出量報告の信頼性を支えるのは、裏付けとなる記録の保全です。燃料の購入伝票、電力の使用明細、計量機器のログなど、数値を証明する資料は一定期間保存する義務があります。監査時に提出できなければ、報告の正確性を担保できません。
保存は単にデータを残すだけでなく、整理方法も重要です。紙媒体をスキャンして電子化し、検索可能な形でアーカイブしておくと監査対応がスムーズになります。定期的な内部監査を実施し、記録が適切に保管されているかを確認することも有効です。
証拠保全および整理は事務作業と見られがちですが、制度遵守の基盤を支える大切なプロセスです。
監査対応の準備
行政による立入検査や書面監査は、予告なく実施される場合もあります。そのため、日常的に社内体制を点検し、監査に耐えられる状態を維持しておくことが求められます。担当部署だけに任せず、経営層が関与している姿勢を示すことがリスク低減につながります。
具体的には、監査時に必要となる資料リストをあらかじめ整備し、担当者を明確にしておくと混乱を防げます。また、模擬監査を実施して対応手順を訓練することも効果的です。外部委託先との連携体制も含め、監査時に責任が分散しないようにすることが重要です。
SHK制度のよくある落とし穴/違反しやすいポイント
SHK制度は温室効果ガス削減の実効性を高める重要な枠組みですが、現場での運用には多くの注意点があります。法律上の要件を理解していても、実務の中で思わぬ落とし穴にはまる事例は少なくありません。
違反に至らないまでも、監査で指摘を受ければ企業の信用低下につながります。以下では特に見落とされやすいポイントを整理します。
形式的な報告で済ませてしまう可能性がある
最も多いのは、報告を単なる「提出義務」と考えて形式的に済ませてしまうケースです。数値をまとめて国へ提出すれば一応の要件は満たします。しかし、その数値を削減計画や改善施策に結びつけていなければ、実質的な効果は得られません。
監査の場では単なる数値だけでなく、改善姿勢や具体的なアクションも確認されます。表面的な対応をしているだけでは「不十分」と評価される可能性があります。
結果として、改善命令や追加報告を求められるリスクが高まるのです。報告を制度遵守のゴールではなく、経営改善の出発点として活用する視点が欠かせません。
境界設定とデータ収集の負荷が大きくなる
直接排出と間接排出を分けて報告すると、設備・拠点・契約形態ごとの把握精度が求められます。自家発・受電・蒸気購入などの経路を分解し、計量点や伝票単位で整合を取る必要があります。
海外拠点や委託先の扱いも含め、月次での欠測補完や再計算の手順まで文書化する負担が増えます。中堅・中小では、計量インフラやエネルギー管理システムの改修コストが相対的に重くなりやすいです。
結果として、形式は整っても、現場改善に結びつく分析まで手が回らないおそれがあります。
事業者が記録・保存義務を軽視する可能性がある
最も典型的な違反は記録や証拠の不備です。燃料使用量や電力消費量のデータをきちんと保存していなければ、算定結果の裏付けができません。監査時に提出できない場合、虚偽報告と見なされるリスクもあります。
証憑の整理は日常業務の延長と捉えられがちですが、制度遵守の根幹を支える要素です。紙媒体をそのまま倉庫に保管している企業では、必要な証拠を即座に提出できないこともあります。
電子化や検索性の高いアーカイブを導入し、定期的に点検する仕組みを作ることが有効です。記録の保存を軽視すると、思わぬ違反につながることを認識する必要があります。
名称整理だけでは運用の際に問題が生じやすい
国際クレジット(例:JCM)等の呼称や区分が整理されても、在庫管理や財務・サステナビリティ報告との突き合わせは容易ではありません。どの段階で相殺として扱い、どの部分は情報開示にとどめるのかの方針を、会計方針や他の開示基準とそろえる必要があります。
相手国や他主体との二重主張を避けるための追跡、ヴィンテージ・有効期限・取消記録の検証、為替や数量の変動管理など、実務の論点は多いです。
英語原本の証憑と国内様式の整合や、内部統制のチェックリスト整備にも追加の工数が発生します。名称が整理されても、ルール運用と監査手続きが追いつかないと、社内外の説明に時間がかかります。
SHK制度違反のリスク
SHK制度は温室効果ガスの排出削減を実効的に進めるための仕組みですが、違反すれば深刻な影響を受けます。単に法的処分にとどまらず、社会的信頼や取引関係にも波及するのが特徴です。
制度を軽視した場合、経営全体を揺るがすリスクにつながることを理解しておく必要があります。以下では代表的なリスクを整理します。
行政処分や罰則のリスク
最も直接的なリスクは行政処分です。過去には排出量を過少に申告した企業が発覚し、改善命令や報告再提出を命じられた例があります。虚偽や不備の報告は罰金の対象となり、さらに悪質と判断されれば刑事告発に至る可能性も否定できません。
行政処分を受けた事実そのものが企業の社会的信用を大きく損ないます。処分内容は公表されるため、取引先や投資家が情報を入手するのは容易です。
単なる会計上のミスと違い、「環境対応を軽視している」と見なされやすく、評価の低下は長期的に続く傾向があります。
信頼失墜・取引停止のリスク
SHK制度違反が直接取引に影響したケースも報告されています。特にグローバル企業や大手サプライヤーは、取引先に対して厳格な環境基準を設けています。違反事実が明らかになると、即座に契約解除や取引停止に踏み切る場合があります。
国内企業であっても、国際市場で活動している場合は影響が大きいです。たとえば欧州企業との取引では、ESG基準やサステナビリティ調達方針に適合しているかが常に審査されます。
違反を理由に排除されれば、ビジネスチャンスを大きく失うだけでなく、他社との競争力にも影響します。制度違反は単なる罰則にとどまらず、経営基盤を脅かす要因になり得るのです。
実務対応のためのチェックリスト
SHK制度は法的義務であると同時に、企業の信頼性や競争力に直結する重要な枠組みです。形式的な対応では不十分であり、実務の中で確実に運用できる体制を整える必要があります。
そのためには、担当者や経営層が共通して確認できるチェックリストを持つことが有効です。以下では、現場で活用できる主要なポイントを整理します。
外部委託時の契約確認ポイント
排出量の算定や報告を外部に委託する場合でも、最終的な責任は事業者にあります。そのため契約書には、責任範囲や算定方法の透明性を必ず明記することが欠かせません。特に提出データの検証プロセスや修正対応の手順を盛り込むと、後のトラブルを防げます。
また、委託先の専門性や実績を事前に確認することも大切です。単に業務を外部化するのではなく、パートナーとして信頼できるかを判断する姿勢が求められます。契約後も定期的に成果物をチェックし、必要に応じて改善要望を出す仕組みを持つと効果的です。
制度対象か確認する質問項目
制度対応の出発点は、自社が対象事業者に該当するかを明確にすることです。判断を誤れば、義務を果たしていないと見なされるリスクが生じます。以下のような質問項目を定期的に確認することが望まれます。
- 年間エネルギー使用量は基準値を超えているか
- 排出量の多い工場や施設を新たに稼働させていないか
- 合併や組織再編によって規模が変化していないか
- サプライチェーン上で新たに算定対象となる事業が加わっていないか
これらを定期的に点検することで、対象外と誤解して制度違反に至るリスクを未然に防げます。
報告義務対応カレンダー
SHK制度は毎年の報告が義務付けられています。特定事業所排出者は毎年度 7 ⽉末⽇、特定輸送排出者は毎年度 6 ⽉末⽇までに報告が必要です。
提出期限を失念すると違反扱いになり、信用を損なう恐れがあります。そこで年間スケジュールに落とし込んだ「報告義務カレンダー」を作成しておくと効果的です。
たとえば、年度初めにデータ収集担当を明確化し、四半期ごとに中間レビューを実施する仕組みを作ります。最終的な経営層の承認や提出期限を逆算し、余裕を持った計画を立てることが肝心です。
カレンダーを全社で共有し、進捗状況を見える化することで、報告漏れや遅延を防ぐことができます。
社内研修実施チェック項目
研修は義務であると同時に、現場の実効性を高めるための重要な取り組みです。しかし形式的に実施しただけでは意味がありません。以下の観点からチェックすることが推奨されます。
- 受講者の理解度を確認するテストやアンケートを行ったか
- 実際の業務に即したケーススタディを取り入れているか
- 新入社員や派遣社員も対象に含めているか
- 実施記録や教材を保存し、監査時に提示できる状態にしているか
研修を「記録上の義務」から「現場の改善行動」へとつなげる工夫が求められます。
外部委託時の契約確認ポイント
外部委託を行う際も最終責任は事業者にあります。契約書には責任範囲や算定方法、修正対応を明記し、委託先の専門性や実績も確認することが必要です。情報セキュリティや秘密保持契約を含め、データ管理を明確にすることが欠かせません。
費用や追加対応の条件を透明化し、監査時の責任分担も取り決めます。さらに、委託先が業務を継続できない場合の代替体制を準備しておくことで、リスクを最小限に抑えられます。
SHK制度のためにすべきこと
SHK制度に対応するためには、単に義務を果たすだけでは不十分です。制度を自社の経営や事業活動に組み込み、持続可能性を高める仕組みとして活用することが重要になります。
以下では、制度遵守と実効性確保のために企業が取り組むべき主要なポイントを整理します。
法令・ガイドラインの把握と社内共有
最初のステップは、制度の内容と最新のガイドラインを正しく理解することです。国や自治体が示す通知や解説資料を入手し、社内で共有する仕組みを整える必要があります。担当部署だけが理解している状況では、現場での実行が伴いません。
経営層から現場担当者まで、組織全体で共通認識を持つことが重要です。そのためには定期的な勉強会や情報共有会議を設け、更新情報を迅速に周知する体制が求められます。法改正や基準変更のたびに、社内フローを見直す柔軟性も欠かせません。
安全衛生管理体制の強化
SHK制度を機能させるには、責任部署の明確化が不可欠です。環境・安全衛生を統括する責任者を配置し、経営層が直接関与する体制を作らなければなりません。トップの意思が弱ければ、現場での取り組みは形骸化しやすくなります。
また、部門ごとの役割分担を明確にし、横断的に連携できる仕組みを整えることが重要です。
例えば、工場では生産部門と設備管理部門が協力し、事務部門が記録を統合するなど、全社的な連携を前提にした体制が望まれます。安全衛生と環境管理を経営方針の中に明示的に位置づけることで、制度対応が組織文化として根付きます。
記録・報告プロセスの整備
SHK制度では、報告内容を裏付ける記録の保全が強く求められます。燃料使用量や電力消費量を正確に把握し、証憑を整理して保存することが基本です。このプロセスを標準化し、属人的な対応に頼らない体制を整える必要があります。
効率性と正確性を両立するには、システム化やデジタルツールの導入が有効です。エネルギー管理システムやクラウド型のデータベースを活用することで、集計作業の負担を軽減しつつ透明性を確保できます。
さらに、報告前に内部監査を実施し、誤りや不足がないか確認する仕組みを加えると信頼性が高まります。
まとめ
SHK制度は、温室効果ガス排出削減を社会全体で進めるための重要な制度です。単に報告を義務付けるだけでなく、事業者の経営姿勢や体制構築を促す役割を持っています。改正が進む中で、制度の要求水準は着実に高まっています。
企業にとっては負担が大きい面もありますが、その取り組みは競争力や社会的評価の向上につながります。違反は罰則や信用失墜のリスクを伴いますが、遵守はむしろビジネスチャンスを広げます。
今後、制度は国際基準との整合性を高めながら発展するでしょう。制度に関わる際は制度を受け身で捉えるのではなく、自社の持続可能性戦略の一環として積極的に活用する姿勢が求められます。
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