本記事は、2026年3月24日に株式会社スキルアップNeXt主催で開催されたウェビナー「GXスキル標準最新版を完全解説」の開催レポートです。 経済産業省 GXグループ 環境経済室の高橋氏と、GXリーグの人材市場創造ワーキンググループ(WG)のリーダー企業を務める株式会社スキルアップNeXtの小泉氏、石橋氏が登壇し、新たにアップデートされたGXスキル標準のポイントと、実務で使える最新ガイドラインについて詳細な解説が行われました。
企業の脱炭素経営への移行が急務となる中、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進する「人材」の育成は、企業成長の鍵を握る最重要課題となっています。本ウェビナーでは、最新のスキル標準がどのようにアップデートされたのか、そして公開された実践的なツールを現場でどう活用すべきかについて、官民両面の視点から深い議論が展開されました。
セミナー概要
本イベントの重要ポイントは以下の通りです。
- テーマ: GXスキル標準最新版を完全解説
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登壇者:
- 高橋 啄朗氏
経済産業省 GXグループ 環境経済室 係長 - 小泉 誠氏
株式会社スキルアップNeXt エグゼクティブ・アドバイザー
2025年度 GXリーグ 人材市場創造WG座長 - 石橋 和幸
株式会社スキルアップNeXt 執行役員 組織開発Div. 事業責任者
- 高橋 啄朗氏
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主要なアップデート:
- GXリテラシー標準(GXSS-L)Ver1.1:全ロール横断の「レベル2(共通知識)」が新設され、全ビジネスパーソン向けの基礎知識(レベル1)から、専門的なプロフェッショナル領域(レベル3以上)へと進むためのラーニングパスが明確化されました。
- GX推進スキル標準(GXSS-P)Ver2.1:「GX調達」ロールの定義が大きく改定され、サプライチェーン全体への削減計画の「推進実行・伴走支援」を担う、より現場に即した実践的な役割へと見直されました。
セッション①:GXリーグの展望
登壇者:高橋 啄朗 氏(経済産業省 GXグループ 環境経済室 係長)
最初のセッションでは、経済産業省の高橋氏より、GXリーグのこれまでの歩みと、今後の日本におけるGX推進の展望について解説が行われました。
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GXリーグの概要とこれまでの活動:
GXリーグは、カーボンニュートラルへの移行に向けた挑戦を前向きに行う企業群として設立され、現在では700社以上の企業が参画する一大プロジェクトに成長しています。これまでは、多排出企業を中心とした自主的な排出量取引(GX-ETS)の実施や、市場ルールの形成、そして新たなビジネス機会の創出などを推進してきました。 -
2026年度以降の展望と人材育成の重要性:
2026年度からは、排出量取引制度(ETS)が対象外の企業も含めて、サプライチェーン全体を巻き込んだ本格的な取り組みが稼働していくフェーズに入ります。これに向けて、高橋氏は「GXを単なるコスト削減やコンプライアンス対応と捉えるのではなく、企業価値を向上させ、新たなイノベーションを生み出すための成長戦略として位置づけるべきだ」と強調しました。そして、その戦略を具現化し、新しい技術や設備を最大限に活用して社会実装を進めるためには、高度な専門知識とマインドセットを備えた「GX人材」の育成が不可欠であるという強いメッセージが語られました。
セッション②:「GXスキル標準」アップデートを解説!
登壇者:小泉 誠 氏(株式会社スキルアップNeXt エグゼクティブ・アドバイザー / 2025年度 GXリーグ GX人材市場創造WG 座長)
モデレーター:石橋 和幸 氏(株式会社スキルアップNeXt 執行役員 組織開発Div 事業責任者)
GX人材市場創造WGの座長を務めた小泉氏から、2025年度のワーキンググループの活動成果と、「GXスキル標準(GXSS)」の最新アップデート内容、そして実務に直結する新規公開ツールについて詳細な解説が行われました。
1. GXスキル標準(GXSS)のアップデート
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GXリテラシー標準(GXSS-L) Ver1.1のポイント:
これまでは、全ビジネスパーソンが身につけるべき基礎知識として「レベル1(共通リテラシー)」のみが定義されていました。今回のアップデートでは、新たに全ロール横断の「レベル2(共通知識)」が追加されました。これにより、基礎知識を習得した人材が、自立してGX業務を推進できるプロフェッショナル(レベル3以上)を目指す際に、次に学習すべき共通の専門知識(What:何をすべきか / How:どうするべきか)が明確化され、スムーズなステップアップが可能となりました。 -
GX推進スキル標準(GXSS-P) Ver2.1のポイント:
実務の実態に合わせ、「GXコミュニケーター」という人材類型に含まれる「GX調達」ロールの定義が大幅に改定されました。Ver2.0までは「サプライチェーン全体の削減戦略立案」という企画的な側面が強調されていましたが、ワーキンググループでの議論の結果、全社戦略の立案は「GX経営企画」や「GHG削減計画」の役割であり、「GX調達」は「サプライチェーンへの削減計画の推進実行や、サプライヤーへの伴走支援(Scope3の一次データ収集など)」を実務として担うケースが多いことが判明しました。この実態を反映し、より現場の動きに即した役割定義へと見直されました。

出典:「GXスキル標準(GXSS)」(2026年3月)」より
2. GX推進を加速する「実践的ツール」の公開
さらに、企業が自社のGX推進を具体的なアクションに落とし込むための実践的ツールが公開されました。
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人材(役割)から始める・進める GXガイドブック:
脱炭素という新たな経営課題へ一歩目を踏み出したい企業向けの実践ガイドです。GXの取り組みを「知る(全社的な土台を築く)」「測る(現状を正確に可視化する)」「減らす(計画を策定し実行する)」「開示(信頼を獲得する)」の4つのフェーズに分け、各段階でどのような人材や役割が必要かを整理しています。
自社に不足しているスキルを見極め、一歩を踏み出すためのチェックリストや、現場のリアルな課題解決を描いた実践ストーリーが収録されています。 -
サプライチェーン連動 アクションチャート:
個社の枠を超え、サプライチェーン全体の脱炭素化を進めるための組織横断型実行ツールです。サプライチェーンにおけるメーカー(依頼元)とサプライヤー(依頼先)の双方向の「要請」と「支援」を可視化し、誰が・いつ・何をするかを「目的設定」から「次アクション提示」までの10段階のステップで構造化しています。データ収集が進まない、部門間連携が取れないといった「GX推進あるあるの課題」に対するFAQ(処方箋)も含まれており、実務の壁を乗り越えるための具体的なノウハウが詰まっています。

出典:サプライチェーン連動 アクションチャート – GXリーグより
セッション③:パネルディスカッション ~来期GXリーグに向けて~
登壇者:高橋 氏、小泉 氏、石橋 氏
最後のセッションでは、登壇者3名によるパネルディスカッションが行われ、GX人材育成の最前線の課題や今後の展望について、熱量の高い議論が交わされました。
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サプライチェーン全体への波及効果と現場の課題:
議論の中で、大企業が独自にGXを進めるだけでは限界があり、サプライチェーン全体(Tier1、Tier2…)を巻き込んだ連動が不可欠であることが改めて確認されました。
高橋氏は、中小企業に対する支援の重要性に触れ、大企業からの単なる「要請(プレッシャー)」だけでなく、ツールの提供やノウハウの共有といった「支援(サポート)」が伴って初めて、実効性のあるサプライチェーンの脱炭素化が進むと語りました。 -
急速に高まるGX人材のニーズと組織の壁:
モデレーターの石橋氏からは、「2026年に入り、有価証券報告書等での非財務情報の開示要請が強まる中、企業は正確なデータ収集と報告に追われており、GXの専門知識を持つ人材のニーズが急速に高まっている」という現場のリアルな声が共有されました。
また、調達部門、環境部門、経営企画部門など、部門間の壁(サイロ化)がGX推進のボトルネックになるケースが多く、これを打破するためには「GXプロジェクトマネジャー」や「GXコミュニケーター」といった、組織を横断してプロジェクトを牽引・調整する人材の存在が極めて重要であることが議論されました。 -
DXとGXの違い、そして実務レベルの高さ:
小泉氏は、デジタルスキル標準(DX)と比較する形で、「GXは単にツールを導入して効率化を図るだけでなく、自社のビジネスドメインの構造や、エネルギー、素材、法規制といった極めて専門的かつ深いドメイン知識が求められる」と指摘しました。
つまり、実務の難易度が一段と高く、だからこそ「ジョブ(職務)型」でスキルを明確に切り分け、計画的に人材を育成していくことが不可欠であると強調しました。
パネルディスカッションの締めくくりとして、来年度のGXリーグへの期待が語られ、参加企業に対して、今回公開された「GXスキル標準」や各種ガイドラインをフル活用し、自社の成長戦略としてのGXを力強く推進してほしいというエールが送られました。
まとめ:GXを「知識」から「実践」へ移すために
今回のウェビナーを通じて明確になったのは、企業のGX推進が「個社単独の目標設定」のフェーズから、「サプライチェーン全体を巻き込んだ具体的な実行」のフェーズへと本格的に移行しているという事実です。
その実行の鍵を握るのが「人」であり「組織」です。新たにアップデートされた「GXスキル標準(GXSS)」や、今回公開された「人材(役割)から始める・進めるGXガイドブック」「サプライチェーン連動 アクションチャート」は、まさに現場が直面する「何から始めればいいのか」「誰をどう育てればいいのか」という悩みを解決するための実践的な羅針盤となります。
GXは一朝一夕で成し遂げられるものではありませんが、まずは自社の現在地を把握し、必要な人材像を定義することから始まります。本記事でご紹介した各種ツールをフル活用し、経営層から現場、そしてサプライヤーまでもを巻き込んだ、組織横断的なグリーントランスフォーメーションへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


