気候変動の原因とは?企業が知るべき環境リスクの基礎と具体的な対策

気候変動は、もはや環境分野にとどまらず、企業経営全体に深刻な影響を及ぼす重要課題となっています。その背景には、温室効果ガスの排出をはじめとする人間活動による地球環境への負荷が大きく関与しています。本記事では、気候変動の主な原因を整理し、企業活動との関連性やリスク要因を解説。ESG経営やカーボンニュートラルへの対応が求められる今、企業の持続可能性を確保するために必要な基礎知識をわかりやすくご紹介します。
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気候変動とは何か
近年、「気候変動」という言葉は日常生活の中でも頻繁に耳にするようになりました。異常気象の頻発や大規模な自然災害、そして企業や政府によるカーボンニュートラル宣言など、社会全体が気候変動問題に向き合う時代を迎えています。
しかし、「気候変動」とは具体的に何を指すのでしょうか。単なる天候の変化とどう違うのか、また地球温暖化との関係はどのようなものなのでしょうか。
ここでは、気候変動の基本から原因、企業や個人に求められる対策までを、最新の知見を踏まえて分かりやすく解説します。
気候変動と地球温暖化の定義
気候変動とは、長期的な視点で見た地球全体あるいは地域の気候パターンの変化を意味します。これには気温や降水量、風のパターン、季節のサイクルの変化などが含まれます。
気候変動は自然な現象としても発生しますが、近年問題視されているのは人間活動による影響が顕著になっている点です。
一方、「地球温暖化」は気候変動の一部であり、大気中の温室効果ガスの増加により地球全体の平均気温が上昇する現象を指します。つまり、地球温暖化は気候変動を引き起こす主要因の一つであり、両者は密接に関係しています。
気候変動の自然要因と人為的要因の違い
気候変動には大きく分けて自然要因と人為的要因があります。
自然要因としては、火山の噴火や太陽活動の変動、地球軌道の変化などが挙げられます。たとえば、過去の氷河期や間氷期といった大規模な気候変動は主に自然要因によってもたらされました。
一方で、産業革命以降の急激な気候変動には人間活動が深く関わっていることも事実です。特にエネルギー利用、森林伐採、農業・工業活動などによる温室効果ガスの大量排出が大きな影響を及ぼしています。
近年の科学的な合意として、「現在の気候変動の主な要因は人間活動にある」という認識が広まっています。
産業革命以降の温室効果ガス排出の増加とその影響
18世紀後半に始まった産業革命を契機に、人類のエネルギー消費は飛躍的に増加しました。石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の大量利用はCO₂排出量を急増させ、温室効果ガス濃度は人類史上かつてないレベルに達しています。
この結果、世界の平均気温は過去100年間で約1.1℃上昇しました。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、このまま温室効果ガスの排出が続けば、21世紀末にはさらに1.5~2.0℃、場合によってはそれ以上の気温上昇が予測されています。
気温上昇は氷河融解や海面上昇、生態系の変化を引き起こし、私たちの生活や経済活動にも大きな影響を及ぼします。
気候変動の主な原因
気候変動の主な原因は、大気中への温室効果ガスの排出です。温室効果ガスには二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、フロン類(HFCs等)などがありますが、排出源や影響の大きさはそれぞれ異なります。
CO₂排出(エネルギー・製造・運輸)
世界中の多くの国や地域において二酸化炭素(CO₂)は、化石燃料の燃焼によるエネルギー利用、工場での製造工程、運輸部門(自動車・航空機・船舶)から大量に排出されています。
特に電力発電所や鉄鋼・セメントなどの重工業分野はCO₂排出量が非常に多い産業分野です。
日本においてもエネルギー起源CO₂排出は全体の8割以上を占めています。
メタン・フロンなどの温室効果ガス
メタン(CH₄)は主に家畜の消化過程や水田、廃棄物の埋立地から発生します。温室効果の強さはCO₂の約25倍とされており、対策が急務です。
また、フロン類(HFCs, PFCs, SF₆等)は冷蔵・冷凍設備やエアコンの冷媒、半導体製造過程で使用され、気候変動への影響が非常に大きいガスです。これらのガスは微量でも地球温暖化を加速させるため、世界的な規制の対象となっています。
森林破壊と土地利用の変化
森林伐採や土地利用の変化も気候変動の一因です。森林はCO₂を吸収する「炭素の貯蔵庫」として機能しますが、開発や農地転換、違法伐採によりCO₂吸収能力が低下しています。
また、焼畑農業や都市開発により大気中のCO₂が増加し、温暖化が加速しています。土地利用の最適化と森林の保全は、気候変動対策の中核的課題です。
サプライチェーン上の間接排出(Scope3)
近年では、サプライチェーン全体で排出される温室効果ガス、いわゆる「Scope3」の重要性が増しています。
Scope3とは、自社の直接排出(Scope1)や購入した電力による排出(Scope2)以外の、原材料の調達、物流、販売後の使用・廃棄に至るまで、サプライチェーン全体における間接的な排出量のことです。
多くのグローバル企業がScope3削減目標を掲げ、取引先との協働による脱炭素化が進められています。
気候変動の原因が企業にもたらす5つのリスク
気候変動の進行は、企業経営に多様なリスクをもたらします。具体的には、以下の5つのリスクが挙げられます。
① 物理的リスク(異常気象・災害)
気候変動による物理的リスクとして挙げられるのが、集中豪雨や洪水、台風、猛暑、干ばつなどの異常気象です。
これにより工場やオフィスの操業停止、物流網の寸断、インフラ被害などが生じ、企業活動に深刻な影響を及ぼします。近年、自然災害による損失額は年々増加傾向にあり、リスク管理の重要性が高まっています。
② 移行リスク(政策・規制の強化)
世界的な脱炭素の潮流を受け、各国政府は温室効果ガス排出量の削減を求める規制を強化しています。移行リスクとは、このような政策や規制の変更によって生じるリスクを指します。
炭素税の導入や排出量取引制度、環境基準の強化は、企業にとってコスト増や事業構造の転換を迫る要因です。
③ 評判リスク(ステークホルダーからの評価)
消費者や投資家、取引先、従業員などのステークホルダーは、企業の気候変動対策を厳しく評価するようになっています。評判リスクとして、環境対策が不十分な企業は不買運動やボイコット、株主からのエンゲージメント圧力を受けることも珍しくありません。
SNSやメディアによる情報拡散が加速し、ブランド価値毀損につながるケースも増加しています。
④ 市場リスク(消費者・取引先の購買行動変化)
環境配慮型商品の需要増加やグリーン調達の推進など、市場そのものの構造が変化してきました。市場リスクとして、環境意識の高い消費者や取引先の購買行動の変化に対応できない企業は、売上減少や市場シェア縮小のリスクに直面します。
逆に、積極的な脱炭素経営は新たな市場機会の創出にもつながります。
⑤ 財務リスク(保険料増加・資産毀損)
自然災害の頻発による損害保険料の増加、資産の価値毀損、投資先評価の下落といった財務リスクも無視できません。
気候変動は金融市場にも大きなインパクトをもたらしており、金融機関や投資家は「気候リスク」を重視した資産運用や融資判断を行うようになっています。
企業が気候変動の原因に対応しなければならない理由
企業が気候変動問題に本格的に取り組むべき理由は、単なる社会的責任の遂行だけではありません。
投資家や顧客からの要請、金融機関の融資条件、国際的な取引基準の変化など、事業継続や競争力確保の観点からも避けては通れないテーマとなっています。
ESG投資と情報開示(TCFD・CDPなど)
近年、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)が急速に拡大しています。投資家は企業の気候変動リスクや機会に関する情報開示を強く求めるようになりました。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)など、国際的な情報開示枠組みが整備され、上場企業を中心に対応が加速しています。
サステナビリティ・リンク・ローンやグリーンボンド
サステナビリティ・リンク・ローンやグリーンボンドといったサステナブルファイナンスも拡大傾向にあります。
これらは、温室効果ガス削減などのサステナビリティ目標の達成度合いに応じて金利や調達条件が変動する仕組みであり、企業の脱炭素経営を後押ししています。
サプライチェーンの脱炭素要請(Scope3対応)
自社単独での排出削減だけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素が求められています。特にグローバル展開する大手企業では、取引先や下請企業にもScope3対応を要請するケースが増加。
グリーン調達基準の導入、サプライヤーとの協働による排出削減など、全体最適の視点が不可欠となっています。
消費者・株主・若年層の意識変化
消費者、株主、特に若年層の間で、気候変動への関心や環境意識が急速に高まっています。環境に配慮した企業や商品を選択する動きが強まり、企業の対応如何によっては、ブランド力や雇用競争力にも大きな差が生まれます。
これまでの「コスト」としての気候変動対策から、「企業価値向上」や「イノベーションの源泉」へと捉え直すことが必要です。
気候変動に関する日本・世界の取り組み
日本でも世界でも気候変動に対する取り組みが進められています。
日本の取り組み
気候変動対策として、日本政府は多角的かつ段階的な施策を展開しています。たとえば、2050年までのカーボンニュートラル実現を国家目標として掲げ、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー技術の革新を推進中です。
さらに、自治体や民間企業とも連携し、地域特性を活かした脱炭素プロジェクトの支援にも注力しています。
参考:2050年カーボンニュートラルの実現に向けて(環境省)
気候変動に関する各国政府間での取り組みに関しては以下でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
>>>IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは?報告書と影響を解説
世界の取り組み
世界でもEUやアメリカを中心に気候変動に関する取り組みが行われています。
欧州連合(EU)
EUは気候変動対策のグローバルリーダーとして、「欧州グリーンディール」を推進しています。2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減、2050年までにカーボンニュートラル達成を目標としています。
CBAM(炭素国境調整メカニズム)の導入や再生可能エネルギー普及、グリーンファイナンス推進など、実効性の高い政策が特徴です。
アメリカ
アメリカは政権交代ごとに気候変動政策の優先順位が変化してきました。以前のバイデン政権では再生可能エネルギーの導入促進、EV(電気自動車)普及、大規模なグリーン投資が行われました。
現在のトランプ政権はパリ協定を離脱したものの、国内の脱炭素市場については介入していないため、企業単位での気候変動対策は続くことが予想されます。
中国
中国は世界最大の温室効果ガス排出国でありながら、再生可能エネルギー分野での投資に積極的です。2060年までにカーボンニュートラル達成を宣言し、電力構成の脱炭素化やEV普及、エネルギー効率化などを積極的に推進しています。
国ごとの気候変動対策に関しては以下でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
>>>世界と日本の地球温暖化対策とは?企業の取組事例までわかりやすく解説
企業が押さえるべき気候変動の原因の対策
企業が気候変動対策を実行する際には、段階的なアプローチが効果的です。ここでは、代表的な5つのステップをご紹介します。
【STEP1】温室効果ガス排出量の把握(Scope1~3)
まず最初に取り組むべきは、自社およびサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の正確な把握です。
Scope1(自社の直接排出)、Scope2(購入した電力等による間接排出)、Scope3(その他のサプライチェーン上の間接排出)を包括的に算定し、現状を把握することが出発点となります。
【STEP2】中長期目標の設定(SBTiなど)
排出量の現状を把握した後は、科学的根拠に基づいた中長期的な削減目標の設定が重要です。
SBTi(Science Based Targets initiative)へのコミットメント、2030年や2050年の目標設定、ロードマップの策定など、国際的な基準に準拠した目標を掲げる企業が増加しています。
【STEP3】社内のガバナンス体制整備(CSO設置、部門横断型体制)
気候変動対策を全社的に推進するためには、経営層による明確なコミットメントと、組織横断的なガバナンス体制の整備が不可欠です。
CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)の設置や、複数部門が連携するプロジェクトチームの組成など、体制強化が求められます。
【STEP4】排出削減とオフセットの実施
実効性のある施策として、省エネ設備への更新、再生可能エネルギーの導入、カーボンクレジット活用によるオフセットなどが挙げられます。製品・サービスのライフサイクル全体での排出削減も重要な観点です。
排出量取引に関しては以下でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
>>>排出量取引制度の仕組みと導入事例|日本・海外の動向と企業の準備ポイント
【STEP5】情報開示と社内外へのコミュニケーション
気候変動対策の成果や課題、今後の取り組み方針について、情報開示やステークホルダーとのコミュニケーションを積極的に行うことも求められます。TCFD、CDP、統合報告書など多様な情報開示手法を活用し、社内外の理解と協力を促進します。
国内企業による気候変動対策の取り組み5選
日本国内でも多様な業種で先進的な気候変動対策が進んでいます。代表的な企業事例を5つご紹介します。
住友化学
住友化学は、2030年までにCO₂排出量を2013年度比で30%削減する目標を掲げ、省エネルギー技術の開発や再生可能エネルギー導入、カーボンクレジットの活用など多面的な取り組みを展開しています。
ダイキン工業
ダイキン工業は、空調機器の省エネ化や冷媒フロンの削減に注力。製品のライフサイクル全体での環境負荷低減を目指し、グローバルでの排出削減活動を推進しています。
富士通
富士通は、事業活動全体のカーボンニュートラル化を目標に掲げ、データセンターの省エネ運用や再生可能エネルギー100%利用などを推進。サプライチェーン全体での排出削減にも取り組んでいます。
ANA
ANAは、航空燃料の持続可能な代替燃料(SAF)導入や、機材の省エネ化、運航効率向上により、航空業界の脱炭素化をリードしています。国際的な航空業界団体と連携した取り組みも積極的です。
日本マクドナルド
日本マクドナルドは、店舗の省エネ改修、リサイクル材の活用、サプライチェーンでのCO₂削減に取り組んでいます。サステナブル調達や顧客とのコミュニケーション強化も特徴です。
環境経営に取り組む企業に関しては以下でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
>>>ESGとは?メリットや日本・海外の加盟企業などをわかりやすく解説
中小企業でも実践できる気候変動の原因の対策
気候変動対策は大企業だけの課題ではありません。中小企業でも実践可能な取り組みを以下にまとめます。
エネルギー使用の可視化と省エネ設備の導入
自社のエネルギー使用状況を見える化し、効率的な運用を心がけることで、コスト削減と排出削減を同時に実現できます。LED照明や高効率な空調機器、省エネ型生産設備の導入が有効です。
サプライヤーとの協働(グリーン調達)
サプライヤーに対して環境配慮を要請する「グリーン調達」も効果的です。取引先と協力し、省エネや再生可能エネルギーへの切り替えを推進することで、サプライチェーン全体の脱炭素化が加速します。
環境に配慮した商品の開発
顧客の環境意識の高まりに応え、リサイクル素材や省エネ型製品、長寿命商品など、環境に配慮した商品開発を進めることが差別化要因となります。
地方自治体・業界団体との連携支援制度の活用
国や地方自治体、業界団体による環境対策支援制度を積極的に活用することも重要です。補助金や専門家派遣、研修会参加など、外部リソースを取り入れることで、無理なく気候変動対策を推進できます。
気候変動対策のための社内浸透と組織変革のポイント
企業内で気候変動対策を推進するためには、全社員の理解と参画、そして組織文化の変革が不可欠です。以下、具体的なポイントを解説します。
社員教育・勉強会の実施
気候変動や脱炭素に関する最新知識を社員が習得できるよう、定期的な勉強会や外部研修を実施します。自社事業への影響や自分ごととしての理解を深める機会となります。
経営層のコミットメントと継続的な対話
トップマネジメントの強いリーダーシップと継続的な対話が、現場での実行力を高めます。社内外へのメッセージ発信、従業員との意見交換の場が変革のドライバーとなります。
KPIの設定と定期的なレビュー
具体的な数値目標(KPI)を設定し、定期的に進捗をレビューすることで、対策の実効性が担保されます。PDCAサイクルの徹底が、長期的な取り組みの成功を左右します。
「業務負担」ではなく「競争力強化」への転換思考
気候変動対策を単なる「業務負担」と捉えるのではなく、企業価値や競争力強化のチャンスと考える視点の転換が重要です。サステナブルな事業運営こそが、次世代の市場をリードする鍵となります。
気候変動に関して個人ができること
気候変動対策は企業や政府だけでなく、私たち一人ひとりの行動も大きな影響を持っています。個人レベルでできる工夫をいくつか紹介します。
日常生活でのエネルギー消費の見直し
家庭の照明や家電を省エネ型へ切り替える、待機電力を減らす、エアコンの設定温度を適切に管理するなど、日常の小さな積み重ねが温室効果ガス削減につながります。
持続可能な交通手段の選択
徒歩や自転車、公共交通機関の利用、カーシェアリング、EVへの乗り換えなど、移動手段を見直すことでCO₂排出を削減できます。都市部では自転車通勤への補助制度も広がっています。
消費行動の工夫と食品ロスの削減
環境に配慮した商品やサービスの選択、地産地消、リサイクル・リユース、フードロス削減など、日々の消費行動を工夫することで気候変動対策に貢献できます。
日常生活でできる気候変動対策に関しては以下でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
>>>SDGsを身近な例で解説!日常生活で始める持続可能な未来づくり
まとめ
気候変動は地球規模の課題ですが、その原因や影響、そして対策には多様な側面があります。企業、行政、そして個人がそれぞれの立場でできる行動を積み重ねることが、持続可能な社会の実現への近道です。
企業・個人ともに科学的な知見や社会の要請を踏まえつつ、自らにできる最善のアクションを選択していくことが求められます。
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