EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?対象商品や企業への影響

EUDR(欧州森林破壊防止規則)は、森林破壊や森林劣化の防止を目的としてEUが導入する新たな規制です。
対象となる特定の品目には、EU域内で流通する牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材の7品目とその派生製品(牛肉、チョコレート、コーヒー、パーム油、タイヤ、木製家具、印刷紙等)が含まれます。
EU域内での販売や輸入を行う企業は、生産地や流通経路の追跡、森林破壊が行われていないことの証明など、厳格なデューデリジェンスを実施しなければなりません。
違反すれば罰則や市場アクセスの制限が科される可能性があり、国際取引やサプライチェーン戦略に大きな影響を及ぼします。今回はそんなEUDRの対象商品や主な影響などを解説します。
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EUDR(欧州森林破壊防止規則)の基本概要と目的
ここではEUDRの目的やFSCなどの既存の認証制度との関連性などを説明していきます。
EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは何か
EUDRは、EU域内で流通する特定の一次産品およびその派生製品を対象に、「合法であり、かつ森林破壊や森林劣化に関与していないこと」を条件として取引を認める規則です。
言い換えれば、EU市場に製品を投入する際には、その生産地や生産方法が持続可能であるかどうかを明確に示す必要があるのです。
この規則の正式名称は「Regulation (EU) 2023/1115」であり、これまで運用されてきたEU木材規則(EUTR)を置き換えるものと位置づけられます。拘束力を持つ法規制であるため、遵守しない企業は域内市場から排除されるリスクを負うことになります。
EUDRは「情報収集」「リスク評価」「リスク低減」という三段階のデューデリジェンスを基本枠組みとして定めています。企業は仕入れ先や原料の由来について詳細な情報を集め、その情報をもとにリスクを評価し、必要に応じて低減措置を講じなければなりません。
さらに、規制の全面適用前から、EUDR情報システムに対する届出の仕組みが整備されつつあります。実務の現場では、このシステムをどう活用し、いかに効率的にリスク管理を行うかが大きな課題となるでしょう。
参考:EUの森林減少防止に関する規則への対応について(農林水産省)
EUDRの目的
EUDRの根本的な狙いは、EUの消費活動が世界の森林減少に与える影響を最小化することです。森林は二酸化炭素を吸収し、生物多様性を維持する重要な役割を果たしています。その損失は気候変動を加速させ、自然資源の持続可能性を脅かすことにつながります。
特に注目すべきは「カットオフ日」と呼ばれる基準日です。2020年12月31日以降森林から農業利用に転換した農地で栽培した対象関連商品を含む対象製品はEU向けの輸出が不可能となりました。
ちなみに木材及びその関連製品の場合は、農地への転換および森林の劣化が要件となります。
既存の認証制度(FSC、PEFCなど)との関係
森林関連の取引では、すでにFSCやPEFCといった国際的な認証制度が広く利用されています。これらの認証は、持続可能な森林経営を示す一つの証拠として機能してきました。EUDRにおいても、リスク評価を行う際の「参考情報」として活用することは可能です。
しかしながら、認証を取得しているからといって、自動的にEUDRを満たすわけではありません。最終的な責任は企業自身にあるという点が、この規則の大きな特徴です。
つまり、第三者認証に依存するのではなく、自ら情報を検証し、リスクを適切に管理することが求められるのです。
国際的な流れ
EUDRは、EUの「欧州グリーンディール」における重要な政策の一つとして位置づけられています。気候変動対策や生物多様性保全を柱とする国際的な枠組み、たとえばSDGs、パリ協定、生物多様性条約とも整合的に設計されています。
このため、EU域内にとどまらず、世界各国の貿易政策や森林関連政策に波及効果を及ぼすことが予想されます。EU市場に輸出する企業だけでなく、他地域の企業や政府も、EUDRを意識した対応を迫られることになるでしょう。
国際的なサプライチェーン全体が、より透明性と責任性を重視する方向へシフトしていく可能性が高いのです。
EU市場の重要性
EUDR(欧州森林破壊防止規則)は、EU市場に商品を供給する企業だけでなく、その upstream に位置するサプライヤーにも強い影響を及ぼします。EUは世界有数の消費市場であり、その規則は事実上「国際的なルール」として機能するのです。
域外の生産者や取引業者も、この規則に対応しなければEU市場にアクセスできません。
規則の特徴は、単に輸入国の要件にとどまらず、輸出国の生産や流通の仕組みそのものに改善を迫る点にあります。さらに、EUは「国別ベンチマーキング制度」を導入し、各国や地域を「高リスク・標準リスク・低リスク」に分類する予定です。
この制度によって、各国政府や企業が持続可能性を確保するための圧力が強まるでしょう。
対象商品と適用範囲
EUDRの対象となる特定の品目には、EU域内で流通する牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材の7品目とその派生製品(牛肉、チョコレート、コーヒー、パーム油、タイヤ、木製家具、印刷紙等)が含まれます。
これらの一次産品だけでなく、派生する製品群も付属表で定義され、幅広い加工品が規制対象に含まれるのです。
具体的には、木材由来の紙・家具、ゴムを原料とするタイヤや工業用品、コーヒーやカカオを用いたチョコレートや飲料などが挙げられます。つまり、消費者が日常的に利用する数多くの製品がこの規制の影響を受けることになります。
製造拠点がEU域外にあったとしても、EUで販売・輸出する段階でEUDRの規定が適用されるため、グローバルに活動する企業は例外なく準拠を求められます。
対象地域
規制では、原料が採取された国やサブナショナル単位でリスク評価を行う仕組みが設けられています。低リスク地域からの原料のみで構成される場合、企業は「簡素化デューデリジェンス」を利用することができます。
これは情報収集やリスク低減措置の負担を軽減する制度です。
しかしながら、一部に高リスク地域の原料が混入していたり、迂回経路が疑われたりする場合は、簡素化は認められません。企業はより厳格な調査を実施し、正確な情報を当局へ提出する必要があります。
したがって、原料の調達元が多岐にわたる企業ほど管理コストは増大する可能性があります。
サプライチェーンの広がり
EUDRが最も注目される点の一つは、プロット(農地や森林の区画)単位での地理座標の提出を義務付けていることです。単なる国や地域の情報ではなく、具体的な土地の位置を示さなければなりません。
この要件により、原料が2020年12月31日以降に森林転換や劣化を伴った土地から生産されていないことを確認できます。企業は、衛星データや現地調査を活用しながら、プロットレベルのトレーサビリティを確保する体制を構築しなければなりません。
これまでサプライチェーンが複雑で「見えにくかった部分」に、規則は光を当てているといえるでしょう。
非直接輸出企業への影響
法的義務が直接課されるのは、EU域内で製品を市場に投入する「オペレーター」や、製品を流通させる「トレーダー」です。しかし実際には、域外の生産者や加工業者にも大きな影響が及びます。
EUの顧客企業から、サプライヤーに対して地理座標や合法性の証明を求めるのは必然です。契約条件にこれらの要件が盛り込まれれば、域外企業も事実上EUDRへの準拠を迫られることになります。
したがって、上流の事業者はデータ整備や書類管理を進めなければ取引継続が難しくなるでしょう。
このように、EUDRは単なる欧州の規制ではなく、世界規模でサプライチェーンの透明性と持続可能性を底上げする役割を果たします。企業は自らの責任範囲を域内外問わず拡大して捉え、国際的な基準に沿った対応を進める必要があるのです。
EUDRによって企業に課される義務
EUDRにおける主な企業の義務は以下の通りです。
デューデリジェンス義務とは?
EUDRで最も重要な要件の一つが「デューデリジェンス義務」です。EU域内で製品を上市するオペレーターは、一定の手続きを踏み、リスクが実質的に無視できると判断できる状態にまで持っていかなければなりません。
手続きは三段階に整理されています。第一は「情報収集」です。対象となる品目や数量、原料が採取されたプロット座標、そして合法性に関する証拠など、あらゆる基礎情報を集めます。
第二は「リスク評価」で、産地が抱える森林破壊リスクやサプライチェーンの複雑さ、混入の可能性を総合的に判断します。第三は「リスク低減」です。追加的な証拠の入手や、外部の専門機関による検証を通じて、不確実性を最小化する作業が行われます。
この一連のプロセスを経て「リスクは無視できる」と結論づけた場合に限り、当局へ届出が可能となります。届出の結果は「デューデリジェンス・ステートメント」としてまとめられ、専用の情報システムを通じて提出されます。
形式的なチェックではなく、実効性を伴うプロセスである点が特徴です。
企業規模による義務の違い
規則の適用開始時期は企業規模によって異なります。初めは2024年12月30日からの適用開始が予定されていました。
しかし、EU内外の多くの企業や関係国の準備不足などの理由で、適用開始日が大規模事業者や非SMEのトレーダーは2025年12月30日から、マイクロ企業や中小企業については2026年6月30日に延期となりました。
半年の猶予は設けられているものの、要求される内容自体が軽くなるわけではありません。
むしろ、規模の小さな企業ほどリソース不足に直面しやすく、準備の遅れが致命的なリスクにつながる恐れがあります。サプライチェーン全体でデータ収集や契約条件の見直しが必要になるため、前倒しで対応を進めることが安全策といえます。
参考:EUの森林減少防止に関する規則への対応について(農林水産省)
記録保持と報告義務
デューデリジェンスの結果として作成したステートメントは、一度提出すれば終わりではありません。企業には5年間の記録保持義務が課せられています。加えて、非SME事業者には年次報告書を作成し、公に公表する義務も生じます。
これにより、企業は自社の取組状況を透明化し、社会的責任を果たすことが求められます。また、EUDRの設計には税関とのデータ連携も含まれています。通関の際には提出済みの届出番号が参照されるため、物流の段階でも遵守状況が確認される仕組みとなっています。
こうした制度設計は、単なる書類作成にとどまらず、実際の取引管理と密接に結び付けられているのです。
違反時の措置
規則に違反した場合、当局は迅速かつ強力な措置を講じる権限を持っています。製品の差止めや押収、さらには市場からのリコール命令が即時に発動される可能性があります。
通関手続きにおいて放行が停止される事例も想定されるため、在庫や納期に関するリスク管理は欠かせません。
企業にとっては、違反リスクは単なる法的制裁にとどまりません。信用の失墜やサプライチェーン全体の混乱といった二次的な影響が拡大する恐れがあります。
したがって、規則対応は「法令遵守」の枠を超え、企業の事業継続性を守る戦略的課題と位置付けるべきでしょう。
EUDRに違反した場合の罰則
EUDR(欧州森林破壊防止規則)は、単なる努力義務ではなく、法的拘束力を伴う規則です。そのため、違反が発覚した場合には厳格な制裁が待っています。処罰は金銭的なものにとどまらず、市場へのアクセスや事業継続に直結する措置まで含まれます。
違反が一度きりであっても軽視されることはありません。むしろEUは再発防止を重視し、企業活動全体に強い抑止効果を与えるような設計を施しています。つまり、違反の代償は一時的なコスト以上のものとなり得るのです。
高額の金銭制裁
まず注目すべきは金銭制裁です。罰金額は一律ではなく、企業規模や売上に応じて決定されます。具体的には、前年度にEU域内で上げた売上高の最大4%までを上限とし、各加盟国の国内法に基づいて算定されます。
単なる罰金というよりも「不当な経済的利得を剥奪する」という原則が明文化されており、違反で得た利益を確実に無効化する仕組みがとられています。これにより、法令違反をしてでも利益を追求するインセンティブは大幅に削がれることになります。
さらに、反復して違反を繰り返す企業には段階的に制裁額が引き上げられる仕組みも導入されます。累積的に制裁が強化されることで、コンプライアンス軽視の姿勢は長期的に存続できなくなるのです。
市場アクセスの制限
金銭的な負担に加えて、企業にとって深刻なのが「市場アクセスの制限」です。違反が認定されると、公的調達および公的資金へのアクセスから一時的に除外されることになります。補助金や助成金に依存している企業にとって、これは死活問題となるでしょう。
また、製品の市場への供給を一時的に禁止される措置も含まれます。EU市場は世界的に見ても規模が大きく、ここでの販売を遮断されれば経済的損失は甚大です。
さらに、簡素化デューデリジェンスの利用禁止といった措置も加われば、サプライチェーン全体のコストが跳ね上がる可能性があります。
市場からの一時的な締め出しは、単なる売上減少にとどまりません。顧客や取引先との関係が断たれることで、長期的な事業基盤が揺らぐリスクを抱えることになるのです。
追加的な行政措置と信用リスク
違反時には、金銭制裁や市場制限に加えて、行政当局による追加措置が取られる可能性もあります。たとえば、違反に関連する製品や収益の没収、あるいは違反事実を公表する「ネーミング・アンド・シェーミング」の手法が用いられることがあります。
また、域内各国の当局間で違反情報が共有される仕組みも整備されています。そのため、一度違反が認定されるとEU全体での監視が強化され、複数の市場で同時に制裁が及ぶ恐れがあるのです。
こうした公的対応は企業の信用に直結します。金融機関が融資条件を厳格化する、あるいは投資家が資金提供を控えるといった影響が広がり得ます。加えて、顧客や取引先が取引停止を判断する可能性も高まり、経済的損失は連鎖的に拡大していきます。
EUDRによるビジネスへの影響分析
欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、国際的に活動する企業にとって単なる規制対応にとどまらず、事業戦略そのものを見直す契機となります。その影響は大きく分けて「直接的影響」と「間接的影響」に分類できます。
両者は相互に絡み合い、企業の調達、物流、財務、さらにはブランド戦略まで幅広く及ぶのが特徴です。
直接的影響
最初に直面するのは、規則が要求する実務的な対応です。例えば、原料が採取された土地の地理座標を正確に取得し、衛星データと照合して森林破壊の有無を確認する作業が不可欠になります。
加えて、サプライヤーに対する現地監査の強化や、社内外で情報を一元管理するためのシステム投資も必要です。
こうした対応は単なる形式的作業ではなく、企業全体に新たな負担をもたらします。新規プロジェクトの立ち上げや、部門横断的な体制整備、通関手続きの標準化などが初期費用の中心を占めるでしょう。
既存のEUTRからEUDRへと切り替わる移行期間においても、実務上の経過措置を正しく理解し、段階的に対応を進める必要があります。
間接的影響
EUDRの影響はコストや手続きにとどまりません。調達戦略や市場評価にまで波及します。特に懸念されるのは、サプライヤーの再編や原料切り替えに伴う調達価格の上昇です。
従来よりも厳格な基準を満たすサプライヤーに依存せざるを得なくなれば、原材料費が高騰するのは避けられません。
また、サプライヤーを絞り込むことで納期リードタイムが延び、在庫の積み増しや調整が不可欠となります。こうした調達・物流面の変化は、直接的な費用増加だけでなく、オペレーション全体の柔軟性にも影響します。
さらに、ESG投資の観点からブランド価値や投資家の評価にも直結するため、対応を怠れば資本市場での信用を損ねる可能性すらあるのです。
国別リスク評価が公表されるにつれて、企業は自社の調達ポートフォリオを再編する必要性に迫られます。どの地域からどの程度調達するかが、経営戦略上の重要テーマとなるでしょう。
EUDRの影響を受けやすい業種
EUDRの規制対象は限定的ではありません。一次産品では、コーヒー、カカオ、パーム油、天然ゴム、木材、大豆、牛関連製品が直撃を受けます。これらを扱う川上産業や川中加工業者はもちろん、川下の製造・小売業も影響を免れません。
具体例を挙げれば、紙や家具、タイヤ、自動車用ゴム部品、さらにはチョコレートやコーヒー飲料などが該当します。つまり、規制の影響は原料供給者から消費者向け最終製品を扱う企業までサプライチェーン全体に広がるのです。
規模の大小にかかわらず、多くの業種が適応を迫られる点に注意が必要です。
リスク評価例
リスク評価のプロセスは一律ではなく、調達の実態に応じて大きく変わります。典型的な「高リスク」のケースは、森林辺縁部に立地する小規模農園からの原料を多国間で混合し、しかもサプライヤーの入れ替わりが頻繁な場合です。
このような状況では、トレーサビリティの確保が難しく、違反リスクは相対的に高くなります。
一方で「低リスク」とされるのは、EUが低リスク国と認定した地域の単一プランテーションから原料を調達している場合です。プロット座標と地図データの照合が済んでおり、監査プロセスが透明化されていれば、デューデリジェンスの負担は軽減されます。
実務上は、国別ベンチマーク情報、衛星観測データ、土地利用変化の履歴といった複数のデータセットを組み合わせ、定量的にリスクを評価するのが一般的です。これにより、感覚的な判断ではなく、客観的で再現性のある評価が可能になります。
EUDRの実務対応のステップ
欧州森林破壊防止規則(EUDR)に対応するには、単に書類を整えるだけでは不十分です。サプライチェーン全体を見直し、継続的に管理・改善できる仕組みを社内に根付かせる必要があります。そのためのステップを段階的に整理してみましょう。
ステップ1:対象品目・原材料の棚卸し
最初の作業は、自社が扱う商品や原材料が規制対象に含まれるかどうかを確認することです。具体的には、1HSコードと規則附属表を突合し、自社の2SKUコードから原材料、さらに原料作物へとさかのぼって整理します。
この時点で「EUDR該当」「非該当」を明確に分類することが重要です。初期の判定が甘いと、後の工程で手戻りが多発し、工数やコストが膨れ上がります。正確なインベントリは、全体の効率を左右する基盤となります。
1 「HSコード」とは、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約(HS条約)」に従い設定されているコード番号です。
2 SKUコードとは、企業が在庫管理のために、商品やその種類(色・サイズなど)を識別するために設定しているコード番号になります。
ステップ2:サプライチェーンマッピング
次に必要なのは、調達から流通までの経路を可視化することです。サプライヤー、加工拠点、輸送ルートを整理し、どの段階で誰が「オペレーター」や「トレーダー」に該当するのかを確定します。
特に域外企業にとっては、EUに輸入される時点でどの主体が届出責任を負うのかを明確にしておくことが不可欠です。データを誰に、どのタイミングで提供するかを事前に合意しておくことで、実務上の混乱を避けられます。
ステップ3:トレーサビリティシステム導入
EUDRは、プロット(農園や森林の区画)単位での緯度・経度情報の提出を求めています。そのため、地理座標を改ざん不可能な形で収集・保存する仕組みが必要です。
さらに、衛星画像や地図面積、収穫量のデータと照合し、情報の一貫性を担保することも欠かせません。将来的にはEUの情報システムと自動連携できるよう、デジタル基盤を前提にした設計が望ましいといえます。
ステップ4:証拠書類と認証取得
規則対応には、合法性を裏付ける証拠書類の整備が欠かせません。公図や地役権の情報、さらに労働環境や人権面に関する法令遵守の証明も必要になります。
こうした情報は一つの3「ドシエ」としてまとめ、検証可能な形に整理しておくのが理想です。FSCやPEFCなどの国際認証は補強材料として活用できますが、EUDRにおけるデューデリジェンスの代替にはなりません。この点を社内外で誤解なく共有することが大切です。
ステップ5:社内規程・契約書更新
規則対応を徹底するためには、社内規程や契約書そのものを見直す必要があります。仕入契約には、地理座標の提供義務、監査受入れ、是正措置、違反時の補償を明文化することが求められます。
また、通関書類には届出番号の記載を組み込み、EUDR違反が発覚した際に供給を停止できる条項を契約に盛り込むことも有効です。こうしたルール化によって、責任範囲が曖昧にならない仕組みを整えられます。
ステップ6:教育プログラム・審査の実施
制度や仕組みを導入しても、現場の理解と実践が伴わなければ機能しません。購買、品質、物流、貿易実務、法務、サステナビリティなど各部門の役割を定義し、それぞれに応じた教育を行うことが欠かせません。
初回の審査に加えて、年次更新や臨時監査のサイクルを仕組みに組み込み、常に改善できる体制を構築することが望まれます。平時から模擬監査を行うことで、実際の当局対応にも柔軟に備えられます。
3 ドシエとは、特許出願の手続きや審査に関連する書類・情報全般のことです。
ステップ7:定期的レビューと改善
最後に必要なのが、定期的な見直しです。EUDRは一度整備して終わる規則ではなく、国別ベンチマークの更新や各国当局のガイダンス改訂など、運用状況が変化していきます。
年次でギャップ分析を行い、改善点を洗い出すことが不可欠です。実地監査の所見をKPIとして指標化し、改善を積み重ねていくことで、社内の制度はより成熟していきます。
関連規制・市場動向とのリンク
欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、単独で存在する規制ではありません。EUが進める持続可能性関連の制度群と結びつき、相互に補強し合う構造を持っています。企業がEU市場で競争力を維持するには、こうした関連規制とのつながりを理解しておくことが欠かせません。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)との相互関係
まず注目すべきは、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)との連携です。CSRDはダブル・マテリアリティに基づき、財務的影響と社会・環境への影響の両面から情報開示を求めています。その中にはScope3を含むバリューチェーン全体のデータ整備も含まれます。
EUDRが構築を義務づけるトレーサビリティ体制は、まさにこの開示要求に対応する基盤となり得ます。つまりEUDRとCSRDは別個の規制でありながら、実務上は相互補完的に機能するのです。企業にとって両者を統合的に捉えることが合理的なアプローチとなります。
CSRDについては以下の記事で詳しく解説しています。
>>>「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?NFRDとの違いや日本企業への影響・開示例を解説」
CBAM(炭素国境調整メカニズム)との関連性
次に挙げられるのがCBAM(炭素国境調整メカニズム)です。これは輸入品に含まれる温室効果ガス排出量に価格を付与する仕組みで、2026年から段階的に本格導入されます。
EUDRが扱うのは「森林リスク」、一方でCBAMは「炭素リスク」を管理対象とします。両者を併せて運用することが、EUとの貿易における新常態となるでしょう。
制度の閾値や簡素化措置について議論が続いており、企業は政策動向を継続的にフォローする必要があります。
国際的な森林保護政策との整合性
EUDRは、SDGsや各国の森林保護法、さらには企業の自主基準とも整合性を保ちながら設計されています。
ただし、その特徴は「地理座標と衛星データの活用」にあります。客観的かつ検証可能な証跡に基づく仕組みであるため、従来の認証制度や方針よりも透明性が高いのです。
この仕組みが普及すれば、国際的なサプライチェーンにおける共通言語として機能する可能性が高まります。持続可能性の基準が世界規模で統一される流れに拍車をかけるでしょう。
消費者の購買行動変化とマーケティング機会
規制対応は単にコスト負担ではなく、マーケティングの武器にもなり得ます。消費者は「産地が明確で、森林破壊に無縁である商品」を積極的に支持する傾向を強めています。
企業は衛星データや地理座標といった定量的な証跡を活用し、信頼できるストーリーを提供することが可能です。これによりブランド価値が高まり、場合によっては価格プレミアムを正当化する要素にもなります。
EUDRの課題
欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、森林破壊の抑止を目的とした先進的な枠組みですが、実務上はいくつかの課題を抱えています。理念と現実の間に横たわるギャップをどう埋めるかが、企業や生産者にとって大きなテーマとなります。
生産地を明確に示すための負担(地理座標の特定とトレーサビリティ)
まず問題となるのは、生産地を明確に示すための負担です。規則は原料ごとにプロット単位の地理座標を求めていますが、小規模農園や混合原料のサプライチェーンではこれが大きなハードルになります。
現場でのモバイル計測や農家への教育プログラム、さらに衛星データとの連携といった仕組みを導入する必要があり、その運用コストは決して小さくありません。特に発展途上国の農家にとっては技術的・資金的な負担が重くのしかかります。
森林破壊非関与を立証するための証拠整備(リスク評価・デュー・ディリジェンス・監査)
次に課題となるのが、森林破壊に関与していないことを立証するための証拠整備です。単なる報告ではなく、リスク評価、デューデリジェンス、第三者監査を通じて一貫した証拠を示さなければなりません。
ただし、FSCやPEFCといった認証制度は補助的な役割にとどまり、最終責任はEUDRのオペレーターに残ります。リスクを「無視できる水準」まで下げられなければ、EU市場での上市を断念する判断を迫られる場合もあります。
企業は証拠の粒度や一貫性を確保する仕組みを持たなければならないのです。
各国での運用差による不確実性(執行の一貫性と罰則リスク)
さらに看過できないのが、加盟国ごとの運用差です。EUDR自体はEU全体で統一された規則ですが、罰則の設計や執行の厳しさは各国法に委ねられている部分があります。そのため、同じ違反でも適用される制裁や監査の頻度が国ごとに異なるリスクがあるのです。
加えて、国別ベンチマークの更新や監視体制の強度も、企業にとっては実務上の不確実性を生み出します。最新のベンチマークや当局ガイダンスを継続的に確認し、自社対応に反映させることが不可欠です。
EUDRの今後の展望と対応戦略
EUDR(欧州森林破壊防止規則)の影響は今後さらに拡大すると見込まれます。実務を担う担当者や経営層にとって、将来の動きを見据えた対応は不可欠です。
規制を単なる制約と捉えるのではなく、企業競争力を高める機会と位置づける姿勢が求められます。
規制の拡大予測(対象品目の追加や要件強化)
EUDRの附属表に記載された対象品目は、委任法により改訂が可能です。つまり現在の7コモディティに限定される保証はなく、将来的には他の農産物や派生製品が追加される可能性があります。
さらに、提出情報の詳細や技術仕様も、実務の進展に応じて強化される余地があります。
このため、企業は「現行要件さえ満たせばよい」と考えるのではなく、拡大と強化を前提にした体制を構築しておくことが賢明です。早い段階で柔軟な仕組みを導入すれば、後々の再投資を抑えられます。
先行対応による市場優位性獲得の可能性
規則対応を早めに進める企業には明確な利点があります。例えば、低リスク由来原料の比率を高め、簡素化デューデリジェンスを適用できる状態に移行すれば、審査負担を大幅に軽減できます。加えて、納期遅延や在庫の積み増しといったリスクも抑制可能です。
顧客が新しい規制に対応できる取引先を求め始めたとき、すでに準備を整えている企業は選ばれる側に回れます。対応の先行は、市場での信頼と需要を取り込む戦略でもあるのです。
サステナビリティを経営戦略に組み込む重要性
EUDRは単なる法令遵守の枠を超え、経営戦略と深く結びつきます。原料ポートフォリオの再編やブランド価値の向上、投資家との対話に直結するためです。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)やCBAM(炭素国境調整メカニズム)と合わせて、「気候・森林・人権」を統合的に管理する仕組みを築くことが、今後の上策といえるでしょう。
サステナビリティを中核に据えた企業は、規制対応の負担をチャンスへと変換できます。社会的責任の遂行と収益性の両立は、投資家や消費者にとっても強い魅力となります。
中小企業が大企業と連携するモデル案
中小企業にとって、単独でEUDR要件を満たすのは容易ではありません。そこで注目されるのが、大企業や地域組織との連携モデルです。
第一に「共同プラットフォーム型」があります。複数の企業が座標データや証拠書類、監査結果を共同管理する仕組みで、コスト分担と抜け漏れ防止が可能です。
第二に「アンカー企業主導型」があり、大手バイヤーが標準契約や監査基準、IT基盤を提供することで中小企業の負荷を軽減します。
さらに「地域コンソーシアム型」も現実的な選択肢です。産地政府や業界団体、NGOと連携し、プロット登録や第三者検証を集合的に実施する方式です。地域の特性に応じてこれらのモデルをハイブリッド化するのが実務的な解決策となるでしょう。
まとめ
EUDRは「森林破壊に関与しない」という原則を、プロット座標とデューデリジェンスで実効化する規則です。対象は7コモディティとその派生製品に及び、2025年末(大企業等)/2026年半ば(中小)から本格適用が動き出します。
罰金はEU売上の最大4%相当、在庫差止めや市場アクセス制限もあり得ます。待ちの姿勢は許されないというのが本音です。
実務では、①該当SKUの特定→②サプライチェーンの可視化→③座標トレース→④証拠整備→⑤契約と通関の再設計→⑥教育→⑦年次改善、の順で着実に進めることが肝要です。
CSRDやCBAMとの相乗効果を意識しつつ、データで証明できるサステナ供給を競争力に変えていきましょう。
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