CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?NFRDとの違いや日本企業への影響・開示例を解説

CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、欧州を中心に企業に求められるサステナビリティ開示の新たな枠組みです。本記事ではCSRDの概要から、前身となるNFRDとの違い、日本企業への影響、具体的な開示事例までを詳しく解説。ESG経営を推進したい企業担当者が押さえるべき最新の規制動向や、実務で役立つ対応ポイントも分かりやすく紹介しています。これからの非財務情報開示に役立つ必読の内容です。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは何か
欧州連合(EU)が策定したCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive/企業サステナビリティ報告指令)は、サステナビリティの象徴ともいえる新たな法規制であり、企業活動に対する情報開示の在り方を大きく変えつつあります。
ここでは、CSRDの定義やその背景、日本企業にとっての重要性などを解説します。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の基本的な定義
CSRDとは、EUが2022年11月に正式に採択した企業の非財務情報開示に関する指令です。
CSRDの目的は、従来の財務情報に加えて、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)に関する情報を、統一的かつ網羅的に開示することを企業に求めるものです。
従来の非財務情報開示指令(NFRD: Non-Financial Reporting Directive)を大幅に拡充し、より多くの企業に詳細なサステナビリティ情報の報告を義務付けています。
CSRDが導入された背景(EUの環境政策、サステナビリティ推進)
EUでは「欧州グリーンディール」をはじめとした環境政策の強化が進められています。これは2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという野心的な目標を掲げるものです。
一方で、ESG投資の拡大や消費者の意識変化により、企業活動におけるサステナビリティの実践が必須となっています。しかし、従来のNFRDでは開示内容の粒度が粗く、情報の信頼性や比較可能性に課題がありました。
そのためCSRDの導入により、「誰もが比較しやすく、かつ信頼性の高い非財務情報の開示」が強く求められるようになったのです。
カーボンニュートラル実現を見据えた取り組みの一つとして排出量取引制度があります。排出量取引制度は以下の記事で詳しく解説しています。
>>>「排出量取引制度の仕組みと導入事例|日本・海外の動向と企業の準備ポイント」
CSRDが求める報告内容の概要
CSRDにより企業が求められる報告内容は、極めて広範かつ具体的です。主なポイントを以下にまとめます。
- 環境に関する事項(気候変動、資源循環、生物多様性など)
- 社会的事項(人権、労働慣行、多様性とインクルージョン、地域社会への影響など)
- ガバナンス(取締役会の構成、リスク管理、倫理的ビジネス慣行など)
また、単なる実績の記載にとどまらず、「将来の目標」「リスクと機会の評価」「バリューチェーン全体におけるインパクト」など、企業の持続可能性に関する戦略的思考が求められる点も特徴です。
なぜ日本企業がCSRDを理解すべきなのか
CSRDはEU域内企業のみならず、EU市場に関わる全ての企業に影響を及ぼします。特に、日本企業の多くがEUへ製品やサービスを輸出している、あるいはEU域内に子会社や事業所を有していることを考慮すると、無関係とは言えません。
さらに、サプライチェーン全体にサステナビリティ開示の要請が広がることで、「EU域外企業であっても、取引先や金融機関から開示を求められる」状況が生まれつつあります。
したがって、日本企業がCSRDの要点や実務への影響を十分に理解し、早期に対応策を講じることは不可欠です。
ダブルチェックマテリアリティ(二重の重要性)
CSRDにおける大きな特徴として、「ダブルマテリアリティ(二重の重要性)」の考え方があります。これは、
- 企業が環境・社会に与える影響(アウトサイドイン)
- 環境・社会が企業の財務状況に与える影響(インサイドアウト)
の双方について情報開示を求めるものです。
この考え方により、単にリスク情報の開示にとどまらず、企業の存在意義や持続的成長戦略の説明責任が強調されるようになりました。
CSRDとNFRSの違い
CSRDと誤解されることもある用語としてNFRS(非財務情報開示指令)があります。以下でCSRDとNFRSの違いを解説していきます。
NFRS(非財務情報開示指令)とは何か
NFRSは2014年に導入されたEU指令で、一定規模以上の上場企業等に対して非財務情報(環境・社会・人権・腐敗防止等)の開示を求めるものでした。
しかし、適用範囲の狭さや、開示内容・形式の不統一性、監査義務の不在など、多くの課題が指摘されていました。
NFRSからCSRDへの移行の理由と背景
CSRDへの移行は、下記の理由によるものです。
- 投資家やステークホルダーからの透明性要求の高まり
- 非財務情報の比較可能性・信頼性の確保
- サプライチェーン全体での責任追及の必要性
特に、ESG投資の拡大とともに、非財務情報の定量的評価やリスク管理の観点が重視されるようになり、CSRDでは「標準化」「詳細化」「監査義務化」といった抜本的な改革がなされています。
ESGについては以下の記事で詳しく解説しています。
>>>「ESGとは?メリットや日本・海外の加盟企業などをわかりやすく解説」
開示範囲や対象企業、報告の詳細度の違いを比較
項目 | NFRS | CSRD |
---|---|---|
適用範囲 | EU域内の大企業約11,700社 | 約50,000社(EU外企業含む) |
開示内容 | 総論的・柔軟な記載 | 詳細かつ標準化された記載 |
監査義務 | なし | 外部監査が義務化 |
適用開始時期 | 2018年 | 2024年度報告から段階的適用 |
参考:EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の概要と日本企業への影響(pwc)
参考:企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応(日本総研)
ESRS(European Sustainability Reporting Standards)について
CSRDの下で具体的な報告基準として策定されたのが「ESRS(European Sustainability Reporting Standards)」です。ESRSは、CSRDに基づく非財務情報の開示内容を詳細に規定したEU共通の基準であり、2023年7月に第一弾が公表されました。
ESRSの具体的な開示要件
ESRSでは、以下の主要な項目について詳細な開示が義務付けられています。
- 戦略とビジネスモデル
- ガバナンス構造と方針
- マテリアリティの評価方法
- 環境:気候変動、生物多様性、水資源循環、汚染防止等
- 社会:人権、ダイバーシティ、サプライチェーン管理等
- ガバナンス:内部統制、倫理・コンプライアンス等
ESRSの開示項目数
ESRSは、クロスカッティング基準(共通事項)2本と、トピック別基準10本で構成されており、開示項目数は数百項目に及ぶと言われています。
そのため、従来よりも大幅に詳細な情報開示が求められるようになりました。
ESRSによる開示のイメージ
ESRSでは「定性的情報」と「定量的情報」を組み合わせて開示することが求められます。
たとえば「気候変動への対応」では、温室効果ガスの排出量データ(定量)に加え、排出削減目標やその進捗管理体制(定性)を一体的に説明することが求められます。
CSRDの適用条件とスケジュール
CSRDの適用スケジュールは段階的に設定されており、以下の条件で適用されます。
適用対象 | 適用条件 | 適用開始時期 |
---|---|---|
NFRS適用企業 | 2024年1月以降 | NFRS適用企業(EU域内の大企業等)が対象 |
大企業 | 2025年1月以降 | EU域内の大企業(従業員250人超、売上高4,000万ユーロ超等)に拡大 |
中小企業 | 2026年1月以降 | 中小企業(上場企業のうち基準を満たす場合)にも適用 |
EU域外企業 | 2028年1月以降 | EU域外企業(EU内の売上1.5億ユーロ超等)も対象に |
参考:CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス(2024年5月)(JETRO)
NFRS適用企業
既存のNFRS対象企業は、2024年度の報告(2025年発表分)から新基準に沿った開示が必要となります。
大企業
EU域内に拠点を持つ大企業や、日本からEU市場で一定規模以上の売上がある企業は、2025年度以降の対応が求められます。
中小企業
一部の上場中小企業も対象となりますが、段階的な導入や一定の猶予期間が設けられています。
EU域外企業
日本を含むEU域外の企業でも、「EU域内に子会社・支店がある」「EU域内での売上が1.5億ユーロ以上」などの基準を満たす場合、CSRDへの準拠が必須となります。
CSRDが日本企業に与える影響
CSRDの導入により、EU市場に輸出する日本企業は非財務情報開示が法的義務となり、取引や調達の前提条件となります。
また、EUに直接進出しない場合でも、サプライチェーンや投資家からの開示要請が強まるなど、広範な影響が及びます。
日本企業に求められる対応の変化
CSRDの施行を受けて、日本企業に求められる対応は従来と大きく変わりつつあります。特に重要なのは、その影響を「直接的なもの」と「間接的なもの」に整理し、それぞれに応じた戦略的な対応を取ることです。
直接的影響(EU市場への輸出・進出企業の対応義務)
まず、EU市場に製品やサービスを輸出・展開している日本企業は、CSRDの要件に完全に準拠した非財務情報の開示が法的に義務付けられます。
従来はボランタリー(任意)であったESG関連の情報公開が、今後はEU域内で事業を継続するための「最低条件」となります。
たとえば、温室効果ガス(GHG)排出量やサプライチェーンにおける人権侵害リスクへの対応状況、労働環境や多様性推進に関する具体的な数値・目標など、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に基づいた詳細な情報提供が不可欠です。
これは、調達先の選定や新規取引先の認定においても、CSRDへの対応が重要な判断基準となることを意味します。
例えば大手自動車メーカーや電機メーカーなど、すでに欧州ビジネスの比率が高い企業群では、欧州企業からの開示要請に迅速に応じるため、グループ全体で情報収集・報告体制を強化する動きが広がっています。
間接的影響(サプライチェーンでの開示要請、金融機関からのESG評価)
EU市場への直接的な進出がない日本企業に対しても、CSRDは間接的に大きな影響を及ぼしています。
特に、サプライチェーンの一部としてEU企業と取引している場合、上流の欧州企業やグローバル調達網を担う取引先から「ESG情報の開示」が強く求められるケースが増加中です。
CSRDの義務化によって、欧州企業は自社だけでなく、取引先やサプライヤー全体の持続可能性リスクを管理・報告する責任を負うようになったため、その要請がサプライチェーン全体に波及しているのです。
また、グローバルな金融機関や機関投資家による投資判断基準もCSRDやESRSに沿ったものへと変化しつつあります。
今後はESG投資の観点から、CSRD対応状況が評価項目となり、企業価値や資金調達コストにも影響を与えることが想定されます。
特に国内外の機関投資家が投資先のサステナビリティ対応を厳格に審査する傾向が強まる中で、日本企業も自社の非財務情報の信頼性や透明性を高めることが必要です。
影響を受けやすい業種と企業例
CSRDの影響を受けやすい業種と企業をまとめると以下のようになります。
業界名 | CSRDの影響度 | 主な理由 | 具体的な影響・対応内容 |
---|---|---|---|
自動車・部品メーカー | 非常に高い | 欧州市場向け輸出が多く、現地OEMから厳格なESG開示要請 | ESGデータ収集、第三者認証取得、開示体制の強化 |
電機・精密機器メーカー | 高い | 欧州取引先との取引が多い | CO₂排出量の可視化、リサイクル素材利用の開示 |
化学・素材産業 | 高い | 欧州市場依存度が高く、環境対応要求も厳格 | 環境負荷・CO₂排出量などの詳細なデータ開示 |
商社・総合商社 | 高い | 多国籍サプライチェーンの管理責任 | 取引先に対するESG要請・情報開示体制構築 |
食品・飲料メーカー | 中〜高 | サプライチェーンがグローバルで欧州取引先も多い | 原材料調達の透明性、サステナビリティ報告 |
アパレル産業 | 高い | 欧州市場向け取引が多く、消費者・バイヤーのエシカル要求増 | 生産過程の透明性、サステナビリティ報告 |
電子部品産業 | 高い | 欧州メーカーとのサプライチェーン強い結びつき | 原材料調達・生産過程の透明性、環境負荷の情報開示 |
中小企業(多国籍SC保有) | 中〜高 | サプライチェーンを通じて欧州規制の波及 | 取引先や親会社からのESGデータ開示要請 |
CSRDの対応が求められる企業とは
CSRD対応が必要とされるのは、決して大手企業や特定業種だけではありません。むしろ、EUビジネスへの関与度が高い全ての日本企業が、自社の規模や業種を問わず、早期にCSRDを意識した体制を整えることが不可欠です。
特に、グローバルサプライチェーンの一員として間接的に欧州ビジネスに関わる中小企業も、今後は大手取引先から開示要請や持続可能性対応の基準適合を求められる場面が増えることが想定されます。
CSRDの具体的な開示例
企業がCSRDに対応するうえで最も重視すべきことの一つが、具体的な情報開示例を理解し、自社の報告内容に落とし込むことです。
CSRDが求める開示内容は多岐にわたりますが、特に重要とされる主要な項目はガバナンス、気候変動対応、人権・労働、サプライチェーン管理に集約されます。
具体的な開示内容の項目とその詳細(ガバナンス、気候変動対応、人権・労働、サプライチェーン管理)
ガバナンスに関しては、企業のサステナビリティに関する組織体制の明確化や、経営陣自らがどのように持続可能性課題に関与しているかが問われます。
たとえば、取締役会レベルでESGリスクや機会について監督し、意思決定プロセスに反映させる体制の整備状況が重要な開示項目です。
気候変動対応では、温室効果ガス排出量の算定と公開(スコープ1、2、3)が中心です。また、2030年や2050年といった長期的な削減目標の設定と、その進捗状況、さらには気候変動が事業に与えるリスクと機会についての分析内容も求められます。
人権・労働分野では、多様性とインクルージョンの推進状況、強制労働や児童労働の排除策、従業員の安全確保に関する具体的な取り組みが焦点です。従業員構成や女性管理職比率、安全衛生管理体制などの定量的なデータの開示が推奨されています。
サプライチェーン管理については、自社だけでなくバリューチェーン全体における人権・環境リスクの特定と管理体制の開示が不可欠です。サプライヤーとの協働による監査・評価の実施状況や、持続可能な調達方針に関する説明も重視されます。
実際に開示された欧州企業の具体的事例
実際の欧州企業の開示例としては、ドイツのBMWグループが先進的な取り組みをしてきました。
同社はESRSに準拠した統合報告書のなかで、温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3)の年次推移や、バリューチェーン全体にわたる人権デューデリジェンス体制の構築状況を詳細に開示しています。
また、気候変動シナリオ分析をベースにした長期経営戦略を明示し、脱炭素社会の実現に向けた自社の方向性を具体的な数値とともに提示しています。こうした先進的な開示は、投資家や取引先からの信頼獲得に大きく寄与してきました。
参考:BMWグループ、プレミアム・メーカーとして初、統合グループ報告書を発行(BMW GROUP)
日本企業が参考にできる開示例
日本企業においても、トヨタ自動車や日立製作所をはじめとした大手企業が、CSRDの動向を踏まえたESG情報開示を強化中です。
例えば、気候変動リスクへの対応状況、ガバナンス体制の透明性向上、人権デューデリジェンスの実施状況といった欧州基準に近い詳細な情報開示が進みつつあります。
こうした取り組みは、グローバル市場における競争力の強化と同時に、持続可能な社会への貢献姿勢を示すものとして高く評価されています。
CSRDの具体的な開示例を自社の実態に応じて適切に反映し、グローバルな信頼獲得に結び付けていくことが今後ますます重要となるでしょう。
CSRDに対応するための実務的ポイント
欧州発の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)がグローバルで急速に影響力を増すなか、日本企業も早急な対応が求められています。CSRD対応に際して企業が押さえるべき実務的なポイントについて、以下に詳述します。
企業内での対応体制の構築方法(部門間連携、データ収集体制の整備)
まず、企業がCSRDに確実に対応していくためには、組織全体での体制強化が不可欠です。特に部門ごとの連携と、データ収集・管理体制の整備が鍵を握ります。
第一に、経営陣の強いリーダーシップが求められます。CSRD対応は単なる現場の業務課題ではなく、全社的な経営課題として位置付けることが重要です。経営層が方針を明確にし、組織横断でリソースを配分する体制が必要です。
第二に、サステナビリティ担当部門と財務・法務部門の連携強化が求められます。サステナビリティ関連の情報開示は、非財務・財務双方の観点からの正確な情報集約が不可欠です。
部門間で役割や責任範囲を明確にし、情報共有のための定期的なミーティングやワークショップを実施することで、サイロ化(情報の分断)を防ぐことができます。
第三に、グローバル全拠点を対象としたデータ収集体制の確立が求められます。CSRDが求める開示は、グループ全体、さらにはサプライチェーンにまで及ぶため、海外拠点や取引先も含めた統一的なデータ収集ルールの策定が不可欠です。
各拠点でバラバラのフォーマットや基準を用いていては、正確性や比較可能性が損なわれるため、グローバル基準でのデータ標準化が急務となります。
さらに、外部専門家や第三者監査機関との連携も大きなポイントです。CSRDの要求水準は高く、最新の知見や国際的なベストプラクティスを取り入れる必要があります。外部コンサルタントや監査法人と協力し、社内の知見をアップデートし続ける姿勢が不可欠です。
このような体制構築においては、「サイロ化」の回避が極めて重要です。個別部門の取り組みだけにとどまらず、全社横断での情報共有・課題解決ができるプロジェクト型の推進体制を構築し、組織文化そのものを変革していく意識改革も求められます。
サステナビリティ戦略との整合性
CSRD対応は単なる報告書作成に終始するものではありません。むしろ、「企業の事業戦略自体がサステナビリティを中核に据えているか」が問われます。
具体的には、経営ビジョンや中長期計画のなかにサステナビリティを明確に位置付け、リスクマネジメントや投資判断の基準にもESG(環境・社会・ガバナンス)の観点を織り込む必要があります。
これは表面的な情報開示ではなく、企業価値向上のための「経営そのものの変革」と言えるでしょう。
たとえば、新規事業の評価指標にCO2排出削減や人権配慮といった非財務項目を組み込む、気候変動リスクへの対応を経営会議の主要議題に据えるなど、全社的な戦略とESG方針との整合性を担保することが、今後ますます重要になります。
実務レベルでの課題とその克服方法(データの信頼性確保、レポーティング手順)
CSRD対応にあたって、実務の現場で直面する課題も少なくありません。代表的なものと、その克服方法について述べます。
まず、「データの信頼性確保」が大きな課題となります。グローバル規模で展開する企業の場合、拠点やバリューチェーンごとにデータの形式や収集プロセスが異なり、正確かつ一貫性のあるデータ集約が難しいケースが多々あります。
これに対しては、ERP(統合基幹業務システム)やサステナビリティ管理の専門システムを導入し、データ入力の標準化や自動化を進めることが効果的です。また、信頼性を担保するために、外部監査機関による定期的なチェックを受けることも推奨されます。
次に、「レポーティング手順の明確化」が必要です。CSRDの基準に沿った報告書を作成するためには、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に準拠したテンプレートの導入や、ガイドラインの作成が有効です。加えて、従業員への継続的な教育・研修も不可欠です。
制度や基準のアップデートにあわせて、関係者が常に最新の知識を持って対応できる仕組みを整えましょう。
さらに、ステークホルダーとのコミュニケーションも重要なテーマです。CSRD対応は投資家や金融機関、取引先、消費者など多様なステークホルダーの信頼を得るための取り組みでもあります。
報告書の作成にとどまらず、説明会の実施やウェブサイトでの情報発信、双方向の意見交換の場を設けることで、開示内容の理解と納得を得ることができます。
またCSRDに対応するためにはサステナビリティ経営について理解することも大切です。
>>>「サステナビリティ経営の基本と成功事例:CSR・ESG・CSVとの違いを比較」
CSRDの最新の規制動向と今後の展望
近年、サステナビリティに関する情報開示規制は欧州にとどまらず、世界各地で急速に拡大しています。CSRD(企業サステナビリティ報告指令)が欧州で本格導入される中、他地域でも類似の規制強化の動きが顕著になってきました。
欧州以外の国や地域での類似規制の動向
例えば、アメリカ合衆国ではSEC(証券取引委員会)が上場企業を対象に気候関連情報の開示義務化を進めており、企業は温室効果ガス排出量や気候変動リスクの財務的影響について、詳細な情報を求められるようになっています。
また、カリフォルニア州では自主的なESG開示を超えて、一定規模以上の企業に対して気候変動リスク開示を法的に義務付ける州法も成立しました。
アジア地域でも、シンガポールや香港といった金融センターを中心にサステナビリティ報告基準の強化が進んでおり、グローバルなESG開示規制の潮流は今後ますます加速すると考えられます。
参考:米国の気候変動政策の行方と日本企業の対応(JETRO)
グローバルなESG規制のトレンドとCSRDの位置付け
こうした世界的な動向の中で、CSRDは今日までグローバル基準としての性格を強めてきました。
特に、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)は国際的な開示枠組みであるIFRS S1/S2や、グローバルなイニシアティブであるGRI(Global Reporting Initiative)とも高い整合性を持ち、他国の規制当局や国際機関も欧州基準の動向を注視しています。
すでに多くの多国籍企業が、欧州のみならずグローバル市場全体でサステナビリティ開示を強化する流れに移行しており、ESG情報の「比較可能性」や「信頼性」が企業価値評価の新たなスタンダードとなりつつあります。
日本企業が今後特に留意すべきポイント
このような状況下で、日本企業が今後特に留意すべきポイントは、単なる制度対応にとどまらず、サステナビリティを企業経営の中心に据えることです。
CSRDや各国規制の要件を表層的に満たすだけでなく、自社の中長期戦略やリスクマネジメント、そして企業価値向上とどのように統合できるかが問われます。
また、ESG情報の収集・管理・開示体制の高度化はもちろん、サプライチェーン全体における透明性の確保、グローバル拠点間の連携強化も不可欠です。
さらに、今後は「人的資本」や「自然資本」といった新たなテーマにも目を向ける必要があるでしょう。
まとめ
グローバルで加速するサステナビリティ報告規制の中で、日本企業は単なる受け身ではなく、積極的な姿勢でESG経営を推進していくことが求められます。
CSRDをはじめとした新たな開示要請は、単なる義務ではなく、グローバル競争での競争優位性を確立する機会でもあります。
今後も規制動向を的確に捉え、先手を打った対応と本質的な経営変革に取り組むことが、企業の持続的成長のカギとなるでしょう。
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