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齋藤健先生(前経済産業大臣・AZEC議連会長)インタビュー「GXがもたらす日本の成長戦略」

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スキルアップNeXtは、経済産業省が主導する「GXリーグ」内の「GX人材市場創造WG」においてリーダーを務め、GX推進に必要なスキルを体系的に定義した「GXスキル標準 ver.2」を策定し、2025年5月に公表しました。
経済産業大臣として日本のGX政策を指揮し、現在はAZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)議連会長として国際連携を推進する齋藤健先生に、日本の成長戦略としてのGXの可能性、企業に求められるマインドセット、そして「GXスキル標準」が拓く未来についてお話を伺いました。

GXがもたらす日本の成長戦略

GXが日本の成長に不可欠と考える決定的要因について、経済産業大臣在任時の経験からお聞かせください。

齋藤
もともと経済産業省はGXがどれだけのマーケットを作るかという検討をしていましたが、実際にAZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)の会議に参加した時にASEAN諸国が日本の技術や資金に期待していることをひしひしと感じました。

アジアの国々はカーボンニュートラルに取り組まなければならないという認識はありますが、具体的な方法がわからず、日本の技術を活用したいという思いがあります。これが経産省主導でAZECを設立した背景です。

実際の会議では、経済産業大臣との二国間会談の申し込みが非常に多く、各国の企業がMOUを結んで進めている事業を日本政府に応援してもらいたい、日本政府の資金提供を期待しているという強いアプローチがありました。

アジアでは資源が国によって偏在しています。例えばインドネシアは、CO2貯留のポテンシャルが高いとされています。また、アンモニア生産を100%再生可能エネルギーで作った電気で行いたいというニーズもあります。このように、太陽光発電の適地、洋上風力の適地など、それぞれの国の強みを活かしながら、国を超えて連携していくアイデアが山ほど出てきています。このようなポテンシャルを感じる中で、日本の技術や設備が投入され、日本の成長につながっていくと実感しました。

企業の視点では、GXは単なるコストではなく成長のドライバーとして捉えるために、どのようなマインドセットが鍵だとお考えですか?

齋藤
経済産業省が推進しているGX経済移行債の考え方は、浮体式洋上風力や次世代太陽光などの技術は大きく伸びる可能性があるが、社会実装までは国の支援が必要だというものです。そのために国債を発行してでも世界に先駆けて実施することに意味があると考えています。先駆けて取り組めば、例えばアメリカの洋上風力市場にも参入できる可能性があります。特に浮体式は大きな可能性があるため、国が資金を用意しています。

また、EUとの協議では、公共調達でコストだけでなくサイバーセキュリティや調達安定性なども考慮して先進的なプロジェクトを支援する基準を作っています。

このように政府は最大限の努力をしており、国の支援で技術コストを低減させ、実用化できればビジネスにつながる可能性は大いにあります。国の支援策などを戦略的に活用して未来への先行投資を恐れず、社会全体の持続可能性への貢献を自社の新たな成長力へと転換するマインドセットが重要だと考えています。

中小企業や地域経済においてGXを進める際の最大のハードルは何だとお考えですか?

齋藤
これは本当に難しい問題です。企業にとっては「儲かるか儲からないか」が最大の関心事ですから、ビジネスに直結しない限り動きは鈍いでしょう。

現実的には、大手企業がサプライヤーに教育機会を提供し、対応しない企業との取引を停止するといった強制力が働くケースも出てきています。ただし、そういった取引関係がない中小企業に「GXに取り組みなさい」と言っても難しいのが現状です。

一方で、環境意識の高い消費者が増えていることも見逃せません。人材獲得競争においても、環境への取り組みは優秀な人材を惹きつけるセールスポイントになります。実際に大企業のテレビCMでは環境への貢献を強調していますが、これは消費者や求職者に響くものがあるからでしょう。

公正な移行(Just Transition)と人材育成の要諦についてのお考えをお聞かせください。

齋藤
公正な移行については、経済産業省も検討していますが、まだ明確な方針が見えていません。大企業においては経営者のリーダーシップで環境重視の事業に挑戦する人材を評価するシステムづくりや、外部人材の多様な意見を取り入れることなどが挙げられていますが、まだまだこれからです。

中小企業に対しては金融機関と連携したプッシュ型の支援体制などが提案されていますが、これもなかなかです。企業の余裕がある時はGXに取り組めても、余裕がない時には後回しになるのが現実で、その対策として排出量取引制度のようなものも必要になるかもしれません。

GXスキル標準の活用による新たな可能性についてはどうお考えですか?

齋藤
大企業がGXを真剣に取り組みたいと思っても、どのような人材であればGX推進に貢献できるのか、明確な基準がないため、どうすれば良いかわからない状況があります。

ですから、このようなスキル標準をきちんと策定し、例えばGXプロジェクトマネージャーやGXコミュニケーターなどの役割ごとに必要な能力を認定できるようにすることは、GXを広めていくうえで非常に重要です。

スキル標準があれば、企業側は採用や育成がしやすくなりますし、脱炭素分野で働きたい人も何を勉強すべきかがわかります。両方にとってメリットがあるわけです。

GX推進において日本が世界をリードするために必要な「次の一手」をお聞かせください。

齋藤
このGXスキル標準を国際標準、特にアジア標準にしていくことが重要です。例えばマレーシアがこれを採用すれば、次はインドネシア、さらにベトナムへと広がる可能性があります。「最低限この標準をクリアすれば即戦力になる」というスキルが世界共通となれば、ASEANをはじめとするアジア諸国、さらにはインドやブラジルなどグローバルサウスの国々が日本に研修や学習を求めるようになり、日本のGXビジネスのプレゼンスも高まります。

また、ただ省エネ製品を輸出するだけでなく、顧客に「私たちはこのように排出量を減らしました」と説明できるコミュニケーターも重要です。多くの企業はそうした専門人材を採用できないかもしれませんが、社員教育を通じてスキルを身につけることができます。

世界に通用する検定制度や教育プログラムを早急に作り、展開していくことが日本のGXリーダーシップにつながるでしょう。誰かが作るなら、日本が先行すべきです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

齋藤
こちらこそありがとうございました。GXスキル標準の取り組みは素晴らしいですね。ぜひ国内だけでなく、アジア、そして世界へと展開していってください。