自治体に求められるGXとは:GXに取り組む地方自治体の事例も紹介
近年、先進国において脱炭素を推進していこうという動きが加速しています。日本も例外ではなく、政府はもちろん、大企業を中心に多くの企業がGXを見据えたビジネスを展開して行こうとする機運が高まっています。
こうした動きは自治体にも影響を与えており、多くの自治体がGXに既に取り組みはじめています。しかし、自治体の場合、企業とは異なる役割が求められることや、企業競争力の確保というインセンティブで動きやすい企業と比較し、GXの取り組みが遅れているのも事実です。
そこで本記事では、自治体でGXが求められている理由を解説した上で、自治体が持続可能な地域のためにできることや、自治体のGX取り組みの例などを紹介します。
各自治体でGXが求められている理由
自治体でGXが求められている理由には、それぞれの地域経済を支える中小企業にも脱炭素化が求められていることがあります。これまで、GXの取り組みは主に大企業を対象にしていました。しかし、大手企業においてGX推進が加速したことにより、中小企業にもその波が押し寄せました。
例えば、取引先である大企業から、製品製造時のCO2排出量開示を求められるといった事例が増えています。
しかし、多くの中小企業では、これまでサステナビリティ部門を設置しておらず、どのようにしてCO2排出量を可視化すれば良いのか見当もつかないといったケースも続出しています。
こうした状況において、自治体ができることとしては、例えば、CO2排出量算定・可視化クラウドサービスを提供しているサービス事業者と地域脱炭素の実現に向けた協定を結び、地元の中小企業に可視化の方法のレクチャーと可視化ツールの導入を進めるといったことなどが挙げられます。こうした対応を進めるために、通常の事業推進に加え、自ら必要な情報を取得することは難しく、まさに自治体に求められている役割といえます。
GXに取り組む自治体は支援を受けられる
GXは国によっても推奨されている活動であることからも、政府はGXに取り組む自治体に対して地域脱炭素移行・再エネ推進交付金を給付することを公表しています。この交付金は脱炭素に取り組む地方自治体が対象となっており、2022年の予算は200億円です。
地域脱炭素移行・再エネ推進交付金には、「脱炭素先行地域づくり事業」と「重点対策加速化事業」があります。それぞれの特徴は下記の表のとおりです。
脱炭素先行地域づくり事業 | 重点対策加速化事業 | |
交付要件 | 脱炭素選考地域に選定されていること | 再エネ発電設備を一定以上導入すること |
対象事業 | CO2排出削減に向けた設備導入事業(1は必須) 1. 再エネ設備整備 2. 基盤インフラ整備 3. 省CO2等設備整備 4. 効果促進事業 | 以下1~5のうち2つ以上を実施(1または2は必須) 1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電 2. 地域裨益型再エネの立地 3. 公共施設など事業ビルなどにおける徹底した省エネと再エネ電気調達と交信や回収時のZEB化誘導 4. 住宅・建築物などの省エネ性能などの誘導 5. ゼロ・カーボンドライブ |
交付率 | 原則3分の2 | 3分の2~3分の1、定額 |
事業期間 | おおむね5年 |
出典:環境省「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」
自治体が地域のGX推進のためにできる2つのこと
自治体が地域のGXを推進するためにできることとして下記の2つが挙げられます。
- 自治体新電力の設立
- GXを導入する中小企業への支援
それぞれ詳しく見ていきましょう。
自治体新電力の設立
地域のGXを推進するための方法の一つとして、自治体新電力の設立が挙げられます。自治体新電力とは、地域内の発電電力を最大限に活用し主に地域内の公共施設や民間企業、家庭に電力を供給する小売電気事業のうち、自治体が出資するもののことです。
エネルギーの地産地消が可能となり、自治体が主導して再生可能エネルギーを生み出すための仕組みを整えることで、その地域で事業を営んでいる企業はクリーンエネルギーを活用することができます。地域の企業の、産業活動の中で排出される温室効果ガス削減に繋げることになります。
その他にも、地域でエネルギーを生産することは災害時におけるライフラインの確保にもなり、CO2削減以外の効果もあります。
GXを導入する中小企業への支援
前述のように、自治体には中小企業のGX推進をサポートすることも求められています。中小企業はその地域の経済を担っている重要な存在であり、中小企業は地域のGX推進をリードする存在にもなりえるからです。
自治体は中小企業がGXに取り組めるように、GXに取り組むことで得られるメリットを具体的に示し、理解してもらうことが重要です。また、GXに関連したビジネスの可能性を見込めたとしても、新たな取り組みを始める際は資金が必要です。
自治体にはGXに取り組む企業に支援金を給付するなど、手厚いサポートを行うことも求められます。
その他、GXの全体像や、中小企業が対応しなければならないことなどが学習できる機会の提供、ビジネスアイディアの相談窓口になり、ソリューションを持つ企業とのマッチングなど、GXを切り口に地域ビジネス活性の下地を作ることが考えられます。
GXに取り組んでいる自治体の事例を紹介
GXに取り組んでいる自治体の事例として、下記の3つが挙げられます。
- 愛知県豊田市の超小型モビリティのリース
- 山形県庄内町の風力発電
- 神奈川県相模原市の中小企業事業者への脱酸素化支援
愛知県豊田市の超小型モビリティのリース
2016年度より、愛知県豊田市は名古屋大学と東京大学と共同して、「里モビニティ」というモデルコミュニティを中山間地域で形成しています。
このモデルコミュニティでは、地域住民が利用できる超小型電気自動車の導入を行いました。高齢者が多く住んでいることや公共交通機関が十分でないことなどから、高齢者は移動の際に不自由を感じることも少なくありません。加えて、中山間地域にはガソリンスタンドがあまりなく、自宅から最寄りのガソリンスタンドまで十数キロの距離があるという住民もいます。
住民は利用を希望することで超小型モビリティを月額6,600円でレンタルできます。超小型モビリティは誰もが手軽、かつ安全に利用できることから地域住民からのニーズから高く評価されています。また、ガソリンを排出することもないため脱炭素化につながり、大気汚染などの心配もありません。
山形県庄内町の風力発電
山形県庄内町は風の強いエリアです。庄内町はこの強風をまちづくりに活用しようと、1980年から風力発電に力を入れています。そして、水田地帯に風車を建設し、農業と再エネを目指しています。
庄内町は風力発電における効果をさらに高めるため、農山漁村再生可能エネルギー法に基づいて基本計画の策定を行いました。地域の3つの事業者による22.5MWの風力発電所が2021年に竣工し、町の電力使用量の約60%は風力発電によってまかなわれています。
また、風力発電の事業者は風車1基につき年間100万円を町に寄付し、農林業の活性化を目指しています。この事業は20年間続く予定であり、期間内に町に入る収入は約10億円に上ります。
庄内町のように地域の風土を活かし、自然が生み出すエネルギーを利用して得た収益が農林業に還元されることで、環境と経済をよりよくしていくことができます。
神奈川県相模原市の中小企業事業者への脱炭素化支援
神奈川県相模原市の事業者の9割が中小規模事業者です。相模原市は中小規模事業者の二酸化炭素排出量の削減、および省エネ、再エネ利用設備の導入を支援するために、省エネルギー対策などを支援する制度を2013年度に開始しました。
中小規模事業者は省エネアドバイザーから自社のCO2排出量を確認することができます。また、計画書の作成の過程まで経ることができるため、中小規模事業者は省エネ仕様の設備を導入した際に得られるだろう具体的な効果の確認も可能です。
取り組みを実施する際は省エネ仕様の設備の導入時に補助金が支給されます。市としては多くの事業者の脱炭素化への取り組みを促せるだけでなく、各事業者のCO2排出状況なども把握できるというメリットもあります。
自治体が抱えるGXに関する問題とは
主に地方の自治体が抱えるGXに関する問題として、下記の2つが挙げられます。
- GX人材の不足
- 都市部との産業格差
それぞれ詳しく見ていきましょう。
GX人材の不足
2023年3月現在、経済産業省などが示しているGX人材の定義はありません。現状のGX推進状況に鑑みると、GX人材とは、「GXやカーボンニュートラルなど基本的な知識を持った上で、カーボンニュートラル達成のための一連の活動の一端を担える人材」と定義するのが妥当です。
つまり、グリーンに関連する研究者・技術者のみならず、業界のGX関連のルールメイキングができる人材、企業においては、技術を活用して新しいビジネスを生み出せる人材などもGX人材の定義の中で位置付けられると考えられます。
もちろん、「一旦を担う」という意味では、自治体にもGX人材の存在は重要になります。特に自治体のGX人材に必要なスキルとしては、GX関連の最新情報を取得し、地域内の企業が活用可能なファイナンスや助成制度を理解することと、地域の資源(地域内の中小企業や森林などの環境資源などの全て)に鑑みた、GXの方針を打ち出すことにあると考えられます。
一方で、自治体が行うべき業務は年々増えており、介護予防や空き家対策、少子高齢化対策、鳥獣被害対策などさまざまです。多くの業務を少ない職員で行う自治体も多く、自治体職員に割り当てられる仕事量は増加しています。
そうした中、将来に向けてGX推進に関する業務を担うためのリソースに余裕がない自治体も少なくありません。
都市部との産業構造の違い
日本において企業の本社や生産性の高い産業は、東京都や大阪府などの大都市圏に集中している傾向にあります。また、地方に行くほど小売業、建設業、製造業などの業種の割合が増え、小規模事業者の割合も増加する傾向にあります。
小規模事業者だと、新しい取り組みを実施したり、内部にGX関連の専門的知識を有する人材を抱えるのは容易ではありません。地方では都市部と比較して限られたリソースの中でGX推進を行わなければならないのです。
さらには、CO2を削減する方法として、大きな研究開発費を要するイノベイティブなCO2削減技術を開発する出会ったり、DXを進めることなどが考えられますが、いずれも都市部に本社を抱える大企業と比較すると、リソースが限られているという意味でもCO2削減のハードルは高いといえます。
脱炭素に向けて自治体単位でできることを見つけよう
持続可能な社会の実現のためには、自治体もGX推進に関する取り組みを行うことが求められます。政府や自治体、企業、学校がそれぞれにできる取り組みを実施することで、よりよい未来を構築することができます。
リソースに限りのある自治体がGX推進の取り組みを行うのは容易ではありません。しかし、GXに取り組む自治体が対象となる支援もありますので、これらを活用しながらできることを見つけることが大切です。
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