「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた取組み事例やポイントを分かりやすく解説
現代社会において地球温暖化は深刻な問題となっており、世界各国で解決の糸口が模索されています。これ以上の気温の上昇を抑えるためには、温室効果ガスの排出量削減が不可欠といわれています。そうした中で、2020年10月に政府は、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる2050年カーボンニュートラルを宣言しました。
本記事では、2050年カーボンニュートラルの概要を確認した上で、カーボンニュートラルに取り組むべき理由や方法、カーボンニュートラルの実現に向けた国内外の取り組み、カーボンニュートラルを実現できなかった場合に起こりうることなどについて見ていきます。
2050年カーボンニュートラルとは
2050年カーボンニュートラルは、日本国内における温室効果ガスの排出量を全体で実質ゼロにすることであり、2020年に菅首相によって宣言されました。
人間が今後も地球で暮らしていくには、産業革命前と比べて平均気温の上昇を1.5℃までに抑える必要がありますが、すでに1.1℃の気温上昇が示されています。世界全体で2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにできなかった場合、さらなる平均気温の上昇が懸念されています。
地球の平均気温が上昇し続けると、異常気象による干ばつや洪水などが起こる可能性も高まり、人間や動植物の存続の危機にもかかわる問題となるでしょう。
カーボンニュートラルに取り組むべき理由
米海洋大気局(NOAA)と米航空宇宙局(NASA)は2020年における世界の平均気温は、観測史上2番目に高いと公表しています。日本でも夏場は暑い日が続き、一昔前よりも気温が上昇したといわれていますが、世界的に見ても平均気温が上昇しているのです。
気温の上昇は自然環境にも大きな影響を与えます。例えば、海水の温度の上昇にともなって海面が上がると、国土が海に消えてしまうこともありえます。ニューヨークやサンフランシスコが2100年までに水没するという意見もあります。
私たちの暮らしを維持していくためには温室効果ガスの排出量を全体で実質ゼロにし、地球温暖化を抑止する取り組みを実施する必要があるのです。
どんな企業でも取り組めるCO2排出量削減施策3選
業種や企業規模に関わらず、カーボンニュートラルに取り組む方法として以下の3つが挙げられます。
- 省エネ対策をする
- CO2削減製品・ソリューションを扱う
- DXを推進する
それぞれについて解説していきます。
方法1 省エネ対策をする
省エネ対策の例として、LED照明の導入、エアコンや換気システムの適正化、スマートメーターの導入、グリーン電力の活用などが挙げられます。CO2排出量削減のみならず、金銭的なコストの削減にもつながるため、企業の方針いかんに関わらず、これらの施策を積極的に取り入れ、省エネ化を進めるべきです。
■LED照明への切り替え
従来の蛍光灯や白熱電球に比べ、LED照明は消費電力が少なく、寿命も長いため、照明の効率化に有効です。また、LED照明はカラフルな色の発光を可能とするため、デザイン性も高く、美観向上にもつながります。
■エアコンや換気システムの適正化
エアコンや換気システムの設定を適切に行うことで、省エネにつながります。例えば、エアコンの設定温度を1℃下げるだけでも、約10%のエネルギー削減が可能です。また、換気システムには省エネ型のものもあるため、社内設備を整備することも省エネにつながります。
■スマートメーターの導入
電力使用量をリアルタイムで把握することができるスマートメーターは、省エネに役立ちます。電気の使用状況を逐一チェックできるため、無駄な電力の使用を防ぎ、コスト削減につながります。
■グリーン電力の活用
自社で発電する太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入、あるいはグリーン電力の利用によって、CO2排出量の削減に貢献します。また、グリーン電力の利用によって、社会的なイメージ向上につながります。
方法2 CO2削減製品・ソリューションを取り扱う
省エネ対策と重複するところもありますが、サプライチェーン排出量の削減という観点では、CO2削減製品・ソリューションを取り扱うということも、アクションとしては有効です。
出典:環境省「2.なぜサプライチェーン排出量を 算定するのか」
省エネ対策と異なることとしては、必ずしも金銭的なコスト削減にはならないということです。自社の製品・サービスのCO2排出量削減が競合企業の製品・サービスに対して競争力をもつようであれば、金銭的なコストが増加したとしても、積極的に導入を検討すべきでしょう。
方法3 DXを推進する
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化することで、カーボンニュートラルの実現にも貢献することができます。以下に、DXを活用したCO2削減施策を3つご紹介します。
【DXの必要性】
■業務プロセスの自動化
業務プロセスの自動化によって、紙の書類を減らすことができます。また、業務プロセスを見直すことで、不要な業務を削減し、CO2排出量を削減することも可能です。
■リモートワークの推進
デジタル技術の進化によって、リモートワークが可能になりました。リモートワークの推進によって、従業員の通勤によるCO2排出量を削減することができます。
■製品のサステナビリティ向上
デジタル技術を活用して、製品のライフサイクル全体を可視化することができます。製品の使用状況を把握し、改善点を把握することで、CO2排出量を削減することができます。
カーボンニュートラルの実現に向けた日本の取り組み
カーボンニュートラルの実現に向けて、日本は国を挙げて取り組んでいこうという方針を示しています。
政府は 2050年までにカーボンニュートラルの排出量を全体で実質ゼロにするため、環境省が中心となり以下の取り組みを実施しています。
- 脱炭素事業への新たな出資制度
- 地球温暖化対策計画等の見直し
- 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
- ゼロカーボンシティの表明から実現へ
- 脱炭素経営への取組
- 脱炭素ライフスタイルへの転換
- サステナブルファッション
- 再エネを活用したドライブへの取組を支援
- エネルギー対策特別会計を活用した取組
- 環境金融の拡大(金融のグリーン化)
- 気候変動の国際交渉
- 環境省 RE100の取組
- 機運の醸成
- 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
カーボンニュートラルの実現に向けた海外の取り組み
カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは国内だけでなく、海外でも実施されています。
イギリスは 2019年6月、気候変動法(Climate Change Act)を改正するにあたり、各国よりもいち早くカーボンニュートラルを法制化しました。また、カーボンニュートラルの実現のために政府が1.7兆円を2030年までに支出する予定です。
また、アメリカではカーボンニュートラル実現に向けた取り組みのプライオリティは政権によって大きく異なります。例えば、トランプ政権では環境規制を緩和する方向でしたが、バイデン政権では2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。
アジアでは日本だけでなく、中国もカーボンニュートラル実現に向けて意欲的です。中国は2020年9月の国連総会一般討論で、二酸化炭素排出量を2030年までに減少させ、カーボンニュートラルの実現を2060年までに目指すと表明しました。実現のために森林蓄積量の増加や風力発電、太陽光発電の発電設備容量の増強、非化石エネルギーの活用率アップといった目標を公表しています。
カーボンニュートラル実現に向けた革新的な取り組み3選
カーボンニュートラル実現に向けた革新的な取り組みとして以下の3つが挙げられます。
- 海上風力発電を設置する
- 火力発電にアンモニア、もしくは水素を利用する
- 電気自動車を導入する
それぞれについて詳しく解説していきます。
アイデア1 「海上風力発電を設置する」
風力発電は陸地に設置されることが多いですが、国の周辺が海となっている場合は風力発電を海上に設置することも検討するとよいでしょう。
風力発電を設置するにあたり、周辺地域の住民に与える影響についても考慮する必要があります。低周波音による健康被害や景観の破壊などを理由に反対の意見が出ることもあります。
一方、海上に設置する場合は周辺住民からの反対の声も少なく、理解も得やすい傾向にあります。また、風力も陸上に設置するよりも海上に設置した方が安定しやすいといわれています。
アイデア2 「火力発電にアンモニア、もしくは水素を利用する」
火力発電では、一般的に石灰や石油などの化石燃料を燃焼させていました。将来的には二酸化炭素を排出しないアンモニアや水素を燃焼させる方向で研究が進められています。
アンモニアや水素を燃焼させると水蒸気が発生するため、石炭や石油よりも環境に与える負荷を抑えられます。
アイデア3 「電気自動車を導入する」
走行中の自動車は二酸化炭素を排出するため、環境に与える負荷は大きなものです。
近年、電気自動車の開発が積極的に行われています。電気自動車は走行時に二酸化炭素を排出しないため、従来の自動車よりも環境に与える影響が少なくなります。
自治体によっては電気自動車を購入する住民を対象に補助金を支給しているほか、充電スポットも少しずつ増設しています。国や自治体は電気自動車の利用を推進しているため、電気自動車は将来的に広く普及すると考えられます。
カーボンニュートラルを実現できなかった場合に起こりうること
前述のとおり、温室効果ガスの排出は地球温暖化の原因の1つです。カーボンニュートラルを実現できなかった場合、温室効果ガスが排出され続けるため地球温暖化が深刻化します。
地球温暖化が進行すると、以下のような事態が引き起こされると懸念されます。
- 熱中症で亡くなる人の増加
- 自然界で暮らす動植物の絶滅
- 感染症媒介蚊の生息域の拡大、およびデング熱などの拡大
- 海面上昇による地域の水没、地下浸水や洪水
温室効果ガスの排出量を削減できず地球温暖化が進むと、人間の暮らしだけでなく、地球上で暮らしている動植物の生命も脅かされます。
「2050年カーボンニュートラル」は地球環境を守るために重要な目標
本記事で解説したように「2050年カーボンニュートラル」とは、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体で実質ゼロにしようという試みであり、実現するためには政府や自治体だけではなく、個人や企業も意識して取り組まなければなりません。
企業や自治体が温室効果ガスの排出量の削減に関する施策を実施する場合、受給できる補助金も多くあります。企業はこれらの補助金なども活用し、温室効果ガスの排出量を削減できるビジネスに切り替える必要があります。また、現在も温室効果ガスを排出しないエネルギーの研究や製品の開発が行われていますが、今後も実用化や普及に向けて進めていかなければなりません。
私たちは暮らしの中で、地球環境や地球上で暮らす生きものたちの命や生活を守るためにできることを考え、実行していく必要があります。
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参考資料
日本政府が2050年に目指す「カーボンニュートラル」とは|ビジネスコラム | NTTファシリティーズ (ntt-f.co.jp)
カーボンニュートラルの取り組みに必要なスコープについて詳しく解説 – Aidiotプラス国の取組 – 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)
カーボンニュートラルにはどのように取り組んだらよいでしょうか。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] (smrj.go.jp)
カーボンニュートラル実現への取り組み方法とアイディア6選を紹介! – Aidiotプラス
カーボンニュートラルの重要性と今後のビジネスへの与影響 | 埼玉県・群馬県で太陽光発電を設置するなら株式会社カネザワ (sun-kanezawa.jp)
カーボンニュートラルに貢献する森林と木材利用 – 愛知県 (pref.aichi.jp)
RIETI – カーボンニュートラルの実現を目指す中国― カギとなるエネルギー構造と産業構造の脱炭素化 ―
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