グリーン成長戦略とは|14の重点産業分野の実行計画や政府の支援策をわかりやすく解説
日本政府は2020年、世界に向けて「2050カーボンニュートラル宣言」を表明しました。しかし、カーボンニュートラルを実現することは容易ではありません。そこで政府はカーボンニュートラルに向けたイノベーション創出のために、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
今回は「グリーン成長戦略」における基礎知識と、重点が置かれている14の産業分野についてわかりやすく解説します。グリーン成長戦略について理解を深めたい方は、ぜひご一読ください。
グリーン成長戦略とは?
グリーン成長戦略とは、カーボンニュートラル実現のために国が行う産業政策のことです。
カーボンニュートラルとは、CO2排出削減努力を行いつつ、削減しきれなかった分を森林の保全活動などを行うことで、排出量との差を実質ゼロにする取り組みです。日本の経済活動によるCO2排出量は、1965年度から2019年度までの間に169.6%も増加しており、早急な対策が求められています。
短期間でカーボンニュートラルを実現するには、国が中心となり大胆な産業政策を行う必要があります。そのため経済産業省が中心となり、経済成長と環境課題解決の両立を促すために「グリーン成長戦略」が策定されました。2050年までに成長が期待される14の産業分野に対して規制緩和等を実施し、イノベーションの創出や産業システム転換の推進を図ります。
グリーン成長戦略の14の重点産業分野
ここからはグリーン成長戦略に伴う14の重点産業分野について、各産業における現状や課題、計画、実行するメリットについて解説していきます。
エネルギー関連産業の4分野
エネルギー関連産業は、カーボンニュートラル実現において重要度の高い分野と言えるでしょう。以下の4つの分野を具体的に解説していきます。
- 洋上風力・太陽光・地熱
- 水素・燃料アンモニア
- 次世代熱エネルギー
- 原子力
1.洋上風力・太陽光・地熱
環境負荷の少ない再生可能エネルギー(以下再エネ)は、次世代エネルギーとして注目されています。
洋上風力発電は、四方を海に囲まれた日本では期待の高い再エネの一つです。2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWという導入目標を明示して、国内外の投資を呼び込む計画です。
太陽光発電は一般に最も身近な再エネで、産学官が協力して普及に努めています。グリーンイノベーション基金の活用も検討され、商業施設や家庭の壁面にも設置可能な水準を目指しています。
地熱発電は、火山大国日本にとって非常にポテンシャルの高い再エネです。候補地の多くが自然公園や温泉地のため、自然公園法や温泉法の運用の見直しにより、開発を加速させる必要があります。
これらの再エネを推進することは、燃料を海外に依存している日本にとって安定したエネルギーの供給につながるという大きなメリットがあります。
2.水素・燃料アンモニア
CO2排出量の少ない水素や燃料アンモニアをエネルギーとする技術開発は、急速に進んでいます。
水素に関してはFCトラックの実証など、日本に強みのある技術を中心に国際競争力を強化しており、世界市場を獲得する狙いがあります。また、燃料アンモニアを安価に供給することを目標に、コスト低減の技術開発やファイナンス支援を強化しています。
これらの技術分野を促進しサプライチェーンを安定させることは、燃料価格の安定につながります。仮に急激な価格高騰が起きても、影響を最小限に抑え、一般家庭に安定した価格の電気を供給できるでしょう。
3.次世代熱エネルギー
次世代熱エネルギー分野では、既存のガスインフラを活用して合成メタンを注入することで、カーボンニュートラル実現を目指します。既存のインフラを活用するため、国民に負担をかけず脱炭素化を推進できるのは、大きなメリットです。
さらに、総合エネルギーサービス企業への転換を図ることで、未来のスマートエネルギーネットワークの構築を促進します。
4.原子力
原子力に関しては、国際連携による高速炉開発を着実に推進し、2030年までに小型モジュール炉技術や高温ガス炉における水素製造に係る要素技術の確立が目標です。
原子力技術を発展させることで、放射性医薬品材料の医療分野等への活用が期待されています。
輸送・製造関連産業の7分野
輸送・製造関連産業は以下の7分野です。製造業のカーボンニュートラルは、特に重要と言われており、サプライチェーンを含めた取り組みが求められています。
- 自動車・蓄電池
- 半導体・情報通信
- 船舶
- 物流・人流・土木インフラ
- 食料・農林水産業
- 航空機
- カーボンリサイクル・マテリアル
5.自動車・蓄電池
自動車業界は、2035年までに乗用車におけるEV(電気自動車)の新車販売率100%を目指して取り組んでいます。2040年までには、商用車のEV・脱炭素燃料車における新車販売率100%の実現が目標です。
EVの普及に伴い需要増加が見込まれる蓄電池に関しては、2030年早期には国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高める計画です。 家庭用、業務・産業用蓄電池の合計で、2030年までに累積導入量約24GWhを目指します。
脱炭素モビリティの促進は、移動の安全性や利便性が向上し、事故や移動弱者の低減につながります。そのため、政府はオートドライブ技術の普及や、高度なデジタル化・通信技術促進に対して支援を開始しています。
6.半導体・情報通信
DXに欠かせない半導体・情報通信分野では、次世代パワー半導体や研究開発支援等を通して、2040年までのカーボンニュートラル実現を目標としています。
遠隔操作やVRなど、新たなデジタルサービスを可能としたグリーンデータセンターを立地することで非対面・非接触のサービスを実現し、環境負荷低減を実現します。
さらに次世代パワー半導体の実用化等を通じて、家電の電気料金負担を軽減させることを目指しています。
7.船舶
2025年までに廃棄物排出を可能な限り無くすゼロエミッション船の実用化に向け、技術開発を推し進めています。さらに、アンモニア燃料エンジン及び、それに係る燃料タンクや燃料供給システムの技術開発、LNG燃料船の高効率化のための技術開発にも取り組んでいます。
ゼロエミッション船を実現することは、省エネ・省CO2排出船舶の導入・普及に繋がり、カーボンニュートラルの達成に繋がります。
8.物流・人流・土木インフラ
生活する上で欠かせない物流分野に関しては、一般道路から高速道路への交通転換によるCO2排出削減やEVの普及促進、空港の脱炭素化、航空交通システムの高度化を推進しています。
人流分野においては、運転が不可能な高齢者等に利便性の高い公共交通サービスを実現し、交通弱者を生み出さない工夫を実施。
土木インフラはグリーン化を目指し、雨水貯留や防災・減災活動促進、健康的な生活空間の形成や都市緑化を推進し、ヒートアイランド対策などを実現しています。
9.食料・農林水産業
食料・農林水産業は、人の生命や健康に関わる重要な分野です。2021年には生産力向上と持続性の両立を実現するために、「みどりの食料システム戦略」が策定されました。カーボンニュートラルの実現や、高齢化による農業の担い手不足解消等に向けた新技術・生産体系の構築が目標です。
森林及び木材、海洋資源に関しては、大気中の温室効果ガスを回収・除去する技術やネガティブエミッション活用に関する目標を具体化しています。
これらの取り組みを実施することで、農業推進による日本食消費が進み、健康寿命延伸に貢献するなどのメリットが得られるでしょう。
10.航空機
航空機の電動化技術を確立するために、水素航空機実現に向けコア技術の研究開発を推進しています。低騒音の電動航空機が実現すれば、騒音問題の解決に繋がるでしょう。
蓄電池や電動モータの騒音低減開発を積極的に推し進め、2050年には、空港周辺住民や乗客への許容性が高まる低騒音の電動旅客機の実現を目指します。
11.カーボンリサイクル・マテリアル
2040年までにカーボンフリーな合成燃料を自立商用化し、2050年にガソリン価格以下にすることを目指します。より低濃度・低圧な排ガスからCO2を分離・回収する技術の開発・実証を進め、2030年には、分離回収技術のさらなる低コスト化を目標としています。
コンクリートにCO2を吸収させる新技術で環境負荷を低減し、さらに耐水性・耐久性を向上させます。特に産業分野の脱炭素化に資する、革新的素材の開発・供給を実施していきます。
これらの技術革新が推進されれば、環境負荷低減だけではなく災害にも強いレジリエンスな街づくりが可能です。
家庭・オフィス関連産業の3分野
家庭・オフィス関連産業は、以下の3分野になります。
- 住宅・建築物・次世代電力マネジメント
- 資源循環関連
- ライフスタイル関連
それぞれ詳しく解説していきます。
12.住宅・建築物・次世代電力マネジメント
建築物や住宅についても、省エネ基準適合率の向上に向けて、規制的措置の導入を検討しています。
既存の住宅についても、省エネリフォームの拡大や省エネ性能の向上に向けた措置など、対策を充実・強化している状況です。
さらに、住宅やビルのゼロエネルギー化を達成するため再エネの大量導入を推進し、より便利な電力マネジメントを構築することで、光熱費の節約やレジリエンスの向上を目指します。
13.資源循環関連
経済活動において資源循環は大きなテーマであり、Reduce(リデュース)・Renewable(リニューアブル)・Reuse(リュース)・Recycle(リサイクル)・Recovery(リカバリー)の5つを推進する必要があります。
具体的には、「バイオプラスチック導入ロードマップ」を踏まえた再生利用の拡大や、リサイクル技術の開発・高度化、回収ルートの最適化、低質ごみ下での高効率エネルギー回収を確保するための技術開発を推進しています。
また、廃棄物処理施設を地域のエネルギーセンターとして活用することで、施設のレジリエンスを確保し、災害時の電源供給や避難所等の防災拠点とすることが可能です。
14.ライフスタイル関連
人々の暮らしが地球環境にどのような影響を及ぼすのか研究することは重要です。そのため、観測・モデリング技術を高め、地球環境ビッグデータの利活用を推進する必要があります。
地域の脱炭素化をデータ化し、実践モデルを構築できれば多くの人や地域の参考となるでしょう。各々に合った快適かつ、レジリエントでサステナブルなライフスタイルを実現するため、研究・実証・社会実装に至るまで検討されています。
関連記事:「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた取組み事例やポイントを分かりやすく解説
グリーン成長戦略に伴う政策
グリーン成長戦略に伴う政策は、さまざまなものがあります。ここでは以下の5つの項目に沿って解説していきます。
- 税制
- 金融
- 予算
- 規制改革
- 国際連携
税制
税制については、以下の表の通りです。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制 | 繰越欠損金の控除上限引き上げの特例 | 研究開発税制の拡充 |
---|---|---|
①脱炭素化効果の高い製品生産設備の導入 ②生産の工程等において脱 炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入 |
コロナ禍で生じた欠損金のある事業者が産業競争力強化法の計画認定制度に則り、CN実現等を含めた「新しい生活様式」への投資を行った場合、欠損金の繰越控除の上限を投資額の範囲で50%から最大100%に引き上げる |
コロナ前と比較して売上金額が2%以上減少している企業が試験研究費を積極的に増加している場合、研究開発税制の控除上限を法人税額の25%から30%までに引き上げる |
引用:経済産業省「企業の前向きな挑戦を後押しする政策ツール」
金融
金融に関しては、円滑な資金供給に向け、ガイドラインやロードマップを整備してグリーンボンド等の社債等取引市場を活性化しています。
さらにサステナビリティへの開示を充実させる金融機関の融資先支援と、官民連携を推進する様々な金融制度による支援等の取り組みを実施していきます。
予算
グリーン成長戦略を成功に導くために、2兆円のグリーンイノベーション基金を設置し、カーボンニュートラルに野心的に取り組む企業や機関を支援しています。
中小企業やベンチャー企業、大学・研究機関の参画も考慮しているため、多様な主体を支援可能です。
規制改革
企業がカーボンプライシング(企業が排出するCO2に価格をつけることで視覚化し、排出者の行動変容を促進する手法)の成長を遂げるためには、以下のようにさまざまな規制改革が必要です。
【クレジット取引】
- 最終需要家も調達できる再エネ価値の取引市場の新たな創設を提起し、非化石価値として、水素・アンモニアの対象追加を検討しています。
- J-クレジットについては、デジタル化を促進することで、森林経営等に伴う環境価値のクレジット化や、利便性確保します。
【排出量取引・炭素税】
- それぞれの負担を考慮しながら、プライシングと財源効果両面で成長に値する制度設計が可能か、専門的で技術的な議論を進めていきます。
【 炭素国境調整措置】
- WTO(世界貿易機関)ルールに準じた制度設計や基本的考え方を提案しつつ、導入の妥当性や制度の在り方について、同じ立場を持つ国々と連携して対応していきます。
国際連携
カーボンニュートラルを達成するためには、各国との協力が欠かせません。どのような国際連携があるのかご紹介します。
- 日米間連携
2021年首脳会談において「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」を発表しました。日米間のクリーンエネルギー技術の活用や、気候変動対応、持続可能な世界成長・復興の促進等に取り組むことで合意しています。 - 日EU間連携
2021首脳協議で「日EUグリーン・アライアンス」を立ち上げました。 気候中立で、生物多様性に配慮し、および資源循環型経済の実現を目指し、協力を行うことで合意しています。 - アジア等新興国のエネルギートランジション
アジア各国と、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を推進しています。各国のニーズや実態を踏まえたエネルギートランジションロードマップを策定し、個別プロジェクトに対する100億ドルのファイナンス支援を実施しました。
補助金
これまでの企業の補助金制度に、グリーン成長戦略関連の「特別枠」が新設されました。グリーン成長戦略分野の課題解決に取り組む事業者を支援する枠であり、通常枠よりも優遇されます。以下の表を参照ください。
事業再構築補助金【追加:グリーン成長枠】 |
中小企業が新型コロナウィルスによる事業環境変化に対応するため、業態転換や新事業展開等による積極的な事業再構築実施を支援するための補助金制度 |
---|---|
ものづくり補助金【追加:グリーン枠】 |
中小企業や小規模事業者が、自社の新たな技術やサービスに対して生産性をより向上するために行う設備投資に、国が支援する補助金制度 |
グリーン成長戦略についてよくある質問
グリーン成長戦略についてよくある質問とその回答をご紹介します。
Q. グリーン成長戦略の目標は?
グリーン成長戦略の最大の目標は、カーボンニュートラルを実現することです。経済活動に制約をかけるのではなく、むしろ積極的にカーボンニュートラルを推進することで、産業構造や経済社会に大きな変革をもたらし、大きな経済成長につなげることが目標です。
Q. グリーン成長戦略の経済効果は?
グリーン成長戦略では、企業の前向きな挑戦を積極的に支援することで、2050年の経済効果は約290兆円、雇用効果は約1,800万人と試算されています。
Q. グリーン成長枠とは何ですか?
グリーン成長枠とは、研究開発や技術開発、人材の育成を行いながら、グリーン成長戦略の14分野の課題解決に取り組む事業者を支援する枠です。
国が実施している補助金制度の「事業再構築補助金」と「ものづくり補助金」において、通常枠の他にグリーン成長枠がそれぞれ新設されました。
まとめ
将来的な産業発展の要ともなりうるグリーン成長戦略について、基礎知識や14の産業分野の実行策について解説しました。
カーボンニュートラルを産業界の制約とするのではなく、むしろ好機ととらえて新たな産業構造と経済社会への変革を促すチャンスにするのが、グリーン成長戦略の最大のポイントです。カーボンニュートラルをはじめとした脱炭素への取り組みは、企業にとっても大きな「成長へのチャンス」です。
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