脱炭素宣言とは?世界の状況と日本の動向、自治体や企業の宣言まで紹介
深刻化する気候変動問題に向けて、世界では脱炭素を宣言する国が相次いでいます。日本では2015年に2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を世界に向けて宣言しました。その後は、自治体や企業による脱炭素取り組みへの宣言が続いています。
本記事では脱炭素の重要性と、脱炭素宣言を行うメリットや取り組み方法、実際の自治体、企業の事例をご紹介します。脱炭素宣言やカーボンニュートラルについて知見を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
脱炭素宣言とは
温室効果ガス排出による気候変動問題が深刻化するなか、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな枠組みであるパリ協定が策定されました。その後、世界の脱炭素への機運が高まり、日本を含んだ多くの国が脱炭素を宣言しています。脱炭素宣言とは、国や企業が温室効果ガス排出削減の取り組みを行うことを宣言したものです。
脱炭素とは
そもそも脱炭素とはなんでしょうか。脱炭素とは「地球温暖化の原因となる二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」ことを指します。ちなみに「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」「ゼロカーボン」等の言葉も、脱炭素推進では、ほぼ同じ意味で使用されます。
脱炭素宣言の背景
脱炭素宣言が推し進められる背景には地球温暖化による気候変動問題があげられます。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、人為的な温室効果ガスの排出量は、先進国を中心に過去30年間増加していると報告しています。
このまま有効な対策を講じなければ、21世紀末に気温上昇は2℃を超えると言われているため、各国は次々と脱炭素推進を宣言し、取り組みを開始しています。
【日本の温室効果ガス排出量(2020年度)】
出典:資源エネルギー庁
日本のカーボンニュートラル宣言
日本では2020年に、菅元内閣総理大臣が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことで、脱炭素と同じ意味で使用されます。
カーボンニュートラルについては、こちらで詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
カーボンニュートラルとは|意味や企業の取り組み、推進するメリットをわかりやすく解説
世界の脱炭素宣言状況
パリ協定以降、2021年4月時点で125カ国・1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しています。
国名 | 2030年目標 | 2050年までに排出量ゼロ表明の有無 |
---|---|---|
米国 | 2005年度比で50~52%削減 | 有 |
中国 | 2030年度までに排出量を削減に転じる | 2060年ゼロ目標 |
EU | 1990年度比で55%以上削減 | 有 |
英国 | 1990年度比で68%以上削減 | 有 |
日本 | 2013年度比で46%削減 | 有 |
脱炭素(カーボンニュートラル)宣言後の日本の現状
それではカーボンニュートラル宣言後、日本の現状はどのようなものでしょうか。温室効果ガス削減状況と、政府の戦略から見てみましょう。
国内の温室効果ガス削減状況
日本の2022年度の温室効果ガス排出・吸収量は、CO2換算で約10億8,500万トンで、2021年度比で2.3%(約2,510万トン)の減少、2013年度比では22.9%(約3億2,210万トン)の減少でした。
温室効果ガス排出量の減少の主な要因は、産業部門や家庭の省エネ努力等があげられます。それにより国全体でエネルギー消費量を減少させることができました。脱炭素宣言後、企業をはじめとした産業界で脱炭素推進が加速し、効果をあげているのがわかります。
脱炭素に向けた日本のイノベーション戦略
日本政府は、「温室効果ガスの排出削減を目指す取り組みを、経済成長の機会と考え、産業競争力の向上や、社会全体の変革につなげる」ための施策「GX(グリーントランスフォーメーション)」を策定しています。
そして脱炭素に向けて、約2兆円のグリーンイノベーション基金を設立し、エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業の14の産業分野を推進していきます。脱炭素を新たなビジネスとして発展させていく考えです。
GXについてはこちらの記事をご覧ください。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは?意味やメリット、取り組み事例などをわかりやすく解説
重要なのは宣言ではなく実際の取り組み
欧州委員会は、2022年の温室効果ガス(GHG)排出量について、世界全体では前年比1.4%増加した一方で、EUは0.8%減だったことを報告しています。宣言が行われたからといって一足飛びに、世界の脱炭素が進んでいるわけではないことがわかります。
重要なのは宣言自体ではなく、その後の取り組みです。ここでは社会や企業にとって有効な取り組みをそれぞれ具体的に紹介します。
脱炭素アクション【社会として】
日本ではカーボンニュートラル宣言後に、「ゼロカーボンアクション30」を策定し、家庭でできる衣食住・移動・買い物など日常生活における脱炭素行動推奨していますので、参照ください。
カテゴリ | 具体的アクション |
---|---|
エネルギーの節約・転換 | 節電・節水・再エネ導入等 |
太陽光発電活用・省エネ住宅に住む | 太陽光発電設置・木材使用の住宅等 |
CO2排出量の少ない交通手段 | 公共交通機関の利用・EV(電気自動車)の使用 |
CO2排出量の少ないサービス手段 | 脱炭素サービスを選ぶ・個人ESG投資 |
サステナブルファッションの実施 | 長く大切に着る・環境配慮した服を選ぶ等 |
食ロスをなくす | 無駄な食材は買わない・食事を残さない等 |
3R推進 | リデュース・リユース・リサイクルの実施等 |
環境活動参加 | 森林保護やゴミ拾い |
参照:岡山県「家庭でできる地球温暖化防止のとりくみ(ゼロカーボンアクション30など)」
脱炭素アクション【企業として】
企業の脱炭素アクションとしては次の3つが有効です。
- 再生可能エネルギーの導入
- 国際イニシアチブ参画
- ESG投資拡大
再生可能エネルギーの導入
地球温暖化を抑制するためには、企業の化石エネルギー使用により大量に排出される温室効果ガス削減が重要です。再生可能エネルギーの導入は自社の省エネ化を促進させます。
企業の再生可能エネルギー促進は持続可能な社会構築に大きく貢献し、社会の利益も向上させるでしょう。
国際イニシアチブ参画
事業活動に使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーにする「RE100」や、科学に基づいた気候変動対策目標を設定するための基準、ツール、ガイダンスを提供している「SBT
」などの国際的なイニシアチブに参加することは、企業として環境貢献の認知度も高まり大いに有効です。
ESG投資拡大
企業が脱炭素経営に取り組むことで、ESG投資によって援助を受けられる可能性があります。ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字です。ESG投資とは、環境や社会に配慮した企業に投資を行うことであり、気候変動問題や国連のSDGs推進で、ESG投資市場は年々拡大しています。脱炭素への取り組みを実施し、ESG投資家の期待が高まれば、長期的な企業自体の成長にもつながります。
脱炭素宣言のメリット
脱炭素を宣言し取り組みを行うことには、次のようなメリットがあります。
持続可能社会への貢献と環境価値の向上
エネルギーを使用しモノを大量生産・大量消費することで、多大な温室効果ガス排出し、地球温暖化という深刻な環境問題を招きました。これからは持続可能な社会構築を目指し、環境貢献をすることこそが社会的な価値を高める時代になります。
脱炭素を宣言し、積極的な脱炭素の取り組みを行うことは、個人であれ企業であれ環境的な価値を向上させ、次世代への貢献という何よりも代えがたいメリットを得られるのです。
エネルギーコスト削減と効率化
脱炭素推進は、家庭においては省エネに結びつき、企業においては事業活動のコスト削減と効率化に結びつきます。日本は燃料のほとんどを海外に依存しているため、国際情勢によっては電気代が高騰します。しかし、脱炭素推進を行うことは、エネルギーマネジメントの見直しに繋がり、再エネ導入、光熱費・燃料費の低減、さらには無駄な設備のコスト削減など、効率化に結びつきます。
自治体や企業の脱炭素宣言事例
ここからは自治体の脱炭素宣言や企業の脱炭素宣言における取り組みをご紹介していきます。
自治体のゼロカーボンシティ宣言
「ゼロカーボンシティ」とは、環境省により、「2050年に二酸化炭素を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表した地方自治体」のことです。これまで、東京都・京都市・横浜市を始めとする1112自治体(46都道府県、620市、22特別区、368町、56村)が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています。
参照:地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況
今回は都道府県の宣言事例をいくつかご紹介しましょう。
青森県
青森県では、気候変動の影響から県民の暮らしを守り、豊かで美しい自然環境と持続可能な社会を次世代に引き継ぐべく、2021年度定例県議会において、2050年カーボンニュートラルの実現を表明しています。
埼玉県
2020年度埼玉県では、2030年度までを計画期間とする「埼玉県地球温暖化対策実行計画(第2期)」を策定し、計画に基づいて総合的に地球温暖化対策を開始しています。さらに積極的な対策を推進し、2050年カーボンニュートラルの実現を表明し、2030年度の温室効果ガス削減目標を引き上げています。
大阪府
2019年大阪府議会9月定例会本会議にて、知事が2050年に二酸化炭素の排出量実質ゼロに向けて地球温暖化対策に取り組むことを表明しています。さらに大阪府では、2050年カーボンニュートラル実現を目指し、地球温暖化対策を実施しています。
奈良県
奈良県では、2050年の温室効果ガスの実質排出量ゼロである「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明しています。豊かな「森林資源」や「自然エネルギー」を最大限活用しながら、「創エネ」、「蓄エネ」、「省エネ」に取り組み、脱炭素化を推進しています。
沖縄県
沖縄県では、県全体で現状認識と将来の気候変動をめぐる現状とその認識を共有しつつ、官民一体となった取り組みを決意し、2021年度玉城知事が「沖縄県気候非常事態宣言」を行いました。
企業によるネットゼロ宣言【ゼロエミチャレンジ】
「ゼロエミ・チャレンジ」とは、経済産業省が「脱炭素社会の実現に向けたイノベーションに果敢に挑戦する企業」を選定したものです。2021年10月時点で623社がリストとして公表されており、企業によるネットゼロ宣言の後押しとなっています。
ここではリストに選定された企業をいくつかご紹介します。
株式会社タカキタ
農業機械の製造・販売を行う「株式会社タカキタ」は、「畜産バイオガスシステムの自動化実証プロジェクト」への参画を評価され、「ゼロエミ・チャレンジ企業」に選定されています。
NTT東日本
農林水産省が実施している「スマート農業実証プロジェクト」における事業「千葉県ナシ栽培におけるスマート農業技術の体系化に向けた技術開発及び実証」を通じた取り組みが評価され選定されています。
株式会社総合設備コンサルタント
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施しているプロジェクト「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」に、環境・エネルギーソリューション部が参画していることが評価され、選定されています。
川崎重工株式会社
川崎重工グループの「アーステクニカ」は林野庁が公募した「林業イノベーション推進総合対策のうち戦略的技術開発・実証事業」への参画が評価され選定されています。
出典:川崎重工ニュース
株式会社SCREENファインテックソリューションズ
情報伝達デバイスの発展に貢献してきた「SCREENファインテックソリューションズ」は、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」のプロジェクトの一貫として、先進的な活動が評価され選定されています。
出典:株式会社SCREENファインテックソリューションズ お知らせ
まとめ
脱炭素宣言とは何かについて、世界の宣言状況や日本の現状、実際の取組事例までさまざまな角度から解説しました。
脱炭素は宣言すれば終わりではなく、脱炭素推進のためにどのようなアクションを起こすのかこそが、なによりも重視されなくてはいけません。
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