GHGプロトコルとは?基準やScope1.2.3の算定方法を解説
GHGとは「Greenhouse Gas」の略であり、日本語で温室効果ガスのことになります。GHGプロトコルとは、企業のサプライチェーン全体の間接的な排出量を算定するための国際的な基準です。上流から下流まで含めたサプライチェーン全体を、Scope1.2.3という区分に分けて、排出量算定を行います。
本記事では、GHGプロトコルの概要や算定基準となるScope1.2.3、計算式までわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
GHGプロトコルとは
企業の温室効果ガス排出量を把握するためのGHGプロトコルについて具体的に解説していきます。
GHGプロトコルとはGHG排出量の国際基準
GHGプロトコルは、「WRI(世界資源研究所)」と、「「WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)」が共同設立した国際イニシアチブで、NGOや政府機関も深く関与している組織です。
地球温暖化を抑止しカーボンニュートラルを実現するためには、特に経済活動による膨大なGHG(温室効果ガス)排出量を減らすことが重要です。削減活動を行うためには企業は事業活動におけるすべてのGHG排出量を把握する必要があります。そのためには事業者が任意で排出量の算定・報告を行うための国際基準が求められます。
GHGプロトコルではサプライチェーン全体を、Scope1.2.3という区分に分けて、GHG排出量算定を行うための基準とガイダンスが提供されます。
GHGプロトコルの目的
以下のような事項を実践することで、事業者のGHG削減活動を促すことがGHGプロトコルの目的です。
- 信頼性のあるGHGインベントリ(1年間に排出・吸収するGHG量を取りまとめたデータ)を開発すること。
- GHG 排出による影響を正確に把握するために、企業の世界規模の運用を反映させること。
- GHG排出量の管理及び削減に関して、有効な取り組みや戦力を構築するための情報を提供すること。
- ほかの気候変動イニシアチブや財務会計基準を含んだ報告基準補完するためのGHG情報を提供すること。
GHGプロトコルが注目される背景
地球温暖化が加速するなか、世界はGHG排出量削減のためグローバル企業を中心に大きなうねりをあげています。なかでもサプライチェーン全体でGHG排出量を管理する手段として、GHGプロトコル基準で情報開示を行う動きが高まっています。企業にとってGHGプロトコルは、排出量算定基準として用いるだけではなく、活動のパフォーマンス評価に活用するなど多くの用途があるため注目されています。
GHGプロトコルはサプライチェーン排出量を重視
GHGプロトコルがGHG排出量を算定する際に重要視しているのは、サプライチェーン全体の排出量を把握することです。なぜなら企業の一部分でGHG排出量を削減してもサプライチェーン全体で削減が行われなくては、削減効果は限定的になるからです。
サプライチェーン排出量とは、事業者自らの排出量だけではなく、事業活動におけるすべてのGHG排出量を合計したものです。
サプライチェーン排出量とは
サプライチェーン排出量とは事業活動における、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、⼀連の流れ全体から発⽣するGHG排出量 のことです。算定はCO2(二酸化炭素)に換算して行われます。事業活動におけるサプライチェーンの排出量算定は、Scope1〜3まであります。
Scope1
Scope1とは事業者によるCO2の直接排出量を指し「直接排出」とも言われます。企業のエネルギーの燃焼や工業プロセスにおいて直接的に排出されるGHG排出量です。
Scope2
Scope2は他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴う間接的な排出量を指し、「間接排出量」とも呼ばれます。企業が他社から購入した電力が、化石由来のエネルギーだった場合に排出されるGHG排出量はScope2に相当します。
Scope3
Scope1.2以外から間接排出されるすべてのGHG排出量がScope3です。15のカテゴリに細かく分類されています。
CO2排出量に関してはこちらの記事もご覧ください。
二酸化炭素(CO2)排出量とは|増加の原因や日本・世界の排出量を紹介
GHGプロトコル導入のメリット
ここではGHGプロトコル導入におけるメリットをご紹介します。
地球温暖化抑止に貢献
地球温暖化による気温上昇は加速しており、2023年の世界平均気温は観測史上最も高温となりました。また産業界で使用されるエネルギー起源のGHG排出量は、2020年で317億トンにものぼります。GHGプロトコルを導入し企業のGHG排出量を把握することは、企業の積極的な削減活動へと結びつき、地球温暖化抑止に大きく貢献します。
事業活動全体のGHG排出量の可視化
サプライチェーン全体の排出量を把握し可視化することで、優先的に削減すべき対象を特定できます。また可視化することでサプライチェーン上の他事業者と、気候変動への意義や情報を交換しやすくなります。連携した削減対策を実施でき、ひいては事業利益へとつなげることが可能です。
国際的な信頼度の向上
GHGプロトコルは、次のような国際的な各種枠組みやイニシアティブにおいて算定・報告基準として採⽤されています。これらの国際イニシアチブに参加することは、ESG投資の面からも自社の環境価値を向上させるためにも非常に有効です。
それぞれを簡単にご紹介しましょう。
TCFD(気候関連財務情報開⽰タスクフォース)
TCFDは日本語で「気候関連財務情報開⽰タスクフォース」と呼ばれます。企業の気候変動に対する対応状況を具体的に開示するための指標と、それを推奨する国際的イニシアチブです。
TCFDについてはこちらの記事もご覧ください。
TCFDとは?開示項目や企業が賛同するメリットなどをわかりやすく解説!
CDP
CDP(Carbon Disclosure Project)は世界の大手企業を対象に気候変動をはじめとした環境への対策についての情報を質問書として集め評価し、その情報結果を開示するイニシアチブです。
SBT
SBT(Science Based Targets)とは、科学的根拠に基づきパリ協定で求められている水準と整合したGHG排出削減⽬標を定めることです。
SBTについてはこちらの記事もご覧ください。
SBTとは|取り組むメリットや企業事例、認定を受ける方法を紹介
RE100
RE100とは、「Renewable Energy 100%」の略で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的なイニシアチブです。
RE100についてはこちらの記事もご覧ください。
RE100とは?メリットや日本・海外の加盟企業などをわかりやすく解説
PCAF
PCAF(The Partnership for Carbon Accounting Financials)とは、金融活動に関連するGHG排出量の測定と開示を可能にすることで、金融セクターが透明性を確保しながら適切な開示を行い、排出削減に向けた行動を起こすことを支援する組織です。
他社との差別化
温室効果ガス排出量を可視化することは、自社の環境活動を消費者に知らせることでもあります。脱炭素が世界の潮流となる時代、GHGプロトコルに取り組むことは国際的にも自社の環境価値を高めることに繋がり、他社との差別化を図れます。
GXによるイノベーションの促進
GX(グリーントランスフォーメーション)とは脱炭素を目指す取り組みを経済成長の機会と考え、産業競争力の向上や、社会全体の変革につなげることです。日本はエネルギー関連産業をはじめとした14の産業分野の脱炭素イノベーション支援を行う計画で、約2兆円のグリーンイノベーション基金を設立しています。GHGプロトコルを導入することはGXの促進にも役立ちます。
GXについてより詳しく学びたい方は、こちらの記事をご覧ください。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは?意味やメリット、取り組み事例などをわかりやすく解説
「スキルアップ Green」では、企業に必要なGXや脱炭素の知識体系や技術、ソリューションが学べます。ぜひご活用ください。
GHGプロトコルの算定方法
ここではGHGプロトコルの基準やガイダンス、算定方法について解説していきます。
GHGプロトコルの基準(Standard)とガイダンス(Guidance)
GHGプロトコルは基準(Standard)と、ガイダンス(Guidance)という2種類の⽂書を定めています。
基準(Standard)
企業がGHG排出量の算定・報告を⾏う上で遵守すべき事項が定められています。この事項を遵守していなければGHGプロトコルに準じた報告とは認められません。
ガイダンス(Guidance)
基準に沿って実際に算定・報告を⾏う上での実践的なガイドになり、次の5つの事項に基づきます。
事項 | 概略 |
---|---|
妥当性 | 排出量の算定・報告を行う組織境界を定める際は、事業特性やGHG関連情報の利用目的とユーザーニーズに基づいて適切に定義する |
完全性 | 選定された境界内のすべての排出源が報告されることが理想である。特定の排出源が報告されない場合はその点を明確化する |
一貫性 | 企業のパフォーマンスを評価するために一定期間にわたって同一のアプローチと実践を用いることによって一貫性を保つ必要がある |
透明性 | 排出量の報告や検証において客観的かつ首尾一貫した方法で関連する問題について追求し、関連する資料を公開し透明性を保つ |
正確性 | ガイダンスが位とした活用に必要となる正確性を確実にし、報告した内容の合理性を保証するためにしかるべき注意を払う |
基本算定方法:活動量×排出量原単位
サプライチェーン排出量の基本的な算定方法は、以下のようになります。
- 活動量×排出量原単位
活動量とは、事業者の活動の規模に関する量のことです。電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量、各種取引金額などが当てはまります。
排出量原単位とは活動量あたりのCO2排出量のことです。電気1キロワットアワー使用のCO2排出や貨物の輸送量1トンキロあたりのCO2排出量、廃棄物の焼却1tあたりのCO2排出量などが当てはまります。
サプライチェーン排出量算定の4つのプロセス
ここからはサプライチェーン排出量のプロセスを4つ紹介します。
①目標設定
漠然とGHG排出量を削減すると言っても、自社の事業内容や方針にそったやり方でなくては効果を得られないかもしれません。GHG削減をなぜ行うのか、目的や社内での意識共有をしっかり確認しておく必要があります。例えば以下のような内容から自社に沿った目標を設定することが大切です。
- ステークホルダーへの情報開示
- 消費者へのアピール
- サプライチェーン排出量の全体像把握
②対象確認
サプライチェーン排出量の算定の際には、グループ単位を自社ととらえて算定する必要があります。算定対象とする範囲は原則的に以下のようになります。
- 温室効果ガス
- 組織的範囲
- 地理的範囲 国内及び海外
- 活動の種類 時間的範囲
③Scope3の分類
Scope3は、以下のように15のカテゴリに細かく分類されています。
Scope3カテゴリ | 該当する活動(例) | |
---|---|---|
1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3 | Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
5 | 事業活動から出る廃棄物 廃棄物 | (有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理 |
6 | 出張 | 従業員の出張 |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8 | リース資産(上流) | (有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理 |
9 | 出張 | 従業員の出張 |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理 |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
その他(任意) | 従業員や消費者の日常生活 |
出典:Scope3排出量とは(グリーン・バリューチェーンプラットフォーム)
④算定
サプライチェーンの各カテゴリの算定を実施します。算定の目的を考慮し、収集したデータを基に活動量と排出原単位から排出量を算定します。
まとめ
世界の脱炭素化を推進するための基準となるGHGプロトコルの導入は今後ますます企業にとって必須となるでしょう。
政府が促進しているGXでも脱炭素領域は重要分野です。また企業の経営方針に気候変動対策を組み込むことはもはや当然の時代です。
そのためには脱炭素に関する知識が不可欠です。脱炭素に関する知識をより身につけたい場合はGX検定がおすすめです。
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