地熱発電のメリットとは?仕組みや種類、展望や事例をわかりやすく解説
地熱発電は日本においてポテンシャルの高い再生可能エネルギーのひとつであり、多くのメリットがあります。本記事では地熱発電について仕組みや種類など基礎的知識を学ぶことが可能です。さらに地熱発電のメリットを詳しく紹介し、今後の展望や技術革新についてもわかりやすく解説します。
日本の持続可能なエネルギーとして期待の高い地熱発電について知見を深めたい方は、ぜひ御一読ください。
地熱発電とは
地熱発電とは文字通り地熱を利用して発電する方法で、再生可能エネルギーのひとつです。ここでは再生可能エネルギーから詳しく地熱発電を解説していきます。
地熱発電は再生可能エネルギーのひとつ
再生可能エネルギーとは、太陽光や風力など自然界に存在し、温室効果ガスを発生せず永続的に利用可能なエネルギーのことです。以下に地熱発電以外の代表的な再生可能エネルギーをご紹介します。
太陽光エネルギー
太陽光をエネルギー源とする発電方法。住宅やカーポートの屋根を利用できるため導入しやすい。
風力エネルギー
風力で風車を回すことで発電する方法。大規模運用が可能で発電効率に優れ、近年は洋上風力発電が注目されている。
水力エネルギー
水が落下する力を利用し発電する方法。近年は中小規模の水力発電の導入が進んでいる。
バイオマスエネルギー
さまざまな廃棄物を燃焼、ガス化することで発電する方法。
この他にも太陽熱や空気熱、雪氷熱を利用したものなどさまざまな再生可能エネルギーが存在します。
再生可能エネルギーについてはこちらの記事もぜひご覧ください。
再生可能エネルギーとは?種類や特徴、メリット・デメリットを解説
地熱発電の仕組みと種類
地熱発電の仕組みと種類を詳しく解説していきます。
地熱発電の仕組み
地熱発電は、簡単にいうと地中に存在するマグマの熱源から発生する蒸気を利用し、タービンを回転させ発電する方法です。
より詳しく説明すると、地中に存在する地熱貯留層にある地熱流体を蒸気と熱水に分離し、蒸気によってタービンを回し発電します。熱水は還元井を通し、また地中深くに戻すという仕組みです。地熱貯留層とはマグマの熱で高温・高圧になった地下水が溜まっている層のことで、1,000〜3,000メートル地下にあります。地熱流体とはマグマの熱で約200〜350度の高温や高圧になった熱水や蒸気のことです。
地熱発電の種類
地熱発電は、フラッシュ発電とバイナリー発電の2タイプがあります。
フラッシュ発電
フラッシュ発電は蒸気発電方式とも呼ばれる方式です。200度以上の蒸気を引き上げ発電に利用し、シングルとダブルの2タイプが存在します。
- シングルフラッシュ発電
熱水である地熱流体から気水分離器で蒸気を一度だけ分離し、タービンを回転させて発電する方法。
出典:JOGMEC
- ダブルフラッシュ発電
気水分離器で分離した熱水から、さらに蒸気を取り出し高圧蒸気と低圧蒸気の両方でタービンを回転させて発電する方法。
出典:JOGMEC
バイナリー発電
地熱流体の温度が低いとパワーが不足し、直接タービンを回転させることはできません。その場合はバイナリー発電で、水よりも沸点の低いアンモニアなどの媒体を加熱させ、それにより熱交換で発電を行います。温泉などの身近にある熱源を活用して実施できる方式のため、近年注目されています。
出典:JOGMEC
地熱発電が注目される背景
ここでは地熱発電が注目される背景を世界の現状と、日本における地熱発電のポテンシャルの高さから解説します
世界の現状
世界の地熱発電設備容量は2015〜2020年、過去20年の増加率を大きく上回る勢いで伸びており、 特にトルコ、ケニア、インドネシアでの進展が顕著です。アメリカの「FortuneBusinessInsights」のレポートでは、世界の地熱エネルギー市場規模は、2023 年に 662 億 4000 万米ドル(9兆9360億円)と評価され、2024 年の 701 億 4000 万米ドル(10兆5210億円)から 2032 年までに 1,170 億 2000 万米ドル(17兆5530億円)に成長すると予測されています。
※1ドル = 150円で計算
日本のポテンシャルの高さ
日本は世界に冠たる火山大国のため、もともと地熱発電のポテンシャルが高くあります。日本の地熱資源量はアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位で、 賦存量は約2340万キロワットあり、導入によるポテンシャルは約630万キロワットあるといわれています。これらを活用できれば海外からの燃料に依存することもなく、自国でエネルギーを賄うことが可能です。
地熱発電のメリットと課題
ここでは地熱発電のメリットと課題を解説していきます。
地熱発電の3つのメリット
地熱発電の大きなメリットとして次の3つがあげられます。
- 持続可能な再生可能エネルギーである
- 安定的に電力を供給できる
- 高温蒸気・熱水の有効活用
➀持続可能な再生可能エネルギーである
前述したように地熱発電は再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーは温室効果ガスを発生せず燃料が不要です。火力発電の燃料をほとんど海外に依存している日本にとって、再生可能エネルギーの推進は重要であり、自国のポテンシャルが高い地熱発電は持続可能なエネルギーとして非常に有望です。
➁安定的に電力を供給できる
再生可能エネルギーのなかでも太陽光や風力は天候や風の状態に左右され、電力の安定供給が難しいというデメリットがあります。しかし地熱発電は、地中のマグマによる蒸気を活用するため天候等は関係なく、年間を通じて安定した電力を生産可能です。
➂高温蒸気・熱水の有効活用
地熱発電は高温蒸気や熱水を使用するため、それらの温水を使った温室栽培や陸上養殖、観光など地域の個性に合わせた事業に活用が可能で、地域の経済に貢献します。
地熱発電の2つの課題
日本における地熱発電は多くのメリットがありますが、課題も存在します。ここでは次の2つの視点から課題を解説しましょう。
➀コストがかかる
地熱資源は地下に存在するため、掘削調査や開発に時間がかかることから初期投資に非常にコストがかかります。そのためコスト削減に関して探査技術の開発や掘削性能が高い掘削技術の開発に取り組むなど、開発リスクの低減への努力が求められます。
➁地域の環境や景観に配慮が必要
地熱発電の熱源となる土地は、国公立公園や温泉地帯に多く存在するため、地元の理解促進が必要不可欠です。特に温泉事業者は開発に対する温泉資源や観光への影響を懸念しているため、そういった観点から理解を得ることが重要です。また関係法令の規制により、許認可が必要な地点が多いため、手続きに多くの時間がかかるという課題もあります。
地熱発電における日本の動向
ここでは地熱発電開発における世界の現状と日本の動向を解説します。
日本国内における地熱発電
経済産業省における「長期エネルギー需給見通し」では、再生可能エネルギー導入を最大限図っていくことなどが基本方針に掲げられています。地熱発電に関しては2013年の発電設備容量約52万キロワットを2030年度に約3倍の約150万キロワットに拡大することを目指しています。
日本の地熱発電所
日本の地熱発電所の発電設備容量を合計すると約54万キロワット、発電電力量は2019年時点で2,472ギガワット アワーであり、日本の電力需要の約0.2%を供給しています。
出典:日本の地熱発電(JOGMEC)
地熱モデル地区プロジェクト
JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)は「エネルギー基本計画」の方針に基づき、地熱資源を有効活用し、農林水産業や観光などの産業振興に積極的に取り組む地方自治体を「モデル地区」として募集しました。その結果北海道茅部郡森町、岩手県八幡平市、秋田県湯沢市の3つの自治体が選定され、地域一丸となって地熱資源活用の取り組みが行われています。
地熱発電の展望
ここからは地熱発電の展望を解説していきます。
2025年度までに基礎技術の確立を目指す
JOGMECでは地熱発電のさらなる普及に向けた「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」プロジェクトを推進し、2021年度から2025年度の5年間で、システム設計などの基礎技術の確立を目指しています。以下に革新的な地熱開発の技術の例を2つご紹介します。
高温岩体地熱発電技術
地熱発電の可能性が高い地層形成でありながらも、蒸気がないために開発を行えなかった地域に対して、配管に水を注し蒸気を人工的に発生させ、発電を行う地熱発電技術です。
超臨界地熱発電技術
地下4〜5キロメートル、400〜500度の環境を利用し、マグマ起源の高温かつ高圧な超臨界状態の水でより大規模な発電を可能にする技術です。
GXによるイノベーション促進に期待
GX(グリーントランスフォーメーション)とは脱炭素を目指す取り組みを経済成長の機会と考え、産業競争力の向上や、社会全体の変革につなげることです。日本はエネルギー関連産業をはじめとした14の産業分野の脱炭素イノベーション支援を行う計画で、約2兆円のグリーンイノベーション基金を設立しています。それにより再生可能エネルギー分野のイノベーションが促進され、地熱発電への開発にも寄与することが期待されます。
GXについてより詳しく学びたい方は、こちらの記事をご覧ください。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは?意味やメリット、取り組み事例などをわかりやすく解説
「スキルアップ Green」では、企業に必要なGXや脱炭素の知識体系や技術、ソリューションが学べます。ぜひご活用ください。
地熱発電の活用事例
ここからは世界と日本の地熱発電の実際の活用事例をご紹介していきます。
世界の活用事例
地熱発電発祥の地イタリアと、約13,700の島々からなる火山国のインドネシアの事例をご紹介します。
インドネシア(ワヤン・ウィンド)
地熱資源量世界2位を誇るインドネシアには、カリマンタン島を除くほとんど全土に地熱資源が分布しています。ジャワ島には、カモジャン、ダラジャット、サラク、ディエンなどの主要な地熱発電所があり、ワヤン山とウインド山に挟まれた標高1,700mの高原台地にワヤン・ウィンド発電所があります。
イタリア(ラルデレロ)
イタリアにあるラルデレロは、地熱発電の発祥地として有名です。発電所はトスカーナ地方の周辺に集中しており、大きく4つの地域に分類されています。二十数基の地熱発電所が運転されており、過熱蒸気による蒸気卓越型の貯留層をもち、1979年から貯留層の枯渇防止のために地表の水を還元しています。
日本の活用事例
日本は地熱資源を活用して地域振興に繋げている事例が多くあります。
北海道弟子屈町
北海道弟子屈町では、昭和50年代から温泉熱を活用した暖房等が整備され、日常的に地熱が活用されています。平成28年には「弟子屈・ジオ・エネルギー事業」マスタープランを策定し、地熱資源を活用した地域活性化を推進しています。
東京都八丈島
東京都八丈島は関東初の地熱発電所であり、自然の環境保全と地域共生を兼ね備えた施設設計を実現しています。島全体で必要な最低電力需要に近い約3,300キロワットを供給しており、発電時に発生する二酸化炭素の排出を約4割削減することにも成功しています。
大分県九重町
大分県は地熱発電による温泉への影響に関して、しっかりとしたモニタリングを行い、湯量や湯質の変化の測定を実施しています。特に大気環境に関しては、約30年間にわたる試験により住民の理解を得ることで、地元との良好な関係を築いています。
福島県福島市
福島県福島市にある土湯温泉では、国内最大の温泉バイナリー地熱発電所が稼働しています。年間約300万キロワット時の電力を供給し、安定した売電収入を得ることで地域貢献事業にも貢献しています。さらに地熱発電所から排出される温水でエビの養殖を運営しています。
上記4例 出典:地熱モデル地区PROJECT
鹿児島県
鹿児島県には全国 7 位の地熱資源量があり、2021年時点で全国で出力 1,000キロワット 以上の地熱発電所が20 か所存在します。また地熱発電所の蒸気を熱交換により温水にしてハウス内を温め、マンゴーの生産やきくらげ・しいたけ栽培など行っており、地域経済の活性化に繋げています。
まとめ
地熱発電について、あらゆる角度からわかりやすく解説しました。地熱発電はすでに有効活用されていますが、期待の再生可能エネルギーとしてより一層の技術開発や、促進が望まれます。
地熱発電をはじめとした再生可能エネルギーの知見や国内の取り組みについて知見を深めることは、自社の脱炭素ソリューションとして重要です。
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