グローバル・ストックテイク(GST)とは?気候変動対策の進捗を評価する重要プロセスを解説

今、気候変動対策という世界共通の目標に向けて、世界ではさまざまな取り組みがされています。
グローバル・ストックテイク(GST)も気候変動対策における取り組みのひとつで、パリ協定の目標達成に向けた世界全体の取り組みを評価し、今後の世界全体の気候変動対策に対する取り組みを方向づける重要な役割を担っています。
では、グローバル・ストックテイク(GST)とはどのような仕組みなのでしょうか。また、グローバル・ストックテイク(GST)は具体的にはどのような役割と目的を担っているのでしょうか。
この記事ではグローバル・ストックテイク(GST)はもちろん、それに関連した事項についてわかりやすく解説していきます。
<目次>
- グローバル・ストックテイク(GST)とは
- グローバル・ストックテイク(GST)の目的と役割
- グローバル・ストックテイク(GST)のパリ協定おける立ち位置
- グローバル・ストックテイク(GST)を評価する期間
- グローバル・ストックテイク(GST)の仕組み(プロセス)
- グローバル・ストックテイク(GST)で評価される項目
- グローバル・ストックテイク(GST)が必要となった背景
- グローバル・ストックテイク(GST)とNDC(自国の温室効果ガスの排出削減目標)の関係
- グローバル・ストックテイク(GST)とETF(透明性枠組み)との関係
- グローバル・ストックテイク(GST)とSDGsの関係
- GSTとCOP(コップ)との関わり
- 【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)の内容
- 【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)の成果
- 【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)後の展望
- グローバル・ストックテイク(GST)の主要な評価項目に対する日本の現状
- まとめ
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グローバル・ストックテイク(GST)とは
グローバル・ストックテイク(Global Stocktake:GST)は、パリ協定に基づいて※5年ごとに実施される評価プロセスで、各国が温室効果ガス排出削減目標の達成状況を確認し、地球規模での進捗を総合的に把握するものです。
(※『衡平性』と『利用可能な最良の科学』という2つの原則)
グローバル・ストックテイク(GST)のプロセスでは、世界全体が気候変動目標(1.5℃または2℃の温度上昇抑制)に向けてどの程度進んでいるかを評価し、各国が目標達成のための努力を強化するための指針を提供することになっています。
具体的には、各国が提出する「国が決定する貢献(NDC)」と呼ばれる削減目標や行動計画の進捗を、データに基づきレビューし、科学的な知見や政策的な進展、達成状況などを総括します。
このように、グローバル・ストックテイク(GST)は、2015年のパリ協定(COP21)で採択された3つの目標の達成に向けて、世界全体で各国の進捗状況を5年ごとに評価し、目標達成に向けた実施状況をレビューする重要なプロセスであり、最初のグローバルストックテイク(GST)は2023年から開始され、2025年に報告される予定となっています。
グローバル・ストックテイク(GST)は、気候変動に関する国際的な協力を促進し、科学的根拠に基づく政策判断を支援するための重要な枠組みとなっており、2023年に実施された第1回目のグローバル・ストックテイク(GST)では、2030年までのNDC(国が貢献する制度)に対する進捗状況がレビューされました。
また、参加国のNDC(国が貢献する制度)は5年毎に策定・提出することが義務付けられており、今回のGSTの内容は次回各国が提出する2035年までのNDCの大幅な引き上げを後押しする可能性があります。
パリ協定で採択された内容
パリ協定は、2015年11月30日から12月13日にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたグローバル・ストックテイク(GST)の基盤となる国際的な取り決めです。
2020年以降、国際社会が気候変動対策にどのように取り組むかを規定した国際条約となり、具体的には、パリ協定では下記の3つの目標が採択されました。
- 世界の平均気温の上昇を産業革命前以前に比べ2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求すること
- 気候変動の影響に対する適応能力と気候レジリエンスを強化すること
- 温室効果ガス(GHG)の排出が低く気候に対して強靭である発展に資金の流れを適合させること
グローバル・ストックテイク(GST)は、パリ協定第14条に規定されており、これらの目標達成に向けて世界全体の進捗状況を定期的に評価する際の重要な仕組みとして機能しています。

グローバル・ストックテイク(GST)の目的と役割
グローバル・ストックテイク(GST)の目的と役割は、地球全体が気候変動対策をどのくらい達成できているかを「総評価」することで、今後の行動指針を導くことにあります。
また、グローバル・ストックテイク(GST)には、進捗の確認や、指針提供、国際的な協力の推進、それに科学的根拠に基づく政策立案をしたりと、国際的な支援体制を構築するきっかけとなる役割があります。
パリ協定には気候変動対策に対する長期での目標達成に向けて、各国の目標をより高い目標へと引き上げる野心度引き上げメカニズムが存在しますが、グローバル・ストックテイク(GST)はこの「野心度引き上げメカニズム」の中の1つの制度として位置付けられており、地球全体が協力して気候変動目標を達成するための枠組みの一つとして機能しています。
(気候変動交渉の文脈では「より高い目標に自らステップアップしていく」ことを「野心(度)を引き上げる」と表現)
グローバル・ストックテイク(GST)のパリ協定おける立ち位置
グローバルストックテイク(GST)は、パリ協定の「野心度引き上げメカニズム」において、各国が気候変動目標の達成に向けた「野心」を強化するための中核的な役割を果たします。
具体的には、グローバル・ストックテイク(GST)は以下のような形で、野心度引き上げメカニズムとして機能しています。
まず、パリ協定が全体の枠組みとしての土台を提供し、各国の気候変動を求めます。
具体的には、地球の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度未満、できれば1.5度以内に抑えること、世界全体で温室効果ガスの排出を削減し、21世紀後半には実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成すること、それに、各国が自主的に削減目標(NDC:国が決定する貢献)を提出し、達成することがそれにあたります。
野心引き上げメカニズムとは、各国が設定した削減目標(NDC)を段階的に強化し目標達成への努力を促す仕組みを指しますが、パリ協定では各国は5年ごとにNDCを更新・提出し、その際に野心を高めることが期待され、現在の努力が目標に対して十分達していない場合は、次回の提出時に改善する義務を負うといったように目標の継続的な引き上げを義務付けています。
そしてこのサイクルの最後にグローバル・ストックテイク(GST)により、温室効果ガス削減、適応策などの分野での進捗を評価し、必要な改善策を特定するため、パリ協定の実施状況を評価し、世界全体の進捗状況を把握していきます。
出典:IGES|グローバル・ストックテイク(GST)とは
グローバル・ストックテイク(GST)は5年ごとに実施され、次の5年に向けたNDC提出時に活用され、野心度を引き上げる際の科学的な根拠や政策に生かされていきます。
パリ協定に基づく気候変動対策の枠組み
パリ協定に基づく気候変動対策の枠組みは以下の3つの要素で成り立っており、それぞれが連携して、気候変動目標の達成を目指しています。
・1:目標設定(自国が定める貢献=NDC)
各国は「自国が定める貢献(Nationally Determined Contributions:NDC)」として温室効果ガスの排出削減や気候変動への適応に関する目標を定め、5年ごとに更新します。
自国が定める貢献(NDC)は各国が独自に設定するもので、国の経済状況や技術的な実現可能性を考慮しながら、気候変動抑制への「野心」を高めることが求められています。
自国が定める貢献(NDC)の提出と更新によって各国が気候変動目標に向けた努力を継続することが義務付けられています。
・2:実施報告(強化された透明性枠組み:ETF)
各国は「強化された透明性枠組み(Enhanced Transparency Framework:ETF)」の一環として、排出量や進捗状況に関するデータを報告する義務を負っており、この枠組みは「2年ごとの透明性報告書(隔年透明性報告書:BTR)」として」まとめられ、国ごとの温室効果ガス排出量、目標達成に向けた進捗、政策の効果などが記録されます。
これにより、国際社会が各国の気候変動対策における取り組みを把握でき、信頼性が高まり、透明性が確保されます。
・3:進捗の評価(グローバル・ストックテイク:GST)
グローバル・ストックテイク(Global Stocktake)は、5年ごとに実施される評価プロセスで、自国が定める貢献(NDC)で各国が掲げた目標や実施報告で確認された進捗をもとに、地球規模での目標達成状況を評価します。
グローバル・ストックテイク(GST)は自国が定める貢献(NDC)と強化された透明性枠組み(BTR)の成果を考慮して総合的に検証するもので、現状の取り組みが気候目標(1.5度または2度の温度上昇抑制)に向けて十分であるかを測る「総点検」の役割を果たします。
出典:IGES|グローバル・ストックテイク(GST)とは
つまり、パリ協定で定められた目標達成に向けて温室効果ガスの取り組みにおける「排出ギャップ」と「実施ギャップ」との溝を埋めるのが、グローバル・ストックテイク(GST)の重要な役割となっています。
グローバル・ストックテイク(GST)
の評価結果は各国に共有され、次の自国が定める貢献(NDC)を引き上げるための指針としても活用されることになります。
ギャップを縮めるために、各国はより高い目標設定と自国が定める貢献(NDC)を実施するための政策強化が求められることになります。
パリ協定に基づくグローバル・ストックテイク(GST)は自国が定める貢献(NDC)で掲げた目標の達成、透明性の確保、そして進捗の点検と目標の見直しといった、以上の3つのプロセスが相互に作用し合うことにより各国の取り組みを強化し、気候変動対策がより確実に進められる仕組みになっています。
グローバル・ストックテイク(GST)を評価する期間
グローバル・ストックテイク(GST)の評価プロセスは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で行われることになっており、主に下記の機関が関与しています。
1:国連気候変動枠組条約(UNFCCC)
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、パリ協定のもとグローバル・ストックテイク(GST)全体のプロセスを統括し、各国から提出された報告書やデータを管理する役割をになっており、評価会議の開催や文書の取りまとめを担当しています。
なお国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は1992年に採択され1994年に発効した条約で、毎年、締約国会議(COP)を開催し、条約の実施状況を検討し、新たな取り決めを行っています。
2:補助機関会合(SB)
補助機関会合(SB)は、実施補助機関(SBI)と科学技術助言補助機関(SBSTA)がありますが、補助機関会合(SBIとSBSTA)は、グローバルストックテイク(GST)において、科学技術的な知見と実務的な情報を提供し、グローバル・ストックテイク(GST)が効果的に実施されるための基盤を築いています。
この連携によって、世界的な気候変動目標への進捗を的確に評価し、各国の「野心」の引き上げを支援できるようになります。
3:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、グローバル・ストックテイク(GST)の科学的根拠を提供する中心的な機関で、最新の評価報告書や特別報告書を通じて、気候変動の進行状況や影響に関する科学的知見を共有します。
4:各国の政府
各国の政府はNDC(自国が定める貢献)やBTR(透明性報告書)を通じ、グローバル・ストックテイク(GST)に必要となるデータを提供し、グローバル・・ストックテイクの評価を踏まえ、次の目標を設定する責任を負っています。
5:国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)
グローバル・ストックテイク(GST)は気候変動枠組条約締約国会議(COP)の場で議論されます。政治的検討を行い、最終的な結論を採択する役割を担っています。
COPについては「COP(Conference of the Parties)とは|COP29・COP30の最新動向と日本の取り組みを解説」で詳しく解説していますのでご覧ください。
6:Green Climate Fundなどのファイナンス機関
機構資金の提供情報を報告し、資金が適切に活用されているかを評価していきます。グローバル・ストックテイク(GST)はこれらの資金の分配や効果の透明性を向上させる機会でもあります。
グローバル・ストックテイク(GST)の仕組み(プロセス)
グローバル・ストックテイク(GST)は、「情報収集」「技術的評価」「成果物の検討」の3つのプロセスで構成され、全体で約2年をかけて進行します。
以下は、それぞれのプロセスの内容です。
1:情報収集と準備フェーズの概要
目的:国連機関の報告書などをもとに、温室効果ガスの排出状況や削減対策の現状を把握する。
情報収集と準備フェーズは、グローバル・ストックテイク(GST)の最初の段階であり、評価に必要なデータや報告書、科学的な知見を集約するプロセスです。
このフェーズでは、各国や関連機関から提供された情報を整理し、次の「技術的評価フェーズ」での分析に適した形に整えます。実施期間は約2年です。
【情報収集と準備フェーズでの主な内容】
- 各国の温室効果ガス排出データ
- 気候変動対策の進捗状況の整理
- 影響や適応策の進展状況の把握
- 気候資金の流れの可視化
- 技術開発や移転の現状把握
これらの情報は、次の技術的評価フェーズでの基盤となります。
2:技術的評価フェーズの概要
目的:収集した情報をもとに、パリ協定の目標達成に向けた世界の進捗を専門的かつ実務的に評価する。
技術的評価フェーズでは、情報収集フェーズで集められたデータを精査し、進捗状況を評価します。
このプロセスでは、パリ協定の目標に対して進展している部分や不足している要素を特定し、科学的な根拠に基づくギャップ分析を行います。排出削減や適応策、資金提供の各分野にわたる評価が進められます。
【技術的評価フェーズにおける主な評価ポイント】
- 温室効果ガス削減の進捗
- 適応策の有効性
- 資金提供および技術移転の活用状況
- パリ協定の目標達成に向けた全体的な見通し
このフェーズで得られた分析結果は、最終段階の「成果物の検討フェーズ」に活用され、次回の各国のNDC(国別貢献)の策定の指針となります。
技術的評価フェーズは、グローバル・ストックテイク(GST)における中心的なプロセスのひとつです。
3:成果物の検討フェーズの概要
目的:技術的評価の結果をもとに、各国の取り組み(NDC)のさらなる強化を促し、政治的なメッセージを発信する。
成果物の検討フェーズは、グローバル・ストックテイク(GST)の最終段階となります。このフェーズでは、技術的評価の結果を活用し、世界規模での気候変動対策を推進するための具体的な提案を策定します。
また、パリ協定の長期的な目標達成に向けた進捗状況を整理し、今後の方針を示します。
【成果物の検討フェーズでの主な検討項目】
- 世界の進捗状況の総括
- 目標達成に向けた課題の明確化
- 対策強化の方向性の検討
- 国際協力促進に向けた議論
この段階の成果は、COP(締約国会議)で報告され、次回のNDC策定における重要な指針となります。
グローバル・ストックテイク(GST)のスケジュール
グローバル・ストックテイク(GST)は、NDC(自国が決定する貢献)の更新サイクルと関連しており、以下のようにおよそ、5年サイクルで行われる予定となっています。
第1回 2023年 2021年11月(COP26)〜2023年11月(COP28)まで
第2回 2028年 2028年完了予定
第3回 2033年 5年ごとの実施
以上のようにグローバル・ストックテイク(GST)は科学的進展と政策的課題のバランスをとりながら、継続的かつ効果的に気候改善をするために5年ごとに行われます。
このように、グローバル・ストックテイク(GST)はパリ協定の目標達成に向けた「評価」「改善」「実行」のプロセスを支える鍵となり、気候変動への国際的な取り組みを強化するための基盤として機能しています。
グローバル・ストックテイク(GST)で評価される項目
グローバル・ストックテイク(GST)は、各国に対して気候変動対策に関する詳細なデータの提供を求めて、収集され、専門家によって分析されます。
このプロセスを通じて、より精緻な科学的根拠が政策決定に活用されるようになりますが、各国は以下の項目について評価されることとなります。
- 温室効果ガス排出量の削減状況(NDCの目標達成度)
- 再生可能エネルギーの導入状況(化石燃料から再生可能エネルギーへの移行など)
- 気候変動への適応策(NAPの策定と実行)
- 気候変動対策のための資金調達(資金の適正利用)
- 技術開発や移転など
現在、日本の温室効果ガス排出量は、国際的な目標達成には十分ではなく、特に産業部門での排出削減が課題となっている状況にあります。
また太陽光発電をはじめ、風力発電などの再生可能エネルギーも以前よりは進んできてはいますが、まだ乏しく、更なる努力が必要となっています。
グローバル・ストックテイク(GST)が必要となった背景
パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2°Cより十分低く抑え、1.5°Cに抑える努力を追求すること」や、「2050年頃までに温室効果ガスの排出と吸収を均衡させる(カーボンニュートラル)」という目標が掲げられています。
これらの目標を効果的に達成するために、グローバル・ストックテイク(GST)が設計されました。
これ以前の国際的な枠組みには、京都議定書などが存在しました。しかし、京都議定書では主に先進国に排出削減義務が課され、途上国は対象外でした。
また、一度設定された削減目標が固定化されてしまい、科学技術の進展や状況の変化に柔軟に対応することが難しいという課題も浮き彫りになりました。
これにより、各国が協調して持続可能な地球環境を実現するには不十分な枠組みであることが明らかになったのです。
具体的には、以下のような問題点が指摘されていました。
【過去の気候変動対策の課題】
1:各国の取り組み進捗が不透明
2:目標と実際の成果に乖離がある
3:先進国と途上国の責任分担が不均衡
4:長期的視点が不足
5:科学的根拠に基づく政策決定の不足
これらの課題を克服するため、パリ協定はすべての国が参加する枠組みを採用しました。
各国の目標を強化し、その進捗状況を定期的に評価する仕組みとして誕生したのが、グローバル・ストックテイク(GST)です。
1:進捗状況の透明性向上
以前は、各国の進捗状況を客観的に評価する仕組みが不十分であり、信頼関係の欠如が国際的な協力を妨げる要因となっていました。グローバル・ストックテイク(GST)では以下のような手段を導入し、透明性を向上させています。
- 国際的な透明性枠組み(ETF)の導入:各国が共通のガイドラインに基づいて進捗状況を報告し、それを専門家グループがレビューする。
- データの比較可能性と信頼性の向上:報告内容は一貫性のある形式で提供され、透明性を確保する。
- 定期的な評価と公開:進捗状況を定期的に評価し、各国間で共有することで成功事例や課題を共有する。
これにより、各国はお互いに学び合う機会を得ると同時に、国際的な支援が必要な分野を特定しやすくなります。
また、透明性の向上は、各国の責任感を高めるだけでなく、より具体的かつ積極的な行動を促す効果が期待されています。
2:目標と成果の整合性確保
過去の気候変動対策では、目標と実際の成果に乖離が見られました。たとえば、削減目標が非現実的である場合や、実際の削減努力が目標に追いついていないケースが多く存在しました。
グローバル・ストックテイク(GST)は、以下のプロセスを通じて整合性を確保します。
- 科学的根拠に基づく評価:最新のIPCC報告書や国際的な気候モデルを基に、各国のNDC(自国が決定する貢献)がパリ協定の1.5°C目標に合致しているかを評価する。
- 削減努力のギャップ分析:現在の削減努力と目標達成に必要な努力の間のギャップを明確化する。
この結果を踏まえ、各国は次回のNDC策定時に目標を見直し、必要に応じてより野心的な目標を設定することが奨励されます。
これにより、目標と実績の整合性が保たれ、達成への軌道修正が可能となります。
3:責任分担の公平性確保
気候変動対策における重要な課題の一つに、先進国と途上国間の責任分担の不均衡が挙げられます。
グローバル・ストックテイク(GST)では、「共通だが差異ある責任」という原則に基づき、以下のような体制が整備されることになりました。
- 各国の状況を考慮した評価:各国の排出量、経済力、技術力を考慮し、先進国と途上国の負担が公平になるよう調整。
- 支援状況の評価:先進国による資金や技術支援、途上国での低炭素技術導入の進捗を評価。
これにより、不平等感が軽減され、国際的な協力が促進されることが期待されています。
たとえば、先進国が途上国に対して再生可能エネルギー技術の提供や資金援助を行うことで、途上国の排出削減努力を支援する仕組みが強化されるなどが責任分担の公平性確保にあたります。
4:長期的視点の確保
これまでの枠組みでは、短期的な目標に注力しすぎて、長期的視点が欠如していました。
グローバル・ストックテイク(GST)では、5年ごとに評価を実施し、次のような成果を目指すことになりました。
- 2050年カーボンニュートラル目標への進捗確認:長期目標に向けた各国の取り組みを定期的に評価。
- 段階的な取り組みの明確化:短期的な成果と長期目標達成を両立するための戦略を各国が構築。
このプロセスにより、目標達成に向けた途中経過を軌道修正しやすくなり、根本的な解決策の実施を促進しています。
5:科学的根拠に基づいた政策決定の強化
従来の気候変動対策では、科学的根拠に基づいた政策決定が十分ではありませんでした。
科学的根拠に基づく政策決定が不足していた過去を反省し、以下を導入しました。
- IPCC報告書を活用した評価:気候変動に関する最新の科学的知見を基に政策を評価。
- データ提供と分析の強化:各国に対して温室効果ガス排出量や再生可能エネルギー導入率、気候変動の影響に関する詳細なデータ提供を求める。
これにより、政策決定における科学的裏付けが強化され、より効果的で持続可能な対策が推進されます。
グローバル・ストックテイク(GST)とNDC(自国の温室効果ガスの排出削減目標)の関係
出典:解説:パリ協定・第1回グローバル・ストックテイク(GST)
NDC(自国が決定する貢献:Nationally Determined Contribution)は、パリ協定のもとで各国が自主的に設定する気候変動対策の目標のことですが、NDCとグローバルストックテイク(GST)はそれぞれ独立した役割を持ちながらも、お互いに関連しており相互作用を及ぼしあっています。
- NDCの進捗の評価:グローバル・ストックテイク(GST)はNDCが実行されているか、効果がどの程度あるかを評価します。
- 野心の引き上げを促進:グローバル・ストックテイク(GST)の結果を活かし、次期NDCをより野心的な目標にする
- NDCの定期的な更新:グローバル・ストックテイク(GST)の評価をもとに各国のNDCは5年ごとに更新されます。
- 科学的根拠に基づく政策形成:グローバルストックテイク(GST)の評価結果を基に、NDCの目標設定が行われるため、目標が科学的かつ現実的なものになります。
グローバルストックテイク(GST)は、各国のNDCを評価し、各国における施策の総点検を行い、野心度を引き上げるための仕組みとして機能しますが、NDCはグローバルストックテイク(GST)の基礎データを提供し、その結果を次回のNDCで反映する役割を果たしています。
つまり両者の相互作用により、気候対策目標に向けて国際的な努力が改善され、また強化される仕組みが形成されています。
グローバル・ストックテイク(GST)とETF(透明性枠組み)との関係
ETF(透明性枠組み:Enhanced Transparency Framework)はパリ協定のもとで採択された、透明性を確保するための仕組みであり全ての締約国に共通のガイドラインを提供しますが、グローバル・ストックテイク(GST)とFTFはそれぞれ異なる役割を担いながら、相互補完的に機能し合っています。
- 共通のガイドラインにより各国の個別の状況を明らかにする
- グローバル・ストックテイク(GST)が情報を集約し、世界全体の状況を評価する
- グローバル・ストックテイク(GST)の結果が各国の次の行動(NDC)に反映されより野心的な目標へと更新される
以上のようなサイクルでグローバル・ストックテイクとETFは密接に関連し合っています。
グローバル・ストックテイク(GST)とSDGsの関係
グローバル・ストックテイク(GST)は気候変動対策の進捗の評価はもちろんSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きな役割を果たしています。
気候変動は、貧困、飢餓、健康、水、エネルギーなどSDGsの様々な目標に直接的な影響を与えます。
気候変動対策を強化することで、これらSDGsの問題解決にもつながることが期待でき、グローバル・ストックテイク(GST)はSDGsの目標を達成する上でも重要な推進力になるとみられています。
SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
再生可能エネルギーの導入拡大、エネルギー効率の向上などがSDGsにおけるエネルギー分野での取り組みですが、グローバルストックテイク(GST)は、これらの取り組みの進捗状況を評価し更なる強化を促していきます。
SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを
都市のレジリエンスを高めることが重要になってきていますが、グローバル・ストックテイク(GST)は、都市における気候変動対策の進捗を評価し、より持続可能な都市作りを促進していきます。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
気候変動対策とグローバルストックテイク(GST)はSDGsの直接的な対象となる目標です。
グローバル・ストックテイク(GST)を通じ、気候変動対策への具体的でいて、より野心的な目標設定を定めることが求められます。
SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう
グローバル・ストックテイク(GST)では森林保全や再生に関する取り組みの進捗を評価しますので、陸域生態系の保全にも貢献します。
SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
またグローバル・ストックテイク(GST)は国際的な協力と科学的な根拠に基づく情報共有を促進するため、気候変動対策における国際的なパートナーシップの強化にもつながっていきます。
他の国の取り組みを評価し、また学ぶことで自国の政策に活かすことができます。
このようにグローバル・ストックテイク(GST)のプロセスから気候変動対策とSDGsの目標には深い関連性があり、切っても切り離せない関係にあります。
GSTとCOP(コップ)との関わり
COP(国連気候変動枠組条約締約国会議:Conference of the Parties)は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の最高意思決定機関であり、毎年行われますが、COPでは気候変動対策に関する重要な決定が行われることになっています。
グローバル・ストックテイク(GST)とCOPの関わりは
- グローバル・ストックテイク(GST)の実施プロセスはCOPの場で進められる
- グローバル・ストックテイク(GST)の評価結果はCOPで報告され議論される
- グローバル・ストックテイク(GST)の結果を受け、COPで気候変動対策の強化が促される
と整理することができ、各国が次のNDC(自国が決定する貢献)を策定する際の重要な指針となります。
【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)の内容
COP28(第28回国連気候変動枠組条約締約国会議)は、2023年11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦のドバイで開催され、この会議では、パリ協定の目標達成に向けた世界全体の進捗状況を初めて評価するグローバルストックテイク(GST)が実施されました。
この時行われたグローバル・ストックテイク(GST)によって気候変動に対する様々なことがわかり、思ったより深刻なことがわかり、新たな転換点となりました。
各国の環境問題への取り組みで明らかになったこと
COP28で初めて行われたグローバル・ストックテイク(GST)により下記のことが明らかになり、今後の環境対策への取り組みで課題が示されています。
・現状の取り組みでは1.5℃目標の達成が極めて困難である。
パリ協定で掲げられた、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑えるという目標ですが、COP28のグローバル・ストックテイク(GST)により、現状、この目標を達成することは非常に困難であることが浮き彫りになり、その難しさが改めて示されました。
・気候行動の進捗や能力において国ごとに大きなばらつきがある。
さらに、先進国と途上国の間で気候変動対策への取り組みの進捗状況は異なり、そこには格差があることが明らかになり、公平な支援体制が求められる形になりました。
・世界経済は化石燃料に依存している
世界は依然として化石燃料に大きく依存している。
世界経済は、依然として化石燃料に大きく依存していることがわかり、温室効果ガスの排出削減が十分に進んでいるとは言えない状態だということが明らかになっています。
・世界各国が現在の目標をさらに野心的にする必要がある。
グローバル・ストックテイク(GST)の結果により、各国はより野心的な目標設定が求められることになり、COP28での結果を踏まえた上で2025年までに、新たなNDCを提出することが要請されることとなっています。
・各セクターに特化した気候戦略が鍵となる
今後は重点分野ごとの対策強化が不可欠でエネルギー、運輸、産業などのセクター別でより具体的な削減目標や行動計画の策定を行うことが強調されました。
・企業や市民団体の気候行動がますます重要になっている
企業や自治体、市民社会など、国家以外の存在(非国家アクター)の役割が重要視され、官民連携が加速する必要があり、今後はさらに自主的な取り組みが促進される見込みです。
・科学的データに基づく政策決定が必要不可欠である
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの科学的知見が積極的に活用され、今後の気候変動対策でも科学的根拠に基づいた政策立案がより重視されることになり、信頼性の高いデータ提供が重要とで必要不可欠であることが示されました。
【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)の成果
COP28では、グローバル・ストックテイク(GST)により明らかになった点を踏まえ、以下の点が強調されることになりました。
- 1.5℃目標達成のためには、より迅速かつ野心的な行動が必要である。
- 化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーへの転換が急務である。
- 先進国は、途上国への技術・資金支援を拡大しなければならない。
- 気候変動による損失と損害への対応支援が一層重要となっており枠組みを強化する必要がある
またこれにより、具体的には下記のような新たな指針が示されています。
ドバイ宣言
COP28ではドバイ宣言が採択されました。
ドバイ宣言は新たな世界気候変動対策における新たな指針となるものですが、ドバイ宣言のポイントは下記の通りです。
・化石燃料依存から再生可能エネルギーへの移行合意
ドバイ宣言では気候変動対策の歴史においてはじめて化石燃料の段階的削減と再生可能エネルギーの拡大が盛り込まれ、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の段階的削減を目指し、再生可能エネルギーへの移行を各国が協力して進めることを合意。
・再生可能エネルギー導入の明確な目標を設定
太陽光や風力エネルギーなどの再生可能エネルギーにおける発電能力を数3倍に引き上げる(11,000GWに増やす)明確な目標を設定し、2030年までの達成を目指す目標が設定されました。
この目標には世界120カ国以上が賛同しており、再生可能エネルギー拡大に向けた世界的な取り組みとして注目されることになりました。
ただしここで挙げられた目標設定は現実的ではない面も含まれており、国内での具体的な目標設定については慎重な姿勢を示しています。
・世界的にエネルギー効率を高める取り組みを推進
ドバイ宣言では、世界のエネルギー効率改善率を2030年までの間に年間で4%ほど倍増させる目標も設定されました。
年間4%のエネルギー効率改善は過去の傾向として非常に高く、電気自動車の普及や産業部門での省エネ技術であるヒートポンプなどの大規模導入が必要になることはもちろん、建築物に至ってはゼロエネルギービル(ZEB)の推進や、公共交通の分野ではコンパクトシティの実現や燃費の良い車両の採用や電子化など、あらゆるエネルギー効率の改善が必要になると考えられています。
エネルギー効率の改善は、エネルギー消費量と温室効果ガス排出量の削減に直結する重要な要素であり、再生可能エネルギーの拡大と並行して進めるなど、持続可能なエネルギーシステムへの移行を加速する鍵となるとみられています。
・気候変動の影響に対応するため、適応策をさらに強化
ドバイ宣言により、気候変動の影響に対する適応策の重要性が再認識されることになり、これまでよりも、途上国への支援強化が強調されることが決定しました。
干ばつや洪水、海面上昇といった気候変動の影響に備えるため、農業の強化や防災インフラ整備への支援が活発になり先進的な環境技術の移転が活発になると予想されています。
・気候被害を受けた国への支援を行う損失と損害基金を正式に運用開始
ドバイ宣言により、気候変動の影響を受けやすい国々や気候変動の影響で被害を受けた国々への支援をする「損失と損害基金」の運用が正式に開始されることが決定しました。
損失と損害基金は、気候変動を引き起こした主な原因である温室効果ガスを多く排出した先進国が、途上国への支援責任を負うべきとの主張があり、気候変動の影響によって発展途上国が被る損害や不可逆的な影響に対応するために設立された国際的な基金で、2015年のパリ協定で損失と損害の概念が認識され、2022年のCOP27で損失と損害基金の設立が合意されることになっています。
【COP28】第1回グローバル・ストックテイク(GST)後の展望
COP28のグローバル・ストックテイク(GST)で「ドバイ宣言」が採択されましたが、ポイントをまとめると下記の通りです。
1.5度目標の追求と目標の引き上げ
各国は、気候変動対策の目標の達成に向けてより一層の努力を強化すること。また次回グローバルストックテイク(GST)に向けて各国のNDC(自国が決定する貢献)をより野心的な削減目標へとすること。
化石燃料からの脱却と移行促進
温室効果ガスの削減のために石炭、石油、天然ガスなどの化石エネルギーからの段階的な撤退、および再生可能エネルギーへの移行を加速させること。
気候適応策の強化、途上国への支援強化
先進国は、途上国の気候変動対策を支援するために資金や技術を提供する必要があること。特に干ばつや洪水の影響を受ける地域での農業やインフラ整備が優先。
損失と損害への支援
「損失と損害基金」設立により気候変動による損失と損害に対する支援の枠組みを強化すること。損失と損害基金が効果的に機能するための運用方針がこれまでよりも具体化。
COP28では、以上に見られるようなポイントにおいて、気候変動に対する短期的な目標に対する強化策はもちろん、長期的な戦略の更新が並行して進められ各国が気候変動への対応を一層深め、持続可能な未来への道筋を具体化するきっかけとなりました。
グローバル・ストックテイク(GST)の主要な評価項目に対する日本の現状
COP28では、グローバル・ストックテイク(GST)の評価項目により、日本の気候変動対策は国際社会から多様な評価を受けることになりました。
例えば再生可能エネルギーの導入拡大、水素社会の実現に向けた取り組みなど評価される一方、日本は化石エネルギーである石炭火力発電への依存度が高いことや、産業部門での排出削減が進んでいない点など、温室効果ガス排出削減目標達成において、より一層の努力が必要であるとの指摘がされることになりました。
温室効果ガス排出量削減
2030年までに2013年比で46%の削減目標に対し、現状把握可能な2021年度の排出量は2013年度比で11.4%減に止まっており、目標達成には年間で平均3.4%の温室効果ガス排出量の削減が必要となる。
再生可能エネルギーの導入
2030年までの再生可能エネルギー導入の目標が電源構成に占める割合を36〜38%に対し、現状把握可能な2021年の時点での実績は20.3%。
太陽光発電の導入は進んでいるものの風力発電の導入は遅れ気味である。
エネルギー効率の改善
2030年度までの目標が2012年度比で35%改善に対して、2020年時点で16%の改善であり、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及を促進させる。
森林吸収源対策
2030年度におよそ3,800万トンのCO2の吸収量を確保する目標に対し、2020年度の吸収量は約4,450万トンであり、森林の高齢化や管理者の不足による吸収量の減少が懸念として課題として残っている。
参考:2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について
気候変動適応策
2018年に気候変動適応法を施行し国や地方自治体による適応計画を策定したが、具体的な適応策の実施と効果の検証が必要。
気候資金の提供
2025年までに年間1,000億ドルの資金動員に貢献する目標に対し、2019年時点での拠出額は151億ドルであり、今後官民連携による途上国支援を強化する必要がある。
以上の現状を見ても、今後はより野心的な目標設定を示すことが国際社会から期待されており、企業や個人レベルでこれらの目標達成に向けた取り組みを連携して行っていくことが必要となると見られています。
日本の気候変動対策に対する今後の取り組みや展望
以上に見られる日本の現状から、日本は以下のような取り組みが必要であると考えられています。
・温室効果ガス排出削減目標の強化
2030年に46%削減(2013年比)、2050年にカーボンニュートラルを達成するため、2030年度目標をさらに引き上げ、より野心的な目標を設定することや、さらなる産業構造の転換や省エネ技術の普及が求められる。
・再生可能エネルギーの導入加速
2030年までに電力供給の36〜38%を再生可能エネルギーで賄う目標を達成するため、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の拡充や、規制緩和、太陽光や風力発電の拡大を進めることで、再生可能エネルギーの導入を加速させる。
・気候変動への適応策の強化
気候リスクに対応するため、防災インフラの整備や農業の高度化を推進し、海面上昇や異常気象など、気候変動による影響を予測し、適切な対策を講じることで被害の最小化を図ることが重要。
・気候変動対策のための資金調達
グリーンボンドの発行や、脱炭素化に向けた投資の促進を図ることで、気候変動対策に必要な支援体制を確保する
・国際協力の強化
アジア諸国をはじめとする途上国への技術移転や資金支援を強化し、国際的な枠組みでリーダーシップを発揮し、国際社会全体で気候変動対策を進める。
目標達成に向けての日本の取り組み
パリ協定の目標達成に向けて、日本では下記のような取り組みがされています。
・1:日本の長期戦略
パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略が2021年10月に閣議決定され、この戦略の中で、さまざまな取り組みの方向性が示される形となりました。
エネルギー関連では「再エネ最優先原則」「電源の脱炭素化」「脱炭素化技術(CCUSなど)の開発、導入」「水素、アンモニア、原子力などあらゆる追求の選択肢の追求」、つづいて運輸関連では、自動車の電動化に対応した交通、物流、インフラシステムの構築を主として「2035年乗用新車の電動車100%」「電動車と社会システムの連携・融合」などがあげられており、地域・暮らしにおいては「ZEH」や「ZEB」などカーボンニュートラルな暮らしへの転換が挙げられています。
・2:気候資金の提供
日本は発展途上国が気候変動に適応し、温室効果ガス削減に取り組むための資金支援として、2021年6月、2021年から2025年の5年間で、官民合わせて6.5兆円規模の支援を実施、気候変動の影響に脆弱な国に、被害の防止や軽減といった適応分野への支援を強化すると表明、その後11月のCOP26では追加支援としてさらに5年間で最大100億ドル(1兆円超)の追加支援をする用意があることを発表するとともに、適応分野での支援を倍増し、5年間で官民合わせて1.6兆円相当の適応支援を実施していくことを表明しています。
これは先進国の中でも最大規模の支援であり、日本として気候変動対策に関する世界の取り組みをリードする狙いがあります。
UNDP(国連開発計画)によれば、2022年4月に日本から4200万ドル(およそ50億円)の気候変動対策資金を受け取ったことも報告されていたりと気候資金の提供が活発になっています。
参考:気候資金に関する我が国の新たなコミットメント(2021~25年)|外務省
参考:途上国の気候変動対策に日本から4,200万ドルの支援 〜緩和・適応策を推進〜 | United Nations Development Programme
・3:カーボン・クレジット市場の開始
経済産業省の主導により、2022年9月22日からCO2の「排出量取引」の実証実験が証券取引所で始まり、全国約160の企業や団体が参加しました。
「排出量取引」により、再生可能エネルギー導入や植林などで削減したCO2排出分を債券や株式のように市場で売買取引することができます。
実証実験は2023年1月まで行われ、実証事業の結果を踏まえながら、取引所としての日本のカーボン・プライシングへの貢献の観点から、2023年10月11日に正式にカーボン・クレジット市場を開設することになり2024年9月にはカーボンクレジット市場の累計売買高が50万トンに到達したと報告されています。
参考:市場開設以降の売買状況
まとめ
グローバル・ストックテイク(GST)は、パリ協定に基づき5年ごとに実施される仕組みで、各国の気候変動対策の進捗を評価します。この評価に基づき、各国は次の貢献(NDC)を設定します。
2023年のCOP28で行われた第1回の評価では、現行の取り組みではパリ協定の1.5℃目標の達成が難しいと判明し、「ドバイ宣言」が採択されました。この宣言では、2030年までに再生可能エネルギー発電容量を3倍に増やし、エネルギー効率を2倍にするなどの目標が掲げられ、化石燃料からの移行を促進する具体的な行動が示されました。
さらに、先進国には開発途上国への支援や技術移転の強化が求められています。
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