1.5度目標とは?地球温暖化対策の現状と世界や日本の取組を紹介

1.5度目標とは、産業革命以前と比較して、地球の平均気温上昇を1.5度以内に抑えるための国際的な目標です。2015年に締結されたパリ協定で定められました。現在地球温暖化による気温上昇は深刻さを増しており、1.5度目標を達成するためには各国の協力が不可欠です。
本記事では、1.5度目標について概要から現状、世界や日本の取り組みまでわかりやすく解説します。1.5度目標について知見を深めたい方は、ぜひご一読ください。
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1.5度目標とは
1.5度目標の概要や計画が策定された背景について、わかりやすく解説します。
1.5度目標概要
1.5度目標とは、「世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をする」ことを目指すものです。2015年のパリ協定で示され、2021年のCOP26のカバー決定にも盛り込まれました。COPとは「Conference of Parties(国連気候変動枠組条約締約国会議)」の略です。
1.5度目標の達成には、2030年までに2010年比で世界全体のCO2排出量を、約45%削減しなくてはならないといわれています。
1.5度目標が設定された背景
なぜこのような目標が定められたのでしょうか。それには世界的な課題となっている地球温暖化による気温上昇が挙げられます。
地球温暖化の現状
地球温暖化の要因は、CO2をはじめとする温室効果ガスの増加です。「温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)」によると、2023年の大気中二酸化炭素の世界平均濃度は、前年と比べて2.3ppm増加し、420.0ppmでした。これは工業化以前(1750年)の平均的な値とされる約278ppmと比較すると、51%の増加です。
※1 ppm:大気中の分子100万個中にある対象物質の個数を表す単位
続いて、世界の年平均気温偏差の経年変化を見てみましょう。
2024年の世界の平均気温の基準値は、1891年の統計開始以降、2023年を上回り最も高い値となりました。長期的に見ると100年あたりで、0.77℃の割合で上昇をしていることになります。COP第5次評価報告書では、CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあることが報告されています。地球上に持続可能な社会を構築するためにも、地球温暖化の抑制は喫緊の課題です。
引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2024年)」
なぜ1.5度なのか
では、なぜ1.5度なのでしょうか。ここではパリ協定や炭素予算と呼称されるカーボンバジェットから解説していきます。
パリ協定
パリ協定は、1997年のCOP3で採択された京都議定書の後継となるものです。2015年、フランス・パリで開催されたCOP21で策定され、パリ会議と呼ばれることもあります。
パリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という、温室効果ガス削減に向けた取り組みが明文化されました。世界の平均気温は、産業革命以前と比較してすでに1度上昇しています。1.5度がいかに危機感を持って策定された目標であるかということがわかります。
また目標達成のためにCOPに加盟する196カ国全てが、2023年以降、温室効果ガス排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年毎に提出・更新することが義務づけられました。
カーボンバジェットは残りわずか
カーボンバジェットとは、「炭素予算」とも呼称されます。気候変動対策において、気温上昇をある一定の数値に抑え込んだとき、残りどれくらいの量のCO2を排出できるかという上限値を示すための指標です。
IPCCのシナリオでは、世界の平均気温上昇を50%の確率で1.5度以内まで抑えるには、温室効果ガス排出量は残り約500億ギガトン(CO2換算)しかないといわれています。逆にいえば1.5度以内に抑えることが叶わなければ、温室効果ガス排出量は抑制できず、地球温暖化はますます加速するということです。
1.5度目標と2度目標の違い
1.5度目標と2度目標は、どちらもパリ協定で設定された目標です。1.5度目標が達成された場合は、2度目標と比較して温暖化による影響が少ないと予測されているため、1.5度目標は2度目標よりもさらに積極的な目標といえます。
ドイツ気候サービスセンターの気候学者ダニエラ・ヤコブ氏は、「0,5度違えば、異常気象は大幅に増加する。より頻繁に、より激しくなり、期間も長くなる」と発言しています。IPCCによると、10年に1回発生するような猛暑事象は、気温上昇幅が1.5度の場合は10年に4.1回、2度の場合は5.6回に増大すると報告しています。
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世界の平均気温1.5度目標超える
世界気象機関(WMO)は、2024年の世界平均気温は産業革命前より、1.55度上昇したと報告しました。パリ協定で策定された気温上昇抑止目標とされる「1.5度」水準を単年で初めて超えたことになります。
1.5度を超えるとどうなるか
世界の平均気温が1.5度を超えるとどうなるのでしょうか。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、極端な高温や大雨などの気候システムの変動は、地球温暖化の進行に関連して拡大すると報告しています。実際に地球温暖化の加速とともに、異常気象や災害が頻発しています。
異常気象や災害の多発
2024年に世界で発生した災害や異常気象の一部をご紹介します。
異常気象の種類 | 地域 | 概況 |
---|---|---|
高温 | 米国西部~メキシコ(6~9月) | メキシコ北西部のエルモシージョの9月の月平均気温34.6度、米国南西部の6月の月平均気温は6月としては1895年以降で最高気温、また米国西部の7月の月平均気温は、7月としては1895年以降で最高気温 |
大雨 | 東アフリカ北部~西アフリカ(3~9 月) | 東アフリカ北部~西アフリカでは、3~9月の大雨により合計で2,900人以上が死亡 |
台風 | 中国南部~東南アジア(7、9~10月) | 中国南部~東南アジアでは、7月の台風第3号、9月の台風第11号、10月の台風第20号や大雨の影響により合計で1,240人以上が死亡と報告 |
ハリケーン | 米国(9月) | 米国南東部では、ハリケーン「HELENE」の影響で、220人以上が死亡したと報告された |
森林火災 | チリ(2月) | チリでは、2月の森林火災により380人以上が死亡したと報告された |
参照:2024 年(令和 6 年)の世界の主な異常気象・気象災害(気象庁)
1.5度目標に向けた国際的な取り組み
ここからは世界や日本の1.5度目標に向けた取り組みについて、詳しく解説していきます。
COP29の概要
2024年に開催されたCOP29では、先進国と気候変動対策のギャップが大きい途上国への気候資金に関する新たな目標が決定されました。またパリ協定第6条の詳細が決定したため、排出権取引やクレジットなどの国際的な活性化が期待されています。グローバルストックテイクに関しては、成果を踏まえた新たな取り組みは見られず、COP30での合意に向けて引き続き議論される予定です。
「COP(Conference of the Parties)とは|COP29・COP30の最新動向と日本の取り組みを解説」
世界と日本の温室効果ガス排出量の現状
世界の温室効果ガス排出量は、6大排出国だけで63%も占めました。対して、後発開発途上国の排出量はわずか3%です。
国名 | 2023年のGHG総排出量(MtCO2e) | 2023年のGHG一人当たりの排出量(tCO2e/一人当たり) |
---|---|---|
中国 | 16,000 | 11 |
米国 | 5,970 | 18 |
インド | 4,140 | 2.9 |
欧州連合 | 3,230 | 7.3 |
ロシア連邦 | 2,660 | 19 |
ブラジル | 1,300 | 6.0 |
アフリカ連合 | 3,190 | 2.2 |
後発開発途上国(47カ国) | 1,720 | 1.5 |
日本の温室効果ガス排出量
日本における2023年度の温室効果ガス排出量は、CO2換算で10 億 7,100 万トンでした。これは2022 年度の排出量11億1,600万トンと比較すると、4,490万トンの減少でした。
各国の気候変動対策
世界の主要国の温室効果ガス排出量削減目標は2023年12月時点で以下のようになります。
国名 | 中期目標 |
---|---|
米国 | 2030年までに50~52%削減(2005年比) |
英国 | 2030年に少なくとも68%(1990年比)、2035年までに78%(1990年比)削減 |
EU(仏・伊) | 2030年に少なくとも55%(1990年比)削減 |
中国 | 2030年までにCO2排出量を削減に転じさせ、中国 GDP当たりCO2排出量を65%超(2005年比)削減 |
カナダ | 2030年までに40-45%(2005年比)削減 |
インド | 2030年までにGDP当たりCO2排出量を45%(2005年比)削減、発電設備容量の50%を非化石燃料電源に変更 |
ブラジル | 2025年までに37%(2005年比)、2030年までに50%(2005年比)削減 |
ドイツ | 2030年に65%(1990年比) 、2040年に88%削減(1990年比) |
日本 | 2030年度に少なくとも46%削減(2013年度比)かつ、50%の高みに向けて挑戦を続ける |
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは?報告書と影響を解説
1.5度目標達成の課題
1.5度目標に対して、以下のような課題が存在します。詳しく解説していきます。
各国の気候変動対策の進捗差
1.5度目標の課題の一つに、各国の進捗差の問題が挙げられます。特に先進国と途上国、主要排出国と非主要排出国などで、取り組みのレベルやスピードに大きな差が見られます。各国の「NDC」の現状では、2035年までに世界全体の排出量を2019年比で60%削減するという目標達成は、非常に困難です。
そのため、各国の取り組みや進捗状況について評価する仕組みとして「グローバル・ストックテイク」が策定され、5年ごとに進捗状況の評価が行われることとなりました。2023年から開始され、2025年に最初の報告がされる予定です。
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途上国との格差
気候変動対策には先進国と途上国で大きな差があります。これまでのエネルギー起源の温室効果ガス排出量のほとんどは、先進国によるものです。そのため途上国は、地球温暖化に対して先進国が率先して責任を取ることや、資金援助を行うことなどを強く求めてきました。
そして気候資金として「2020年までに、先進国全体で、途上国の気候変動対策支援のために、毎年1,000億米ドルを動員する」という「1000億ドル目標」が立てられ、達成されました。その後、COP29では「先進国が主導して、2035年までに少なくとも年間3,000億米ドル動員する」目標が立てられ合意に至りましたが、複数の途上国からは不満の声が上がっています。
グローバル・ストックテイク(GST)とは?気候変動対策の進捗を評価する重要プロセスを解説
日本の1.5度目標への取り組み
ここからは国内の1.5度目標に対する取り組みを具体的にご紹介します。
日本の気候変動対策
日本は2025年2月に、2050年「ネット・ゼロの実現」に向けた野心的な「NDC」を掲げました。2035年度、2040年度において温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指します。具体的な政府実行計画としては、次の通りです。
再生可能エネルギーの最大限の活用 | |
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太陽光発電 |
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建築物の建築 |
|
財やサービスの購入・使用に当たっての取組 | |
GX製品 :製品単位の削減実績量や削減貢献量がより大きいものCFP(カーボンフットプリント)がより小さいもののこと |
|
企業事例
ここでは1.5度目標への取り組みを行っている国内企業をご紹介します。
事例:味の素株式会社
味の素株式会社は、2030年度までに温室効果ガス排出量を2018年度比で50%削減することを掲げています。取り組みとしては、バイオマスや太陽光等の再生可能エネルギーの積極的な利用や購入、スコープ3削減に向けたサプライヤーとの協働等、脱炭素経営に向けた取組みを推進しています。
事例:ダイキン工業株式会社
2025年度までに2005年度比で、CO2排出量を75%削減することを目指します。省エネなどの取り組みによる生産性の向上、新たな塗料の開発、さらに再生可能エネルギーの購入などを実施しています。
参照:環境省グリーンバリューチェーンプラットフォーム「業種別取組事例一覧」
事例:株式会社JVCケンウッド
新中期経営計画「VISION2025」の基本戦略の一つとして、「利益ある成長」と「グローバルでの社会課題解決」を両輪とするサステナビリティ経営推進。Scope1+2のCO2排出量を2030年度までに、2019年度比で46.2%削減、またScope3では、2030年度までに2019年度比13.5%削減を目指しています。
参照:環境省グリーンバリューチェーンプラットフォーム「業種別取組事例一覧」
世界と日本の地球温暖化対策とは?企業の取組事例までわかりやすく解説
まとめ
地球の平均気温上昇を1.5度以内に抑えるための国際的な「1.5度目標」について、さまざまな角度から解説しました。地球温暖化による気温上昇を抑止するためにも世界が協力しつつ、1.5度目標達成はスピード感をもって行うことが望まれます。
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