カーボンプライシングとは?手法やメリット・デメリット、現状について解説
カーボンニュートラルを実現するための有効な施策であるカーボンプライシングをご存じでしょうか。
カーボンプライシングとは、企業が排出するCO2に価格をつける国の政策手法であり、とくに海外で導入が進んでいます。
本記事では、カーボンプライシングの概要やメリット・デメリット、日本のカーボンプライシングの現状をわかりやすく解説します。
カーボンプライシングとは?
カーボンプライシングとは、CO2排出量に応じて金銭的負担を課す政策手法です。具体的に言うと、企業にカーボンプライシングが導入された場合、自社で発生したCO2排出量に見合った金銭的コストを支払わなくてはいけません。
CO2排出量に金銭的負担を課すことで、
カーボンプライシングが注目されている背景
カーボンプライシングが注目されている背景には
日本では、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度と比較して26%削減、さらに2050年までにはカーボンニュートラルを達成することを宣言しました。このような背景があり、カーボンプライシングの促進が叫ばれています。
カーボンプライシングの種類・手法
カーボンプライシングには次の3つの種類があります。
- 明示的カーボンプライシング
- 暗示的カーボンプライシング
- インターナルカーボンプライシング
それぞれの具体的な手法や制度について紹介していきます。
明示的カーボンプライシング
明示的カーボンプライシングとは、企業や消費者にCO2排出量に比例した金銭的負担を求めて、CO2削減行動に直接影響を与える方法です。主な手法は「炭素税」と「排出権取引」です。
炭素税
石炭などの化石エネルギー使用に当たり、炭素の含有量に応じて金銭的負担を課すのが炭素税です。炭素税の税率は、排出量一トン当たりの固定額で設定されています。これにより、企業はCO2をどれだけ減らせば税金を節約できるのか計算しやすくなります。
また、CO2排出量が多い企業ほど課税額が増えるため、積極的なCO2排出削減の行動変容が期待できます。
排出量取引制度
排出量取引制度は、キャップ&トレード方式ともいわれます。わかりやすく言うと、CO2排出量を取引する制度です。CO2を排出する企業に対して「排出枠」を設定します。その上限を超えなかった場合は、余った分を他社に販売可能です。
逆に超えてしまった場合は、超過分の排出枠を購入しなくてはいけません。大量のCO2排出量があった場合にペナルティを課す、という方法で脱炭素化を促進します。
炭素税と排出量取引制度は同時に用いることができるため、海外では両方の制度を導入している国が多くあります。
暗示的カーボンプライシング
暗示的カーボンプライシングとは、消費者を含むCO2排出者に対して、間接的にCO2削減を促すものです。
エネルギー課税
日本では低炭素社会実現のために、2012年から「地球温暖化対策のための税」が段階的に実施されています。石油・天然ガス・石炭といったすべての化石エネルギーの利用に対するCO2排出量が対象です。
日常的な例でいうと、自動車や電気の使用によって発生するCO2排出量に対して、税金がかかっています。
固定買取制度(FIT)
固定価格買取制度とは、再生可能エネルギー普及のために国が制定した制度です。再生可能エネルギーによって発電された電力を、電力会社が一定期間、固定価格で買い取ることを義務付けています。日本では、電力会社から電気を購入する際に再エネ賦課金として国民が負担する仕組みになっています。
再生可能エネルギーの普及は間接的にCO2削減につながるため、暗示的カーボンプライシングの一つと言えるでしょう。
補助金・税制の優遇措置
脱炭素の施策を講じる事業者に対しては、国からの補助金や税制優遇措置があり、これらを活用することでCO2排出削減につながります。代表的なものをいくつか表にまとめました。
補助金・税制優遇措置 | 内容 |
---|---|
省エネ補助金 | 工場・事業場において実施されるエネルギー消費効率の高い設備への更新への補助 |
ものづくり補助金(グリーン枠) | ①温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービスの開発への補助 ②炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善など、生産性向上に資する取り組みへの補助 |
事業再構築補助金(グリーン成長枠) | グリーン分野で事業再構築を行うために必要となる経費を補助(建物費、機械装置・システム構築費など) |
カーボンニュートラル(CN)投資促進税制 | 大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備や生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入を補助 |
クレジット制度
クレジット制度とは、CO2削減量を「価値」として証書化し、取引を実施する「クレジット取引」のことです。主なものに「J-クレジット制度」や「非化石証書」「二国間クレジット制度」があります。それぞれを簡単に紹介します。
-
J-クレジット制度
再生可能エネルギーの使用や省エネ設備の推進、さらに適切な森林管理を行うことで得られるCO2等の吸収量を、国が「クレジット」として認証する制度です。 - 非化石証書
非化石証書とは、非化石エネルギーである再生可能エネルギー等で発電された電力の「環境価値」を証書化したものです。 -
二国間クレジット制度
日本が途上国等に対して、脱炭素技術等の普及や対策を行うことで実現したCO2排出削減・吸収を定量的に評価し、日本の排出削減目標の達成に活用するクレジット制度です。
インターナルカーボンプライシング
企業がCO2排出量に対する価格設定を独自に行い、事業のCO2排出量を削減するために導入するのがインターナルカーボンプライシングです。
自社で価格を設定することにより、事業が環境に与えている問題点が明確になります。その結果、社内の意識変革や行動変容に結びつけることが可能です。さらに自社のCO2排出量が可視化されることで、新たな設備投資やイノベーション促進の判断やきっかけにもなります。
カーボンプライシングのメリット・効果
カーボンプライシングの主なメリットは次の3つです。それぞれを詳しく解説します。
- CO2排出量の削減を促進できる
- 企業の温室効果ガス削減の努力を評価できる
- 消費者の意識・行動を変革できる
CO2排出量の削減を促進できる
カーボンプライシング導入の最大のメリットは、CO2排出量の削減効果が期待できることです。カーボンプライシングによる金銭的コストは、一見「負のインセンティブ」ではありますが、価格付けでCO2排出量が明確になるため、企業の具体的な行動設計を引き出すことが可能です。
CO2排出量が削減されると、地球温暖化が抑止され、持続可能な社会の構築に大きく貢献します。
企業の温室効果ガス削減の努力を評価できる
企業がカーボンプライシングを導入することでCO2排出削減が可視化されれば、消費者は企業の努力を評価できます。消費者の評価は、企業の環境価値やブランディングを高めてくれるでしょう。
企業の価値が向上することでESG投資家に注目され、自社への投資増加につながる可能性もあります。
消費者の意識・行動を変革できる
企業が積極的に脱炭素活動を行うことは、企業の製品やサービスを利用している消費者の行動変容や意識改革につながります。特にZ世代をはじめとした若年層は、製品やサービスの環境背景を重視する傾向があります。そのような世代の後押しを積極的に行うことで、消費者の脱炭素行動をより拡大していくことができるでしょう。
カーボンプライシングのデメリット・課題
カーボンプライシングにはデメリットや課題も存在します。どのようなデメリットや課題があるのかを詳しくご紹介します。
カーボンリーケージが起きうる
カーボンプライシングを促進する中で、カーボンリーケージという問題が発生する可能性があります。カーボンリーケージとは、CO2排出量規制の厳しい国の企業が規制の厳しくない国へ生産拠点を移すことで排出量削減から逃れることです。当然、自国のCO2排出量は削減されても、地球規模でみたCO2排出量は削減するどころか増大する結果になりかねません。
企業のコスト負担が増える
カーボンプライシングを導入するということは、企業はCO2排出量に応じた金銭的コストを負うということです。金銭的コストは当然企業にとって負担となり、事業活動に対して影響を及ぼす恐れがあります。
特にサプライチェーンをグローバルに展開している企業は、コスト負担が大きくなる可能性が高く、国際競争力を低下させてしまう危険性は否めません。
CO2の排出量が減少する保証はない
カーボンプライシング導入により、すぐに企業のCO2排出量が減少するという保証はありません。日本のエネルギーにかかるコストは、海外と比較しても高額です。施策として有効でも必ずしも結果が保証されるわけではないため、企業の負担だけが増すという懸念があります。
カーボンプライシングの現状
ここではカーボンプライシングの現状と取り組みを、海外と国内に分けてご紹介します。
世界の取り組み
世界では68のカーボンプライシング制度が運用されており(2022年度時点)、これらの制度で世界全体の温室効果ガス排出量の約23%をカバーしていると言われています。また、世界的なエネルギー危機が生じる中、欧米や中国などでは、エネルギー安全保障と脱炭素化を両立するために自然エネルギー拡大を基盤にした戦略を打ち立てています。
そのほか各国の対策を簡単にご紹介します。
- EU
EUは、2023年から炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入することを公表しました。CBAMとは、EU領域の事業者がCBAMの対象製品を域外から輸入する際に、域内で製造した場合はEU排出量取引制度に準じた炭素価格対応の支払いを義務付けるものです。いわゆるカーボンリーケージの対策として実施されるもので、カーボンプライシングの施策を強化していると言えます。 - 中国
中国はアメリカと並ぶ世界最大の温室効果ガス排出国ですが、2060年までにカーボンニュートラルを達成することを表明しました。2021年に「炭素排出割当量取引管理弁法(試行版)」を施行し、同年7月には「全国炭素排出量取引市場」がオンライン取引もスタートさせています。その後発電業界の大手2162社が参加し、CO2排出量約45億トンをカバーした世界最大規模の炭素排出量取引市場を築いています。 - ニュージーランド
ニュージーランドは、カーボンプライシング適用の拡大を推進しています。2019年には、既存の排出量取引の適用対象外だった農業関連分野のうち、肥料加工業者などを対象とする方針を公表しました。さらに、家畜業者に関しても適用の検討をしています。また、2020年度には排出量取引制度を強化する法案を可決しました。
日本の取り組み
日本のカーボンプライシングの導入は、世界に比してかなり遅れているのが現状と言えるでしょう。東京都は2007年に排出権取引を提案し、2008年に条例制定、2010年には実施を開始しています。しかし、その後目立った取り組みは行われていません。
そのような現状の中、2023年には、「GXリーグ」において「成長志向型カーボンプライシング」が提唱されました。GX戦略の中心に位置づけられ、今後10年間で150兆円の投資が計画されています。さらにGXリーグは、自主的な排出権取引やカーボンクレジット市場の拡大にも寄与していく計画です。
民間の動きとしては、日経平均株価に採用されている国内企業225社のうち、85社がインターナル・カーボンプライシングの導入を行っています(日興リサーチ2023年1月時点)。カーボンニュートラル宣言後、確実にカーボンプライシング導入が注目されていることがわかります。
カーボンプライシングについてよくある質問
ここではカーボンプライシングについてよくある質問と回答をご紹介します。
Q. カーボンプライシングと炭素税の違いは何ですか?
カーボンプライシングとは、炭素に価格を付けることで、企業や消費者の行動変容を促す政策手法のことです。一方炭素税とは、化石エネルギー使用時に炭素の含有量に応じて、金銭的負担が発生する税法のことです。
Q. カーボンプライシングの具体的な手法は?
カーボンプライシングの具体的な手法には、次の3つが挙げられます。
- 明示的カーボンプライシング(CO2排出量に応じて金銭的コストを課すもの)
- 暗示的カーボンプライシング(消費者や生産者に対して、間接的にCO2削減を促すもの)
- インターナルカーボンプライシング(企業がCO2排出量に対する価格設定を独自に行い、事業のCO2排出量を削減するもの)
Q. カーボンプライシングの問題点は?
カーボンプライシングには、企業がCO2排出量規制の厳しくない国へ生産拠点を移すカーボンリーケージや、CO2排出量を確実に削減できるという保証はないなどの問題点があります。将来的な見通しを立てずにただ導入しても、企業のコスト負担が増すだけになってしまう恐れがあります。社内で脱炭素への取り組み設計を入念に計画し、カーボンプライシング導入を行うことが重要であり有効です。
まとめ
カーボンニュートラル達成や、経済産業省が推進しているGX戦略において重要なカーボンプライシングについて詳しく解説しました。
企業や消費者の大きな行動変容を促すためにCO2排出量に金銭的負担を求めるカーボンプライシングは、今後さらなる推進が予測されます。
いざ、カーボンプライシング導入となったときに慌てることのないよう、まずはカーボンプライシングの知識を身につけることが重要です。ぜひ本記事を参考に、カーボンプライシングの導入を社内で検討してみてください。
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