TNFDとは?TCFDとの違いや開示企業の事例をわかりやすく解説

近年、企業の持続可能性に対する関心が高まる中、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が注目を集めています。これは、自然資本や生物多様性に関連するリスクと機会を企業が把握し、開示するための国際的な枠組みです。本記事では、気候変動に焦点を当てたTCFDとの違いを解説し、実際にTNFDへ対応している主な企業を紹介します。自然環境への影響を考慮した経営が求められる今、その重要性を詳しく見ていきましょう。
>>>「金融機関の法人営業担当者が押さえておくべき脱炭素経営の基礎知識の資料をダウンロードする」
TNFDとは?基本を押さえよう
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の概要
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然環境に関連するリスクや機会を把握し、それを財務情報として適切に開示するためのフレームワークを提供する国際的なイニシアティブです。
TNFDは、金融市場における透明性の向上と、企業が自然環境に与える影響の可視化を目的とし、投資家やステークホルダーが持続可能な意思決定を行うための指針を提供します。
TNFDの定義と目的
TNFDの目的は、企業や金融機関が自然資本に関するリスクを適切に評価し、それに基づいた経営判断を行うことを支援することです。
具体的には、企業が自然関連リスクを財務報告に統合し、投資家や関係者が企業の持続可能性を適切に評価できるようにすることを目指しています。
TNFDは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)と同様の枠組みを持ち、自然環境と企業経営の関係性を明確にし、持続可能な経済活動を促進することを目指しています。
設立の背景
TNFDは、世界的な環境問題の深刻化を受けて2021年に設立されました。特に、生物多様性の損失やエコシステムの崩壊が経済活動に及ぼす影響が懸念されており、金融市場や企業経営において自然関連リスクの認識が求められています。
従来の財務報告では、自然資本の減少や生態系サービスの変化が企業の事業運営に与える影響が十分に考慮されていませんでした。
しかし、企業活動が森林伐採、水資源の枯渇、土壌劣化などの問題を引き起こし、それが長期的な財務リスクとなることが明らかになってきました。そのため、TNFDは、これらのリスクを企業が適切に認識し、報告するための枠組みを構築することを目的にしています。
TNFDの活動を支える主要機関
TNFDの活動は、国際的な公的機関や民間企業、NGOなどの幅広いステークホルダーによって支えられています。主な関係機関は以下の通りです。
- 国連環境計画(UNEP):環境問題に関する国際的な取り組みを推進
- 世界自然保護基金(WWF):自然保護活動を行い、TNFDのフレームワーク策定に関与
- 世界経済フォーラム(WEF):企業や政府との連携を強化
これらの組織の協力により、TNFDの枠組みは国際的な基準として発展しつつあります。
TNFDが求められる背景
TNFDは企業におけるサステナビリティへの関心の高まりや、自然関連リスクなどの理由で注目されるようになってきています。
企業経営におけるサステナビリティの重要性の高まり
近年、企業経営においてサステナビリティが重要なテーマとなっています。特に、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大に伴い、企業が環境負荷を考慮した経営戦略を持つことが求められています。
TNFDは、企業が自然環境と調和した経営を行うための指針を提供し、長期的な価値創造を可能にします。企業は、自然資本を適切に管理することで、事業リスクを低減し、投資家や消費者からの信頼を獲得することができます。
自然関連リスクとは?
自然関連リスクとは、企業活動が自然環境に与える影響や、逆に自然環境の変化が企業の財務状況に及ぼすリスクのことを指します。具体的なリスクは以下の通りです。
- 物理的リスク:気候変動や生態系の変化により、事業運営が影響を受けるリスク(例:水不足による生産停止)
- 移行リスク:環境規制の強化や市場の変化により、企業の競争力が低下するリスク(例:森林破壊に対する規制強化によるコスト増加)
- 評判リスク:企業の環境負荷が社会的に問題視され、ブランド価値が低下するリスク(例:違法伐採による企業イメージの悪化)
企業がこれらのリスクを適切に管理し、透明性を持って開示することが求められています。
国際社会の動き
国際社会では、自然資本を保全するための取り組みが加速しています。これまでに以下のような国際的な枠組みがTNFDの背景として影響を与えてきました。
- 生物多様性条約(CBD):自然環境の保全に関する国際条約
- パリ協定:気候変動対策の国際的枠組み
- 持続可能な開発目標(SDGs):環境保全を含む国際的な目標
これらの国際的な取り組みと連携しながら、TNFDは企業に対して自然関連リスクの適切な開示を求めています。
TNFDの登場と、企業が向き合うべき課題
TNFDの登場により、企業は自然環境に対する影響を財務情報とともに報告することが求められるようになりました。しかし、企業がこの新たな枠組みに対応するためには、以下のような課題が存在します。
- データの収集と分析:自然関連リスクを評価するためのデータが不足している
- 社内体制の整備:環境リスクを財務戦略に統合するための社内体制の構築
- ステークホルダーとの連携:投資家や消費者への透明性の確保
これらの課題に対応し、TNFDのガイドラインに基づいた情報開示を進めることが、持続可能な企業経営の鍵となります。
TNFDのフレームワークを活用することで、企業は自然資本の保全と経済成長を両立させることができるでしょう。
TNFDのフレームワーク「LEAPアプローチ」とは?
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、企業が自然資本や生物多様性に関するリスクと機会を特定し、適切な情報開示を行うための枠組みを提供しています。その中心的なアプローチが「LEAPアプローチ」です。
LEAPは以下の4つのステップで構成され、企業が自然関連のリスクを体系的に評価し、開示の準備を進めるための指針となります。
参考:https://www.env.go.jp/content/000178847.pdf
Locate(特定)
このステップでは、企業が事業活動を行っている地域やサプライチェーンのどの部分が自然環境と相互作用しているかを特定します。
具体的には、土地利用や水資源の利用、生態系サービスの依存度を明らかにし、影響を受けやすい地域を特定することが求められます。
Evaluate(評価)
特定された地域において、どのような自然関連のリスクや機会が存在するのかを評価します。例えば、生態系の劣化や気候変動の影響によるリスクの増加、または持続可能な資源管理による事業機会などです。
この評価は、科学的データや現地調査に基づいて行われ、企業のリスク管理に役立ちます。
Assess(分析)
評価したリスクや機会が、企業の財務や事業運営にどのような影響を与えるかを分析します。
特に、収益性やコスト構造、事業の持続可能性に与える影響を検討し、短期・中長期の観点からリスクの大きさを測ることが重要です。
Prepare(準備)
最後のステップでは、分析結果をもとに、開示の準備やリスク管理の戦略を策定します。企業は、どの情報をどのように開示するかを決定し、投資家やステークホルダーに向けた適切な情報提供を行うことが必要です。
また、持続可能な事業運営に向けた施策を立案し、実行に移すことも求められます。
TCFDとの違いは何か?
TNFDと比較されることの多い枠組みとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)があります。TCFDは主に気候変動に関連する財務リスクと機会の開示を推進するための枠組みであり、TNFDと共通する点も多いですが、異なる点も存在します。
TCFDについては以下の記事でも詳しく解説しています。
>>>「TCFDとは?開示項目や企業が賛同するメリットなどをわかりやすく解説!」
そもそもTCFDとは?
TCFDは、気候変動が企業の財務に与える影響を明確にするために、金融安定理事会(FSB)によって2015年に設立されました。企業が気候関連のリスクを適切に開示することで、投資家や金融機関がより適切な意思決定を行えるようにすることが目的です。
参考:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/disclosure.html
気候変動リスクと企業の財務影響を明らかにする目的
気候変動は、企業の財務状況に直接的・間接的な影響を及ぼす可能性があります。例えば、気温上昇や異常気象による事業継続リスク、温室効果ガス排出規制の強化によるコスト増加、消費者の環境意識の高まりによる市場変化などです。
TCFDは、こうしたリスクを企業が明確に認識し、適切な戦略を立てるための枠組みを提供しています。
開示の4つの柱(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)
TCFDの枠組みは、以下の4つの柱で構成されています。
- ガバナンス:気候変動に関する組織の監督や意思決定プロセス
- 戦略:気候関連リスク・機会が事業戦略や財務計画に与える影響
- リスク管理:気候関連リスクの特定、評価、管理の方法
- 指標と目標:リスク・機会を評価するための指標と目標の設定
この枠組みに従い、企業は気候変動が財務に与える影響を可視化し、利害関係者に適切な情報を提供することが求められます。
TNFDとTCFDの共通点
TNFDは、TCFDの概念を基に、気候変動だけでなく自然資本全般に関する財務リスクを明らかにするために設立された枠組みです。TCFDと同様に、投資家や企業が自然関連リスクを適切に評価し、持続可能な経営判断を行うことを目的としています。
共通点として、以下の点が挙げられます。
- 目的の類似性:いずれも環境リスクの可視化と情報開示を推進し、持続可能な経営判断を促す。
- 4つの柱の構成:TNFDもTCFDと同様に、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の枠組みを採用。
- 投資家や金融機関への情報提供:企業が環境リスクを開示することで、投資家や金融機関の意思決定を支援。
TNFDとTCFDの違い
TCFDが「気候変動」に焦点を当てるのに対し、TNFDは「自然全般」、つまり生物多様性や生態系の健全性も含めたリスクと機会を対象としています。具体的な違いは以下の通りです
項目 | TCFD(気候関連) | TNFD(自然関連) |
---|---|---|
対象範囲 | 気候変動リスク | 生物多様性、森林、海洋資源などの自然資本 |
設立年 | 2015年 | 2021年 |
主なリスク | 温暖化、異常気象、排出規制など | 生態系劣化、土地利用変化、生物多様性喪失 |
情報開示の枠組み | 4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標) | 4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標) |
TCFDを導入済みの企業にとって、TNFDは「次なるステップ」
すでにTCFDを導入している企業にとって、TNFDは持続可能性に関するさらなる取り組みのステップです。気候変動に対応するだけでなく、生物多様性や自然資本の保全を考慮することで、より包括的なリスク管理と機会創出が可能になります。
例えば、森林を利用する企業であれば、森林伐採が生物多様性に与える影響を考慮し、持続可能な調達方針を策定することが必要です。また、水資源を多く使用する企業は、水ストレスの影響を考慮し、適切な管理戦略を構築することが求められます。
今後、投資家や規制当局は、気候変動リスクだけでなく、自然資本リスクの開示を求める傾向が強まると考えられます。そのため、TCFDに取り組んできた企業は、その知見を活かしながらTNFDへの対応を進めることが望ましいでしょう。
TNFDに対応するメリットと課題
企業の持続可能性が重視される中で、企業がTNFDへの対応を行うメリットがある一方で、課題もあります。
TNFD対応のメリット
TNFDの主なメリットは以下の通りです。
投資家・金融機関の評価向上
TNFDに対応することにより、投資家や金融機関からの評価が向上します。環境や社会への影響を重視するESG投資の拡大に伴い、企業が自然資本にどのように配慮しているかが重要視されるようになりました。
TNFD対応を進めることで、企業は投資家に対してリスク管理の透明性を示すことができ、資金調達の選択肢が広がります。特に、金融機関が自然関連リスクを考慮する傾向が強まっているため、対応を進めることは企業にとって大きな競争優位性となります。
リスク管理の強化
自然資本に関するリスクを可視化し、適切に管理することは、企業の持続的成長に不可欠です。例えば、気候変動や生物多様性の喪失が企業のサプライチェーンに与える影響を事前に評価し、リスク低減策を講じることが可能になります。
また、環境法規制の強化にも適応しやすくなり、将来的な罰則や制裁リスクを回避することにもつながります。
企業価値向上
TNFD対応を通じて環境負荷の低減を図ることで、企業ブランドの価値を向上させることが可能です。消費者や取引先が環境に配慮した企業を選択する傾向が強まる中で、持続可能な経営方針を明確にすることは市場競争において有利に働きます。
さらに、従業員のエンゲージメント向上や新たなビジネス機会の創出にも寄与します。
TNFD対応の課題と乗り越え方
TNFDの対応には難しいポイントがあります。しかし、、適切な対応を行えばそれを乗り越えることは可能です。
データ収集の難しさ
TNFDに基づいた開示を行うには、自然関連のデータを正確に収集し、分析する必要があります。しかし、環境データの取得は容易ではなく、特に生物多様性に関する情報は不確実性が高い傾向にあります。
この課題を克服するためには、衛星データやIoT技術を活用し、データの正確性を高めることが有効です。また、専門機関や大学との連携により、科学的根拠に基づいたデータ収集の仕組みを整えることも重要です。
開示基準の統一化が進行中
現在、TNFDは開示基準の策定を進めている段階にあり、企業がどのように情報を開示すべきかについては、まだ明確なガイドラインが定まっていません。このため、企業はどの程度の情報を開示すべきか判断に迷うことが多いです。
こうした不確実性を乗り越えるためには、先行企業の事例を参考にしながら、自社の事業特性に応じた適切な情報開示の方針を策定することが重要です。
サプライチェーン全体の可視化
TNFD対応を進めるには、自社だけでなくサプライチェーン全体における環境負荷を把握する必要があります。しかし、多くの企業にとって、取引先や下請け企業の環境データを収集することは容易ではありません。
この問題に対処するためには、サプライヤーとの協力体制を強化し、環境基準の遵守を求める契約を結ぶことが有効です。
TNFDに関する各国の動き
国家単位でもTNFDへの対応が積極的に進められています。
日本の動向
日本政府は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応を積極的に進めています。環境省は2023年3月に「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」を策定。企業の生物多様性への取り組みを支援しています。
金融庁はサステナブルファイナンスの取り組みを推進。気候変動リスク情報の活用促進に向けた公開シンポジウムを共催するなど、企業の情報開示を支援しています。
また民間企業でも、住友商事は2024年1月にTNFDの早期採用企業として登録し、自然資本の保全・回復と情報開示の強化に取り組んでいます。
参考:
https://www.env.go.jp/press/press_01452.html
https://www.fsa.go.jp/policy/sustainable-finance/index.html
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2024/group/20240117
世界の動向
欧州連合(EU)は、生物多様性戦略の一環として、企業に対する環境リスクの開示義務を強化しています。具体的には、2023年1月に「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」を発効。
EU域内で事業を展開する企業に対し、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報開示を義務付けています。 この指令は、生物多様性関連の情報開示も求めており、企業の環境リスク管理の透明性向上を目指しています。
アメリカやカナダでは企業においても、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のガイドラインを取り入れる動きが進行中です。
世界最大の資産運用会社であるブラックロックは、投資目的としてサステナビリティに重点を置いた戦略を推進。自社の運用商品のステナビリティ特性に関する情報開示を強化しています。
カナダの大手金融グループであるマニュライフの資産運用部門のマニュライフ・インベストメント・マネジメントは、自然資本への投資を推進。森林管理を通じてCO₂を削減する取り組みを行っており、林業投資を5年間で拡大することを約束しています。
参考:
https://www.env.go.jp/content/000272572.pdf
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter/archives/2020-blackrock-client-letter
https://www.manulife.co.jp/ja/individual/about/company/sustainability/impact-agenda/sustainable-future.html
TNFDに対応する企業の事例
日系企業、外資系企業ともにTNFDに関するさまざまな取り組みを行っています。
参考:https://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20231227/01.pdf
日本企業の先進事例
日本企業では以下の企業をはじめ、TNFDへの取り組みを行っています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、環境負荷の低減を経営戦略の中核に据え、持続可能なモビリティの実現を目指しています。TNFDの趣旨に沿い、同社は生態系への影響を最小限に抑えるための施策を推進。
例えば、サプライチェーン全体での環境配慮型材料の採用や、水資源の管理強化、森林保全活動への支援を行っています。また、電動化技術の進化を通じて、温室効果ガス排出削減にも貢献しながら、生態系保全の視点を取り入れた事業展開を進めています。
参考:https://www.toyota-boshoku.com/jp/sustainability/environment/management/tnfd/
三菱UFJフィナンシャル・グループ
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、金融業界におけるサステナビリティ推進のリーダーとして、TNFDに基づいたリスク管理と投融資の強化に取り組んでいます。自然関連リスクを考慮した投資判断基準を策定し、生物多様性に配慮した企業への支援を拡大。
加えて、自然資本を考慮したファイナンス商品やグリーンボンドの発行を推進し、環境負荷の少ない事業の資金調達を支援することで、持続可能な金融システムの構築を目指しています。
参考:https://www.mufg.jp/csr/environment/nature/index.html
花王
花王は、製品のライフサイクル全体での環境負荷低減を推進し、TNFDの原則を取り入れた経営を実践しています。特に、水資源の使用削減と水環境保全に重点を置き、洗剤や化粧品の製造工程での水使用量削減技術を開発。
また、森林認証制度に適合した原材料調達を進めることで、持続可能な原材料調達の強化を図っています。さらに、生物多様性保全活動として、地域の環境再生プロジェクトにも積極的に参画しています。
参考:https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20230410-001/
キリン
キリンは、食品・飲料業界における自然資本の持続可能な利用に取り組んでおり、特に水資源管理に注力しています。TNFDの方針に則り、ビール製造に必要な水の使用効率向上を図り、排水の適正処理や水源の保全活動を実施。
また、森林保全活動として、原料のホップや麦の生産地での生態系保全プログラムを実施し、農業の持続可能性にも貢献。さらに、生物多様性に配慮した農業資源の調達を拡大し、環境負荷の少ないサプライチェーン構築に努めています。
参考:https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/tcfd/risk_and_opportunity/
三井住友フィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループは、TNFDの枠組みに沿った自然関連リスク管理を導入し、持続可能な投融資の拡充を進めています。特に、生物多様性の保全に資する事業への投資を強化し、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大を図っています。
さらに、森林保全プロジェクトや再生可能エネルギー分野への融資を積極的に行い、環境負荷の低減と経済的価値の両立を実現。企業顧客向けに、TNFD対応のためのコンサルティングも提供し、企業の環境リスク管理を支援しています。
参考:https://www.smfg.co.jp/sustainability/materiality/environment/naturalcapital/
外資系企業の取り組み
外資系企業では以下の企業の取り組みが注目されています。
ユニリーバ
ユニリーバは、持続可能な原材料調達を経営の中心に据え、TNFDに準拠した自然資本の管理を推進。特に、森林破壊ゼロの調達方針を掲げ、パーム油や紙製品のサプライチェーンにおいて生態系保全に配慮。さらに、水資源の有効利用を促進し、製造工程での排水削減技術を導入することで、環境負荷を軽減。消費者向けには、環境に配慮した製品開発を進め、サステナブルなライフスタイルを提案しています。
参考:https://www.unilever.co.jp/sustainability/protect-and-regenerate-nature/
HSBC
HSBCは、金融機関としてTNFDの考え方を取り入れ、自然関連リスクの管理を強化。特に、持続可能な投融資の拡大を図り、生態系に配慮したプロジェクトへの資金供給を拡充しています。
また、グリーンボンドの発行やESG投資を通じて、生物多様性の保全に貢献。さらに、企業向けにTNFD対応支援のアドバイザリーサービスを提供し、環境リスクの管理を促進しています。
ネスレ
ネスレは、農業資源の持続可能な利用を最優先課題とし、TNFDの理念に基づいた取り組みを展開。特に、持続可能なカカオやコーヒーの調達を強化し、生態系保全と農業の両立を目指しています。
水資源管理にも力を入れ、製造過程での水使用量削減と排水の適正処理を徹底。さらに、森林再生プロジェクトや地域社会との協働による環境保護活動を進め、サプライチェーン全体での環境負荷低減に取り組んでいます。
参考:https://www.nestle.co.jp/csv/impact/sustainable-sourcing/farming
企業がTNFD対応を進めるためのステップ
生物多様性の損失や自然環境の悪化が深刻化する中、企業が持続可能な経営を実現するためには、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応が不可欠です。
TNFDは、企業が自然関連のリスクと機会を把握し、それを財務情報に組み込むことを支援するフレームワークです。ここでは企業がTNFD対応を進めるための具体的なステップを紹介します。
具体的なアクションプラン
TNFD対応を進めるためには、戦略的かつ体系的なアプローチが求められます。以下のステップを順に実施することで、企業はより効果的にTNFDに準拠した対応が可能となります。
自社の自然関連リスクを洗い出す
まず、自社の事業活動がどのように自然環境に影響を与え、また自然環境の変化が事業にどのようなリスクをもたらすのかを特定することが必要です。
例えば、農業、林業、漁業、製造業など、自然資源を多く利用する業種では、気候変動や生物多様性の喪失による影響が特に大きくなります。
リスクの洗い出しには、以下のような手法が有効です。
- 自社のサプライチェーン全体を見渡し、どこで自然資源を利用しているかを特定する。
- 事業が依存する自然資源(例:水資源、森林、土壌の健康状態など)を評価する。
- 環境に関連する外部データを活用し、地域ごとの環境リスクを特定する。
リスクと機会を分析する
自然関連のリスクには、物理的リスク、移行リスク、評判リスクなどが含まれます。例えば、異常気象による原材料調達の困難化(物理的リスク)、環境規制の強化によるコスト増加(移行リスク)、生物多様性を損なう事業活動への批判(評判リスク)などです。
一方で、自然環境を考慮した経営を行うことで、以下のような新たな市場機会を創出することも可能です。
- 環境配慮型の商品・サービスの提供
- 循環型経済の実践によるコスト削減
- ESG投資家や消費者からの支持の獲得
リスクと機会の分析には、既存のフレームワーク(例:TCFDのシナリオ分析手法)を活用することが有効です。
開示計画を策定する
TNFDでは、企業が自然関連のリスクと機会を適切に開示することを推奨しています。開示計画を策定する際には、以下のポイントを考慮しましょう。
- どのような情報を開示するのか(定量的・定性的データ)
- どの報告書やプラットフォームで開示するのか(例:統合報告書、サステナビリティレポート)
- ステークホルダー(投資家、顧客、規制当局など)に対してどのように伝えるのか
このプロセスでは、TNFDのガイドラインに準拠しつつ、企業の業界特性に合った開示方法を検討することが重要です。
ステークホルダーと連携する
TNFD対応は企業単独で進めることは困難です。サプライヤーと協力し、持続可能な調達基準を策定する、地域社会やNGOと協力し、生態系保全プロジェクトに参画するなど、さまざまなステークホルダーとの連携が必要不可欠です。
また企業として投資家や金融機関と対話し、自然関連のリスク情報を適切に開示することも重要です。
活用できるリソース・フレームワーク
TNFD対応を進める際に活用できるリソースやフレームワークも数多く存在します。代表的なものを紹介します。
TNFD公式ガイドライン
TNFDは、企業が自然関連のリスクを特定し、評価し、開示するためのガイドラインを提供しています。公式サイトでは、最新のフレームワークや実践例が公開されており、企業の取り組みに役立ちます。
GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)との統合
GRIは、サステナビリティ報告の国際的な基準を提供する団体であり、TNFDと親和性が高い指標を多数持っています。GRIとTNFDの両方を活用することで、より包括的な開示が可能になります。
参考:https://www.globalreporting.org/
SBTN(Science Based Targets for Network)との連携
SBTNは、企業が科学的根拠に基づいた自然環境への影響削減目標を設定するためのフレームワークを提供しています。TNFDの枠組みを活用しながら、SBTNの目標設定を行うことで、企業の環境配慮型経営をさらに強化できます。
参考:https://sciencebasedtargetsnetwork.org/
TNFD対応が企業の未来を決める
TNFD対応は単なる規制対応ではなく、企業の持続可能性や競争力を高める重要な要素となります。環境への配慮が求められる現代において、自然関連リスクを適切に管理し、機会を生かす企業が市場での優位性を確保するでしょう。
今後、投資家や消費者の意識が高まり、環境に配慮した企業が評価される時代が到来します。TNFDへの対応を早期に進めることで、企業は持続可能な成長を実現し、社会的責任を果たすことができるでしょう。
スキルアップNeXtのメールマガジンでは会社のお知らせや講座に関するお得な情報を配信しています。
メルマガに登録して用語集をもらう
また、SNSでもGXに関するさまざまなコンテンツをお届けしています。興味を持った方は是非チェックしてください♪