原子力発電のメリットとデメリットとは?仕組みや課題をわかりやすく解説!
原子力発電は安定した電力供給や少燃料で稼働させられるメリットがある一方、事故が発生すると原発周辺に大きな影響を与えてしまうデメリットもあります。
原子力発電についてよく理解していない状態で議論している方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は原子力発電のメリットやデメリットをはじめ多角的な視点から原子力発電について掘り下げていきます。
この記事では、原子力発電とは一体どのようなシステムで稼働しているのか、原子力発電の仕組みや世界各国の原子力発電の現状を解説します。また、火力発電や太陽光発電など、その他の発電システムとの違いについても説明していきます。
原子力発電について知りたい方は是非参考にしてください。
原子力発電とは
原子力発電とは、天然資源のウランを燃料とする発電方法で、核分裂で生まれた熱を活用し、蒸気の力で発電する方法です。
電力を生み出すまでの流れは下記の通りです。
1:ウランが核分裂を引き起こし、大量の熱を生み出す
2:この時生じた熱により蒸気を生み出す
3:蒸気によりタービンを回転させ、電気を生成する
4:生成された蒸気は冷却され、再び水に戻る
核燃料の原子核が中性子にぶつかると核分裂を起こしますが、その時に大量の熱とエネルギーそれに新たな中性子が放出され、この時できた新しい中性子が、別の原子核に当たると言ったように連鎖的に核分裂を引き起こし、連鎖反応が起こります。
原子力発電では、この連鎖反応を適切にコントロールし、大きな熱エネルギーを得ます。
ウラン燃料の使用
原子力発電は天然資源のウランを燃料として使用します。
出典:関西電力|原子力発電と原子爆弾は違います
ウラン燃料はウラン鉱石から採取され、核分裂を引き起こしやすいウラン235を約4%、それに核分裂しにくいウラン238を96%混ぜて作られます(原子爆弾は核分裂しやすいウラン235が100%の割合で構成されています)。
出典:関西電力|熱が発生するしくみ:核分裂
ウラン235は核分裂を引き起こしやすいため原子炉の中で中性子による核分裂反応を引き起こし、膨大な熱エネルギーを引き起こしますが、原子力発電は、この熱エネルギーにより水を蒸気に変え、蒸気の力でタービンを回し発電する形で電気を生み出す仕組みです。
出典:関西電力|原子力発電の燃料:ウラン燃料
発電燃料として使用するウランはペレットと呼ばれる、直径1cmほどのセラミック状に焼き固められた小さな円柱形に加工されるのが通常で、これを被覆管の中におよそ320個ほど束ねて燃料棒を作り、束ねられた燃料棒をさらに264本に束ねられて「燃料集合体」が作られ、この燃料集合体を使い熱エネルギーを生み出します。
ちなみに直径1cmほどのペレット一個で、一般家庭で使用される電気の約6ヶ月分を発電することができますが、発電所によって原子炉一基当たりに入れられるペレットの数は違います。
参考:核分裂とウラン燃料|What’s 原子力発電|原子力発電について|エネルギー|事業概要|関西電力
原子力発電に利用される原子炉のタイプ
原子炉とは、原子力発電において核分裂時の熱エネルギーを取り出す装置のことを言いますが、原子炉にもいくつか種類があります。
1:軽水炉
軽水炉は普通の水を冷却材として使用する原子炉です。軽水とは普通の水のことで重水素をほとんど含まない水素と酸素で構成されている水のことです。
世界で最も普及しているタイプの原子炉で、軽水により中性子を減速させ核分裂反応を効率よく進める役割を果たしています。
参考:軽水炉のしくみ
・沸騰水型原子炉(BWR)
出典:電気事業連合会|沸騰水型炉(BWR =Boiling Water Reactor)のしくみ
軽水炉の一種で、原子炉内で蒸気を発生させ、その蒸気を直接タービンに送って発電する原子炉です。
炉心で生成した熱により軽水を直接沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回して発電します。
比較的構造がシンプルで運転管理がしやすい特徴があります。
・加圧水型原子炉(PWR)
出典:電気事業連合会|加圧水型炉(PWR =Pressurized Water Reactor)のしくみ
軽水炉の一種で、炉内の水に高い圧力をかけて高温高圧の水を発生させ、その熱を熱交換器を通じて別の水を沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回して発電する原子炉です。
冷却水が放射線に直接触れないため、安全性が高いとみられ、世界でも広く使用されている特徴があります。
2:重水炉
重水を冷却材として使用する原子炉です。
重水とは軽水以外の水素原子と酸素原子でできている水のことで、軽水より中性子を吸収しにくいため燃料効率が良くなるという特性があります。
参考:原子炉の種類|中国電力
・加圧重水炉(PHWR)
重水炉の一種で、冷却材として使う重水に高い圧力をかける特徴があり、これにより炉内での沸騰を防ぎ熱を発生させ、熱交換器を通じて他の水を沸騰させ、発生した熱でタービンを回して発電します。
3:ガス冷却炉
炭酸ガスやヘリウムガスを冷却材として使用する原子炉です。
冷却ガスが高温でも安定しているため効率よくエネルギーを取り出せる特徴があります。
4:高速炉
液体ナトリウムを冷却材として使用する原子炉です。
軽水炉で使い終わった燃料の中には再利用できるウランやプルトニウムが含まれていますが、これを回収して再処理し、再び燃料とすることで燃料サイクルを生み出します。
高速炉は軽水炉で使用できない燃えにくいプルトニウムを燃やすことができるので、燃料の利用効率が高く資源の有効活用という視点において重要な役割を果たすことができます。
参考:三菱重工 | 高速炉
原子力発電の仕組み
ここからは原子力発電の仕組みについて解説していきます。
原子力発電が電力を生み出す仕組みは下記の通りです。
1:燃料集合体を作り核分裂による熱エネルギーを発生させる
2:原子炉で熱エネルギーを取り出す
3:蒸気の力でタービン・発電機を回して発電
4:蒸気は復水器で水に戻され再利用される
1:核分裂による熱エネルギーを発生させる
原子力発電に使われるのはウラン235ですが、実は天然ウランに含まれるウランは1%にも満たないため、2〜5%まで濃縮する作業が必要になります。
1cm程度のペレットに焼き固めた後、長さ4mの管に収めて燃料棒とし、燃料棒をさらに複数本束ね、燃料の集合体にします。
こうしてできた燃料集合体のウラン235に原子炉で中性子を当てると核分裂反応が起き熱エネルギーが生じます。
出典:電気事業連合会|原子の構造と核分裂
このとき、核分裂の割合を一定に保つために水と制御棒を使い、中性子の数とスピードを制御していきます。
2:原子炉で熱エネルギーを取り出す
次に核分裂で引き起こされた熱エネルギーを利用し水を沸騰させ、水蒸気を発生させます。
日本の原子炉では軽水炉を利用していますが、蒸気の発生方法は原子炉の中で発生した蒸気を直接タービンに送る「沸騰水型原子炉(BWR)」と原子炉内で作られた高温高圧の水を蒸気発生器に送って放射性物質を含まない別の水を沸騰させて蒸気を作る「加圧水型原子炉(PWR)」に分けられます。
沸騰水型原子炉(BWR):原子炉内で蒸気を発生させ、その蒸気を直接タービンに送って発電する原子炉
加圧水型原子炉(PWR):原子炉の中でつくられた高温高圧の水を蒸気発生器に送り、原子炉内の水とは別の水を蒸気に変え,その蒸気でタービンを回す原子炉
3:タービンを回し発電機で電気を作る
次に原子炉から配管を伝って流れ込んだ高温の蒸気によってタービンを回転させていきます。
タービンとは、エネルギーを回転運動に変換する装置で、発電機と繋がっており、このタービンの回転運動によって発電機が周り、電気を生じさせる仕組みとなっています。
なお、蒸気の力で電気を生み出す仕組みは火力発電とほとんど変わりません。
4:蒸気を復水器で冷却
出典:経済産業省資源エネルギー庁|電気をつくる方法 その3 原子力発電
最後に、タービンを回し終えた後、復水器内で水蒸気が冷却され、水となって再び原子炉の中に入っていきます。
復水器とはタービンを回転させた蒸気を水に戻す機器です。復水器の中には冷たい海水が通る冷却管が4〜5万本あり、蒸気が管に接触すると冷却され水に戻ります。
原子力発電所が海岸付近に立地するのは、この工程で必要な大量の冷却水となる海水を確保するためです。
参考:原子力発電所が都市部から離れたところにあるのはなぜですか? | よくあるご質問 [関西電力]
原子力発電の特徴
原子力発電の特徴は下記の通りです。
1:核分裂反応を利用して発電する
原子力発電はウランやプルトニウムなどの原子炉が核分裂を引き起こすことで生まれるエネルギーを利用します。
火力発電や水力発電、風力発電などとは違い、原子核反応をエネルギー源として利用することが大きな特徴です。
2:エネルギー密度が非常に高い
ウランやプルトニウムはエネルギー密度が非常に高く少量で大きなエネルギー供給ができます。
これにより燃料の使用量が少なく、長期間にわたって稼働できる特徴があります。
3:放射性物質を扱うため特別な管理が必要
原子力発電では、放射性物質の利用には放射線保護はもちろん、放射線物質の安全管理が厳格に求められます。
燃料の保管、運搬、廃棄処理まで放射線リスクを管理しなければならない点が他の発電方式とは違う特徴です。
4:設備が大型で、建設や廃炉に時間がかかる
原子力発電所は、大規模かつ複雑な構造のため、建設に長い時間とコストがかかります。
その上稼働終了後も「廃炉」と言う処理が必要で、廃炉にかかる作業も数十年単位かかる特徴があります。
解体費用も高く廃棄物の処分や維持費などを含めると1炉あたりの解体費用は数百億円にもなります。
原子力発電のメリット
ここからは原子力発電のメリットやデメリット、課題などについて解説していきます。
まず原子力発電のメリットから紹介していきますが、原子力発電のメリットは大きく分けると下記の3つにまとめられます。
発電時に二酸化炭素を排出しない
核分裂のエネルギーを利用する原子力発電は、発電する際の過程において二酸化炭素(CO2)を排出しません。
また、発電時だけではなく、燃料の採掘や発電所建設などのライフサイクル全体を見た場合でも原子力発電はCO2排出量が少ない数値になる特徴があり、現在は温暖化対策の一つとして期待されている面もあります。
安定的にエネルギー供給ができる
原子力発電は少ない燃料で大きな電力が得られるため、安定した電力の供給が可能になります。
太陽光発電や風力発電では、発電量が気候や地理的な条件に大きく左右されますが、原子力発電では気候や地理的な条件で発電量が大きく左右されることがないのも大きなメリットと言えます。
燃料を確保しやすい(燃料価格変動の影響を受けにくい)
原子力発電の燃料であるウランは、オーストラリアやカナダなどの国から輸入されています。
これらの国は、比較的政治情勢が安定していることもあり、中東・アフリカ地域から輸入している石油や化石燃料と比べて燃料を確保しやすく、また情勢の不安定さからくる燃料価格変動の影響を受けにくいメリットがあります。
また、燃料として加工されたウランは原子炉の中で、4〜5年ほど利用できる上に使用済み燃料の97%が再利用可能となっており、資源の無駄遣いがないメリットもあります。
発電効率が高くコストパフォーマンスに優れている
ウランは少量で大きな熱エネルギーを生み出すことができます。
そのため原子力発電は他の発電方法と比較した場合、かなりコストパフォーマンスに優れています。
資源エネルギー庁の資料によれば、1,000,000kwの発電設備を1年間運転する際必要な燃料は下記の通りとなっています。
濃縮ウラン | 約21t |
天然ガス | 約950,000t |
石油 | 約1,150,000t |
石炭 | 約2,350,000t |
この表や図を見てもわかるとおり、他の発電方法に比べて、明らかにコストパフォーマンスに優れ、発電効率が高いことがわかります。
必要な燃料の量が少ないと言うことは輸送コストなどの面においてもポジティブに働き、発電時にかかるコストを大きく抑えることができます。
結果として私たちの暮らしを支える電気料金にもコストが反映され発電コストの上昇を避けることができます。
参考:原子力発電のメリットとはなんですか? | よくあるご質問 [関西電力]
参考:原発のコストを考える
原子力発電のデメリットと課題
一方で原子力発電にはデメリットや課題もあります。
原子力発電のメリットやデメリットは下記の通りです。
放射性廃棄物の発生(処理が困難)
まず原子力発電を運転すると、高レベルの放射性物質が発生します。
燃料集合体は原子炉内で4〜5年間は利用ができますが、その後は「使用済み燃料」となります。
さらに使用済み燃料の処理方法についても問題視されています。
出典:経済産業省資源エネルギー庁:地層処分の仕組み
使用済み燃料は適切な処理を経た上で、全体の97%程度が再利用されますが、残りの3%はガラス原料と溶かし合わせ、高レベル放射性廃棄物として加工されます。
高レベル放射性廃棄物からは放射線が出ているため適切に扱う必要があり、日本や各国では地層処分と言う放射線レベルが低くなるまで地層深くに埋める方法で高レベル放射性廃棄物を処理しています。
この処理済みの放射性廃棄物が安全なレベルになるまでには数万~数十万年の年月が必要とされています。
現時点においては、使用済み燃料の最終処分の方法は確立されておらず、30年〜50年地下深くに埋める地層処理に頼っているため使用済み燃料の処理方法について課題が残っており、原子力利用国での共通の課題となっています。
なお日本政府は高レベルの放射性廃棄物を減らすことや廃棄物の毒性を弱めること、廃棄物の有効活用の3つの視点でその最終処分方法を模索している状態となっています。
その取り組みの一環として、再処理工場や、使用済み燃料から再利用できるウランやプルトニウムを化学的に取り出して作るMOX燃料工場を建設し、高レベル放射性廃棄物の再利用を目指す働きかけをしています。
参考:高レベル放射性廃棄物|放射性廃棄物について|原子力政策について|資源エネルギー庁
事故発生時のリスクが高い
原子力発電所で事故が発生した場合、その影響は広範囲に及び、計り知れないものになります。
重大な事故が起きると周辺の環境に大きな影響を与えてしまうため、リスクを軽減するという観点からも、地震や火山などの地質的な特性も踏まえた上で広大な土地に建設する必要が有ります。
原子力発電所は一度事故が起きると事態を収拾することが非常に困難になるケースが多く、高レベルの放射線が出ている原子炉には立ち入ることができなくなったり、放射線が外部に放出した場合、自然や人間へのさまざまな影響が懸念されています。
以上のようなことから原子力発電所はテロリストの標的にされる可能性も高く、原子力発電所で爆破テロが起きた場合は国内外への多大な被害を及ぼす可能性があります。
・スリーマイル島原発事故とチェルノブイリ原発事故
1957年から現在にかけて、原発事故は時々発生していますが、20世紀に発生した代表的な原発事故は2つあります。
1つ目はスリーマイル島原発2号機で稼働中に故障が発生し、ポンプとタービンが停止し、原子炉内の核燃料が溶融(炉心溶融)した事故です。
2つ目はチェルノブイリで外部運転を失った時の想定で試験を行なっていたところ、実験中の運転ミスによって炉心溶融と水蒸気爆発が発生し、大量の放射性物質が大気中に放出された事故です。
スリーマイル島原発事故もチェルノブイル原発事故も周辺環境に甚大な被害をもたらし原発事故の処理にも多額の費用がかかりました。
・福島第一原発事故
日本では2011年3月11日、東日本大震災により巨大津波が襲来し、沿岸部に甚大な被害をもたらしました。
福島県おきの太平洋側に位置していた福島第一原発も津波による被害を受け、全ての電源を喪失、その後3つの原子炉で炉心溶融が発生し、半径20キロ以内を警戒区域、20〜30キロ以内を緊急避難準備区域とし、周辺地域に住む住民は周辺地域からの避難と退避を余儀なくされました。
出典:環境省|国際原子力事象評価尺度
原発事故は国際原子力事象評価尺度(INES)によってその影響や規模が判断されますがチェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故は7段階中で最も高いレベル7を示しており広範囲に及ぶ健康と環境への影響を伴った放射性物質の深刻な放出があり、計画的な広域封鎖が必要なレベルの深刻な事故として判定されています。
なぜ原子力発電を使うのか
ではそこまでのリスクをはらみながらも、なぜ原子力発電を使うのでしょうか。
それには日本ならではのエネルギー事情が複雑に絡んでいます。
1:エネルギー自給率の問題
出典:経済産業省資源エネルギー庁|主要国の一次エネルギー自給率比較(2021年)
実は日本のエネルギー自給率は他のOECD諸国(経済協力開発機構)と比べても低く、2021年度のデータで日本のエネルギー自給率はわずか13.3%しかありません。
【我が国のエネルギー自給率】
出典:経済産業省資源エネルギー庁|エネルギー自給率の推移
2010年度の20.2%をピークに、2011年度には11.5%、2012年度には6.7%、2014年度には6.3%にまで下がり、2018年度にようやく11.7%と10%代になるなど依然として低い数値を示しています。
2:エネルギー供給の安定性
東日本大震災以降、化石燃料への依存度は高まっており、2021年度には83.2%になっており、その多くは海外から輸入される石油(36.2%)、石炭(25.8%)、天然ガス『LNG』(21.5%)などの化石燃料に大きく依存している現状があります。
出典:経済産業省資源エネルギー庁|日本の化石燃料輸入先(2022年)
このうち石油は政治情勢が不安定な中東に大きく依存しており、日本のエネルギー事情は脆弱な状況にあります。
3:エネルギー自給率を向上させるため
以上の理由から、特定のエネルギーに依存せずにエネルギー資源の多様性を確保しておくことが重要で、エネルギー資源の多様性を確保する観点から、原子力発電は必要な電源となっていると言うわけです。
原子力発電は再生可能エネルギーではない
CO2排出による地球温暖化や、エネルギー資源の枯渇問題などの対処で注目されているのが再生可能エネルギーです。
再生可能エネルギーとは資源枯渇の問題がないエネルギー資源のことで太陽光、風力、地熱などがこれにあたります。
一方で、原子力発電の資源であるウラン鉱石は天然資源のため再生可能エネルギーと思われがちですが、原子力発電は再生可能エネルギーではありません。
ウラン鉱石は膨大な採掘量が確認されているものの、無限ではなく有限の資源であり、再生可能エネルギーとは言えず、いつかは枯渇する可能性もあるからです。
なお、再生可能エネルギーについては「再生可能エネルギーとは?種類や特徴、メリット・デメリットを解説」で詳しく解説しておりますので、あわせて読み進めてください。
原子力発電と火力発電との違い
日本は、これまでさまざまな発電方法に依存してきましたが火力発電は、現在の日本の主要な発電方法の一つとして位置付けられています。
原子力発電と火力発電のメリットとデメリットの比較
発電方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
原子力発電 | ウランを燃料として核分裂反応で発電 一度稼働すると安定した電力供給が可能 |
大量の電力供給が可能 二酸化炭素排出が少ない |
放射性廃棄物の処理が必要 事故時のリスクが大きい |
火力発電 | 石炭、石油、天然ガスを燃料として燃焼させ発電 発電量の調整がしやすい |
設備建設が比較的簡単 安定した電力供給が可能 |
二酸化炭素排出が多い 資源に依存しコスト変動がある |
原子力発電も火力発電もどちらもメリットがあればデメリットもある発電方法です。
火力発電は柔軟に対応が可能でありながらCO2排出量の問題が残るため、環境問題が懸念されていますし、原子力発電は環境負荷は低いですが、安全性や放射性廃棄物の処理方法などの課題が残されています。
原子力発電の歴史と導入が進められた背景
原子力発電は第二次世界大戦後に実用化されました。ここからは原子力発電の背景や歴史やどのように導入が勧められてきたのかを見ていきます。
1938年 | 核分裂反応の発見 |
1942年 | 米国シカゴ大学にて人工的に核分裂を引き起こすことに成功 |
1945年 | 第二次世界大戦中、アメリカの「マンハッタン計画」での原子力技術の軍事利用 |
1951年 | 米国にて世界初の原子力エネルギーを使った発電 |
1953年 | アメリカのアイゼンハワー大統領が「平和のための原子力(Atoms for Peace)」を提唱。最初の原子力発電所が旧ソ連(オブニンスク)に建設される |
1957年 | 軍事利用への転用を防止するためのIAEA(国際原子力機関)の設立 |
1960年 | アメリカ、日本、イギリスなどで商用原子力発電が広がり、原子力エネルギーの利用が本格化 |
1973年 | 石油危機(第一次オイルショック)。エネルギー供給源の多様化が急務となり、原子力発電が推進 |
1979年 | スリーマイル島原発事故 | 1986年 | チェルノブイリ原発事故 原子力発電の安全性への不安が広がり、世界的な原子力政策の見直し |
1990年 | 原子力安全の強化が図られ、国際原子力機関(IAEA)などによる安全基準の策定 |
2000年 | 地球温暖化対策として二酸化炭素排出量が少ない原子力発電に注目 |
2011年 | 福島第一原発事故 世界的に再び原子力政策が見直し |
2020年 | カーボンニュートラル実現に向けた選択肢として、原子力の役割が再度注目 |
つまり原子力発電の歴史を紐解いてみると、下記のような経過を辿っていることになり脱原発と評価が繰り返されていることがわかります。
1:1950~1970年代:発電用原子炉の開発・導入期
2:1970~1990年代:原子力事故による脱原発(原子力利用の低迷期)
3:1990年代~2000年代:原発への回帰 「国連環境開発会議」(地球サミット)1992年
4:2010年代〜2020年:ポスト福島
5:2020年:原子力の再評価
参考:世界の原発利用の歴史と今|原発|エネこれ|資源エネルギー庁
世界の原子力発電の各国の方針と取り組み
安定した電力供給が可能な原子力発電は、脱酸素化に向けて注目され、世界の多くの国々で導入されています。
化石燃料の価格高騰に伴い、エネルギー需要が急増するエリアでは原子力発電設備容量が増加している傾向にあります。
各国の原子力発電量の現状と方針(各国の原子力発電所の稼働状況)
ここからは、2024年現在の各国の原子力発電の現状と方針について見ていきます。
アメリカ
2024年時点で運転中の原子力発電所の基数が最も多い国はアメリカで93基総出力は約10,132万kwとなっています。
新たなプロジェクトも進行しているようですが、過去30年に渡り原子力発電の新規建設がなかった影響もあり、建設費の増加などの課題が残されています。
フランス
2024年時点で運転中の原子力発電所の基数が2番目に多い国はフランスで56基総出力は約6,404万kwとなっています。
フランスでは当初2025年までに原子力発電の割合を50%に縮減する方針を掲げていたものの達成時期を5〜10年ほど延期することを公表しています。
中国
2024年時点で運転中の原子力発電所の基数が3番目に多い国は中国で48基となっています。
中国では原子力推進を継続する方針をとっています。
韓国
韓国では2017年に文在寅大統領の下、脱原発の方針を打ち出しています。
今後60年以上の期間を設けて脱原発を進めていく方針で、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを大幅に増やす予定となっています。
ドイツ
ドイツでは福島第一原発事故を受け、2022年までにすべての原子力発電所を閉鎖する方針を固め、2023年4月にはすべての原発の稼働を停止、脱原発を達成しています。
今後は再生可能エネルギーの利用拡大を見込んでおり、安定的な電力の確保と供給が求められることになります。
参考:主要国の原発政策の今
参考:世界の原子力発電所の運転状況はどうなっているのですか? | よくあるご質問 [関西電力]
参考:「令和4年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2023)
参考:原子力規制委員会
日本の原子力発電の現状
現在、日本には54基の商業用原子力発電所がありますが、東日本大震災後に日本の原子力発電の利用は、すべて停止されました。
そのうち5基が再稼働し、現在では12基が再稼働しています(この記事を書いている現時点で12基のうち2基は停止中)。
新規制基準審査中の原子力発電所が10基、設置変更許可が5基、未申請が9基、廃炉が24基となっています。
なお2024年時点では、以下の10基の原子力発電所が新規制基準への対応状況審査中となっています。
発電所 | 基数 |
---|---|
泊発電所 | 3基 |
大間原子力発電所 | 1基 |
柏崎刈羽原子力発電所 | 2基 |
女川原子力発電所 | 1基 (2024年10月29日再稼働後 同年11月4日機器トラブルにより停止) |
浜岡原子力発電所 | 2基 |
島根原子力発電所 | 1基 |
以上の原子力発電所は新規制基準の審査に通過後都道府県知事の認可がおり次第、再稼働となる見込みです。
以上のように地震が多い日本においては、東日本大震災以降、原発再稼働には慎重になっていることがわかります。
原子力発電所一覧と稼働状況
日本は世界で4番目に原子力発電所の基数が多い国で、その数は33基あり設備利用率は15%となっています。
下記は2024年11月15日段階の原子力発電の稼働状況を示した地図です。
日本の原子力発電所の詳細な稼働状況は電気事業連合会や原子力規制委員会のホームページで確認することができます。
日本国内の原子力発電所に関する情報がまとめられていますので、最新の情報は「日本の原子力発電所一覧」や「原子力発電所の現在の運転状況」からご確認ください。
参考:原子力発電の現状
原子力発電に対する日本政府の方針
東日本大震災後、すべての原子力発電所は一時的に停止され、再稼働には厳しい条件をクリアする必要が求められることになりました。
原子力規制委員会の新規制基準によると地震や津波に対する耐性を高めることを目的としていたりと、東日本大震災での教訓が生かされた形となっています。
なお現時点で日本では合計10基の原子力発電所が稼働していますが、先述したように震災前と比べると大幅に減少しています。
ただ、世界各国の動向を見てみると、地球温暖化防止対策の観点から安全性を最優先としながら原子力発電を活用する方針をとる国も多く、日本でも今後も安全性の確保と技術の進展が求められながら、原子力発電はエネルギー供給の重要な選択肢であり続けると考えられています。
原子力発電のように二酸化炭素を排出しない発電方法
日本はもちろん世界各国では2050年の脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの必要性が高まっています。
そこでここからは、原子力発電以外で二酸化炭素を排出しない代表的な発電方法について触れていきたいと思います。
太陽光発電
太陽光発電は太陽の光を電気に変換するシステムで、太陽光パネルとパワーコンディショナーと呼ばれる装置で光を直接電気エネルギーに変えることで発電をします。
日照の豊富な地域では特に有効な活用方法だとされており、設置場所の柔軟性も高く、屋根や壁などのスペースに設置できることから一般家庭での普及も進んでいます。
太陽光発電は初期投資が必要なものの、運転コストが低いため長期的には経済的な選択肢となると見られています。
ただし、太陽光発電は夜間には発電できないことや季節や天候によって発電量が変わるなどのデメリットがあります。
また100万kwの原子力発電所(約0.6km)が1年間運転した時と同じ発電量を得るためには、太陽光発電の場合およそ96倍もの面積となる約58km2の敷地に太陽光パネルを敷き詰める必要があるなど発電効率には課題が残ります。
参考:原発のコストを考える|原発|エネこれ|資源エネルギー庁
参考:太陽光発電とは?仕組みやメリット・デメリット、企業の導入事例をわかりやすく解説
風力発電
風力発電は風で回転する風車の力で発電機が動くシステムで、風さえ吹いていれば昼夜問わず高効率で電気エネルギーに変換することができます。
風速が一定以上ある地域が適しており、大規模な風力タービンが設置され高効率で電力を供給できる特徴があります。
風力発電は、太陽光発電と同じく、持続可能なエネルギー源ですが風力発電のエネルギー効率は風の強さや風向きに依存するため発電量が不安定であるというデメリットがあります。
また100万kwの原子力発電所(約0.6km)が1年間運転した時と同じ発電量を得るためには風力発電の場合、およそ357倍もの面積となる214km2の敷地が必要となるなど実用化には課題が残っています。
水力発電
水力発電は流水の力でタービンを回すことで電気エネルギーに変換することができます。
水力発電には大きなダムや池に溜めた水を利用する「貯水池式」や河川を流れる水を利用した「流れ込み式」また、電気の消費量に合わせて貯める水を調整する「調整池式」などがあります。
一方で大規模なダム建設が必要なことや環境負荷の点、さらには建設コストが高いという課題が残っています。
参考:水力発電とは?仕組みや種類、メリット・デメリットをわかりやすく解説!
バイオマス発電
バイオマス発電は、林地残材、動物の糞尿などの再生可能な生物資源(バイオマス)を燃焼したり、ガス化させて電気エネルギーに変えることで発電をします。
バイオマス資源のうち植物資源は燃やすとCO2を排出しますが、成長の過程でCO2を吸収しているため地球上の二酸化炭素の総量は増えないと考えられており、排出量と吸収量でプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルであると言われています。
バイオマス発電のメリットは、本来は廃棄物として処理される生物資源を有効活用し電力に変えることで循環型社会が実現できることです。
日本の農山漁村には発電に利用できる資源が多く存在していることから、バイオマス発電は日本の風土に適している発電方法と言われています。
一方で、バイオマス資源を安定的に供給できるシステムを構築する必要があったり、小規模分散型の発電施設に留まりやすかったり、維持管理する際のコストなどに課題が残っています。
地熱発電
地熱発電は、地下の熱エネルギーを利用して発電する方法です。
地熱発電は太陽光発電や風力発電と違い、地下の熱エネルギーを使用するため天候などに左右されずに安定した電力を供給できるという特徴があります。
一方で地熱資源の場所が限られていることや地下を採掘するのに開発コストが高いという課題が残っています。
参考:地熱発電のメリットとは?仕組みや種類、展望や事例をわかりやすく解説
まとめ
今回の記事では原子力発電のメリットやデメリットをはじめ、原子力発電の仕組みや課題、世界の状況など多角的な視点で原子力発電についてまとめました。
詳細については本文を読んでいただくとして、原子力発電は発電効率が良いというメリットがある一方で、同時に大きなリスクも存在する発電方法です。
原子力発電によって生み出される放射性廃棄物の処理方法などは依然として問題となっていることも多く、福島第一原発の事故に見られるように、地震の多い日本では特に、利用においての課題も多く残されています。
日本の現状を踏まえた上で、日本のエネルギー自給率やエネルギーの安定供給、それに脱炭素に向けた国際的な取り組みを視野に入れると、一概には脱原発といったように一言では片付けられない側面もあり、これについては議論の余地が残る、なかなか難しい問題でもあります。
2050年の脱炭素社会の実現に向けて、利便性とリスクを天秤にかけた上で、日本のエネルギー問題について真剣に議論を重ね、また慎重にエネルギー問題に取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。
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