ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?開示基準や動向を解説!

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは、企業のサステナビリティ情報を開示する際の国際的な基準を提供する組織です。2021年にIFRS財団によって設立され、非財務情報の透明性を高めるための重要な役割を担っています。日本では金融庁がISSBの基準を参考に国内基準を整備しており、2027年には情報開示が義務化される可能性があります。本記事では、ISSB設立の背景やその基準の具体的な内容について、企業への影響を交えて詳しく解説します。サステナビリティ情報開示が求められるこの時代、適切な準備のためにぜひご一読ください。
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ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立した背景や目標について解説していきます。
ISSBはIFRS財団が設立
ISSBの正式名称は「International Sustainability Standards Board」です。2021年グラスゴーで開催されたCOP26において、IFRS(International Financial Reporting Standards)財団評議員会により設立されました。IFRS財団は、国際会計基準審議会(IASB)を運営する組織であり、IASBは世界共通の会計基準であるIFRSを策定しています。ISSBは、これまで統一されていなかった非財務情報開示基準を、投資家と金融市場のニーズに重点を置き、一本化したグローバルベースラインを開発しました。
ISSB設立の背景
ISSB設立の背景には、「非財務情報開示基準の乱立」「ESG投資の拡大に伴う非財務情報の重要性」「気候変動対策の重要性」などの要因が挙げられます。特に気候変動対策はいまや喫緊の課題であり、率先して取り組む必要があります。企業にとってサステナビリティを経営方針に組み込むことはもはや必須であり、脱炭素推進などの非財務情報の開示は、従来以上に重要となっています。
ISSB 4つの主要目標
ISSBが掲げている目標は次の4つです。
- 持続可能性開示の世界的な基準を策定すること。
- 投資家の情報ニーズを満たすため。
- 企業が世界の資本市場に包括的な持続可能性情報を提供できるようにすること。
- 管轄区域固有の情報開示や、より広範な利害関係者グループを対象とした情報開示との相互運用性を促進するため。
ISSB はコストの効率をあげ、経営の意思決定に役立ち、最新の市場情報に基づいた標準を提供することに尽力することを目的とした基準を策定しています。
出典:IFRS
統合された機関
ISSBはサステナビリティ関連の基準を統一することが目的のため、これまでにあった「CDSB(気候変動開示基準委員会)」と、SASB基準を提供している「VRF(価値報告財団))などの機関を統合しています。さらに「ESRS (欧州サステナビリティ報告基準)」や「GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)」とは、連携を強化するための取り組みが進められています。
ISSBの新しい世界基準(IFRS S1・IFRS S2) とは
2023 年 6 月に、ISSBは「IFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項)」、「IFRS S2(気候関連開示)」を最終決定しました。ここではISSBの開示基準について詳しく解説していきます。
IFRSサステナビリティ開示基準
IFRSサステナビリティ開示基準のコア・コンテンツは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言を基盤としています。そして次の4つの開示事項で構成されています。それぞれの内容を詳しく解説していきます。
ガバナンス
ガバナンスに関する情報や、気候変動などのサステナビリティ関連のリスクと機会を監視、管理するためのプロセスや、経営陣の役割を開示する必要があります。
戦略
企業の見通しに影響を与えると予測される気候変動などのサステナビリティ関連のリスクや、機会に対する企業戦略を開示します。またビジネスモデルとバリューチェーンに及ぼす現在の影響や、企業の財政状態、財務業績、キャッシュ・フローに及ぼす現在の影響も含めた企業戦略の明示が必要です。
リスク管理
企業はリスク管理の情報開示を行います。特に気候関連のリスクを特定し、評価、優先順位付け、監視するためのプロセスや方針を決定し、その情報を開示します。そしてそれらを評価、監視するための取り組みが全体のリスク管理にどれほど組み込まれているのか、程度や方法など、指標と目標をISSB基準による情報を開示します。
指標と目標
ISSBの基準によって求められる気候関連に関するリスクと、機会や目標の進捗などを測定、監視するための情報を開示します。また企業が戦略に関して設定した目標や、法律などで達成が求められている目標に関する情報の開示も行います。
ISSBとTCFDの違い
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、企業の気候変動に関する財務情報を開示することを推奨し、サステナビリティや気候変動に関する基準を提供する民間主導の機関です。TCFDは急増する気候関連情報開示の実務と規制を方向づけてきました。このようにISSB基準は認知度が高く、世界的に実施されてきた基準やガイダンスの原則を参考にして作成されています。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に関しては、こちらの記事をぜひご覧ください。
TCFDとは?開示項目や企業が賛同するメリットなどをわかりやすく解説!
IFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)
FRS S1の概念的基礎には、「サステナビリティ関連財務情報が有用であるためには、当該情報は関連性があり、表現しようとしている対象を忠実に表現しなければならない」とあります。そのためのポイントは以下のようになります。
ポイント | 具体的な内容 |
---|---|
目的 | 一般目的財務利用者が企業への資源の提供にあたり、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示することを当該企業に要求すること |
範囲 | 企業は「IFRSサステナビリティ開示基準」に従って情報の開示を作成し報告する |
適正な表示 | 企業の見通しに影響を与えると判断されるサステナビリティ関連リスクと機会を適切に表示する |
重要性 | 企業は将来的に影響を与えると判断されるサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して重要な情報を開示する |
報告企業 | サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業である必要がある |
つながりのある情報 | 企業は利用者がサステナビリティ関連のリスク及び機会の間のつながりを理解できるようにする情報を開示しなくてはならない |
IIFRS S2(気候関連開示)
IFRS S2の目的は気候変動関連のリスクや、機会の情報開示の要求です。そのためTCFDと同様に将来の気候変動の影響を評価するための「シナリオ分析」が必要です。適用範囲は、「企業が直面している気候関連の物理的リスク」、「気候関連の移行リスク」そして「企業が利用可能な気候関連の機会」などです。特筆すべきなのは「企業のバリューチェーン内で、発生するすべてのScope3の温室効果ガス排出量を明確化する」ことが求められたことです。Scope1.2.3とは、企業の事業活動における温室効果ガス排出量の算定のことで、サプライチェーン排出量とも呼ばれます。以下に簡単に解説しましょう。
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
ISSB基準では、Scope 1、Scope 2に加え、Scope 3に関連する排出量の開示を推奨していますが、適用には段階的な措置が講じられる場合もあります。
サプライチェーン排出量については、こちらの記事をぜひご覧ください。
CO2排出量の計算方法を徹底解説:基礎知識から削減ステップまで
IISSB基準の3つの特徴
ISSB基準の特徴として次の3つが挙げられます。
つながり
- 財務情報開示と直接つながりを持ち、年次「一般目的財務報告書」と一緒に公表する。
- 非財務情報が財務諸表とどのように関連するかを示す。
- 気候関連情報報告のタイミングは財務報告と一致する。
適用範囲
- 短期・中期・長期の視点に立ったサステナビリティ関連のリスクと機会を対象としている。
- バリューチェーン全体に適用し、企業価値への影響を明確にする。
包括性
- ISSBフレームワークは、Scope3と投融資先の排出量を含む、温室効果ガス排出量の包括的な報告が必要である。
- 取締役会のガバナンスに加え、移行計画と移行目標についても、より詳細に開示する。
- 管轄区域固有の開示や、ステークホルダーを対象とした開示との相互運用性の促進をする。
- シナリオ分析、および現在の財務的影響と予想される財務的影響の定量評価を行い、その結果に基づいた対策を検討する。
業界ごとの開示指標SASB基準
業界ごとの開示指標に「SASB基準」があります。SASBとは2011年に米国サンフランシスコを拠点にした設立された非営利団体です。正式名称は「Sustainability Accounting Standards Board」であり、「サステナビリティ会計基準審議会」と訳されます。業種ごとに重要視されるESG要素は異なるため、企業の業種ごとの開示基準を公表していることが特徴です。
また、SASB財務に関連するサステナビリティ情報に焦点を当てているため、投資家にとって実用的であることも重要視されています。ISSBは自社のサステナビリティ課題の発見にSASB基準を活用することを推奨しています。
ISSBの動向やSSBJの設立
世界基準であるISSBの日本での適用に向けて、日本では国内基準となる「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」が設立されました。ISSBの今後の動向や日本企業への影響を解説していきます。
ISSBの動向
年代 | 事象 |
---|---|
2021年 | ISSB設立 CDSBとVRF統合する |
2022年 | ESG情報の開示基準についてIFRS S1・S2を公表し、今後の利用方法に関する方針を提示した |
2023年 | 基準を最終化 |
2024年 | 本格適用開始 |
~2026年 | 生物多様性や人的資本などへのワークプラン実施を発表 |
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の設立
ISSB設立を受けて、国内では2022年に「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」が設立されました。SSBJの役割は日本国内での企業のサステナビリティ報告の統一化と、透明性の向上を目指した情報開示の基準を策定することです。
ISSBとSSBJの違い
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は国際的な組織で、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)は日本の組織です。ISSBはグローバルなサステナビリティ報告基準を設定し、SSBJはその基準に基づいて国内のサステナビリティ基準を策定しています。SSBJは、我が国の資本市場で用いられることを想定して、サステナビリティ開示基準(日本基準)の開発を行っています。
開示は27年にも義務化の可能性
SSBJは、25年3月までに案を最終化する予定です。SSBJ基準については、金融庁が有価証券報告書でのサステナビリティ開示基準にすることを検討しており、27年3月期から義務化する可能性が高まっています。企業は今から備える必要があります。
日本企業への影響は?
ISSB基準とSSBJの設立は、日本企業にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
企業体制の見直しが必至
SSBJの義務化に備えるためには、企業体制の見直しが求められます。ISSBという世界共通の基準と比較するための基盤作りが不可欠です。 特にISSBは気候関連情報開示に以下のような高い水準を要求します。
- Scope1.2.3の温室効果ガス排出
- 移行リスク
- 物理的リスク
- 機会
- 資本投下
- 内部炭素価格
- 報酬
このように企業は、気候変動対策の情報開示の透明性、信頼性を保証するシステムを整備し取り組むことが必須となるでしょう。
環境への貢献が向上
国際的な開示基準の趣旨に、日本企業の非財務情報開示基準を合致させることは、市場関係者の希望に沿うことでもあります。そのためSSBJの基準は今後企業にとっても重要な基準となっていくことは想像に難くありません。企業はこれらを負担と捉えるのではなく、サステナビリティ問題への解決を積極的に図ることで、世界的に優位な立場を得ることが大切です。それによりグローバルな競争優位性に結びつけることが期待できるでしょう。
まとめ
国際的なサステナビリティ情報開示の基準であるISSBについて解説しました。日本における非財務情報開示の重要性について理解いただけたのではないでしょうか。持続可能な社会を構築するためには、企業経営にサステナビリティ方針を掲げることは必須の時代を迎えています。
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