コールドチェーンとは、商品を生産地から冷凍・冷蔵などの低温状態を維持して消費地まで流通するシステムのことです。生鮮食品だけではなく、温度管理が厳格な医薬品などの輸送に対して、コールドチェーンは非常に重要な役割を果たします。
またコールドチェーンは、多様化する生活スタイルや、持続可能な食を実現するシステムとしても注目されています。本記事ではコールドチェーンの仕組みからメリット・デメリット、さらにはサステナブルな視点から、将来的な展望を詳しく解説していきます。
コールドチェーンとは

コールドチェーンの意味や歴史を知ることで、コールドチェーンの重要性が理解できます。またサプライチェーンとの違いについても解説します。
コールドチェーンの意味
コールドとは英語の「cold」であり、低温という意味です。チェーンは物流を意味しています。物流とは、商品が消費者に届くまでの流れのことを表します。
つまりコールドチェーンとは低温管理が必要な商品を、適切な状態で流通させる仕組みです。生鮮食品や冷凍食品のみならず、医薬品の輸送にも非常に重要な役割を果たします。これは広義の「定温ロジスティクス」の中でも特に低温帯を扱うものであり、「生鮮SCM(サプライチェーン・マネジメント)」を支える重要な基盤となっています。
コールドチェーンの歴史
1959年、厚生省により冷凍食品に対する規格基準が交付され、マイナス15℃以下での保管が義務づけられました。さらに1965年には科学技術庁資源調査会が、「コールドチェーン勧告」を行い、国内各地の低温流通ネットワークが整備されました。その後も冷凍品の流通保管温度をマイナス18℃以下とする取り扱い基準が策定され、冷凍流通の基盤が確立されたのです。
コールドチェーンが注目される背景
コールドチェーンが注目される背景のひとつに、世界的な課題である気候変動が挙げられます。近年、地球温暖化の加速により、異常気象や天候の急激な変化が頻発しており、輸送や物流に大きな影響を与えています。例えば、気温上昇による食品の劣化リスク、自然災害による物流の寸断の発生などは、食品廃棄の増加や供給不足につながります。
そのほかにも食のグローバル化で国内外からの食品調達が進み、海外からの輸送で複数の流通拠点を経由するケースが増加しました。食品の安定供給や海外からの調達に対応するためにも、製品の一貫した温度管理が可能なコールドチェーンは注目されています。
コールドチェーンの仕組み
コールドチェーンは、生産から販売までの複数に渡り構成されている仕組みです。生産段階から品質管理が始まり、適切な温度で保管する倉庫、輸送手段を経由して最終的に消費者に届けられるまで一貫して低温管理を維持する仕組みです。
- 【生産・調達】原材料や商品を生産・調達する段階から、低温で管理を行う。
- 【管理・貯蔵】冷凍設備を備えた倉庫で、温度が管理された状態で保管される。
- 【輸送】冷凍機能を持つトラックやコンテナなどを使用し、低温を維持したまま輸送を行う。
- 【販売】店舗でも低温を維持し、消費者が購入するまで品質を管理する。

出典:コールドチェーンとは 冷凍冷蔵で鮮度を保ち流通(日本経済新聞)
コールドチェーンとサプライチェーンとの違い
コールドチェーンと混同しそうな用語に、サプライチェーンがあります。サプライチェーンとは、製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ全般を指す言葉です。違いを簡単に解説すると以下のようになります。
| 名称 | 違い |
|---|---|
| コールドチェーン | 低温管理が必要な商品を、適切な状態で流通させる為のシステム |
| サプライチェーン | 製品の原材料・部品の調達から販売までの一連の流れを指す |
コールドチェーンのメリットとデメリット

ここではコールドチェーンのメリットとデメリットを解説していきます。
メリット
コールドチェーンには以下のようなメリットがあります。それぞれを詳しく解説していきましょう。
食品ロスの削減
コールドチェーンの最大のメリットとして、食品ロスの削減が挙げられます。世界では消費用に生産された食料の5分の1が失われたり廃棄されたりしています。これは1日あたり10億食分相当です。また食品ロスが世界に与える経済的損失は、およそ1兆米ドルと推定されています。気温の高い国では食品を低温で管理することが困難で、加工、輸送にも影響を与えるため、家庭レベルでも収穫後の段階でも食品ロスが多くなるという現状があります。
コールドチェーンは、低温管理により商品の鮮度保持期間を長く保つことができ、廃棄を減らせます。このシステムが拡大していけば、食品ロスの削減や飢餓で苦しむ人々を低減し、持続可能な食のあり方を目指すことが可能です。
市場の拡大が可能
遠距離で販売できなかった地域にも、コールドチェーンを活用すれば商品を届けることが可能です。国内ではふるさと納税の浸透により、返礼品を冷蔵・冷凍した状態で運ぶコールドチェーンの需要も高まり、地方創生にも貢献しています。また国内外への配送を可能にするため、市場や需要を開拓する機会を創出します。
医薬品の安定供給と安全性確保
ワクチンやバイオ医薬品などは。輸送中も厳密な温度管理を必要とします。コールドチェーンなら、医薬品の質を落とすことなくを安定的に供給可能で、安全性を向上させます。
デメリット
コールドチェーンは低温を維持するシステムのため、大量のエネルギー消費やコストがかかるなど、デメリットも存在します。
設備にかかるコスト
冷凍・冷蔵などのコールドチェーンシステムを、確立するための設備にはコストがかかります。またエネルギーの消費量も多く、維持やメンテナンスにもコストがかかるでしょう。これらの解決策として、複数の企業でコールドチェーンシステムを共有する「シェアリングモデル」の導入が挙げられます。
環境への負荷
コールドチェーンは、大量のエネルギーを使用し電力を消費します。そのため地球温暖化の要因となる温室効果ガスを排出します。また、冷凍冷蔵倉庫、冷凍・冷蔵車、小売店舗のショーケースなどの設備に使用する冷媒のフロンガスも地球温暖化への影響が大きい物質です。そのため、CO2やアンモニアなど環境負荷の低い自然冷媒を活用した自然冷媒設備の開発が進められています。
リソースや管理者の不足
コールドチェーンには、厳密な温度管理を行う専門的な管理が求められますが、そのための管理者が不足している状況です。またコールドチェーンに必要な冷凍・冷蔵倉庫の確保、輸送トラック、運転手などのリソースも慢性的に不足しているため、これらの課題を早急に解決していく必要があります。
コールドチェーンの市場規模
コールドチェーンの市場規模はどのようなものでしょうか。ここでは世界や日本のコールドチェーンの市場規模を解説していきます。
世界の市場規模
食品廃棄やサプライヤーリスクは深刻化しており、世界の食品に関してのコールドチェーンの重要性は増しています。そのためコールドチェーンの市場規模は、2024年には3,757.7億米ドルと推定され、2025年の4,088億米ドルから2033年には8,020.9億米ドルに及ぶと予測されています。なかでも北米は最も高い収益を生み出す地域であり、年平均成長率8.19%で拡大するといわれています。
参照:straitsresearch「食品コールドチェーン市場 サイズと展望 2025-2033」
日本の市場規模
日本では、コロナウイルスの影響で2020年以降、「内食」の需要が拡大し、冷凍冷蔵食品が多く流通するようになっています。2024年の日本冷凍食品協会が発表した冷凍食品の消費額は、2023年比で4.4%増の1兆3017億円にものぼりました。コールドチェーンの需要は、ますます拡大しているといえます。
参照:冷凍食品、24年消費額が過去最高 業務用が伸びる(日本経済新聞)
コールドチェーンの現状と将来性
コールドチェーンの日本の現状と、そして国際的な将来性について解説します。近年、アジア諸国の物流需要を獲得するために、日本式コールドチェーン物流サービスの国際標準化が促進されています。
ASEAN地域におけるコールドチェーン物流
「ASEAN(東南アジア諸国連合)」では、生活の質の向上に伴い、ライフスタイルや食生活が多様化して、コールドチェーンによる物流の需要が拡大しています。しかし質の高いコールドチェーン物流サービスを提供できる専門事業者は、現地にはまだ多くありません。適切な温度管理が行えず、管理が不十分なため、食品を途中で廃棄したり、健康被害を招いたりしています。そのため消費者やサービス品質への信頼が得られず、コールドチェーンシステム自体が定着しづらいという状況を生み出しています。
日本はこのような「ASEAN(東南アジア諸国連合)」の状況を踏まえ、アジア諸国の物流需要を獲得するための取り組みを開始しています。同時にアジア諸国発展のため、日本式コールドチェーン物流サービスの国際標準化や普及を重要な施策として促進を開始しています。
コールドチェーンの技術開発促進
コールドチェーンは、商品を適切な温度や条件で確実に輸送することが求められます。 しかし、複雑な輸送ネットワークや長距離輸送においては、輸送プロセス全体を通じて温度と湿度の正確なモニタリングが課題となります。また天候や交通などの外的要因により、温度・湿度が急激に変化することもあります。また冷媒として代替フロンの使用があり環境への負荷も減らしていかなくてはなりません。
これらの課題を解決するために、大手メーカーをはじめとした企業がコールドチェーンに関わる技術開発を促進しています。代表的な例ではパナソニックのコールドチェーンソリューション社の自然冷媒であるCO2冷媒を採用したノンフロン冷凍機の開発が挙げられます。その他、超高性能断熱冷蔵コンテナの開発など、新技術開発が多くの企業によって開始されており、コールドチェーンの技術開発は脱炭素ソリューションの促進にもつながっています。
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コールドチェーンの支援策と事例
国はコールドチェーン推進のために支援策を講じています。また大手メーカーもコールドチェーン事業を促進しています。 ここでは支援策と事業事例をご紹介します。
脱フロン・脱炭素化推進事業補助金
これまで業務用冷凍冷蔵機器では、温室効果の高いハイドロフルオロカーボンを冷媒としてきました。しかし近年の技術開発により、温室効果が極めて小さいアンモニア、二酸化炭素、空気、水などを活用した脱炭素型自然冷媒機器の開発が進んでいます。このような先端性の高い技術を使用した脱炭素型自然冷媒の冷凍冷蔵機器を市場で普及させることが重要です。
「脱フロン・脱炭素化推進事業補助金」では、エネルギー起源二酸化炭素の排出抑制及び温室効果ガスであるフロン類の排出抑制、脱炭素型自然冷媒機器を導入する事業への経費を一部補助します。
パナソニックのコールドチェーン事業
パナソニック株式会社は、「食のインフラ」領域を担うコールドチェーンソリューションの開発に取り組んでいます。冷媒を使用する製品をつくり、販売するメーカーとしての責務として、CO2やアンモニアなど環境負荷の低い自然冷媒を開発しています。特にCO2冷媒は不燃性で毒性もなく、安全性が高いことから環境性能が特に優れた冷媒として注目されています。
コールドチェーン事業では、1999年にCO2冷媒対応のロータリー二段圧縮コンプレッサーを世界で初めて開発しました。さらに2005年頃からCO2冷媒を採用した製品の開発にも着手。2010年には日本初となるCO2冷媒採用のノンフロン冷凍機を販売開始しました。
まとめ
持続可能な食の構築に貢献するコールドチェーンについて、さまざまな角度から解説しました。コールドチェーンシステムの拡大は、製品の安全性や安定供給、そして脱炭素化を促進します。
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