ペロブスカイト太陽電池とは?世界と日本の最新動向やメリットを解説

次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池をご存知でしょうか。
ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性が高いという特徴があり、低コストで開発可能です。そのため次世代太陽電池としての期待が高く、各国で開発が進んでいます。
本記事ではペロブスカイト太陽電池の仕組みやメリット、海外や日本の動向と企業の開発事例を詳しく解説していきます。ペロブスカイト太陽電池の最新動向を学ぶことができますのでぜひご一読ください。
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ペロブスカイト太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池の仕組みやこれまでの太陽電池との違いなどを解説していきます。
ペロブスカイト太陽電池の仕組み
そもそもペロブスカイト太陽電池の「ペロブスカイト」とはなんでしょうか。ペロブスカイトとは特定の結晶構造の一種を指す特殊な化合物です。鉛やヨウ素などからできた結晶の層を、電気の通るフィルムなどに挟んで使用します。
太陽電池は「発電層」「電極」「正孔(ホール)輸送層」「電子輸送層」で構成されており、ペロブスカイト太陽電池も同様です。電気の通るフィルムに太陽光が当たると、電子(-)と正孔(+)が発生し、それらの移動により電流が発生して電力が発生する仕組みです。
出典:資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」
これまでの太陽電池との違い
従来の太陽光発電は約90%がシリコン原料であり重量がかかるという難点がありました。しかしペロブスカイト太陽電池は、電極や封止材を重ねても厚さが約1マイクロメートル(0.001ミリ)と非常に薄く、軽量で柔軟性が高いことが大きな特徴です。これまで設置が難しかった小さい屋根や窓など、多様な場所に設置できるという利点があります。
なぜペロブスカイト太陽電池は注目されているのか
世界の脱炭素化の流れは加速しており、日本も2050年に向けてカーボンニュートラルの実現を目指しています。脱炭素化の主要な取り組みとして再生可能エネルギーの推進が挙げられます。なかでも太陽光発電の世界の累積導入量は、2014年から2023年までの10年間で8倍に拡大しています。いまや太陽光発電は再生可能エネルギー推進の切り札ともいえるでしょう。
しかし一方で、将来的には経年劣化などで、2030年代後半には、年間約17〜28万トン程度、産業廃棄物の最終処分量の1.7〜2.7%に相当する量の太陽光パネルが廃棄されると予測されています。またネイチャーポジティブの観点から、メガソーラーによる環境破壊の懸念も示されています。
軽量で柔軟なペロブスカイト太陽電池はこれらの課題を解決する可能性を秘めています。そのため近年世界各国で研究開発が進むなど、飛躍的な成長を遂げ、従来のシリコン系太陽電池に対抗する「ゲームチェンジャー」と大きく注目されています。
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ペロブスカイト太陽電池の5つのメリット
ここからはペロブスカイト太陽電池のメリットを詳しく解説していきます。
低コスト化への期待
ペロブスカイト太陽電池はヨウ素などの無機物に加え、メチルアミンといった有機物で化合されている有機系のものがあります。有機系のペロブスカイト太陽電池は、フィルム状の基板に直接塗布するだけで製造することが可能で、大量生産に適しているため、低コスト化を期待できます。
軽量で柔軟な特徴
従来のシリコンと比較して、ペロブスカイト太陽電池は柔軟性が高く折り曲げが可能でゆがみに強く、軽量化にも適しています。そのためフィルム型などの太陽電池を製造可能でこれまで設置が難しかった新たな場所に導入できるというポテンシャルを秘めています。
国内サプライチェーンの構築が可能
ペロブスカイト太陽電池の主要材料は、日本での生産量が高いヨウ素です。世界のヨウ素生産量は年間約34,000トンで、そのほとんどが日本とチリで生産されており、日本は全体の約30%に当たる10,000トンを生産しています。そのため海外の生産力に依存することなく、国内でサプライチェーンを構築することが可能です。政府は産業化に向け次世代型太陽電池の開発プロジェクト(498億円)を立ち上げ、2030年に実装を目指しています。
小型機器にも活用
これまでの太陽電池は、小型機器への応用が困難でした。しかし軽量で薄いペロブスカイト太陽電池は、時計やデバイス、センサーなどに活用が可能です。小型のため表面を大きく覆わずとも必要な電力を確保できます。また災害時の停電など非常時の急な電力不足対策としての応用にも期待が高まっています。
移動が可能
軽量性に優れているペロブスカイト太陽電池は、自動車やドローンなど移動する機体にも活用できます。特にEV(電気自動車)の外装に貼り付けて発電するシステムが確立されれば、走行中に得られる太陽エネルギーを効率的に利用し、充電する手間がなくなります。またドローンにおいては、バッテリー消耗を抑えながら航続時間を延ばすことができるようになります。
ペロブスカイト太陽電池の3つのデメリット
ペロブスカイト太陽電池には、解決しなくてはならない課題も存在します。ここでは、現時点でのペロブスカイト太陽電池のデメリットを解説します。
性能の安定が難しい
ペロブスカイト太陽電池のデメリットの一つは、性能の安定が難しく、寿命が短いことです。湿気や紫外線に対して劣化しやすく、外部環境に敏感に影響を受けます。そのため長期間の運用には不安が残ります。特に湿気には弱いため、屋外での使用では発電効率が低下する可能性を否定できません。
環境に対する影響
ペロブスカイト太陽電池には、発電効率を高めるために鉛や臭素などが使用されています。これらは有害物質のため、環境や生物に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に鉛は人体に重篤な影響を及ぼすことで知られており、廃棄や製造時には適切で確実な処理工程が構築される必要があります。
変換効率の向上
変換効率とは、太陽光のエネルギーをどれだけ電気に変換できるかを示す指標のことです。シリコン系の太陽電池の変換効率は25%以上あるのに対して、ペロブスカイト太陽電池の発電効率は、2009年の開発時点で3〜4%%と非常に低いものでした。しかしその後研究がすすめられ、2024年11月現在では、発電効率は26.7%にまで向上しました。さらに研究が進めば将来的に発電効率が向上する可能性は大いにあります。
海外と日本の太陽光発電市場
ここからは世界と日本の太陽光発電市場の現状や動向を解説していきます。
世界の太陽光発電導入状況
2023年の世界の太陽光発電の累積導入量は1,642GWでした。国別にみると1位は中国で649GW、2位米国は177GW、3位インドは93GW、4位の日本は91GW、5位ドイツが82GWとなっています。年間の導入量は、456.0GWで、1位は中国の235.0GW、2位の米国が33.9GWでした。
出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電開発戦略2025について」
2023年の太陽光発電市場の成長規模は著しいものでしたが、拡大の大半は中国が牽引したものです。米国は2022年の市場の減少から、2023年には32.4GWの太陽光発電設備が系統に連系され年間48%の成長を遂げました。ドイツは2023年に15GWを設置し、欧州諸国で新記録を樹立しました。
気候変動による切迫した状態が続くなか、再生可能エネルギーの推進に伴い、太陽光発電の需要は今後も大幅に伸びることが予測されます。コストの改善や、製品を入手しやすくするなど、次世代太陽電池に係る技術革新が進むことで、太陽光発電市場や各国の競合はさらに加速していくでしょう。
日本の太陽光発電導入状況
日本では2012年に開始された固定価格買取制度(FIT制度)の普及に伴い、太陽光発電の導入が加速しました。2021年度日本の再生可能エネルギー電力比率は、約20.3%であり、発電設備容量は世界第6位で、太陽光発電は世界第3位という実績でした。しかし現在はインドに抜かれて第4位となっています。
第7次エネルギー基本計画では、2030年度には再生可能エネルギーの割合を36〜38%まで引き上げることを掲げています。太陽光発電においては、屋根設置太陽光発電の設置を公共の設置可能な建設物などを対象に、2030年には約50%、2040年には100%の設置が目標です。東京都では、2025年4月から新築住宅等への太陽光発電設備の設置や断熱・省エネ性能の確保等を義務付ける新たな制度が始まりました。
海外におけるペロブスカイト太陽電池開発状況
ペロブスカイト太陽電池の開発は、国際競争が激化している状況です。 中国は多数の企業や大学において中国自国内の特許取得を進め、ガラス型を中心にタンデム型を含め各社量産に向けた動きを加速させています。 欧州では、独立系メーカーが、フィルム型・タンデム型を開発し、量産ラインの整備に向けて動きが起きています。
日本のペロブスカイト太陽電池最新動向
ここからは国内のペロブスカイト太陽電池開発の最新動向として、「次世代太陽電池戦略」と「GX(グリーントランスフォーメーション)による市場創出」について解説していきます。
次世代型太陽電池戦略
国は2024年5月より、「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」において、「次世代型太陽電池戦略」についての検討を行い、同年11月に内容を公表しました。
戦略内容の概要は、官民が連携し、世界に引けを取らない「規模」と「スピード」で、量産技術の確立・生産体制整備・需要創出を三位一体で進めること。また「第7次エネルギー基本計画」に次世代太陽電池戦略が盛り込まれたこと。これにより生産体制整備や需要創出、量産技術の確立を目指すことです。
GX(グリーントランスフォーメーション)による市場創出
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、温室効果ガスの排出削減の取り組みを経済成長の機会と考え、産業競争力の向上や社会全体の変革につなげることです。日本でもさまざまな施策が開始されており、取り組みのひとつとして、次世代太陽電池の導入目標が掲げられています。具体的には2025年からの事業化を見据え、2020年代なかばには、年間100MW年規模、2030年を待たずにGW級の量産体制を構築することが検討されています。
そのほか導入支援策として、 政府実行計画への位置付けや地方公共団体実行計画制度を通じた、政府・地方公共団体等の公共施設での率先導入が挙げられます。また FIT・FIP制度における導入促進策や大量生産等による価格低減目標を前提とした需要支援、空港・鉄道などの公共インフラに対する支援策も盛り込まれています。
海外展開や市場の獲得としては、欧米諸国とも連携した評価手法の国際標準化の推進、 各国のエネルギー事情を踏まえつつ、アジア、欧米などの海外市場獲得を目指していきます。
GXについてはこちらの記事もぜひご覧ください。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは?意味やメリット、取り組み事例などをわかりやすく解説
ペロブスカイト太陽電池の課題と展望
ペロブスカイト太陽電池が抱えている課題と将来的な展望について解説します。
日本の太陽光発電の導入ポテンシャル
近年は環境への負荷低減による太陽光発電規制条例の拡大や、特定の建物における太陽光発電設置義務化など、太陽光発電導入における制度は変化している状況です。そのような背景もあり、太陽光発電は地域条例や建物屋根の特徴を詳細に考慮して、導入する必要性が生じています。
現在地上設置型太陽光発電における 地域条例を考慮した導入ポテンシャルは、陸上風力発電との競合が生じない場所で20GW~107GWと推計されています。ペロブスカイト太陽電池のような小型、軽量化が可能な太陽電池ならさらに多くの導入ポテンシャルが期待できます。
国際競争力を高める必要性
ペロブスカイト太陽電池の事業化においては、日本が国際的な競争力を高め、太陽電池市場のリーダーシップをとることが望まれます。日本はかつてシリコン系太陽電池の技術開発で成功し、2000年頃には世界シェアが50%を超えていました。しかし、2005年以降は中国をはじめとする海外企業に市場を奪われ、2025年のシェアは1%にも及びません。
ペロブスカイト太陽電池はもともと、日本の桐蔭横浜大学の特任教授である宮坂力氏が発明したものです。特許庁の「令和元年度大分野別出願動向調査」によると、ペロブスカイト太陽電池の特許出願件数の上位10者のうち3者を日本企業が占めており、日本は将来的にみて高い技術力を基に世界をリードしていくことが求められるでしょう。
日本企業の取り組み事例
ペロブスカイト太陽電池の国内企業の開発事例をご紹介します。
株式会社東芝
フィルム型ペロブスカイトで「再エネ主力電源化」 、Cu2Oタンデムで「運輸の電動化」の実現を目指しています。PVを重要分野として開発に注力、積極的な社外発信を実施中。軽量なフィルム型太陽電池を都市部のビルの壁面や軽量屋根の工場等、従来設置できなかったところに展開し、特に国際イニシアチブ「RE100」の取得を狙う企業の採用などを目指していきます。
参照:株式会社東芝「フィルム型ペロブスカイト太陽電池実用化に向けた材料デバイス設計・製造プロセス技術開発」
株式会社エネコートテクノロジーズ
2018年1月設立の京都大学発スタートアップ企業でペロブスカイト太陽電池の材料開発、モジュールの製品化に取り組んでいます。2021年、エネコート、リコー電子デバイス、ニチコンの3社の協業により世界で初めてフィルム型ペロブスカイト太陽電池を活用した電子棚札システムを開発しました。
キヤノン株式会社
ペロブスカイト太陽電池は量産安定性が低いという課題の解決には、光電変換層を被覆する膜の必要性が認識されているため、キヤノンは複合機やレーザープリンターの基幹部品である感光体の開発で培ってきた材料技術を応用し、光電変換層を被覆する高機能材料を開発しました。
参照:キヤノン株式会社「キヤノンがペロブスカイト太陽電池向けの高機能材料を開発 耐久性と量産安定性の向上に期待」
積水化学工業株式会社
鈴与商事株式会社と積水化学工業株式会社、そして積水ソーラーフィルム株式会社は、2025年4月から共同で静岡県にてフィルム型ペロブスカイト太陽電池による導入実証を開始しました。沿岸部での耐風圧や塩害への耐久性等について検証し、従来のシリコン系太陽電池では困難だった場所への設置を可能にすることで、再生可能エネルギーの導入を拡大します。
参照:積水化学工業株式会社「静岡県におけるペロブスカイト太陽電池の導入実証の開始について」
まとめ
次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池について、仕組みからメリット・デメリット、そして世界と日本の動向まで網羅して解説しました。
気候変動対策の一環として再生可能エネルギーの導入は世界で加速しており、太陽光発電は主要な位置を占めています。日本はGX推進によりペロブスカイト太陽電池の開発における世界のリーダーシップを目指しています。
GXについて学ぶことは、企業の未来を学ぶことでもあります。GX検定では、世界の気候変動対策や政府が推進するGXについて学ぶことが可能です。
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