次世代エネルギーとして注目の高い核融合発電をご存じでしょうか。核融合発電とは、軽い原子核を融合させて膨大なエネルギーを生み出すシステムのことです。発電過程でCO2を排出せず、高レベル放射性廃棄物も出ないという大きなメリットがあります。
本記事では、核融合発電の仕組みからメリット・デメリット、さらには日本と海外の開発動向や具体的な事例まで網羅して解説します。この記事を読むことで、核融合発電に関する深い知見を得ることができるでしょう。ぜひご一読ください。
核融合発電とは

核融合発電とはどのような仕組みなのかを詳しく解説していきます。
核融合発電の仕組み
核融合発電は核融合反応によるエネルギーで発電します。核融合反応とは、太陽のエネルギー源となっている現象で、質量の小さな原子の原子核同士が融合し、より大きな原子核へと変化する反応を指します。具体的には、水素のような軽い原子核が結合して、ヘリウムなどのより重い原子核へと変わることをいいます。
この反応が起こる際には、反応前後で原子核を構成する陽子や中性子の結合エネルギーが変化するため、わずかな質量が失われ、その差が膨大なエネルギーとして放出されます。この核融合反応によって得られるエネルギーを利用して発電する仕組みを、核融合発電と呼びます。

出典:文部科学省「核融合エネルギーとは」
核融合反応を起こす方法には、「磁場閉じ込め方式」と「慣性閉じ込め方式」があります。具体的な種類は以下のようになります。
トカマク型(磁場閉じ込め方式)
核融合反応を起こすためには、まず燃料を加熱してプラズマ状態にします。プラズマは、プラスの電荷を持つイオンと、マイナスの電荷を持つ電子で構成されます。電荷をもつ粒子は磁力線に沿って運動する性質があるため、磁場を利用してプラズマを閉じ込め、さらに加熱することで、核融合に必要な超高温のプラズマを発生させます。これが「磁場閉じ込め方式」です。
「磁場閉じ込め方式」のひとつであるトカマク型では、D字形のコイルを円形に並べることで、装置内部にドーナツ状の磁場を発生させます。さらに、ドーナツの中心に設置されたコイルを使ってプラズマに誘導電流を流し、その電流によってプラズマの断面を回る方向の磁場をつくります。これら2種類の磁場を重ね合わせることで、プラズマを安定して閉じ込めることができます。

出典:自然科学研究機構 核融合科学研究所
ヘリカル型(磁場閉じ込め方式)
トカマク型と同様に、ドーナツ状のねじれた磁場でプラズマを閉じ込めます。磁場を作るためにねじれたヘリカルコイルを使用します。製作の難易度は高いといわれていますが、一方で運転時にはプラズマに電流を流す必要はありません。 トカマク方式と比較して長時間の運転が可能ですが、プラズマを閉じ込める性能には課題も残っています。
レーザー型(慣性閉じ込め方式)
レーザー型は「慣性」の法則を利用し、一瞬だけ閉じ込めたプラズマにレーザーを照射して繰り返し核反応を起こす方法です。数ミリほどの球状の燃料ペレットに強力なレーザーを照射すると、表面がプラズマとなって外側へ吹き飛びます。その反作用で内側へ強い圧力がかかり、中心部が一気に圧縮される爆縮の働きによって、核融合反応が起こる仕組みです。
原子力発電との違い
原子力発電は、ウランなどの大きな原子核を分裂させる「核分裂」から抽出される多大なエネルギーを発電に利用する仕組みです。しかし、原子力発電はその過程で放射性廃棄物を排出します。高レベルの放射性廃棄物は人体や環境に影響を及ぼすため、地上での管理は困難で、地下深くに貯蔵する必要があります。一方、核融合発電は放射性廃棄物をほぼ発生しません。

出典:自然科学研究機構 核融合科学研究所
原子力発電についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
原子力発電のメリットとデメリットとは?仕組みや課題をわかりやすく解説!
なぜ核融合発電は注目されているのか
後述しますが核融合発電にはさまざまなメリットがあり、気候変動対策や持続可能なエネルギーを得るための解決策として、世界で注目されています。各国で研究開発が進んでおり、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドは、核融合実験炉ITER(イーター)の建設および、運転を行う「ITER計画」を協働で実施しています。
核融合発電のメリット

核融合発電にはさまざまなメリットがあります。以下の4つの観点からメリットについて具体的に解説していきましょう。
- 資源が豊富である
- 環境にとってクリーン
- 安全性が高い
- イノベーションの促進
資源が豊富である
核融合エネルギーでは、核融合反応が起きやすい重水素(D)と三重水素(T)を組み合わせた「DT反応」を利用します。これらの資源は海水中に豊富に含まれており、海に囲まれた日本にとっては、エネルギーを輸入に頼らずに確保できるという利点があります。
さらに、核融合ではわずか1グラムの燃料から石油約8トン分に相当するエネルギーを得られます。これは、約12トンの石炭を燃焼した際に得られるエネルギー量に匹敵するほど高い効率です。
環境にとってクリーン
核融合発電では、生成されるのはヘリウムと中性子のみであり、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出しません。また、再生可能エネルギーのように天候や季節に左右されることもなく、安定してエネルギーを生み出せる点が大きな特徴です。
そのため、将来的には原子力発電や石炭火力発電に代わる電源としての役割を担う可能性があります。これが実現すれば、パリ協定の目標達成やネイチャーポジティブの推進など、地球環境への大きな貢献につながります。
安全性の高さ
核融合発電は安全性の面でも優れています。核融合反応は、燃料や電源の供給を止めればすぐに停止するため、原子力発電所で懸念されるようなメルトダウンのリスクがありません。また、放射性物質が大量に漏洩する可能性も極めて低いとされています。
イノベーションの促進
核融合発電を実用化するには、万が一の事故に対応する安全性や耐久性など、これまでにない厳しい条件をクリアする技術力が求められるためイノベーションの促進につながります。また培った技術は医療など、さまざまな分野での応用が期待できます。
核融合発電のデメリット
核融合発電には以下のようなデメリットも存在します。具体的に解説します。
コストがかかる
核融合発電の実用化には莫大なコストがかかります。実際に開発が進められている核融合実験炉ITERでは、2024年7月に追加費用として50億ユーロが必要になると発表されました。建設費の総額は公式には明らかにされていないものの、推定では250億ユーロ(日本円で約4兆円)に達するといわれています。こうした状況から、今後の核融合発電開発においては、いかにコストを削減するかが大きな課題です。
技術的課題
装置を大型化することで、「核融合」実現の見通しは得られているものの、装置の大型化によって製作が困難という技術的課題にも直面しています。そのため、プラズマの高性能化・装置小型化によるリスクの低減を図ることが必要です。またプラズマを長時間保存するための技術など、乗り越えるべき課題が複数存在します。
核融合発電の現状と展望

ここからは核融合発電の世界と日本の現状や、将来的な動向を具体的に解説していきます。
海外の動向
海外の主要国の核融合発電の現状を紹介します。
米国
米国は2025年に米国エネルギー省(DOE)による「核融合科学技術ロードマップ」を公表しました。それによると、米国は2030年代半ばまでに商用核融合発電を実現することを目指しています。核融合炉の実現に不可欠な技術分野を発展させるため、オークリッジ国立研究所に「MPEX」を設置し、短期間での成果を目指しています。また民間による巨大プロジェクトも次々と始動しています。
中国
中国では、国営企業や研究機関が中心となり、国家主導で核融合発電の開発が進められています。2025年には、制御核融合の3つの重点分野で大きな成果が得られ、中国科学院プラズマ物理研究所の「EAST(先進超伝導実験トカマク)」が、1億度のプラズマを1,066秒間にわたり定常運転することに成功しました。
さらに、大企業によるスタートアップ企業への支援も活発化しており、ASEAN地域での先駆的取り組みとして、タイの「タイランド・トカマク1」の共同建設にも参画しています。
EU
欧州委員会は2026年3月、欧州原子力共同体(ユーラトム)の2026年度と2027年度の研究・研修プログラムの作業計画を承認し、核融合エネルギー開発促進に3.3億ユーロ(約610億円)の予算を用意すると発表しました。
英国
英国は独自の核融合戦略を掲げており、その中心的プロジェクトとして、ノッティンガムシャー州の石炭火力発電所跡地に建設されるプロトタイプ核融合発電所「STEP」を位置づけています。政府は大手民間企業をエンジニアリングおよび建設パートナーの候補として選定し、実用化に向けた体制を強化。2040年代に電力をグリッド(送電網)へ供給し、核融合発電の商用化を目指しています。
日本の現状と動向
日本は現在、核融合発電を「重点投資対象」の一つに位置付け、総額1,000億円規模の研究開発投資支援を進める方針です。2026年度からは、国の核融合研究開発施設を民間に開放し、官民での共同利用を前提として、全国3カ所の施設に高額な研究機器を整備する計画が進められています。
さらに、スタートアップや大学が技術開発に参加しやすい環境を整備し、2030年代までの核融合発電の実現を目指しています。
将来的な展望
核融合発電の研究開発には、世界各国のスタートアップ及び、産官学で多数の主体が参入しています。2025年9月までに、核融合スタートアップには世界全体で90億ドル以上(約1.35兆円)が投資されており、米国のスタートアップ「CFS」は約30億ドル(約4,500億円)と、これまで最大の資金を調達しました。
こうした開発加速の背景には、世界的な脱炭素化の潮流に加え、AIの急速な普及に伴うデータセンターの需要拡大による電力需要が増加していることなどが挙げられます。今後は法規制や制度面に関する本格的な議論を進め、検討すべき課題を一つずつ解決していくことが求められるでしょう。
企業事例
核融合発電の実現に取り組む企業の数は、年々増加しています。ここでは実際の企業事例をご紹介していきます。
Commonwealth Fusion Systems LLC(米国)
CFS社は、マサチューセッツ工科大学のスピンオフ企業です。トカマク方式による核融合発電炉の設計・開発を進めています。世界初となる商業用核融合発電炉「ARC(アーク)」を米国バージニア州に建設する計画を発表しており、2030年代前半の運転開始を目指しています。
Tokamak Energy(イギリス)
トカマク・エナジーは、2009年に英国原子力庁からスピンアウトして設立されました。英国に本社を置き、米国と日本に子会社を持っています。核融合エネルギー、配電、分析科学、モーターおよび発電機、先進推進システムなどの用途向けに、商用高温超伝導(HTS)技術およびシステムを提供しています。
京都フュージョニアリング(日本)
京都フュージョニアリング社は、核融合エネルギーの革新的化学プロセスを実現する技術を、京都大学他と共同で研究開発しています。フュージョンバイオマス水素製造・炭素固定、合成液体燃料生成、バイオマスCCS等の要素技術において、世界トップを走り、核融合発電によるネット・ゼロ社会の実現を目指しています。
EX-Fusion(日本)
EX-Fusion社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップです。実証研究施設において、世界で初めて1秒間に10回、模擬燃料に対して高精度にレーザーを照射し続けることに成功しました。民間資本を集めながら、実用化に向けた技術開発を行っており、レーザーフュージョン商用炉の実現を目指しています。
まとめ
核融合発電の仕組みから、メリット・デメリット、さらに日本および海外における具体的な開発動向や事例まで、包括的に解説しました。次世代エネルギーとして期待が高まる核融合発電は、今後も世界的に研究開発が加速していくことが見込まれています。
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