SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?SDGsとの違いや実践事例をわかりやすく解説
サステナブルな社会の実現に向けて国際社会におけるサステナビリティへの取り組みが必須となり、企業のSDGsへの取り組みが広がっています。
そんな社会環境のなか、今企業の取り組みとしてSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が注目されています。
経済産業省が公表した概念によると、SXとは『「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を「同期化」させ変革を促していくこと』と定義づけされていますが、このことからもわかるようにSXはとても抽象的な概念のため、具体的な内容まで把握できていない方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は企業のSX推進に向けて、SXの概要をはじめ、SX推進のための2つのポイント、SDGsとの違いや共通点、なぜ今SXが注目されるようになったのかその背景など、どこよりもわかりやすく解説していきたいと思います。
またSXの実践に伴う具体的な事例や、SXに必要なダイナミック・ケイパビリティとは何か、SXを進める上で一体何が大事なのか、まずは何から取り掛かるべきなのかなどについても解説していきます。
SXについて関心のある方はこの記事を読んでいただき、SXについての理解を深め、ぜひ次に必要となる具体的なアクションを起こしてみてください。
>>>「SXの変遷:SX銘柄と伊藤レポートの概要をダウンロードする」
SXとは
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、企業や組織がサステナビリティ(持続可能性)な社会を実現するために、これまでのビジネスモデルや運営プロセスなどを含めた企業経営のあり方を見直し、抜本的に変革することを指し示す概念です。
つまりSXでは、企業が長期的に「稼ぐ力」を強化向上しながらも、同時に経営理念から各機能に至るまでのあらゆる面で、地球環境や社会資本を枯渇させないための社会の持続可能性も追求していく「新しい事業モデル」に転換していくことが求められる形になります。
SXのポイント
SXでは「企業の持続可能性」と「社会の持続可能性」のどちらも同時に実現できるような経営方針や事業改革を事業計画に取り入れ、ズレを無くして一貫性を持たせていくことが(同期化)、ひとつ重要なポイントとなります。
つまり、SXでは、企業が自らの利益を追求するだけにとどまらず、加えて社会全体にも貢献するような形の事業モデル(稼ぎ方)に大きく変革(見直し変える)させていくことが求められる形になります。
その一方で、SXに関する知識やスキルの不足、事業モデルの見直しや一企業だけではなくサプライチェーン全体で事業全体を見直す必要があるなど、想像以上に取り組む際のハードルが高く、なかなか推進しづらいという現実もあります。
※SXと関連性の高い言葉に「GX」がありますが、GXとの違いについては「DX・GX・SXの違いとは?取り組み内容や関係性を解説」を参考にしてください。
企業の持続可能性(稼ぐ力の持続化・強化)
SXのポイントの一つ「企業の持続可能性」とは、企業が稼ぐ力(成長原資を生み出す力)を持続、強化しながら、環境や社会に与える影響や負荷を最小限におさえ、社会全体に長期的な価値提供をしていく活動のことを指します。
例えば「タイヤのリサイクルを行いエコタイヤの開発を推進する」などがSXで言うところの「企業の持続可能性(成長資源を生み出す力)」にあたります。
社会の持続可能性(社会のサステナビリティを経営に取り込む)
社会の持続可能性とは、現在の世代が社会や環境に与える影響を最小限におさえながらも、地球環境や社会資本を枯渇させずに、次の世代につながる社会の実現に向けて発展を目指していく活動を指します。
経済産業省の資料「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ」によれば、新型コロナ感染症やロシア・ウクライナ戦争などの従来のビジネス環境が覆されるような不確実性の高い社会において、「将来的な社会の姿や持続可能性」を見据えながら取り組みを行うこと、と示されています。
つまり、我々の社会課題である気候変動(気候変動対策)や人権への対応(労働環境の改善)など社会の持続可能性を向上させるような取り組みを事業活動に取り込み実践していくことを「社会の持続可能性」で指し示していることになります。
参考:経済産業省:サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の 実現に向けて~
SXとSDGsの違い
SXに似た概念にSDGsがあります。
SXとSDGsはどちらも「持続可能」な社会を実現するための概念ですが、両者はその「目的」と「対象」が異なるという違いがあります。
SXの特徴
SXの特徴は、持続的に「稼ぐ力」に重きを置いているところにあります。
SXは、SDGsやESG(環境問題への取り組み、社会的公正・貢献、企業統治)の目標に沿う形で実行が求められることが多く、企業としての長期的な競争力を維持しながらも、同時に環境や社会の課題を解決するといったように、ビジネスや社会全体を持続可能な形に変えるための包括的な「変革」を強調しているところに、その特徴があります。
また、SXには「持続的な」という言葉が含まれているものの、資源の効率的な利用や、社会的な公平性、経済的な持続可能性など「経済的価値」に重きを置いている部分にSXの大きな特徴があり、全体を通して「持続可能な社会に向けてどのように事業を変革するのか」に焦点が当てられています。
このように、SXではいわば「稼ぐ力」に焦点が当てられていますが、SXの概念は包括的であるためその取り組みや活動は多岐に渡り、現状、実践できていない企業が多い現実があります。
例えば、企業のサステナビリティに貢献できるサステナブル人材が不足していることもひとつ課題として挙げられます。
【SXの対象】
企業や経済活動における変革。
【SXの目的】
企業が「稼ぐ力」をどのように「社会」に還元、変革していくのかのプロセスや取り組み。
※SXは経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で触れられた日本独自の経済戦略としての考え方です。
SDGsの特徴
一方でSDGsの特徴は、持続的な「社会」の形成に重きを置いているところにあります。
SDGsは2015年に国連が設定した「17の目標」と「169のターゲット」からなる世界全体の持続可能な発展を目指した枠組みで、SDGsでは「17の目標」を達成するための指針が掲げられています。
SXが経済的価値に焦点が当てられている一方で、SDGsは「世界全体でどのような社会の実現に向けて取り組んでいくのか」に焦点が当てられているという「対象」の違いがあります。
【SDGsの対象】
政府、企業、個人を含めた全てのステークホルダー(利害関係者)。
【SDGsの目的】
貧困や飢餓の撲滅、教育の普及、気候変動対策、ジェンダー平等、幅広い社会的環境課題など社会環境を維持するための取り組み。
SXとSDGsの共通点と関係性
SXとSDGsはどちらも「持続可能な社会の実現に向けた取り組み」ですが、SDGsは全体の指針を示すことで「何を目指すのか」に焦点が当てられている一方で、SXでは「経済的にどのように、その目標に向けて変革するのか」という問題や課題に焦点が当てられているかの違いがあると言えます。
【SXとSDGsの共通点と関係性】
SX:どうやって目標に向けて変革するのか「日本独自の経済戦略」
SDGs:社会全体として何を目指すのか「世界全体の方針」
SXが注目される背景
前述したように、SXのその取り組みは非常に多岐に渡ります。
例えば昨今の社会環境ではSDGsやESGだけではなく、企業のDX化推進、地球温暖化や海洋汚染などの環境問題など、予測できない社会的課題への臨機応変な対応が求められ、世の中の不確実性は年々高まってきています。
予測不可能な環境下でも、企業は中長期的に企業価値を向上させる必要があります。
そして、これらの予期しない課題に対してどうやって企業を変革させ、持続可能な企業の成長につなげていくのか、その重要な戦略として注目されはじめたのがSXであるという背景があります。
SXを語る上で重要な観点は次の3つです。
SDGs(持続的な開発目標)の観点
SXを語る上で1つ目に重要な観点は、先に挙げた2015年9月に国連総会で採択された開発目標及び行動計画であるSDGsの観点です。
SDGsでは持続可能な社会を実現するための多様性に富んだ社会の実現を目指す「17の目標」「169のターゲット(具体指標)」が示されており、SXを推進することがそのままSDGsを達成することに繋がるという見地です。
ESG(環境・社会・企業統治)の観点
SXで2つ目に重要な観点は、2006年に国際連合の「責任投資原則」(PRI: Principles for Responsible Investment)に関する報告書の中で当時の国連事務総長コフィー・アナンにより公表され、投資判断の新しい基準として紹介された「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の観点です。
ESG(環境、社会、ガバナンス)に配慮した経営を行うことで「将来性のある企業」「持続性のある企業」として株主や投資家からの評価や期待が高まるなど、ステークホルダーからの信頼の獲得がSX推進につながっていくという考え方です。
人的資本経営の観点
SXを語る上で3つ目に重要な観点は、企業を支えているのは人(人的資本)であることから、人的資本経営を大事にするという観点です。
例えば、人権の尊重や働きがいのある職場づくりなどを進め社会的責任を果たしていきます。
そうすることで、コーポレートガバナンスや透明性が高められ、企業活動の信頼性が向上していき、人的資本経営による社会的責任が果たされるという考え方です。
伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)とは
図:伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0 の概要
また、SXが注目される背景として、政府(経済産業省)が「価値協創ガイダンス2.0」をアップデートしたことや「伊藤レポート3.0 SX版伊藤レポート」を取りまとめたこともSXが注目されはじめた背景の一つにあると言えます。
参考:【参考資料】 伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0 の概要
参考:「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」・「価値協創ガイダンス2.0」を取りまとめました (METI/経済産業省)
価値協創ガイダンス2.0
図:伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0 の概要
「価値協創ガイダンス2.0」とは、SXの意義や重要性について明示した報告書であり、SXを経営改革に落とし込むための実践的なフレームワークのことです。
財務的なパフォーマンスだけではなく、社会的・環境的価値の創造も重視することを促すものですが、バージョン「2.0」では、企業が価値創造プロセスを強化することや、人的資本の重視、ESGの統合や企業がステークホルダーとの対話を通じて、持続可能な発展を目指すための実践的な方法について言及されるなど、報告内容が強化されたものとなっています。
参考:経済産業省:伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0 の概要
伊藤レポート3.0
「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」は、2022年に経済産業省が発表した報告書で、持続可能性を経営の中心に据えることで、企業の中長期的な成長を促すことを提唱した報告書です。
「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では、企業がサステナビリティに貢献しながらも、自らも経済的な成長を実現させる重要性を指摘しており、SX実践の重要性やSXの実現に向けた具体的な取り組みが整理されています。
つまり、企業の長期的、持続的かつ創造のためにSXの実践の重要性や、SXの実現に向けた具体的な取り組みを整理したものが「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」の概要となります。
参考:「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」・「価値協創ガイダンス2.0」を取りまとめました (METI/経済産業省)
SXに必要な3つの観点
「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」ではSXに向けた取り組みとして以下3点が重要であると整理されています。
1:企業の目指す姿を明確にする
「伊藤レポート3.0」では、まず「社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化」が大事だとされており、企業はまず社会にどのような価値を提供して、長期的な価値向上を続けるのか、企業の目指す姿を明確にすることが重要であると示されています。
社会の持続可能性に対して、自社の事業活動がどのように貢献するのか、どのように社会に対して継続的に価値提供を行えるのかなど、企業や社員の行動の判断軸となる価値観を明確にし、企業として目指す姿を設定することの重要性を示しています。
2:目指す姿から、長期的な企業価値を作り出す戦略を立てる
次の「目指す姿に基づく長期的想像を実現するための戦略構築」では、企業の目指す姿を踏まえた上で「長期価値創造を実現するための戦略を策定することの重要性」について触れられています。
長期的戦略を構築する際に以下の3つが重要であるとされています。
1:長期的に目指す姿の設定
2:その実現に向けて基盤となるビジネスモデルの構築・変革
3:視野に入れるべきリスクと機会の分析を統合的におこなうこと
つまり、現状とのギャップを明らかにし、有形・無形資産への投資を含む、短中長期の計画を策定し、より具体的なタスクやスケジュールを把握することが重要とされています。
3:KPIを設定しガバナンスを整備する
最後の「長期的価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと実質的な対話を通じた更なる磨き上げ」では、目指す姿の実現に向けて着実に成果を上げていくためには、KPIの設定とガバナンス体制の整備が有効であると指摘しています。
KPI設定においては、目指す姿にとどまらず、価値観や課題と関連付けた上に、ガバナンスによって自社の持続的成長を周囲に納得してもらうことが大事で、そのために論理的な筋書きである「価値創造ストーリー」を示すことが大切であると指摘しています。
また、同時に投資家との間で長期的な企業価値向上に向けた対話を通じ、目指す姿・その達成に向けた戦略・ガバナンス体制に関する一連の価値創造ストーリーを磨き続けることが重要であると指摘しています。
図:伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0 の概要
SXの取り組み状況(企業の現状)
SXは2020年8月に開催された「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で提唱された考え方ですが、2022年の「伊藤レポート3.0」「価値協創ガイダンス2.0」でも、SXの重要性や必要性について取り上げられました。
さらには昨今のコロナ感染症やロシア・ウクライナ戦争などの社会の不確実性などの高まりもあり、注目度が急速に高まっている状況にあります。
SXの必要性
DXなどのデジタル技術や、人工知能(AI)、ビッグデータや IoT、ロボティクスなどの先進技術が急速に発展する第4次産業革命により、社会や経済に大きな変革がもたらされています。
また企業は気候変動、局地的な災害、病気などの経済リスクを考慮しながら中長期的な企業価値の創造をはかる必要があります。
投資家や資本市場からも企業の持続可能性(サステナビリティ)や適応力への要請が高まっており、ESG投資に見られるように社会のサステナビリティへの貢献度も投資の対象となってきている現実があります。
そのため、「伊藤レポート3.0」でも、企業は持続的に稼ぐ力に焦点を置き長期的かつ持続的に成長原資を生み出すSXに取り組むことが必要であると提唱されており、社会の持続可能性とともに、企業の持続可能性を目指すことが必要であるとされています。
SXの取り組みが進まない理由
投資や資本市場での注目度の高さから、大企業では徐々にSXに取り組む姿が見られるようになりましたが、一方で、中小企業においてはSXの取り組みはなかなか進んでいません。
これは、事業モデルの見直しや、SX推進に伴う一時的なコスト増など多岐にわたる分野での取り組みが必要となり、その複雑さが少なからぬ原因でもあります。
また、SXに取り組む上で必要となるサステナビリティに貢献できるサステナブル人材をはじめ、SXについてのスキルが不足していることで、こうした変革を実行できない企業も多く存在します。
この状況を打破するためには、まずは学習を通じてSXの基礎を固めることが重要であり、企業の全従業員がその理念を理解して共通の目標に向かっていくことが成功の鍵となると言えると思います。
SXに取り組むメリット
SX推進による企業のメリットは下記の3点があげられます。
1:ステークホルダーからの信頼獲得
SXが注目されるようになった背景として、SDGsの社会への浸透がありますが、SXの推進はSDGsの目標達成に大きく貢献します。
先に述べたようにESGとSDGsは関連している部分が多く、その取り組みにおいて共通する部分もあるため、SXに取り組むことでESGの実現にも良い影響を与えることが期待できます。
つまり、企業がSX推進に取り組むことで社会貢献、ならびに稼ぐ力の強化を同期化(ズレを無くして一貫性を持たせる)し、持続性のある企業として投資家からの信頼獲得につながることが考えられます。
2:企業のイメージ向上
世界的にサステナビリティの意識が高まるなかで社会的影響力が高い企業は特に、その企業としてのあり方が注目される時代になってきています。
特に若い世代では、企業のサステナビリティ活動に注目している傾向があり、採用時においても企業のサステナビリティへの取り組みは重要視されている傾向があります。
SX推進は人的資本経営の実現にも繋がりますし、人材獲得の貢献、人的資源の効果的な活動など、不確実性の高い社会において持続可能性のある経営が見込まれることになります。
3:不確実性の高い社会で稼ぐ力の向上
不確実性の高い社会においてSXを推進することは、中長期的な視点での稼ぐ力の向上にも繋がります。
- 第4次産業革命の進展に伴う各種技術の革新
- コロナ感染症など病気の流行による経済危機
- 気候変動などにより社会環境の変化
- グローバルなサプライチェーンの寸断
ここ数年だけでも、大きな経済・社会環境の変化があり、特定の事業だけに経営資源を集中することでのリスクは年々高まっています。
SX推進によって中長期的に稼ぐ力を向上させると、こうした予測不能なリスクに備えられる上に、他社との競争優位性が向上する可能性も考えられます。
特にサステナブル人材の育成など人的資本に資源を投下し企業の稼ぐ力を強化すれば不確実性の高い世の中において稼ぐ力は向上されるとみられています。
SX推進に必要なダイナミック・ケイパビリティ
ここからはSX推進の鍵となるダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)について解説していきます。
ダイナミック・ケイパビリティとは
ダイナミック・ケイパビリティとは「企業変革力・企業対応力」のことです。
ダイナミック・ケイパビリティはカリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクール教授であるデイヴィッド・J・ティースが、戦略経営論の中で提唱した言葉ですが近年注目を浴びつつあります。
日本政府による「製造基盤白書(ものづくり白書)2020年度版」ではダイナミック・ケイパビリティについて「ダイナミック・ケイパビリティとは環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことである」と定義づけされています。
参考:企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化(経済産業省)
ダイナミック・ケイパビリティの3つの能力
ダイナミック・ケイパビリティはSX推進に必要となる3つの能力であり、具体的には、以下の3つの能力のことであると示されています。
【感知力(Sensing)】
まず、感知力ですが、これは自社にとっての新しい機会や脅威、トラブルなどを事前に察知、推測する能力のことを言います。
例えばAIなどの新しい技術の変化やトレンド、顧客のニーズに関する情報を収集し、自社の状況や外部環境などを客観的に分析するなど変化を素早く捉える力が「感知力」にあたります。
【捕捉力(Seizing)】
次に捕捉力ですが、機会を捉える能力のことです。感知した機会や脅威に対して、迅速かつ効果的に対応し、それを活用する能力を捕捉力と言います。
現状のデータやテクノロジーに依存するのではなく、適切なタイミングでリソースを集約し、意思決定を行い、新しい製品やサービスを開発するなどの戦略を実行することが「捕捉力」にあたります。
例えば、顧客がリモートワークを望むようになったことを察知し、自社が保有している資産・技術・知識を見直し、クラウドベースのサービスを迅速に導入するなどがこれにあたります。
【変容力(Transforming)】
最後に、変容力ですが、これは企業のリソースや組織構造、それにプロセスの変化に対応できるように、柔軟に組織全体を刷新、再構成する能力のことを言います。
既存のビジネスモデルや組織構造を進化させることで、「現状の組織構造を組み替える」ことや「人事制度を大きく見直す」ことなどが変容力にあたります。
企業は補足した機会や脅威に対処するために、企業自身を変革して持続的に競争優位を維持させる必要がありますが、継続的に社内を刷新し、活性化させながら理想的な状態へと変容するプロセスがこれにあたります。
ダイナミック・ケイパビリティを強化するには
ダイナミック・ケイパビリティを強化するためには、サステナブル人材が不可欠です。
感知力・捕捉力、変容力という3つの能力を効果的に発揮するには、持続可能性の視点を持ちながらも長期的な視野で変化に対応できる人材が求められます。
サステナブル人材とは環境や社会的課題に対する感度が高く、変化の兆しを迅速に察知する能力を持った人材のことです。
企業にとってサステナブル人材の育成は、企業が変化の激しい環境において持続的に競争優位を確立するための鍵となります。
SXを実践している企業の事例
日本ではまだ、そのハードルの高さなどからSXの取り組みが進んでいないのが現状である一方で、いち早くSXを推進し、既に効果を出している企業も存在します。
ここでは「SX推進で成功している企業の成功事例」を紹介します。
1:伊藤忠商事
伊藤忠商事は、日本の大手総合商社ですが、SXを積極的に推進している企業の一つです。
同社は環境・社会への配慮を経営戦略の中心に据え、持続可能なエネルギーである再生エネルギー分野への投資を強化し、風力発電やバイオマス発電を推進していることや、プラスチック削減の取り組みや持続可能な農業・漁業の促進などによる資源管理、サプライチェーン全体で労働環境や環境保護基準を強化するなどの改善に取り組んでいます。
伊藤忠商事は、こうした持続可能な事業戦略が国内外で評価され、企業としてのブランド力並びに国際的な影響力を高めています。
2:パタゴニア(Patagonia)
パタゴニアはアウトドア用品メーカーとして知られていますが、環境保護や社会的責任をビジネスの中心に据えSXを推進している企業の一つです。
同社は製品にリサイクル素材の使用を拡大したり、環境保護活動に寄付をし環境保護団体へ資金を提供したり、2011年11月25日のブラックフライデーに消費者に対して不必要な消費を控えるように呼びかけることを目的として「このジャケットを買わないで」という広告をニューヨークタイムズに掲載するなどパタゴニアの環境保護の姿勢を象徴するものとなっています。
参考:「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」:ブラックフライデーとニューヨーク・タイムス紙
こうした一連の活動を通して消費者はパタゴニアの企業イメージの向上と長期的な顧客ロイヤリティの獲得に成功しています。
参考:企業の責任とパタゴニアの歩み | パタゴニア | Patagonia
SX実現に向けた具体的な3つのステップ
SXを実現するにはまずは全体像の把握をし、それぞれの項目で重要なポイントを押さえることが大切です。
SX実現に向けた具体的な流れについては下記のステップを参考にしてみてください。
1:SXの全体像を学びポイントを理解する
まずは全体的な枠組みとしてSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の基礎を理解しSXの全体像を把握します。
具体的には、環境負荷の低減、社会的責任の強化、経済的持続可能性の確保といった要素があげられます。
複雑なモデルであるSXについて、体系的に理解し、現場で何が求められているのかを学習し深く理解していきます。
弊社でもSX推進について体系的に学べるカリキュラムを用意しておりますので、SX推進で悩んでいる方はこちらの初心者向け講座を受講なさってみてください。
下記講座ではサステナビリティ経営の要点を1.5時間で学ぶことができます。
2:SX実現可能なモデルに落とし込み実行する
次に、SX実現に向けて、抽象的な概念を具体的でいて実行可能なモデルに落とし込んでいきます。
例えば「2030年までのカーボンニュートラルを実現するためにすべきこと」をそれぞれの取り組みに合わせたステップで数値化し目標数値を設定していきます。
このとき組織全体が同じ目標に向かっていけるように、わかりやすい明確なビジョンを掲げて共有すると従業員全員がSX推進に向けて取り組みやすくなります。
3:透明性確保のため統合報告書を作成、ステークホルダーに情報配信する
SX実現に向けて外部のステークホルダーに対し情報を発信していくとより効果的です。
例えば、ESGに関連する情報を含めた統合報告書を作成し、企業のサステナビリティに対する姿勢を明確に伝えたり、取り組みにおける成果を定期的に報告していきます。
外部のステークホルダーを意識しSXを推進していくことで、外部のステークホルダーの目を意識せざるを得なくなるので、従業員の意識改革を促すことができますし、日々の業務の中で小さな改善を積み重ねていく推進力に繋がります。
まとめ
SXの取り組みは複雑多岐にわたるため、一つ一つのポイントを理解するだけではそれだけで時間が取られてしまいます。
SXについて学ぶ上ではSXを「点」で捉えるのではなく、まずは「面」で全体像を理解することが大事です。
例えばサステナビリティ経営の現状、課題、展望までそれぞれのポイントを網羅的に短期間で学び、事業価値向上につながる本質的な事項を理解する。
その上で、現場レベルで使えるスキルや会社全体を通してSXについての知識レベル向上をはかる。このように体系的かつ連続したものとして学んでいくことが必要です。
弊社ではSXについて体系的なカリキュラムでレベルに応じて受講できる環境を用意していますので、SXの実現に向けて、ぜひ弊社の講座を一つの契機としていただきSX推進に向けて取り組んでみてください。
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