潮力発電とは?メリット ・デメリットから仕組みまで簡単に解説!

海洋エネルギーの一つである潮力発電をご存じでしょうか。
潮力発電とは、月の引力により起きる潮の満ち引きによるエネルギーを利用し発電する再生可能エネルギーです。潮力発電は、天候に左右されず発電できるというメリットがある一方、日本には潮力発電に適したエリアが少ないというデメリットもあります。
本記事では、潮力発電について仕組みからメリット・デメリット、そして世界の動向や日本の開発の現状までわかりやすく解説します。ぜひご一読ください。
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潮力発電とは
ここでは海洋エネルギーについての概要や潮力発電の仕組み、波力発電や潮流発電、潮汐力発電との違いまで解説します。
期待されるさまざまな海洋エネルギー
四方を海に囲まれた日本は昔から海の恩恵を多く受けてきました。エネルギーに関しても例外ではありません。ここでは海に蓄えられている豊富なエネルギーで、発電する方法について紹介します。これらはすべて海洋エネルギーを活用した再生可能エネルギーでもあります。
- 海洋温度差発電
海洋の海水の表層と深層の温度差を利用して発電する方法 - 波力発電
波のエネルギーを利用して発電する方法 - 潮流発電
潮流や海流の運動エネルギーをタービンの回転エネルギーに変換して発電する方法 - 潮汐力発電
潮汐に伴う潮位差を利用してタービンを回し、発電する方法 - 洋上風力発電
海洋に吹く風のエネルギーを利用して発電する方法 - 海洋濃度差発電
海洋の塩水と河川などの淡水間に存在する塩分濃度の差を利用して発電する方法
潮力発電の仕組み
潮力発電は、潮の流れや満ち引きによるエネルギーを活用してタービンを回転させ、発電する方法です。潮流発電と潮汐力発電の2つに分けられます。
大きい湾や河口に水門やダム、防波堤などを建設し、海面と湾の高低差を利用した潮の流れから起きるエネルギーでタービンを回し発電を行うのが、潮汐発電です。一方、ダムや水門等を建設することなく、潮による海流の中でタービンを回し発電する仕組みが潮流発電です。潮汐発電は月や太陽の引力による干満差を利用しており、一方、潮流発電は主に潮汐に伴う水平方向の流れを利用し、地形や海洋循環の影響も受けています。両者を合わせて潮力発電と呼んでいます。
潮流発電や潮汐力発電との違い
潮流発電と潮汐力発電の違いは以下の通りです。
発電方法 | 違い | 特徴 | |
---|---|---|---|
潮力発電 | 潮流発電 | 潮の満ち引きによる水平方向の海流の流れを活用してタービンを回し発電する仕組み | タービンの種類は転軸の方向によって「水平軸型」と「垂直軸型」の2タイプがある |
潮汐力発電 | 潮の満ち引きによる高低差を利用してタービンを回転させて発電する仕組み | 干潮時の一方向の流れで発電するタイプ、タービンが満潮時および干潮時の二方向流れで発電するタイプの2つがある |
波力発電との違い
波力発電とは、波による上下動運動によって生じる気流を利用してタービンを回転させ発電する方式のことです。潮力発電との違いは以下の通りです。
発電方法 | 違い | 特徴 |
---|---|---|
潮力発電 | 潮の流れや満ち引きによるエネルギーを活用してタービンを回転させ発電する仕組み | 潮流発電と潮汐力発電の2タイプがある |
波力発電 | 波力発電は波の上下運動を活用しタービンを回転させ発電する仕組み | 潮力発電と同様に防波堤や海中などに発電装置を設置 |
潮力発電が注目される背景
潮力発電は気候変動をはじめとした環境問題や、エネルギー安全保障の観点から注目されています。潮力発電は、潮の満ち引きという自然を利用した再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーは、温室効果ガスの排出が少ないため、脱炭素を促進し環境負荷を低減することが可能です。また自国の自然を活用するため、海外からの資源に依存することなくエネルギー自給自足を実現できます。
潮の満ち引きは天体運動に基づくため途絶えることはありません。そのため潮力発電は風力や太陽光発電を補い、再生可能エネルギーシステム全体にメリットをもたらします。このように潮力発電は、さまざまな可能性を持つエネルギー源の一つとして期待が高まっています。
潮力発電のメリット
潮力発電には再生可能エネルギーとして、次のようなメリットがあります。
日本のポテンシャルの高さ
日本は四方を海に囲まれ、国連海洋法条約によって定められた「排他的経済水域(EEZ)」は、世界で第6位です。そのため海洋エネルギーの開発に関しては、世界のなかでも大きなポテンシャルを秘めていると言えます。潮力発電は、すでに欧州においては開発・実証が先行しており、将来的に国内での早期の商用化が実現されれば、海外へのイノベーション進出にも繋がる可能性があります。
天候などの影響を受けにくい
同じ再生可能エネルギーでも、太陽光や風力は天候状況に大きく左右され、発電量が安定しないという難点があります。しかし潮力発電はそれらと異なり、一定した潮力により年間を通じて安定した発電が可能です。また系統への影響が少ないというのも大きなメリットでしょう。
発電量を予測しやすい
潮力発電は、月・太陽によって起きる潮の満ち引きや、海流などの周期的な現象を活用するため、日単位、週単位、さらには年単位で発電量を予測することが可能です。このように発電量を予測できるという点は、ほかの再生可能エネルギーにはない大きなメリットと言えます。
環境への貢献
再生可能エネルギーである潮力発電は、温室効果ガスの代表であるCO2の排出が少なくすみます。そのため地球温暖化を抑止し、脱炭素へ大きく貢献します。日本は第7次エネルギー計画において、再生可能エネルギーを2030年度に36〜38%へ拡大する目標です。再生可能エネルギーである潮力発電は、環境貢献に大いに役立つと言えます。
地域経済への貢献
日本では「潮流発電による脱炭素化モデル構築事業」などの施策により、技術面の実用化と、商用化に向けたビジネスモデルの構築を推進しています。日本の海峡や瀬戸内海を中心として沿岸域には潮力発電に適した地域が多く存在するため、施策の促進により雇用の創出やイノベーション促進など、地域経済の貢献へと結びつけることが可能です。
再生可能エネルギーに関してはこちらで詳しく解説しています。
再生可能エネルギーとは?種類や特徴、メリット・デメリットを解説
潮力発電のデメリット
メリットの多い潮力発電ですが、次のようなデメリットもあります。
コストの高さ
潮力発電の設備には、初期費用や設備の維持やメンテナンスに多くのコストがかかります。特にタービンなどをはじめとした設備や機材の海水の塩害による劣化や、定期的な貝の除去などに大きなコストを必要とします。また設備自体の耐用年数は約10年ほどといわれています。そのため、長期に渡るコストパフォーマンスを考慮する必要があります。
制約の高さ
潮力発電の最大のデメリットは、設置場所が限られるということです。なによりも潮力を得られるエリアでなくては意味がありません。さらに漁業権や航路があるなどの、さまざまな制約がある場所でのタービン設置は難しいでしょう。それらの条件をクリアする場所を選択することは、なかなかに困難です。
生物多様性への配慮
海洋にタービンや設備を建設するため、そこに住む生き物や生物多様性への配慮が求められます。潮力発電の設備による海洋生物の犠牲や生物多様性の破壊が起きないように、事前にしっかりとしたアセスメントやモニタリングを実施することが重要です。
生物多様性についてはこちらの記事をぜひご覧ください。
生物多様性とは?減少の原因から私たちの暮らしへの影響まで徹底解説
潮力発電開発の世界の推移
それではここから、潮力発電の世界における開発の推移をご紹介していきます。
世界の潮力発電の開発の推移
脱炭素を加速する再生可能エネルギーの一つとして期待の高い潮力発電ですが、世界的な普及は進んでいるとはいえません。ここでは海外主要国のこれまでの潮力発電の開発の動向を紹介します。
アメリカ
2019年、アメリカエネルギー省(DOE)は、次世代の海洋エネルギーの研究開発プロジェクトに対して総額2500万ドルを提供することを発表しています。波力や潮力、河川や海洋の水流などを活用し、安定した電力の供給や国家エネルギーシステムの強靭化、経済成長、沿岸・港湾インフラの活性化に結びつくものとして海洋エネルギー支援を開始しています。
韓国
韓国は2011年度に、現在世界で最大規模で稼働している始華湖潮汐発電所を完成させています。この発電設備は10基合計で254MWの発電量を有しています。日本と同じくエネルギー資源を海外に大きく依存している韓国では、潮力発電は自国の自然を活用した再生可能エネルギーとして開発を推し進めています。
フランス
フランス環境・持続可能開発・エネルギー省(MEDDE)は、潮力発電実証プロジェクトSABELLA D10の発電タービンが、ブルターニュ半島先端のブレストで公開されたと発表しました。出力500キロワットのタービンで、フランスの潮力発電で初めて国の送電系統に接続されました。このプロジェクトは、2011年、環境エネルギー管理庁の「将来への投資」助成制度によって開始されました。
参照:環境展望台
日本の潮力発電の展望と課題
ここからは日本の潮力発電の展望と課題を解説していきます。
日本の潮力発電の現状
では、日本の潮力発電の現状はどのようなものでしょうか。国内では、1980年前後から海洋エネルギーの開発・実証が行われていました。しかし2000年以降、研究開発は縮小していました。その後東日本大震災以降、東北地域の復興事業の一環として国により複数の実証試験が行われるなど、海洋エネルギーの実用化に期待が高まりました。
そして潮力発電の注目が高まるとともに、潮流を利用した発電の実験などさまざまな取り組みが始まります。
海洋エネルギー関連の政策
2012年には、日本周辺海域の再生可能エネルギーには陸上以上のポテンシャルがあり、 それらを利用した発電技術の早期実用化が重要と「海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取組方針」が閣議決定されました。
2019年には、再生可能エネルギーの導入を推進するため、海洋エネルギー発電の実用化を目指し、早期の実用化が期待される潮流発電について、「大規模潜在エネルギー源を活用した低炭素技術実用化推進事業のうち潮流発電技術実用化推進事業」が採択されました。これにより、九州電力は、長崎県五島市の奈留瀬戸において、国内初となる大型潮流発電機(500kW)の設置工事を開始しました。
参照:九州みらいエナジー「「潮流発電技術実用化推進事業」発電機設置工事の開始について」
また2050年カーボンニュートラルの実現等のため、日本の排他的経済水域における海洋再生可能エネルギー発電設備の設置許可や、区域指定の際に海洋環境等の保全の観点から国が調査などを実施する「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が、2024年3月に閣議決定されました。
費用対効果は?
2040 年までの各地域の海洋エネルギーの導入が予測されている「IEA World Energy Outlook 2016」では、将来の市場規模試算で年間約 700 億円から3,000 億円程度の売上げが期待できるといわれています。そのため海洋エネルギー技術の実用化を目指すことは、将来的に十分な費用対効果が見込めるものと考えられます。
将来的な動向
海洋エネルギー発電技術は日本のみならず、海外の主要国でもまだ実証段階のものが多いのが現状です。早期の実用化実現のためには、長期の実証検証を通じて、耐久性、性能維持、環境影響、発電コスト等を明確にする必要があるでしょう。そのためにも官民一体となった海洋エネルギーの開発が急務といえます。
まとめ
海洋エネルギーを活用した発電方法のひとつ、潮力発電についてさまざまな角度から解説しました。カーボンニュートラル実現のためにも再生可能エネルギーの促進は年々重要性を増しています。海に囲まれた島国である日本の潮力発電に対するポテンシャルは高く、今後の開発に大いに期待が持たれます。
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