生物多様性とは?減少の原因から私たちの暮らしへの影響まで徹底解説

地球環境への関心が高まる中、「生物多様性」の減少が世界規模の課題として注目を集めています。
では、生物多様性が失われると、私たちの生活にはどのような影響があるのでしょうか?
この記事では、生物多様性が減少する原因や理由をはじめ、その喪失によって生じる問題や、私たちの暮らしとの関係性について、分かりやすく解説していきます。
<目次>
- 生物多様性(Biological Diversity)とは
- 生物多様性(Biological Diversity)の3つの側面
- 生物多様性(Biological Diversity)が失われると起こりうる問題
- 生物多様性(Biological Diversity)が急速に失われている原因
- 世界の生物多様性(Biological Diversity)の現状
- 生物多様性(Biological Diversity)の減少への対策「世界での取り組み」
- 日本の生物多様性の現状
- 生物多様性(Biological Diversity)の減少への対策「日本国内での取り組み」
- 生物多様性(Biological Diversity)を守るためにできること
- まとめ
>>>「生物多様性に関するCOPの歴史の資料ダウンロードする」
生物多様性(Biological Diversity)とは
生物多様性(Biological Diversity)は、地球上に存在するすべての生き物(約3,000万種類の生物を含む。植物、動物、微生物を含む)と、それらが生息する生態系の多様性、さらにそれぞれの生物が持つ独自の特徴や相互関係を指します。
出典:環境省|生きものの進化と生物多様性 | 生物多様性 -Biodiversity-
地球上の3,000万種類に及ぶ生物は、各々が独自の特性を持ち、直接的または間接的に互いを支え合いながら進化していると考えられています。このような生物たちが織り成す複雑なつながりや相互作用もまた、生物多様性として捉えられます。
「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, CBD)」では、生物多様性を次のように定義しています:
「すべての生物(陸上生態系、海洋や淡水の生態系、それらが組み合わさった生態系を含む)間の変異性を指し、種内の多様性、種間の多様性、そして生態系の多様性を含む」
参考:センターの概要 | 生物多様性センター(環境省 自然環境局)
このような生物の多様化は、それぞれの生物が自らの環境に適応するために進化してきた結果とされています。生物多様性条約では、この多様性を「生態系」「種」「遺伝子」という3つのレベルに分類しています。
参考:生物多様性条約(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))|外務省
食物連鎖と生態系の関係
「食物連鎖」とは、生物が「食べる・食べられる」という関係を通じて生態系内でエネルギーを循環させる仕組みを指します。そして、生き物同士がこの食物連鎖を通じて結びついている全体の構造を「生態系」と呼びます。
出典:生物多様性って何?
地球上には現在までに約175万種類の生物が確認されており、未発見の生物も含めるとその数は3,000万種に達すると推測されています。これらの生物は、互いに影響を及ぼし合い、さまざまな形でつながっています。
このように、生物同士が食物連鎖を通じて密接に結びつき、相互に依存し合う関係が「生態系」であり、さらにこれが「生物多様性」の基盤を成していると言えるのです。
>>>生物多様性の基本的な概念などについては「生物多様性基礎講座」でより詳しく体系的に学んでいただけます。
生物多様性(Biological Diversity)の3つの側面
生物多様性は、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」という3つの視点から成り立っています。
生態系の多様性
生態系の多様性とは、地球上に存在するさまざまな環境や生息地(生態系)の種類、そしてそれらを構成する生物群の相互作用の違いを指します。
地球には多様な生態系が広がっており、それぞれが特有の気候、地形、土壌条件、生物の相互関係によって独自の特徴を持っています。
例えば、里地里山のような環境では、そこに適応した生態系が形成されており、その循環が持続することで、生態系の多様性の一部を担っています。
森林、熱帯雨林、湿帯林、針葉樹林、草原、砂漠、山岳地帯、川、湖、湿地など、自然界にはさまざまな環境や生息地があります。同じ条件の生態系がまったく同一の形で存在することはなく、それぞれの場所で異なる生態系が育まれています。
種の多様性
種の多様性(Species Diversity)は、特定の地域や地球全体に存在する生物種の種類やその豊富さ(数や分布)を示します。動植物から細菌などの微生物まで、多様な生物種が特定の環境内で共存し、多様性を維持しています。
例えば、種の多様性は以下の2つの要素によって構成されます。
- 種の豊富さ:ある地域に存在する生物種の総数
- 種の均等性:各種がどれだけ均等に分布しているか(特定の種が極端に多くならない状態)
これらの要素が、地域や環境ごとに異なる種の多様性を形作っています。
遺伝子の多様性
遺伝子の多様性(Genetic Diversity)は、同じ種の中で個々の生物が持つ遺伝情報の違いを指し、遺伝的多様性とも呼ばれます。これにより、同じ種でも形態や色、模様、性格、能力などが異なり、多様な個性が生まれています。
たとえば、遺伝子の多様性には以下のような重要な役割があります。
- 環境変化への適応力:環境が変化しても、遺伝子の多様性が高い集団は一部が生き残り、種全体の存続可能性が向上します。
- 病気への抵抗力:多様な遺伝子を持つことで、特定の病気に強い個体が現れ、全滅を防ぎます。
- 生態系の安定性:遺伝的多様性が高い種は環境に適応した個体が生存しやすくなり、生態系全体の安定性に寄与します。
遺伝子の多様性を維持するためには、十分な個体数が必要です。しかし、気候変動や人間活動による生息地の破壊、乱獲、密猟、環境汚染などが原因で個体数が減少すると、遺伝的多様性が損なわれ、種全体の存続が脅かされます。
例えば、地球温暖化による影響でサンゴ礁などの海洋生態系の多様性が失われると、「そこに生息する種」の減少や絶滅が生態系のバランスを崩し、遺伝子多様性の低下を招きます。
このように、生態系、種、遺伝子の多様性は密接に関連し、一つの生態系を形成しています。そのため、いずれかのバランスが崩れると、生物多様性全体が危機に直面する可能性があります。
生物多様性(Biological Diversity)が失われると起こりうる問題
私たちの生活は、生物多様性によってもたらされる生態系サービス、つまり生物同士が複雑に関わり合うことで生じる恩恵に支えられています。
出典:環境省:自然のめぐみ | 生物多様性 -Biodiversity-
地球上のあらゆる生命は、単独では生きていけません。他の生物と直接的または間接的に関係を築くことで、初めて生存が可能となります。
このような生態系からの恩恵を「生態系サービス」と呼びます。国連主導で実施された「ミレニアム生態系評価(MA)」では、生態系サービスを以下の4つに分類しました。それは「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」です。生物多様性が損なわれると、それぞれのサービスにおいて以下のような問題が発生し、私たちの生活に影響を与えるとされています。
これら4つのサービスは密接に関連しており、生物多様性の喪失は私たちの生活基盤そのものに深刻な影響を及ぼします。
生態系サービスの1つが失われると、連鎖的に他の問題も引き起こされるため、生物多様性を守ることは、私たち自身の未来を守ることにもつながっていくのです。
供給サービスの問題
私たちの生活に欠かせないあらゆるものは、生物多様性によってもたらされているものであり、これらが供給されなくなると次のような問題が生じてきます。
- 食料の減少:農作物や漁獲量が減り、食料供給が不安定になる。
- 薬用資源の枯渇:植物や動物から得られる薬品成分が失われる。
- 水資源の不足:水質の悪化や水の供給量が減少する。
地球表面の35%は農業や畜産業に利用され、人類の食糧の大半はおよそ30種の作物に依存していると言われており、こうした農業生態系において生物多様性が低下し、作物の遺伝的多様性が失われると、病原菌で全滅してしまうなど、大きな社会的経済的損失につながる恐れがあると言われています。
さらに、海洋生態系に依存する水産養殖も同じように自然生態系と生物多様性を維持しなければ成り立たず、特定の種が減少したり、消滅することで食物連鎖が崩れ、農作物や水産物の生産量に影響を及ぼす可能性も出てくると予測されています。
また、遺伝資源は、農業や畜産業、漁業、水産養殖業の面で品種改良に活用されており生産量の増加や、病害抵抗性、栄養価の最大化、環境や気候変動への適応を進めるために欠かせないもののなっています。
生物多様性が低下することで、必然的にこれらの遺伝的多様性が失われることとなり、品種改良に必要な遺伝情報が不足してしまうリスクがあります。
こうした自然が提供する「モノ」の減少に関連した問題を「供給サービスの問題」と言います。
参考:供給サービス|生物多様性と生態系サービスの経済価値評価
調整サービスの問題
調整サービスとは、大気質の調整や、地球の表面温度を維持する気候調整、局所災害の緩和や土壌浸食の抑制、また土壌の栄養循環を支えたり、有害生物や病気を生態系内で抑制する機能のことを言いますが、これらの調整サービスが失われることで、下記のような問題が生じてきます。
- 気候変動の悪化:森林や海洋が吸収する二酸化炭素量が減り、温暖化が進む。
- 災害リスクの増加:森林伐採や湿地の消失で洪水や土砂崩れが頻発する。
- 害虫・病気の増加:生態系のバランスが崩れ、害虫や病原体が繁殖しやすくなる。
地表を覆う森林や植物などの生態系は天然の防壁や緩衝帯として、暴風や台風、地滑りといった自然災害の影響を軽減する役割を担っています。
生物多様性にはこうした被害を緩和したり軽減したり、回復を促進する機能がありますが、調整サービスが失われることで生態系の回復力も低下してしまう恐れがあります。
こうした自然が環境を調整するサービス機能の低下に関連した問題を「調整サービスの問題」と言います。
参考:調整サービス|生物多様性と生態系サービスの経済価値評価
文化的サービスの問題
人間は自然や生き物にふれることで、審美的、精神的、心理的な面でさまざまな影響を受けていますが、こうした自然にふれることで得られるあらゆるメリットのことを文化的サービスと言います。
文化的サービスが失われることで下記のような問題が生じてきます。
- 観光資源の喪失:美しい景観や野生動物が減少し、観光業が衰退する。
- 精神的癒しの喪失:自然と触れ合う機会が減り、人々の心の健康が損なわれる。
- 文化的伝統の消失:自然と深く結びついた地域文化や祭りが衰退する。
豊かな自然環境や多種多様な動植物は、観光業の目玉となり、地域経済に貢献する役割を担っていますが、生物多様性の減少によって、種や生態系が失われてしまうと、観光地としての魅力がなくなり、これにより観光業が衰退、地元経済への悪影響が生じる恐れがあります。
こうした自然が提供する精神的・文化的価値の低下に関連した問題を文化的サービスの問題と言います。
参考:生息・生育地サービス、文化的サービス|生物多様性と生態系サービスの経済価値評価
基盤サービスの問題
基盤サービスとは、生命の生存基盤の恩恵のことを言い、例えば植物により酸素が作られ、森林により水循環のバランスが整えられ、そこに棲むバクテリアにより動植物の死骸が分解されるといったような、豊かな土壌を生み出す多くの生き物の営みとバランスによって支えられているサービスのことを言います。
基盤サービスの機能が失われると次のような問題が生じてきます。
- 土壌の劣化:微生物や植物の多様性が減り、土壌の肥沃度が下がる。
- 栄養循環の停止:有機物の分解や栄養の再利用が滞り、生態系全体が機能不全に。
- 光合成能力の低下:植物の減少で酸素供給が減り、大気の質が悪化する。
地球の表面の気候は、生命を維持することができる温度に保つ「温室効果」によって調整されていますが、人間の営みによる森林の伐採、土地利用、化石燃料の使用が原因となり、私たちの生活基盤を脅かす気候変動がもたらされています。
植物の光合成により大気中の二酸化炭素が吸収され、酸素を供給する「大気質の調整」により綺麗な空気を維持しており、都市部においては植物の存在がヒートアイランド現象を緩和したり、騒音を大幅に軽減したりしています、
こうした他のサービスを支える基本的な機能の低下に関連した問題を「基盤サービスの問題」と言います。
参考:生息・生育地サービス、文化的サービス|生物多様性と生態系サービスの経済価値評価
パンデミックのリスクが上昇する可能性
また、生物多様性の喪失は、直接的、間接的にパンデミックのリスクを高めるとされています。その理由は以下の通りです。
・生態系バランスの崩壊
生物多様性が豊かであると、自然界では捕食者や寄生者が病原体を持つ動物の個体数を抑えたり、病原体が特定の動物に集中しないよう分散したりしますが生物多様性が失われることで、このバランスが崩れ、病原体が特定の動物種に集中し、人間に感染するリスクが高まるとされています。
・野生動物との接触増加
生息地の破壊や森林伐採により、野生動物が人間の住む地域に近づくようになり、動物由来の病原体が人間に感染する機会が増えるとされています。
・ウイルスを持つ動物の増加
また、生態系の崩壊により、特定の種(コウモリやネズミなど、病原体を多く持つ種)が優勢になるケースが考えられ、これらの動物は、パンデミックを引き起こす病原体の宿主となる可能性が高いと言われています。
生物多様性(Biological Diversity)が急速に失われている原因
出典:環境省|人間の活動による生物多様性の危機 | 生物多様性 -Biodiversity-
現在、世界中で生物多様性が急速に失われていると言われています。その原因は下記のように考えられています。
1:気候変動による環境の変化
まず第一に考えられるのが工業化以降の温室効果ガスの影響による地球温暖化です。
地球温暖化による気温上昇や気候パターンの変化により、生物が適応できない環境が急速に広がっています。
出典:環境省|科学的知見から考察する気候変動
これにより、生物の分布域の変化、生育・活動時期の混乱、生育環境の変化による個体数の減少などが起こり、この変化に対応しきれず絶滅したり、絶滅の危機に追い込まれています。
また地球温暖化の進行により、今後も生物多様性の損失や損害は増え続け、さらに多くの生態系が適応の限界に達すると予測されています。
2:開発・環境汚染などによる生息地の減少と破壊、分断
都市化(都市開発)、農地拡大(森林伐採)、インフラ整備(河川整備)などにより直接的に生物の住処を奪う物理的な環境変化や、工業や農業からの排水や廃棄物が水域や、土壌を汚染し生物を危険に晒すなどの環境汚染による生物の生息地の破壊がこれにあたります。
分断された生息地では生物間の移動や遺伝子交換が困難になるため、生物多様性が失われることとになります。
3:外来種の侵入による生態系の破壊
外来種(国内由来・国外由来含む)が新しい環境に侵入すると、在来種との競争や捕食、病原体の媒介などで生態系全体に大きな影響を及ぼす場合があり生態系が崩壊することがあります。
外来種が他の地域から持ち込まれることにより、その地域独自の遺伝的多様性が混乱してしまい、その地域で長年培ってきた生物多様性が失われてしまうこともあります。
4:乱獲・密猟による野生動物の絶滅の危機
食料、薬、装飾品のための乱獲や密猟により、動植物の個体数が減少し絶滅に追いやっています。
特に高値で取引される動植物は問題が深刻であり、規則を超えた乱獲や密猟が大きな問題となっています。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの報告書では、乱獲、採集による影響で現在1730種の野生動物と1517種の植物が絶滅の危機に瀕しているとされています。
5:里地里山の手入れ不足と衰退
日本のような里地里山(農村地帯の自然環境)は、伝統的な管理がされなくなると荒廃し、生態系の多様性が失われます。
例えば都市部への人口集中により、里地里山が管理されなくなり放棄されることで多くの里地里山が衰退してしまいました。
里地里山で人工的に維持されてきた「2次的自然環境」と呼ばれる特有の生態系(草原や湿地)が管理不足により荒れてしまい、その結果、多様な生物が生息できなくなり生物の多様性が失われてしまっているのです。
6:研究者の不足と研究の遅れ
分野によっては生物多様性の現状や保全方法を科学的に明らかにする研究が遅れていたり、適切な対策が取れない状況にあります。
また研究者の数が不足していたり研究者が少ないことから研究が遅れてしまい、生物多様性が失われてしまうといったことも起きています。
世界の生物多様性(Biological Diversity)の現状
世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)の調査報告によると、1970年から2018年の間に、世界の数万もの陸上・淡水・海水の脊椎動物の個体群は平均69%も減少していると報告されています。
また2019年5月の生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES:Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)の「地球規模評価報告書」によれば自然環境の変化を引き起こす要因は、過去50年間で急速に増加したと報告しており、生態系サービスが乱れ、生物多様性の損失という危機にさらされていると報告されています。
さらに、同報告書では特に淡水域の生物の個体群は最も深刻な打撃を受け、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の1,398種を代表する6,617の対象個体群は平均83%の減少を示していると報告しています。
出典:生きている地球レポート
生物多様性に富む淡水域は、人間の生活に欠かせないものですが、現在、人間の生活による汚染、外来種の侵入などによる種の撹乱により淡水域に暮らす生物の生育環境を悪化させ、生物多様性の損失リスクが高くなってしまっていると考えられています。
参考:WWF|生きている地球レポート 2022ネイチャー・ポジティブな社会を実現するために
IUCNのレッドリスト指標による絶滅リスト
出典:WWF|生きている地球レポート
自然や天然資源の保全を目的とした世界最大の自然保護ネットワークである国際自然保護連合(IUCN)は、生存確率の推移を生物のグループごとに「レッドリスト指標」として発表しており、レッドリスト指標が1.0に近いほど絶滅の恐れのある種は少なく、0に近づくほどグループ内に絶滅の危機に瀕している種が多いと評価されていますが、2021年のレッドリスト指標では、古代からある植物グループのソテツが最も絶滅の危険にさらされており、減少速度が最も早く進行しているのはサンゴ類のグループであると報告されています。
生物多様性に富むサンゴ類が最も早く減少が進んでいる原因としては、主に人間の活動に伴う地球温暖化や土砂の流入による劣化・破壊だと言われており、世界中で珊瑚礁が急速に失われつつある現実があります。
生物多様性(Biological Diversity)の減少への対策「世界での取り組み」
近年の人間の活動は、過去40年間にわたり、地球が1年間に供給できる本来の生物生産力(バイオキャパシティ)を上回り、生態系サービスからの資源を消費し続けています。
世界自然保護基金(WWF)によると野生生物の生息地の消失と劣化などから2014年時点で人類は地球「1.7個分」の資源を使っていると考えられており、この状況が続けば、自然の恵みを生み出す母体そのものがきわめて深刻な事態に陥る可能性が非常に高く、人類をはじめ多くの野生生物が生存の危機にさらされることになるとされています。
IPBES(イペブス)の設立
IPBES(イペブス)は2010年、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、これ以上生物多様性が失われないようにするための具体的な行動目標である「愛知目標」が採択されたことをきっかけとし、愛知目標の達成のために、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームの略称で2012年4月に設立された、地球規模で進行する生物多様性の減少や生態系サービスの喪失に対処するため設立された国際的な機関です。
IPBESは生物多様性に関する科学と政策のつながりを強化し、科学を政策に反映させるために設立され、世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織として、科学的知見を提供し、政策決定を支援する役割を担っています。
IPBESは生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームとして「科学的評価」「能力養成」「知見生成」「政策立案支援」といった機能から成り立ち、生物多様性を保全・保護するための国際的な取り組みや、各国の政策に活用されています。
参考:科学と政策の統合(IPBES) | 生物多様性 -Biodiversity-
参考:IPBES Home page | IPBES secretariat
参考:環境省|生物多様性分野の化学と政策の統合をめざしてIPBES
生物多様性条約(CBD)
生物多様性条約(正式名称:生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))は生物多様性の保全と持続可能な利用、そしてその恩恵を公平に分配することを目的として1992年の地球サミット(リオデジャネイロ)で採択された国際条約です。
生物種、遺伝資源、生態系を保護し減少や絶滅を防ぐ「生物多様性の保全」、自然資源を持続可能な方法で利用する「持続可能な利用」生物資源から得られる利益を公平に分配する「利益の公平な分配」を目的とした条約で、日本を含む168の国と地域により締結され1993年12月29日に発効されました。
その後2022年にはEU(欧州連合)とパレスチナも加わり、2024年11月現在では生物多様性条約の締結国は194の国と地域になっています。
参考:生物多様性条約(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))|外務省
生物多様性条約(CBD)は、野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行し、その原因となっている生物の生息環境の悪化及び生態系の破壊に対する懸念が深刻なものとなってきたことから、希少種の取引規制や特定の地域の生物種の保護を目的とする既存の国際条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約:CITES)、それに特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)等)を補完した国際的な枠組みとなっています。
2024年10月から11月にかけてカリ(コロンビア)にて生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)が開催され、遺伝資源のデジタル配列情報の使用に係る利益配分に関する多国間メカニズムや計画、モニタリング、報告及びレビューのためのメカニズムなどが検討されました。
またIPBESは生物多様性条約(CBD)の科学的基盤を支える役割を担っており、CBDが採択する目標や枠組み(例:愛知目標や昆明・モントリオール枠組み)は、IPBESの科学的報告を参考にしています。
アグロフォレストリー農法の推進
アグロフォレストリー(Agroforestry)とは、農業(Agriculture)と森林(Forestry)を組み合わせた持続可能な土地利用の方法です。
世界では森林伐採のために多くの森林面積が失われていますが、森林の減少が深刻な地域では、貧困や飢餓が問題になっている国も多くあります。
このような国に木々や低木を農地に取り入れ、作物や家畜と共生させることで、生物多様性の向上や環境保全、経済的利益を実現させていくのがアグロフォレストリー農法であり、環境面や経済面、社会面に配慮しながら森林と共存し、1年を通して複数の作物を集荷していきます。
アグロフォレストリーの継続により生物多様性も豊かなものとなり、森林が伐採された地域の森林の再生も期待できるとして注目されています。
参考:森林と生きるー世界の森林を守るため、いま、私たちにできることー
日本の生物多様性の現状
日本には固有種が多く存在していますが、そんな地球全体で見ても生物多様性が高い地域にもかかわらず、人間の活動により危機に瀕している地域である「生物多様性ホットスポット」の一つであると言われています。
出典:生物多様性ホットスポット
生物多様性ホットスポットとは
- 固有種が多いこと
その地域にしかいない動植物が豊富であり、維管束植物(植物の中からコケ植物と藻類を除いたグループ)のうち、1,500種が固有種。
- 生態系の危機にさらされていること
森林伐採や都市化、気候変動などで、70%以上の自然環境が失われている地域。
以上の特徴が見られる地域のことで、日本を含め世界で36の地域が該当し、これらの地域だけで全世界の植物・鳥類・哺乳類・爬虫類・両生類の60%が生息しているとみられています。
日本は生息する生物の種の数はもちろん、固有種の数も豊富ですが日本の野生生物のおよそ3割が絶滅の危機に瀕していると言われています。
参考:生物多様性ホットスポット
生物多様性(Biological Diversity)の減少への対策「日本国内での取り組み」
生物多様性の減少を防ぐために日本では下記のような取り組みが行われています。
- 農林水産省:生物多様性を守る農業・漁業への取り組み
- 経済産業省:持続可能なエネルギー利用や生活・産業の環境負荷軽減への取り組み
- 国土交通省:グリーンインフラ整備など社会と自然環境の共存への取り組み
参考:環境省|第3章 私たちが変える持続可能な地域とライフスタイル
また、各省庁を通じて、それぞれの地域では具体的には下記のような取り組みを行うことにより生物多様性の減少への対策をしています。
1:緑化地域制度(国土交通省)
緑化地域制度は都市緑地法第34条により、緑が不足している市街地などにおいて、一定規模以上の建築物の新築や増築を行う場合に、敷地面積の一定割合以上の緑化を義務づける制度です。
名古屋市では1990年から2005年の15年間に、民有地における土地利用の転換等によって1,643haの緑地が失われ、そこで市域の93%を占める市街化区域に緑化地域を指定しました。
施行後、2009年10月までの1年間に申請された緑化面積は50haを超え、現在では、屋上などに生物多様性に配慮した緑化空間を設けていたり、通常では緑化が図られることが少ないコンビニエンスストアやドラッグストアなどで芝張りを行ったりと、さまざまな取り組みを試みています。
2:サンゴ礁の保全活動(沖縄県)
サンゴ礁の保全活動は、沖縄の島々などで行われている重要な取り組みで、保全活動には、海岸清掃、オニヒトデの駆除、海の観察会、サンゴ群集再生の試み、また観光業や漁業者による海域利用のルールづくりなどが含まれています。
保全活動は、地域の自治体、NPO、企業、住民、漁業者、観光業者、研究者などが協力して実施し「沖縄県サンゴ礁保全推進協議会」などで情報や意見交換の場を設けていたり、参加と協力を促せる組織の設立も進められています。
3:生きものマーク(農林水産省)
生きものマークとは、農林水産省が推進する「生物多様性の保全」と「持続可能な農林水産業」などの生物多様性に配慮した取り組みを示すシンボルマークです。
農業や林業、水産業を通じて豊かな環境を取り戻すことが目的で、産物を通じた発信や環境教育も含まれ、豊かな自然環境を創りだそう、そして、その恵みを 分かちあおうという想いさえあれば、特別な認定要件や資格は不要で、生産者や消費者など誰でも参加することができます。
消費者に「自然環境を守る選択肢」を提供し、生産者の環境保全意識を高める狙いがあります。
4:生物多様性評価の地図化(環境省)
環境省は、生物多様性の分布やその変化を地図化するプロジェクトを進めており、生物多様性評価の地図化により、日本全国のどの地域が生物多様性保全の優先地域であるかを把握しやすくしています。
これは、日本の生物多様性の現状を地域ごとに視覚化するための取り組みで、2010年の生物多様性総合評価(JBO:
apan Biodiversity Outlook)で示された生物多様性の過去約50年間の長期的変化から、具体的な策を進めていくにあたり、どこで損失が進行し、どこを優先的に対策すべきかなど空間的な情報の整備をする必要がありました。
そこで2010年から2ヶ月かけて「生物多様性評価の地図化に関する検討委員会」を開催し、日本の生物多様性の現状等を評価した地図を作成することになり、地図と合わせ市町村の生物多様性に関する基本情報を整理した生物多様性カルテも作成しました。
参考:生物多様性総合評価報告書
5:生物多様性国家戦略2023-2030(日本政府)
生物多様性国家戦略2023-2030は、日本政府が定めた、生物多様性の保全と持続可能な利用を推進するための中長期的な政策計画で、生物多様性条約第6条および生物多様性基本法第11条に基づいて策定され目標達成のための指標が含まれています。
2023年から2030年の期間を対象とし、国際的な目標(例:COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」)に基づいて策定され2023年3月31日に閣議決定されました。
参考:「生物多様性国家戦略2023-2030」の閣議決定について | 報道発表資料 | 環境省
生物多様性(Biological Diversity)を守るためにできること
では生物多様性を守るために何ができるのでしょうか。
この記事の最後に、生物多様性を守るためにできることを、身近な例をあげ解説していきます。
1:外来種を持ち込まない・放たない
外来種が新しい地域に侵入すると、在来種との競争や捕食、生態系全体のバランスが崩れることがあります。
例えば、ペットや植物を野外に放すことは、知らずに生態系に悪影響を及ぼす可能性があり、それらを輸入する際にも環境省が指定している外来種でないのか確認をする必要があります。

私たちが責任を持って管理し、自然環境に影響を与えないよう努めることが重要です。
2:地球温暖化の防止対策に取り組む
気候変動は、多くの生物にとって生息環境を急激に変化させ、生物多様性を減少させる原因です。
私たちが省エネや再生可能エネルギーの利用、無駄な消費を控えるなどの行動を通じて、温暖化の進行を抑えることが求められています。
3:地産地消の食生活を心がける
地元地域で生産された食材を選ぶことで、長距離輸送に伴うCO2排出量を減らすだけでなく、地域の農業や自然環境の維持にも貢献できます。
また、産地がわかる食材を選ぶことで、自然資源を大切にしたり、無駄なく食材を使い切ることで、食品廃棄物を減らすフードロスの軽減にもつながります。
消費者の購買行動が浸透することで、持続可能な生産方法が促され、地域の生態系が保護されることにつながっていきます。
4:環境に配慮した製品を選択する
日常的に使う製品を選ぶ際、エコラベルや環境に優しい素材を使用している商品を選ぶことで、生物多様性への負荷を減らすことができます。
また、持続可能な方法で生産された食品や商品を選ぶことで、自然資源の過剰利用を抑え、生態系の保護に貢献できます。
5:できる範囲で3Rを実施する
リデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)を日常生活に取り入れることで、廃棄物を減らし、環境負荷を軽減できます。
たとえば、使い捨ての製品を避けたり、再利用可能なもの(リユース)を選んだりし製品の寿命を伸ばしたり(リデュース)、リサイクル(再資源化)で廃棄物を新しい資源として活用することが、自然資源を守る一歩となります。
6:生態系保護活動に参加し生物多様性について学ぶ
自然観察会や地域の清掃活動など、生態系を守る活動に参加することで、自然環境の現状を実感し、生物多様性の重要性について学ぶことができます。
身近な行動から始めて、自然散策を楽しむことで、自然への理解と愛着が自然島生まれ、仲間と協力することで大きな成果を生むことが可能です。
7:生態系の循環システムの中にいることを忘れない
私たちは自然から水や食料、空気などを受け取る存在であり、生態系の一部として密接につながっています。
このつながっているという認識を持つことで、日々の選択や行動が自然環境に影響を与えることを意識し、生態系に負荷をかけない生活を心がけることが大切です。
なお、生物多様性は複雑な概念です。
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まとめ
地球上のすべての生き物は、互いに複雑に関係し合いながら生きています。このつながりを「生物多様性」と呼びます。生物多様性は、私たちが健やかに暮らすための基盤であり、地球の未来を左右する重要な要素です。
私たち一人ひとりが、日々の生活の中で、例えば、地産地消を心がけたり、自然観察に出かけたりすることで、生物多様性の保全に貢献できます。
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あなたの行動が、未来の地球をより良いものにする一歩になります。
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