カーボンネガティブとは?企業が注目する理由や実現に向けたアクションを解説

温室効果ガスの排出量を減らし、吸収量の増加を目指す脱炭素社会の実現に向けて、カーボンニュートラルよりも二酸化炭素削減の大きな効果が得られる、カーボンネガティブによるアプローチが近年注目を集めています。
そこで今回はカーボンネガティブとは何かから、カーボンニュートラルとの違いを解説し、カーボンネガティブが注目されるようになった背景や、カーボンネガティブを実現するためのネガティブエミッション技術について、解説していきます。
また、企業がカーボンネガティブに取り組むメリットをはじめ、企業が取り組む上で直面する課題はもちろん、実際にカーボンネガティブに向けた取り組みとして企業はどんなことをしているのかもご紹介していきますので是非参考にしてください。
<目次>
- カーボンネガティブ(Carbon negative)とは
- カーボンネガティブ(Carbon negative)が注目される背景と理由
- カーボンネガティブ(Carbon negative)を達成した国
- カーボンネガティブ(Carbon negative)を実現するネガティブエミッション技術
- カーボンネガティブ(Carbon negative)に企業が取り組むメリット
- カーボンネガティブ(Carbon negative)に企業が取り組む上での課題
- カーボンネガティブ(Carbon negative)に取り組む企業の事例(世界)
- カーボンネガティブ(Carbon negative)に取り組む企業の事例(日本)
- まとめ
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カーボンネガティブ(Carbon negative)とは
カーボンネガティブ(Carbon negative)とは、大気中に排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの量よりも、森林や技術的手段によって吸収・除去される量のほうが多い状態を指します。
【カーボンネガティブ】
「排出量」-「吸収量(削減量)」< 0
これは、二酸化炭素の排出量を「マイナス」にするという意志を表した言葉で、カーボンニュートラル(排出量を実質ゼロにする取り組み)よりも進んだ概念として注目されています。
カーボンネガティブを達成するには、次の2つの視点からの取り組みが必要です。
1:温室効果ガスの「排出量」を抑える
例:再生可能エネルギーの利用、効率的なエネルギー消費など
2:温室効果ガスの「吸収量」を増やす
例:植林活動、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の導入
カーボンニュートラルとの違い
カーボンニュートラルとは、事業活動で出た二酸化炭素などの温室効果ガスを、吸収や削減によって全体でゼロにする取り組みのことです。
たとえば、排出した分を植林や技術で吸収すれば、結果的に「プラスマイナスゼロ」の状態になります。
【カーボンニュートラルの考え方】
排出量 = 吸収量
または
「排出量」-「吸収量(削減量)」= 0
カーボンニュートラルの例
1:工場が1トンのCO2を排出。
2:同じ量の1トンのCO2を植物が光合成で吸収。
このように、排出量と吸収量が釣り合うことで、CO2排出のプラスマイナスがゼロになる状態がカーボンニュートラルです。
カーボンニュートラルについては「カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み事例10選をご紹介!」でも紹介していますのであわせて読み進めてください。
カーボンネガティブ(Carbon negative)が注目される背景と理由
カーボンネガティブが注目される背景には、以下の3つの主な理由があります。
- 地球温暖化と気候変動の深刻化
- 企業の社会的責任(CSR)の重要性
- パリ協定での国際的な取り決め
それぞれの理由について詳しく説明します。
地球温暖化と気候変動の深刻化
最も大きな理由のひとつは、地球温暖化による気候変動の影響です。
世界的に気温の上昇が続いており、環境省のデータでは、1850年〜1900年の工業化以前と比べ、2020年の世界平均気温は約1.1℃上昇していると報告されています。このような気候変動は、異常気象や生態系の破壊を引き起こし、早急な対応が求められています。
出典:環境省|脱炭素ポータル
気候変動の問題は、温室効果ガスの排出が増え続けていることにも関係しています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2013年に発表した第5次評価報告書では、二酸化炭素(CO2)の排出量が世界的に増加傾向にあると指摘されています。
さらに、報告書によると、今後も何の対策も取らなければ、100年以内に気温が最大で4度以上上昇する可能性があると予測されています。
これにより、異常気象や海面上昇、食料不足など、私たちの生活に深刻な影響が及ぶと懸念されています。
この2つの報告書で共通する点は、産業革命を契機として気温が上昇傾向にあるということです。
つまり、現在は、気候変動の原因である温室効果ガスは18世紀の産業革命をきっかけに増え続け、大気中のCO2排出量が増えたことで温室効果ガスの濃度が上がり、気温が上昇してしまっていると考えられています。
このまま地球温暖化が進み続けると、気候変動に伴い、
- 豪雨や猛暑のリスクの上昇
- 干ばつ(農林水産業への影響)
- 水不足(水資源への影響)
- 生態系の破壊(健康へのリスク)
などが引き起こされる可能性が高くなり、これは、気温が上昇することにより森林火災や生態系の破壊、自然災害の増加など、人類や全ての生き物の生存基盤を揺るがしかねない「気候危機」であると捉えられています。
事実1945年〜2020年の75年間において、気候に関連して災害が発生する件数は世界的に上昇傾向にあり、台風やハリケーン、サイクロンが起きた回数は過去20年の平均と比べて26%上昇、洪水で命を落とす人の数は18%増えています。
参考:13.気候変動に具体的な対策を | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
こうした災害が立て続けに起こることで、1つの災害から次の災害までの十分な時間もなく、これにより食糧不足や経済悪化が生まれるといった人道危機が引き起こされているとしています。
企業の社会的責任(CSR)の重要性
またカーボンネガティブが注目される大きな理由として、企業の社会的責任(CSR)がこれまで以上に重要視され、企業が積極的な環境対策を行うことが期待されているといった背景があります。
企業によって排出される二酸化炭素(CO2)の排出量は一般家庭に比べて多く、企業が脱炭素に取り組むことで大きなCO2削減効果が期待できると注目されているのです。
さらに企業がカーボンネガティブを実現するための取り組みは、CO2排出量を削減するだけではなく、環境問題に対してポジティブな影響をもたらすことが期待されており、CSR活動を積極的にPRすることで企業価値を向上させ、さらにESG投資の投資先として、競争力を高めることができるため、企業にとっても取り組むべきメリットがあると考えられていることから、カーボンネガティブが注目されているといった背景もあります。
パリ協定での国際的な取り決め
カーボンネガティブが注目されるきっかけとなった大きな理由として、2015年に採択されたパリ協定により、次のような世界共通の長期目標が掲げられたことが挙げられます。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
パリ協定に賛同する国は、具体的な温室効果ガスの排出削減目標の提示と、定期的な進捗報告が求められますが、日本ではこれに基づき2020年当時の菅義偉内閣総理大臣の所信表明演説において「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」カーボンニュートラル宣言を表明しました。
この高い目標が掲げられたことにより企業にとってカーボンネガティブの取り組みが欠かせなくなり、国内でもカーボンネガティブを実現するための技術開発、実践などが進められることとなり注目を集めました。
日本の2050年温室効果ガス削減に対する取り組みの目標としては、2021年4月には地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、2030年度までに2013年度よりも温室効果ガスの46%削減を目指しており、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていくことを表明したことで、さらに注目を集めることとなりました。
参考:第1部 第2章 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁
参考:環境省|2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き
カーボンネガティブ(Carbon negative)を達成した国
実際にカーボンネガティブを達成した国もあります。
国際連合の「World Population Review」によると、2024年11月時点でカーボンネガティブを達成した国はブータンのみとなっており、これまでにカーボンネガティブを達成したと思われていたその他の国や地域(スリナム共和国、パナマ共和国、オーストラリア州タスマニア島)についてはデータが不十分であることから、真偽がわからずペンディング(留保)扱いとなっています。
出典:国際連合|World Population Review
ブータン
ブータンは二酸化炭素の吸収量が、排出量の約3倍と大きく上回っておりカーボンネガティブを達成した国と言われています。
ブータンは環境を守るためのさまざまな取り組みを行なっており、例えばブータンは憲法で国土の60%以上は森林でなければならないと定義されており、カーボンネガティブを達成した大きな要因として過度な開発を防いでいることが理由として挙げられています。
またマスツーリズムを防ぐために、観光客に対して1日250ドルを課すといった環境破壊を防ぐ工夫を続けていることも理由の一つです。
さらに、国立環境研究所、地球環境センターの地球環境センターニュースによると、ブータンは基本的に農業国であり、ヒマラヤ氷河から豊富に流れ出る水力による発電が97%の家庭に送られ、余剰分をインドへ売電し国家収入の多くを賄うといった電化社会が実現していることもカーボンネガティブを達成した大きな理由として挙げられています。
参考:国際連合 World Population Review
参考:炭素中立世界を先駆けるブータン | 地球環境研究センターニュース
カーボンネガティブ(Carbon negative)を実現するネガティブエミッション技術
カーボンネガティブの実現のためにはCO2排出量よりもCO2吸収量を多くすることが必要です。
二酸化炭素(CO2)の排出量が多いほど必要とされる二酸化炭素の吸収量も増えるため、排出量を最小限に抑えた上で、二酸化炭素の吸収量を増やす必要があります。
【カーボンネガティブを実現するための2つの視点】
温室効果ガスの「排出量」を「抑える」こと
温室効果ガスの「吸収量」を「増やす」こと
2050年カーボンニュートラルの達成には、産業や運輸部門を中心に年間で約0.5億トンから2.4億トンの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする必要があるとされていますが、現実には化学品など製造過程において脱炭素化が技術的に難しい産業もあります。
そして、こうした削減しきれない二酸化炭素の排出量を相殺したり、カーボンニュートラルを実現するためにより高いCO2排出削減効果が得られるネガティブエミッション技術の実用化、それにビジネス化が注目されています。
ネガティブエミッション技術とは
ネガティブエミッション技術(=NETs)とは、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで大気中 のCO2除去 (CDR:Carbon Dioxide Removal)に貢献する技術のことです。
狭義では自然のCO2吸収、固定化の過程において、人為的な工程を加えることで加速させる技術やプロセスのことをネガティブエミッション技術と言い、つまり、空気中にある二酸化炭素を取り除き、温室効果ガスの排出を実質的にマイナスにする技術のことを指します。
ネガティブエミッション技術には、「自然プロセスの人為的加速」それに「工学的プロセス」の2つのプロセスがありますが、まだ開発段階のものも多く、進捗も様々で、CO2削減効果を正しく評価するためには、原料の調達から消費、それに廃棄までを含めたCO2収支を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を考慮する必要もあります。
参考:ネガティブエミッション技術について 2022年3月 産業技術環境局
まず前提として、大気中の二酸化炭素の濃度を削減する方法として、自然によるCO2吸収、固定化には光合成などによる森林吸収や海洋生物による除去などの自然プロセスがあります。
【自然プロセス】
- 森林吸収
- 海洋生物
- 海洋吸収
- 自然風化
一方でこうした自然プロセスを「人為的に」加速させる方法があり、そうした自然のプロセスを加速、促進させる技術がネガティブエミッション技術です。
例えば大気中のCO2を削減するために、減少した森林を人の手を加えることで人為的に再生したり、自然のプロセスを促進させる取り組みを行うことがネガティブエミッションにあたります。
こうした自然プロセスの人為的加速によるネガティブエミッション技術で代表的なのは下記の5つの技術です。
【自然プロセスの人為的加速】
- 植林・再生林
- 土壌炭素貯留
- バイオ炭
- ブルーカーボン
- 風化促進(粉砕・散布)
それぞれの技術について下記で詳しく解説していきます。
植林・再生林
二酸化炭素の吸収量を増やすために木を植え、植物の力に頼ってCO2を削減する取り組みがネガティブエミッションでいうところの「植林・再生林」です。
植林はこれまで木が生えていなかった地域など新しいエリアに木を植えることをいい、再生林は自然や人の活動によって減少した森林の再生や回復をはかる行為を指します。
ただし、CO2の固定化の効果や環境影響にとっては、樹木の成長という自然の営みに任せた方法でもあることから、気候や土壌などそれぞれの地域に適した品種を植えることが大事な上に、草原や農地で植林を進める場合は生物多様性の観点にも注意を払う必要があり、その効果には注意が必要となります。
近年では限られた土地面積で効率よく二酸化炭素を吸収するためのCO2吸収率の良い品種の改良などの、植物の二酸化炭素の吸収に関する研究が進められています。
出典:森林総合研究所林木育種センター|エリートツリーの開発・普及
また従来の品種に比べて成長速度が1.5倍以上早い「エリートツリー」のような品種の改良、さらには土を使わずに発根させるような技術による苗木の効率化など、育種期間の短縮化をはかる技術開発も進んでいます。
土壌炭素貯留
出典:独立行政法人 農業環境技術研究所|農地土壌における炭素貯留量算定システムの開発
土壌炭素貯留とは、バイオマス中の炭素を土壌に貯蔵・管理する技術のことです。
堆肥や緑肥などの有機肥料を農地に投入すると、微生物によって分解が促進されます。そして一部は分解されにくい有機炭素となって長期間土壌に留まることになります。
この長期間土壌に留める仕組みが、土壌炭素貯留です。
バイオ炭
土壌炭素貯留の中でも、農地の炭素貯留として研究が進められている技術がバイオ炭の活用です。
植物由来のバイオ炭を土壌に埋め込むことで、炭素を長期的に固定する方法で、バイオ炭は原料や製法によって貯留性や土壌改良効果が異なりますが、土壌の土を改善する効果も期待されています。
ただし土壌炭素貯留の効果についてはまだ明らかになってないことも多いことや、既存の土壌改良材と比べて割高であることも課題の一つとして残っています。
ブルーカーボン
ブルーカーボンとは、生物が大気中から吸収したCO2に由来する炭素(グリーンカーボン)のうち、海洋生態系の生物を通じて吸収固定される炭素のことを言います。
2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において命名され、吸収源対策の新しい選択肢として提示されました。
ブルーカーボンは、大気中のCO2が光合成によって浅海域に生息するブルーカーボン生態系に取り込まれることでCO2を有機物として隔離・貯留する仕組みで、CO2吸収ポテンシャルには、日本のみならず海外からも大きな期待が寄せられています。
国内では海岸線の長さや、世界6位の排他的経済水域の広さを活かせる技術として注目されており、ブルーカーボンをクレジット化した「J-ブルークレジット」の取引が始まっています。
なお、人の生命と福祉のために環境の質を保護し拡大することを目的に1972年に設立されたUNEP(国際連合環境計画)によるとブルーカーボンシンク(吸収源)とされるのはマングローブ、塩性湿地、海草の3つとされており、海藻は現時点ではブルーカーボンシンク(吸収源)とはされていません。
参考:Jブルークレジット®/認証・発行/公募等 – ジャパンブルーエコノミー技術研究組合
・海洋肥沃・生育促進
海洋への養分散布や優良生物品種等の利用で生物学的生産を促して海中のCO2吸収・固定化を人工的に加速する技術が、海洋肥沃・生育促進です。
・植物残差海洋隔離
海洋中の植物における自然分解によるCO2発生を防ぐ技術のことを植物残差海洋隔離と言います。
風化促進(粉砕・散布)
玄武岩などのケイ酸塩を含む岩石を粉砕・散布し、千年〜万年スケールの自然の風化を人工的に促進する技術が風化促進です。
風化の過程(炭酸塩化)で大気中のCO2を吸収することで、海洋生態系の保全ならびに耕作地の土壌pHの改善などをしながらCO2の削減が期待できますが、玄武岩の輸送や粉砕・散布にコストがかかることなど、未検証の部分が多く課題が残る技術です。
【工学的プロセス】
ここまで自然プロセスによる二酸化炭素削減の取り組みを見てきましたが、自然プロセスではなく工学的に吸収量を増やすプロセスがBECCSとDACCSです。
- BECCS
- DACCS
それぞれについて詳しく解説していきます。
BECCS
BECCSとはバイオマスエネルギー利用時の燃焼で発生したCO2を回収・貯留する技術のことで、バイオマス発電(BioEnergy)とCO2を回収し地中に貯めておく技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせたものです。
- BE=BioEnergy(バイオマス発電)
- CCS=Carbon Capture and Storage(二酸化炭素を分離して集め、地中深くに貯留する技術)
BECCSでは、バイオマス発電により、農林業系の産業廃棄物(家畜の排泄物や間伐材)などを燃焼して得られる熱エネルギーを電気エネルギーに転換し、同時に排出されるCO2をCCS技術を使って回収し、エネルギーとして活用したり地中に貯留して、カーボンネガティブを達成します。
DACCS
DACCSは、大気中のCO2を直接回収し貯留する技術のことで、「DAC(Direct Air Capture)直接回収する技術」と「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)地中深くに貯留する技術」の2つを合わせた技術をDACCSと言います。
- DAC=Direct Air Capture(空気中に存在するCO2を直接回収する技術)
- CCS=Carbon Capture and Storage(二酸化炭素を分離して集め、地中深くに貯留する技術)
ただし、DACCSは植物に頼らずに排出されるCO2をそのまま回収できる直接的な解決策ではあるものの、現在の技術ではCO2の回収には熱や電気などの多くのエネルギーを消費するため、コストやエネルギー消費量の観点から実用化には課題が残されています。
参考:2050年カーボンニュートラル(CN)の達成に必要な、ネガティブエミッション技術(NETs)の社会実装・産業化に向けた方向性をとりまとめました (METI/経済産業省)
カーボンネガティブ(Carbon negative)に企業が取り組むメリット
企業がカーボンネガティブに取り組むことで、下記3つの点においてメリットがあると考えられています。
1:企業の脱炭素経営による支持獲得
2:社内外の環境意識の向上
3:国内の環境技術の発展
1:企業の脱炭素経営による支持獲得
2015年のパリ協定の採択に伴い、地球温暖化対策は世界共通の課題として広く認識されることとなりました。
地球温暖化対策が広く認識されるに伴い、「ESG投資」と呼ばれる環境や社会に考慮した投資が活発になり、企業としてどのように環境問題に貢献し、経営戦略に沿った実行力のある取り組みができるのかが近年特に注目されています。
そのため、企業として環境問題に取り組む姿勢を見せ、実行に移していくことで自社のブランド価値向上はもちろん、顧客や投資家からの支持獲得につながることが期待できます。
2:社内外の環境意識の向上
企業が率先して社会的責任に答え環境問題に取り組むことで、ステークホルダーに対して環境への意識向上を高めることができます。
より野心的な目標を掲げ、それに向けて取り組む姿勢を見せることで、社内外のステークホルダーがより環境保護を意識するようになり脱炭素社会の実現に向けた強い推進力になっていくことが期待でき、これによりステークホルダーからの支持を得ることができ、企業価値の向上につながるメリットがあります。
3:国内の環境技術の発展
企業がカーボンネガティブの実現を目指して取り組んでいくことで新しいビジネスチャンスを掴むことが期待できます。
現在、国際的な取り組みとして2050年カーボンニュートラルな社会の実現に向けて世界で急速に環境技術の開発や研究が進んでおり、それらの技術を導入したり研究開発への支援をすることで、環境技術の発展に貢献することができ、企業価値を高め、ひいては企業のイメージアップにもつながっていくことが期待できます。
カーボンネガティブ(Carbon negative)に企業が取り組む上での課題
企業がカーボンネガティブに取り組むメリットがある一方、下記のような課題も残されています。
コスト負担増
カーボンネガティブ技術の導入や、再生可能エネルギーの利用、カーボンオフセットの購入など、持続可能な取り組みを進めるためには、コストの負担が大きく、コスト負担が課題として残っています。
多額の初期投資が必要となることから、特に、中小企業にとってカーボンネガティブに取り組む障壁は高く、コストの負担が大きな障壁となりえます。
技術的ハードル
企業がカーボンネガティブに向けた取り組みを実行するためには、CO2排出量を削減する技術が必要ですがコストや実用性を兼ね備えた技術的ハードルに課題が残っています。
また、これらの技術を導入するためには、専門知識を持った人材の確保も重要ですが、現在専門知識を持った人材が不足していることも課題として残っています。
サプライチェーン全体での排出削減
企業がカーボンネガティブを実現するためには、サプライチェーン全体で取り組む必要があります。
これにより原材料の調達から、生産、輸送、廃棄に至るまでの排出量を管理、削減する必要がありますが、取り組む上でサプライチェーン全体での協力体制が必要になります。
特にサプライチェーン上の企業がそれぞれの基準や規制に従っている場合は、全体として一貫した取り組みが困難になることがあります。
規制と政策の不透明性
国や地域によって異なる規制や政策の不確実性も、企業がカーボンネガティブに取り組む上での障壁となります。
企業は将来の政策変更に備えるため、柔軟かつ持続可能な戦略を策定する必要がありますが、政策が安定しないと、長期的な投資計画や技術導入の決定が難しくなります。
消費者需要とのギャップ
消費者は持続可能な商品やサービスに対する関心を高めてはいるものの、その取り組みが必ずしも利益に直結するわけではありません。
消費者が、環境に配慮した商品やサービスに対してどれだけ追加のコストを負担する意志があるかは現状不透明であり、企業が持続可能性を追求する際に市場の需要とのバランスを取る必要があります。
カーボンネガティブ(Carbon negative)に取り組む企業の事例(世界)
カーボンネガティブは様々な企業によって取り組まれています。
ここからは、まずは世界の事例から見ていき、次に日本企業の取り組み事例について見ていきます。
マイクロソフト
マイクロソフトは2020年1月に自社のブログで「2030年までにカーボンネガティブ(毎年のCO2の除去量が排出量を上回る状態)を実現する」と宣言しました。
出典:マイクロソフト: 2030 年までにカーボンネガティブへ
また、目標達成に向けて自社事業のカーボンネガディブだけではなく、顧客のカーボンネガティブの実現を支援するクラウドサービスの提供をはじめとし、10億ドル規模の投資ファンド Climate innovation Fund(気候イノベーションファンド) によるスタートアップ支援など、様々な取り組みが進められています。
マイクロソフト社のカーボンネガティブによる取り組みは「自社事業の脱炭素化」「顧客企業の脱炭素化支援」「脱炭素スタートアップ支援」と多岐に渡ります。
自社事業の脱炭素化においては、データセンター運用のエネルギー低減や炭素除去につながる建築技術の開発、再生可能エネルギーの使用、データセンター周辺地域の生態系保護などが当たり、「顧客企業の脱炭素化支援」においてはクラウドサービスを提供することで、「Sustainability calculator」によって顧客企業の炭素排出を正確に解析し、「Cloud Sustainability」によって進捗把握と改善を支援しています。
「脱炭素スタートアップ支援」については、「Climate innovation Fund」により炭素除去関連スタートアップへの出資や、大気中のCO2からの材料や燃料合成、炭素取引の促進、リサイクルなど多様な技術の開発を支援する試みとなっており、より、広範囲な地球規模の課題解決を試みています。
参考:2030 年までにカーボンネガティブを実現 – News Center Japan
カーボンネガティブ(Carbon negative)に取り組む企業の事例(日本)
続いてカーボンネガティブに取り組む日本企業の例をご紹介します。
花王
花王は、CO2排出量を減らす「リデュースイノベーション」とCO2を再利用する「リサイクルイノベーション」の両面から活動しており、2040年までにカーボンゼロ、2050年までにカーボンネガティブの実現を宣言しています。
また、2021年に、ビジネスに関連して排出するCO2の量に価格づけを行う「社内炭素価格制度」をはじめ、所有する施設への太陽光発電設備の導入をおこないました。
翌2022年には、再生可能エネルギーなどの非化石電源を推進し、企業や自治体などの法人が発電事業者から自然エネルギーの電力を長期に(通常 10~25 年)購入する契約「コーポレートPPA(Power Purchase Agreement=電力購入契約)」を活用し、その翌年である2023年には、コーポレートPPAの一種である「バーチャルPPA」を締結するなど様々な取り組みを実施しています。
これにより、締結先が新設する太陽光発電所から「再生可能エネルギーによる発電の環境価値(CO2削減効果)」を購入することで、特定のオフィスで使用する電力を100%再エネ化することになりました。
さらに近年は取り組みを加速させており、企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的イニシアチブ「RE100」にも加盟していたり、自社のCO2排出に価格をつけて、設備投資の際の判断基準とする「社内炭素価格」を積極的に推進するなどと、カーボンネガティブの実現に向けて積極的に取り組んでいる企業の代表となっています。
こうした取り組みが評価され、2024年には4年連続で国際NGOであるCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」のすべての分野で最高評価である『Aリスト企業』に選定されるなど、今もなお積極的な取り組みをおこなっています。
参考:花王 | 新たな「脱炭素」目標を策定 2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブをめざす
参考:花王 | 花王、4年連続でCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の分野で最高評価を獲得
ソニーグループ
ソニーグループでは太陽光発電の導入や省エネ型製品の開発、植林プロジェクトや、環境教育の推進など、企業の社会的価値と環境への貢献を結びつける試みをおこなっています。
2022年にはスコープ1から3までを含むバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルの達成目標を2050年から2040年へと10年前倒しし、先述した花王と同様に企業が自らの事業の使用電力を100%再生エネルギーで賄う「RE100」、つまりは自社オペレーションでの再生可能エネルギー100%の達成目標も、2040年から2030年へと更新しています。
同社が掲げる2010年から始動した環境計画「Road to Zero」では、2025年までに、脱炭素化へ向けて、環境中期目標「Green Management 2025」 を定め、製品の省エネ化・省資源化の推進、さらなる再生可能エネルギーの導入、サプライチェーンとの環境負荷低減での協力を加速させるなど、再生可能エネルギーの活用や環境負荷の低減を図りさらなる取り組みを加速させています。
参考:ソニー、気候変動領域における環境負荷ゼロの達成目標を10年前倒し
参考:ソニーグループポータル | 環境 | ビジョン | GM2025スペシャルサイト
株式会社クボタ
クボタは、カーボンニュートラルやカーボンネガティブに向けて農業における温室効果ガスの削減が難しいプロセスについて資源循環技術の研究開発を進め、中長期では資源循環型農業の実現を目指しています。
具体的には、溶液技術を核とした資源循環技術(ディープリサイクル)の研究開発の推進により、農業の過程において排出される稲わらやもみ殻などの廃棄物を原料としてメタン発酵技術により高温ガス化し、炭素固定とバイオガス、バイオ液肥などを製造しエネルギーとして再活用するなどの技術開発を急いでいます。
まとめ
カーボンネガティブとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量が、森林や植林による吸収量よりも下回っている状態のことです。
カーボンネガティブは地球温暖化を食い止めることを目的とした取り組みのひとつですが、本文でも触れたようにカーボンネガティブを目指すためには、ネガティブエミッションの技術が必要不可欠です。
SDGsとの関係性も深いカーボンネガティブは、今後さらに注目を集めることが予想されますし、環境に良い点はもちろん、企業のイメージアップにもつながり、また近年盛んであるESG投資を呼び込みやすくなります。
企業戦略や今後の計画を立てる際は、カーボンネガティブへの取り組みも検討し、カーボンネガティブの知識を深め、ほかの企業よりも、さらに一歩先を行く未来につながる企業を目指してみてはいかがでしょうか。
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