募集をかけたら、人事の想定を大きく超える700名近くが手を挙げた——。
TOPPANホールディングス株式会社で、全社の人財育成を牽引する人財開発部の山田様。同社ではサステナビリティ(SX)・GX人財育成の一環として「GX検定」を段階的に導入してきました。
2026年1月時点での資格取得者は、グループ全体で1,000名近くにのぼります。基礎レベルから応用、専門レベルへと着実にステップアップする仕組みが整いつつあります。
しかし、ここに至るまでには「自己啓発」と「部門教育」の間で生じる、現場のモチベーション格差という壁がありました。人事はいかにして現場を巻き込み、全社教育を定着させたのでしょうか。
制度設計の裏側や具体的なフォロー体制など、人事による現場に寄り添った運用のノウハウをお届けします。
「人事が一方的に決めない」―― 本格導入前に現場を味方につけた対話の作法
ーーまず、全社教育における山田様の役割と、制度導入の背景について教えてください。
山田様:TOPPANホールディングス全体の人財育成を担当する人財開発部に所属しています。現在は管理職として、各種施策の企画・推進と、担当メンバーのマネジメントを担っています。
当グループでは2024年度後半期より、SX・GX人財育成の一環として「GX検定」の資格取得推進を開始しました。
人事部門が全社的な学習機会や受験の仕組みを整えることで、社員が身につけた知識をそれぞれの現場で活用できるよう支援しています。
ーー施策を形にする際、現場から「人事が一方的に決めたもの」と受け止められないために、工夫されたことはありますか?
山田様:施策を導入する前に、事前ヒアリングを徹底しました。人事部門が一方的にプログラムを決めて提示するのではなく、企画段階から現場の声に耳を傾けました。
具体的には、SXやGXに深く関わる営業部門、企画部門、サステナビリティ推進部門などへ直接足を運び、丁寧な対話を重ねました。
現場部門への主なヒアリング内容
- 施策の効力:「この学習機会は、現場の業務にとって本当に有効か」
- 受講対象の規模:「自部署の中で、実際に受験させたい社員はどれくらいいるか」
- 実務への展開:「学んだ知識を、どのような商談や業務で活用できそうか」
ヒアリングを通じて、「若手社員に基礎を学ばせたい」「むしろ意思決定を行う管理職や役員に知ってほしい」といったリアルな課題感が浮かび上がってきました。
これらの声を制度設計に反映させたことで、現場は教育を「自分たちの施策」として捉えるようになったと感じています。人事にとっては、本格導入の前に社内へ心強い「味方」をつくるプロセスとなりました。
「自己啓発」と「部門教育」、二つの入り口に生まれた温度差
ーー受講の申し込み枠を2つに分けた理由と、そこで直面した課題について教えてください。
山田様:学びの目的や自発性に合わせて、「自己啓発」と「部門教育」の2つの枠を設けました。
自己啓発は、社員が自身のキャリアや興味に合わせて自発的に申し込む枠です。一方、部門教育は、部署の管理者が対象者を取りまとめて受講・受験させる枠です。
自発的に申し込む「自己啓発」の社員は学習意欲が高く、スムーズに取り組む傾向にあります。
一方で、上司の指示で受講する「部門教育」の場合、一部で「受けさせられている」と感じてしまう温度差が課題となりました。
ーー「受けさせられている感」を抱く受講者に対して、人事としてどのようなフォローを行ったのでしょうか?
山田様:システムによる一括通知だけに頼らず、きめ細やかな個別フォローを実施しました。
単に仕組みを作って放置するのではなく、最後の受験まで伴走し続けたことが、受験率や合格者数を押し上げる大きな要因になったと感じています。
実際に効果があったリマインドの工夫
- 期限のみを伝えない:「〇日締め切りです」だけでなく、「まだ時間はありますよ」と心理的ハードルを下げる
- 機会の価値を伝える:「せっかくの機会ですので、ぜひ挑戦してみませんか」と前向きな声をかける
- 個別対応:業務が忙しく受験を迷っている受講者へ、個別に問い合わせ対応を行って背中を押す
全社教育では、最初から関心が高くなかった方にも学ぶきっかけを届けることが重要です。受験まで丁寧にフォローすることが、課題を乗り越えるコツとなりました。
予想を上回る700名が応募――「共通言語」が生んだ現場の連鎖
ーー全社教育を開始したあと、応募状況や社内の反応はいかがでしたか?
山田様:最初に「GX検定ベーシック」を募集した際には、当初の予想を大きく上回る700名弱の応募が集まりました。
全社的な「共通の土台」が形成されたことで、社員の関心や「学びを次につなげたい」という反応が社内全体へ広がり始めました。
ーー社内に「共通の土台」ができたことで、どのようなポジティブな変化が見られましたか?
山田様:共通言語ができたことで、自律的な好循環が生まれています。
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次のステップへの意欲
特定の部署に限らず、さまざまな組織から「より実践的なアドバンストレベル(中級)も学びたい」という声が続出しました。 -
現場主導の受講推奨
現場の管理者から「配属されたばかりの新人にも受けさせたい」と、個別の相談が寄せられるようになりました。 -
主体的な問い合わせ
募集期間外であっても、「次はいつ受験できますか」といった前向きな質問が届きました。
人事部門からの発信だけでなく、資格を取得した社員が現場で成果を実感し、その価値が口コミのように周囲へ伝播している、そんな手ごたえを感じています。
合格者数はゴールではない――山田様が見据える「活用度」という指標
ーー 経営層への報告や、費用対効果はどのように説明していますか?
山田様:資格取得状況は全国の総務部長に共有するほか、経営層にも継続的に報告し、有価証券報告書などの外部公表資料にも実績を掲載しています。
一方で、GXの知識を金額に置き換えた具体的な費用対効果を説明することは、現時点では難しいと考えています。
ーー教育施策の成果について、合格率以外に重視している指標はありますか?
山田様:単なる「受講者数」や「合格率」だけで評価するのではなく、最も重視しているのは、学んだ知識が実際の現場でどう活きているかという「活用度」です。
資格取得から半年後に行った追跡調査では、多くの受講者が手応えを感じていることが明らかになりました。
受講後アンケートに見る実務での活用度
- ベーシック(初級)取得者:84%が業務へ「活用できる」と回答
- アドバンスト(中級)取得者:88%が業務へ「活用できる」と回答
具体的な活用例として、「顧客との会話に役立った」「提案の説得力が増した」といった声が数多く寄せられています。今後は、これらの事例を収集し、社内イントラネットなどで全社へ発信していきます。
ーー最後に、全社展開を目指す全国の人事・推進担当者へ向けてメッセージをお願いします。
山田様:人財育成の施策を人事部門だけで完結させるのではなく、事業部門や営業、サステナビリティ部門など、キーとなる部署と対話を重ねることが大切だと思います。
各部門の課題を持ち寄り、一緒に仕組みを育てていくことで、単なる教育施策を超えた「事業を支える全社的な取り組み」へと発展していきます。
同じ課題に取り組む皆さまと知見を共有しながら、持続可能な未来につながるSX・GXを、ともに推進していければ幸いです。
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