SSBJ(サステナビリティ基準委員会)とは?設立背景や企業対応まで解説

「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」とは、日本におけるサステナビリティ開示基準を策定・調整する機関のことです。
国際的なサステナビリティ基準である「ISSB」は、投資家に焦点を当てた基準を開発しています。そのため日本でも、「FASF(公益財団法人財務会計基準機構)」内に、SSBJが設立されました。
本記事では、SSBJについて概要や特徴から基準内容、そして今後の動向や企業の対応まで解説します。
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SSBJ(サステナビリティ基準委員会)とは
「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」(以下SSBJ)の概要や目的、背景と運営組織である「FASF(公益財団法人財務会計基準機構)」についても詳しく解説していきます。
SSBJは日本のサステナビリティ開示基準の策定機関
SSBJとは日本におけるサステナビリティ開示基準を策定している機関です。サステナビリティとは、環境的・社会的・経済的の3つの観点から持続可能な社会を構築するための取り組みを指します。
サステナビリティ開示基準とは、企業の事業活動における環境や社会に対する影響とリスクなどの非財務情報を開示するためのものです。ESG投資家や一般消費者が、企業のサステナビリティを判断するために重要な基準です。
SSBJの設立背景
持続可能な社会構築や気候変動対策など、サステナビリティへの取り組みは、近年企業の最優先課題といっても過言ではありません。サステナビリティ経営推進や、環境課題解決に対する企業の非財務情報の開示は、世界的に重要性を増しています。そのため国際的な開発基準の必要性が向上し、「国際サステナビリティ基準審議会(以下ISSB)」が設立されました。
それに伴い、日本でも国内のニーズに合わせた調査研究、意見発信、開発基準の作成が求められました。そして国際基準に適合する日本独自のサステナビリティ基準の策定を目的として2022 年「公益財団法人財務会計基準機構(FASF)」内に、SSBJが設立されました。
FASF(公益財団法人財務会計基準機構)とは
サステナビリティ基準委員会の母体は、⺠間10団体により設⽴された「公益財団法人財務会計基準機構(Financial Accounting Standards Foundation)」で、FASFと略されます。
FASFの目的は、公正な会計基準及びサステナビリティ報告基準の調査研究や開発、そして国際的な会計基準と、サステナビリティ報告基準の開発への貢献です。そしてそれらの成果を一般に広報し、啓蒙活動を実施します。
組織図
日本における基準開発の具体的な組織構造は以下になります。国内の基準開発と国際的な会計基準の開発への貢献は、「企業会計基準委員会(ASBJ)」が行い、国内のサステナビリティ開示基準の開発と国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献は、SSBJが担っています。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)との違い
ここではSSBJ設立のきっかけとなったISSBについて解説していきます。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の概要
ISSBとは、企業のサステナビリティ情報開示のために、「国際会計基準(IFRS)」によって設立されたグローバル基準です。これまで乱立していたサステナビリティ開示基準は、内容にばらつきが多く一貫性に欠けていました。そのため、投資家の意思決定に資するグローバルで一貫した比較可能性のある基準開発の必要性が叫ばれ、2021年にISSBが設立されました。
ISSBとSSBJの違い
SSBJ基準は、基本的にISSB 基準のすべての要求事項を取り入れています。その上で一部をISSB 基準の要求事項に代えて 、SSBJ 基準独自の取扱いを選択することを認めています。主な違いは以下のようになります。
ISSB基準と同一の要求事項 | SSBJ基準独自取り扱い事項 | |
---|---|---|
ガイダンス情報 | SASBスタンダード※が改正された場合、改正後のSASBスタンダードを参照する | 2023年12月に最終改正されたSASBスタンダードを参照する |
ファイナンスド・エミッション | 資産運用、商業銀行、保険に関する活動を行う場合に開示する | 資産運用、商業銀行、保険に関する活動を業として営むことについて法令により規制を受けているときに開示する |
気候関連の移行リスク、物理的リスク 及び機会 | 気候関連の移行リスク、物理的リスクまたは機会に関する開示について、 資産金額、事業活動のパーセンテージを開示する | 気候関連の移行リスク、物理的リスクまたは機会に関する開示について、 資産および事業活動の規模に関する情報を開示する |
※SASBスタンダード:サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が公開しているESG情報開示基準。
出典:SSBJ によるサステナビリティ開示基準案の概要(SSBJ事務局)
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?開示基準や動向を解説!
SSBJの役割
SSBJの主な役割は次の2つになります。
- 日本基準の開発
- 国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献
それぞれを詳しく解説していきましょう。
- 日本基準の開発
- 国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献
SSBJは、日本の資本市場での活用を想定した開発基準を行っています。国内の市場関係者のニーズに応じつつ、国内独自の要求事項やサステナビリティに関する法令や規制などとの関係が考慮されています。さらに国内の資本市場への信認を確保するためには、基準が高品質で国際的にも通用するものでなくてはなりません。
そのため、日本基準により作成されたサステナビリティ関連財務情報が、国際的な比較可能性を損なわせないことも重要視されています。
SSBJは、日本のサステナビリティ開示基準を高品質なものとすることで、ISSB開示基準の質をより高めることに積極的に貢献することを謳っています。
具体的には、ISSBの公開草案や情報要請等に対してコメント・レター提出の実施。そして「サステナビリティ基準アドバイザリー・フォーラム(SSAF)」などの国際会議におけるアクティブな発言などが挙げられます。また、リサーチ活動では、国際的に情報発信可能なものについて積極的に発信していきます。
SSBJの開示テーマ別基準
SSBJの開示基準にはユニバーサル基準とテーマ別基準があります。それぞれ解説していきます。
ユニバーサル基準
ユニバーサル基準の目的は、ISSBのサステナビリティ開示基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を作成し、基本となる事項を示すことです。国内で財務諸表が一般的に公正妥当で、会計原則、実務に準拠して作成されていたとしても、ユニバーサル基準ではサステナビリティ開示基準の適用は必須と謳われています。
テーマ別基準
テーマ別基準には、「一般開示基準」と「気候関連開示基準」があります。それぞれの概要や目的は次のようになります。
一般開示基準
一般基準の目的は、一般目的財務報告書の主要な利用者が企業に資源を提供するかどうかの意思決定にあります。そのため当該企業のサステナビリティ関連のリスクや機会について、利用者に有用となる開示基準を定めます。
気候関連開示基準
気候関連開示基準の目的は、気候関連のリスクや機会をモニタリングし、管理、監督するために企業が用いるガバナンスのプロセスや手続きを理解できるようにすることにあります。そのため、気候関連のシナリオ分析に基づき、気候レジリエンスを評価しなくてはなりません。気候関連のシナリオ分析は、最低限、戦略計画サイクルに沿って更新しなくてはならないため、専門的な戦略が必要となります。
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SSBJの特徴
SSBJ基準の特徴は次の3つになります。これらを実施することで、開示基準の透明性や信頼性が確保されます。
- 適正な表示
- つながりのある情報
- 裏付け可能な情報を用いる
それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
適正な表示
企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる場合は、サステナビリティ関連のリスクや機会を、適正に表示する必要があります。またサステナビリティ開示基準における具体的な定めを適用しただけでは、企業のリスクや機会の影響を理解するうえで不十分である場合には、追加的な情報を開示しなくてはなりません。
つながりのある情報
開示される情報は、次のようなつながりを理解できるように開示しなければなりません。
- 企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる情報が関連する項目間のつながり
- 企業のガバナンス、戦略、リスク管理、指標や目標に関する開示間のつながり
- 非財務関連開示と、その他の財務報告書の情報間とのつながり
またつながりのある情報を提供するにあたっては、「開示の間のつながりを明瞭かつ簡潔に説明」、「非財務開示基準が共通の情報項目の開示を要求する場合、不必要な繰り返しは行わない」ことが必須です。
裏付け可能な情報を用いる
サステナビリティ開示基準においては、合理的で裏付け可能な情報を用いる必要があるため、以下の定めに従う必要があります。
合理的で裏付け可能な情報は、一般的な状況のみならず企業に固有の要因も対象となります。また過去の事象や現在の状況、将来の状況などの予想に関する情報も含みます。具体的に裏付け可能な情報であるかを定めている場合は、それに従わなくてはなりません。
SSBJの今後の動向
ここではSSBJの今後の動向を解説していきます。
実施スケジュール
SSBJの開示基準の草案は2024年に公表されました。プライム上場企業に対するサステナビリティ開示基準の適用時期は、以下のようになります。
企業への義務化
SSBJは、2026年3月期から任意適用が開始され、2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業へのサステナビリティ情報開示を義務化する予定です。今後は段階的に時価総額1兆円以上、5,000億円以上の企業と範囲が拡大されます。
最終的にはプライム市場全社に適用される方針のため、企業は将来的にはSSBJ基準に対応を行い、開示可能な準備を進めることが肝要です。
諸制度の整備
サステナビリティ開示基準周辺の諸制度に関しては、今後検討されていく可能性があります。例えば地球温暖化対策推進のための温対法では、特定の業者にすでに温室効果ガス排出量の報告が義務付けられています。このように既存の法令でサステナビリティ情報の一部の開示が求められている場合があり、これらとの整合性については考慮していくことが求められます。
またこれまではサステナビリティ情報の開示は、任意開示書類中で示されていました。しかし今後は、金融商品取引法上の法定書類である有価証券報告書の中で開示されるため、これらも検討材料の一つです。
企業はどう対応するべきか
SSBJの適用に対して企業はどう対応するべきでしょうか。ここでは以下の3つの視点から解説していきます。
- 気候関連に関する対策
- バリューチェーン全体での対策
- 投資家対策
気候関連に関する対策
これまでも、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」による開示を行っている企業はありました。しかしTCFDの開示はすべての情報が義務化されているわけではなく、企業間比較が困難であったり、情報の実態が見えづらかったりという難点がありました。
そのためSSBJ基準では、より詳細な開示や定量情報を必要とします。具体的には、気候シナリオ分析の実施とその結果開示が求められます。気候シナリオの分析には専門的な知識を必要とするため、関係機関と連携をとるなど、企業はいまから対応策を練る必要があります。
バリューチェーン全体での対策
SSBJ基準の適用は企業のバリューチェーン全体に及びます。バリューチェーンとは報告企業のビジネスモデルから、当該企業の事業活動に関連するすべてのことを指します。そのため気候関連開示基準の場合は、温室効果ガス排出量のスコープ3に関連するサプライチェーンへの取り組みの適用が求められる可能性があります。
そのため企業はバリューチェーン全体で、サステナビリティ情報開示を行える準備をしておかなくてはなりません。
投資家対策
投資家対策としてもSSBJ基準は重要です。いまやESG要素を考慮しない企業は、投資家からの信頼を得られないといっても過言ではありません。SSBJ基準は国際的なサステナビリティ開示基準ISSBに準拠しており、透明性が高くグローバルに適用が可能です。SSBJ基準の適用は、投資家の大きな判断材料として役立つため、企業に投資をもたらす可能性を高めます。
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SSBJ基準対応へのステップとプロセス
SSBJ基準に対応するためには、いまから次の2ステップに取り組むことが重要です。
ステップ①情報収集・整理
SSBJ基準への対応・準備として、いまから開示のための情報を収集し、検討していくことが大切です。自社のサステナビリティリスクを洗い出し、整理しておきましょう。
ステップ②具体的な対策準備
収集・整理された情報に対して具体的な対応や準備を進めておきましょう。収集した情報を整理し分析しておくことで、自社のサステナビリティに対する問題点を検討できます。そうすれば、SSBJ基準にいち早く対応することが可能です。
SSBJ基準プロセス
開示する情報のプロセスは以下のような流れになります。
- 企業の見通しに影響を与えることが見込まれるサステナビリティ関連のリスクや機会の識別を行う
- 企業の見通しに影響を与えることが見込まれるサステナビリティ関連のリスクや機会に関する情報の識別を行う
- 重要性の判断を行う
- SSBJ基準に基づきサステナビリティ関連財務情報を開示する
まとめ
日本のサステナビリティ開示基準の策定機関であるSSBJについて、設立された背景や運営組織、特徴まで解説しました。
企業がサステナビリティ経営を推進することはもはや当然であり、将来的にはあらゆる企業がサステナビリティ情報開示を行う時代を迎えつつあります。
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