自社の製品パッケージや広告、Webサイトに「eco-friendly」「sustainable」「carbon neutral」という表現はないでしょうか。多くの企業が当然のように使ってきたこれらのマーケティング表現は、2026年9月27日以降、欧州では根拠なく使用すると「不当な商慣習」として制裁の対象になります。
規制の存在を知っていても、対応が進んでいる企業は多くありません。自社のどの表現が禁止に当たるのか判定できる人材が社内にいない。販売中の既存製品のパッケージまで対応が必要なのか、判断がつかない。欧州市場に製品を展開する企業のマーケティングやサステナビリティ推進の担当者であれば、すでにこうした悩みに直面している、あるいはこれから直面するのではないでしょうか。
本記事では、規制強化の背景、ECGT指令の概要、禁止・許容される表現の判定基準、そして企業に求められる対応の方向性を順に解説します。
*この記事はスキルアップGreenのホワイトペーパー「『エコ』と言えない時代へ ―欧州グリーンウォッシング規制と企業の対応策―」の内容を再構成したものです。
グリーンウォッシング規制が世界で強化される背景
グリーンウォッシングとは、実態を伴わない、あるいは誇張された環境訴求を指します。ESGリスク調査会社RepRiskのレポート「A turning tide in greenwashing?」によると、ESG関連の不適切なコミュニケーション事案は2019年以降、欧州を中心に急増しました。2024年には減少に転じたものの、欧州の事案数は依然として世界で最も多い水準にあります。
注目すべきは事案の内訳です。グリーンウォッシング事例の70%は非上場企業によるもので、上場企業は30%にとどまります。開示規制の厳しい大企業に限られた問題ではなく、規模や上場の有無を問わず、あらゆる企業が当事者になりうることをこの数字は示しています。
制裁も厳格化しています。英国では世界年間売上高の最大10%の罰金が科される可能性があり、スイスには禁錮刑の規定も存在します[※1、※2]。欧州ではオムニバス法案により消費者保護違反に対する消費者訴訟が導入され、多数の消費者が共同で損害賠償を求めるリスクも生じました。誤解を招く主張によって得られたと見なされる売上高そのものを没収する措置も、議論の対象にのぼっています。
規制当局だけではありません。消費者の目も厳しくなっています。Baker McKenzieの「Green Claims Guide 2025」によると、消費者の86%が企業への透明性向上を求め、Z世代の73%は自らが倫理的と考える企業から製品を購入しようと努めています。さらに調査対象者の73%は、裏付けのない、あるいは誇張されたサステナビリティの実績をグリーンウォッシングだと認識しています。誇張された環境訴求は、法的リスクである以前に、顧客離れへ直結する経営リスクになりました。
ECGT指令の概要――何が、いつから規制されるのか
今回の規制の中核は「グリーン移行のための消費者エンパワーメント指令(ECGT指令)」です。新しい法律を一から制定したのではなく、既存の不当商慣習指令(UCPD)と消費者権利指令(CRD)を改正する形で成立しました[※3]。実務上、押さえるべきポイントは3つあります。
第一に、適用開始は2026年9月27日で、欧州全域が対象です。移行期間はすでに残り3か月を切っています。
第二に、適用範囲はB2C、すなわち事業者から消費者への商慣習に限定されます。ただし注意が必要です。CSRD(欧州サステナビリティ報告指令)に基づく報告情報は通常対象外ですが、その情報を自発的な広告やマーケティングに転用した場合は規制対象となります。「報告書に書いた内容だから広告にも使える」という判断は通用しません。
第三に、適用日以降は、以前から販売されている既存製品も新ルールに従う必要があります。非準拠の表示が残る場合、ステッカーで隠す、販売拠点で補足情報を提供するといった対応が求められます。新製品の表示設計だけでなく、市場に出回っている全製品の棚卸しが必要になるということです。
禁止される表現、許容される表現
では、具体的にどのような表現が禁止されるのでしょうか。指令の原文であるDIRECTIVE (EU) 2024/825に基づくと、禁止類型は4つに整理できます[※4]。
- 一般的な環境主張:eco-friendly、green、sustainable、conscious、biodegradableなど、根拠を示さない包括的な表現
- オフセット主張:carbon neutral、climate net zero、CO2 neutral certifiedなど、排出量のオフセットに基づく主張
- 誤解を招く部分的な主張:包装のみに再生材を使った製品の全体を「made with recycled material」と表示するような、一部の特性を全体に見せかける表現
- 法的義務を特長として誇示する主張:法律上すでに禁止されている物質について「含まない」と表示し、独自の環境強みのように宣伝する表現
許容されるのは、具体的かつ検証可能な主張のみです。たとえば「この包装製造に使うエネルギーの100%が再生可能エネルギー由来」という表示は、範囲が特定され、根拠を検証できるため認められます。
なかでもオフセット主張の禁止は影響が広く、カーボンクレジットの購入によって「カーボンニュートラル」を訴求してきた企業は、削減実態に基づく表現への転換を迫られます。
将来の環境目標にも条件が課されます。「2050年ネットゼロ」といった目標を掲げる場合、客観的で検証可能な目標、詳細な実施計画、独立した第三者機関による定期的な検証が必要です。この条件を満たさない将来の環境主張は、不当な商慣習として禁止されます。この実施計画に何を盛り込むべきか、対応に苦慮するところになり得ます。
対応の核心は「表現の言い換え」ではなく組織能力
禁止された言葉を別の言葉に置き換えれば済む、という問題ではありません。
グリーンウォッシングは、悪意ある担当者だけが引き起こすものではないからです。競合や投資家から環境訴求を期待される圧力、社内チェック体制の不備という機会、「業界慣習だから」という正当化。この3つの要因が重なったとき、グリーンウォッシングはどの企業でも構造的に発生します。担当者個人の注意や、単発の知識研修では防げません。
必要なのは、組織全体で対処する体制です。営業・マーケティング・調達などの事業部門、法務・リスク部門、内部監査がそれぞれ異なる防衛の役割を担う「3つの防衛線」の考え方が、その土台になります。こうした役割分担を明確にしたうえで、全社員の規制リテラシーから経営層の戦略設計まで、階層別に人材を育成していく必要があります。
適用開始まで残り3か月――何から着手すべきか
規制の全体像と対応の方向性を解説してきました。しかし、実際に手を動かす段階では、次の壁に突き当たるはずです。
- 将来目標を掲げ続けるために、定量目標・実施計画・第三者検証という条件を具体的にどう満たすか
- 事業部門・法務リスク部門・監査部門に、どの業務をどう割り当てるか
- 全社員・実務部門・経営層のそれぞれに、何から教育するか
- 既存製品の非準拠表示に、どの順序で対応するか
適用開始の2026年9月27日まで、残された期間は3か月足らず。これらを一から自社で設計するには、時間が足りないのではないでしょうか。
ホワイトペーパー「『エコ』と言えない時代へ ―欧州グリーンウォッシング規制と企業の対応策―」では、本記事で触れた内容に加えて、次の情報を掲載しています。
- 将来の環境目標に必須となる実施計画の作成ポイント(期限付き定量目標、中間マイルストーン、資源配分の明記方法)
- グリーンウォッシングを組織的に防ぐ「3つの防衛線」の部門別役割分担表
- 全社員・実務部門・経営層それぞれの人材育成の優先課題
- 既存製品の非準拠表示への対応方法
- 共通ラベル・修理可能性スコアなど、今後導入される透明性ツールの一覧
自社の環境表示の棚卸しと組織体制づくりに、そのまま着手できる構成です。
2026年9月27日の適用開始後は、根拠のない環境表示が制裁の対象になります。禁止表現の判定基準から、実施計画の作成ポイント、組織体制のつくり方、既存製品への対応方法までを1冊にまとめました。自社の対応状況の点検にお役立てください。
脚注
※1 Baker McKenzie「Green Claims Guide 2025」
https://www.bakermckenzie.com/-/media/files/insight/guides/2025/green-claims-guide.pdf
※2 Senken「Greenwashing」
https://www.senken.io/glossary/greenwashing
※3 European Commission「Empowering the consumer for the green transition」
https://energy.ec.europa.eu/news/new-eu-rules-empower-consumers-green-transition-enter-force-2024-03-27_en
※4 Official Journal of the European Union「DIRECTIVE (EU) 2024/825 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 28 February 2024」
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2024/825/oj




