販売される食品の約3分の1は家庭で一度も食べられずに捨てられている。
世界資源研究所(WRI)が2026年に発表した調査の結果です※1。
そして、消費段階で発生する食品廃棄の61%は家庭で起きており、小売店の13%、外食の26%よりはるかに大きな比重を占めています。
これらの食品廃棄に伴うGHG(温室効果ガス)排出は、食品会社や食品小売会社のサプライチェーン排出量のうち、Scope3のカテゴリー12(販売した製品の廃棄処理)として計上されます。店舗の中だけで食品ロス対策を重ねても、供給網全体の無駄の半分以上には手が届きにくい状況があるのです。
投資家や経営陣からはScope 3排出量の削減を求められている。しかし店舗内の廃棄削減はすでにやり尽くし、これ以上の打ち手が見えない。そんな状況に縛られている、食品小売業のサステナビリティ推進や店舗運営に携わる担当者・責任者の方もいるのではないでしょうか。
本記事では、WRIの調査結果をもとに、小売業がどのように顧客の家庭内ロスに介入できるのかをお伝えします。
*この記事は、ホワイトペーパー「食料安全保障を支える小売の新戦略:WRIが解明した『消費者行動変容』10の処方箋とScope3削減への道」(2026年3月時点の情報をもとに作成)の内容を再構成したものです。
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なぜ今、小売業が家庭内ロスに介入すべきなのか
【図1】ホワイトペーパーp.5
先述の通り、消費者段階で発生する食品廃棄のうち、家庭内での廃棄は61%を占めます。小売店の13%、外食の26%と比べても、その規模は圧倒的です。これまで小売業が取り組んできたロス対策の多くは、店舗内での廃棄削減に集中してきました。
しかし、店舗を出た後の家庭内ロスに対する効果は限定的だったと言わざるを得ません。
家庭で捨てられている食料は、10億食分を超えます。この食料を救うことは、日本の食料供給量を実質的に底上げすることと同じ意味を持ちます。輸入に頼る食料は輸送コストや国際情勢の影響を受けやすいため、家庭内ロスの削減は、見えない形での自給率向上策になり得ます。
視点を変えると、気候変動対策としての意味も見えてきます。食品小売の排出量は、90%以上をScope 3が占めています。なかでも販売した製品が顧客の手に渡った後に発生する排出、つまりカテゴリー12(廃棄処理)への関与は、企業の透明性と説明責任を問う国際的な潮流になっています。Scope 1・2への対策だけでは、排出の全体像のうちごく一部にしか手をつけていないことになります。
人は正論では動かない。行動科学が示す「5つの介入チャネル」
【図2】ホワイトペーパーp.8
シンプルに「食品を無駄にしないでください」と呼びかけて啓発するだけでは、消費者の行動は変わりません。
WRIはこれを踏まえ、意識に頼らず環境の側で行動を制御する5つの介入チャネルを提示しています。
情報を届ける「Inform」、心理的な誘導を行う「Influence」、買い物環境そのものを設計し直す「Immerse」、テクノロジーで手間を省く「Innovate」、体験を通じてスキルを身体化させる「Involve」の5層です。この5つを階層的に組み合わせることで、消費者を自然と捨てない選択へ導く設計が可能になります。
食品廃棄が生まれる過程にも、共通した構造があります。廃棄は計画、買物、保存、調理、消費という一連の工程の中で、少しずつ積み重なっていきます。たとえば空腹時のまとめ買いは、冷蔵庫での在庫把握のミスを引き起こし、最終的に食材を腐らせて捨てる結果につながります。WRIはこの一連のつながりを「浪費の連鎖」と呼び、どこか一箇所ではなく連鎖そのものを断ち切る必要があると指摘しています。
さらに、日本市場には、特有の論点もあります。日本の消費者は、強い鮮度志向を持っており、まだ十分に食べられるものを廃棄してしまう心理的な偏見を強めている可能性があります。ここへの介入、いわゆる「ナッジ」の設計が、他国以上に重要になると考えられます。
66の施策から絞り込まれた「10の処方箋」
WRIは、この5つの介入チャネルを実務に落とし込むにあたり、客観的なエビデンスに基づいて施策を選び抜いています。学術論文6,837本とメディアソース369件を精査し、世界107名の専門家による実現可能性と効果の評価をかけ合わせて、66の施策候補から、10の処方箋に絞り込みました。
10の処方箋のうち、たとえば「期限が近づいた商品への戦略的な価格設定」は、最も成功率の高いWin-Win施策として位置づけられています。顧客が得をしたと感じながら、店舗と家庭の両方のロスを同時に防げる点が評価されています。
こうした処方箋は、どれか一つを選べば済むものではありません。自社の店舗形態や顧客層に照らして、どの施策から着手し、どう優先順位をつけるかを見極める必要があります。
ここまで、小売業が家庭内ロスに介入すべき理由と、行動科学に基づく5つの介入チャネル、そして10の処方箋が生まれた背景をお伝えしました。ただし、こうした考え方を理解したことと、自社の店舗で実行に移せることの間には、まだ距離があるはずです。どの処方箋から着手すべきか、実現可能性と効果をどう見極めるか、日本の市場でどう応用し投資対効果につなげるか。これらを一から設計するには、通常業務と並行して進める体制では時間が足りないのではないでしょうか。
ホワイトペーパー「食料安全保障を支える小売の新戦略」には、10の処方箋の具体策一覧(施策名・分類・具体例を整理した表形式、p.12〜13)、実現可能性と効果をかけ合わせた優先度マトリクス(p.11)、そして日本企業向けの具体的なビジネスケースと2030年へのロードマップ(p.15〜17)を収録しています。資料はスライド形式のため、社内のサステナビリティ推進会議や経営会議に、そのまま投影して使うことができます。
また、こうした施策を自社で継続的に企画し実行できる人材を一から育てるには、相応の時間がかかります。資料の後半では、時間を買うための選択肢として、GX人材育成講座やGX検定についても紹介しています。自力で設計して間に合わせるか、既製のカリキュラムを導入するか、比較検討の判断材料としてご活用ください。
脚注
※1 WORLD RESOURCES INSTITUTE「A playbook for food retailers to reduce consumer food waste」
https://www.wri.org/research/playbook-food-retailers-reduce-consumer-food-waste


